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101話.反転衝動

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明るく眩しい世界で目を覚ましたような感覚になった。

あれっ……ここはどこだ?  貴族達の大軍を退けた後に俺は気を失って倒れたよな。
この雰囲気は何処かで見た覚えがある。
久しぶりの感覚だが、これは女神様の啓示の最中なのか? 
しかし、アレは教会に行かないと起きないはずでは?

俺が倒れて教会へ運ばれたとか、そういった所だろうか?
何故、女神の啓示が行われているのか理由は解らなかった。

俺が解っているのは、今から女神のノルン様と会うということだ。
町を守る為に――蘇生はさせたと言えど、たくさんの人を殺してしまった。
ここで女神に処分を下されても、俺は文句は言えない立場なのだろう。

そう、一人で納得していた。
ココに来てしまえば、逃げ道等ない現状を受け入れよう。

そんな人の気も知らず――のほほんとした面持ちつらもちで女神が俺の前に近づいてきた。

「お久しぶりですね。二階堂さん」

「そうですね、ノルン様。
 本当は会う予定なかったんですけど、色々とあってココに来てしまいました」

「そういえば、二階堂さん。
 よく反転衝動が治まりましたね?」

「反転……衝動?」

「二階堂さんが悪い事をした時に、メッセージが視界に表れませんでしたか?」

「善行値と悪行値の相殺って言葉が出た。
 あと、聞こえるハズのない死人の声が聞こえてきた」

「その後に、何か出ませんでしたか?」

「レベル40になったから、相殺を終了する? ……とかなんとか」

「ふーん、そうなんだ。
 良かったですね、二階堂さん。魔王にならずに済んで……
 今まで善行値を積んでたから――それで、反転衝動が抑えられてたのかなぁ」
 ……等と、女神は意味のわからない事を言い始めた。

「ちょっと待って、ノルン様。
 魔王とか急な話すぎて意味がわからない」

「二階堂さんは、無事に回避できたから教えてあげますね。
 本来、[魔法使い]のギフト持ちの人間は、勇者になるか魔王になるかの二択です。
 二階堂さんは、レベル40まで本番禁止等の注意を受けたんじゃないですか?」

「それは、俺がスミス神父から提示された目標です」

「スミス神父は、私の啓示を受けた教会内の人間から情報を聞いて貴方に伝えたんですよ」

「もしもの話ですよ?
 俺が反転衝動とやらに負けていたら?」

「えっ?  [セカンタの町]に魔王出現と各教会に啓示を出すだけですね。
 それに、二階堂さんは反転せずに皆を守りきったじゃないですか?」

「あー、それなんですけど……
 あの後、兵士達を[レイズ]で蘇らせた結果、経験値が奪われてレベル39に落ちたんですが?
 何故、先程の反転衝動が起きなかったのか聞きたいです」

「それは、貴方がレベル40になった際に――悪行値による反転衝動の鍵を外せたからですよ。
 ちなみに鍵はもう一つあります。解りますよね二階堂さんなら」
 
 ……と、女神は淡々と説明してくれた。続けて女神から注意を受けた。

「二階堂さん。まだ、もう一つの鍵は外れてませんので気をつけて下さいね」

 俺は指に輪っかを作り、もう片方の指で突き刺す動作をノルン様にみせた。

「コレをレベル40まで自重できなければ、俺は魔王になる予定だったのか……」

「だいたい[魔法使い]のギフト持ちの人間は――
 自らの力に溺れて、私の啓示を無視して魔王化するんだけどね。
 貴方みたいな、セクハラ男が無事と言うのが不思議だわ」

「例え、セクハラしても私は商人だ。
 約束は守りますよ!!」

 レベル40まで俺は貞操帯をつけるべきかもしれない。
 そんな事を考えていると、ノルン様が顔を赤面させた。

「二階堂さん!! この場所で変な事を考えないでください」

 女神の注意を軽くスルーして、俺は女神に対して問うた。

「ノルン様。二つ程、聞いていいですか?」

「良いですよ。聞いてあげましょう」

「一つ目は、今回の件で私に処罰は?」

「ありませんよ」

「二つ目は、こうなるのは解ってたのですか?」

「私は、運命の女神です。
 今後の事も見通してますよ、色々と不本意な事もありますけど」

「不本意?」

「いいえ、なんでもないです気にしないでください。
 それはそうと、今回はセクハラが少ないようですが?
 心を入れ替えましたか?」

「流石に次のセクハラは許してもらえないだろうなと思いまして自重してます。
 本当は、セクハラして女神様が赤くなってる所を見たいんですけどね」

 可愛いしな……

「可愛いだなんて」と言って、女神が勝手に人の心の声を読んで赤くなっている。

「すいません。
 聞こうかどうか迷ったんですけど聞かせてください」

「どうぞ……」

「ノルン様。貴方は俺達の敵なんですか?」

「いいえ。敵でもありませんし、味方でもありませんよ。
 私は貴方達の運命を示すだけの女神ですから。
 結果的に、味方と感じる場合もあるでしょうし。敵と感じる事もあるでしょうね」

「そうですか……それなら出来れば味方でいて下さいね。
 今の姿のノルン様を攻撃する事なんて、俺にできそうにありませんから」

「ちなみに、二階堂さんの好みは?」

「あと1歳ほど下ですね……」と、即答した。

「それにあわせておけば、二階堂さんは敵にならないと言う事ですね」

「ホント勘弁して下さいよ。
 ノルン様には感謝してるんですから、日本にいた時は運命って言葉は好きじゃなかったけど……
 この世界での出会いも運命なんだなと考えると、良い言葉に思えるようになりましたから」

「そうですか……ソレは良かったです。
 二階堂さん。名残惜しいですがアチラにお帰りなさい。
 もう2日も経ってるんです――貴方の家族達が貴方の帰りを待ってますよ」

「えっ、2日!? そんなに?」

「二階堂さん。また、お会いしましょうね」と、ノルン様が言った。
 その後、視界が溶けていくように真っ白に塗りつぶされていった。

 ……
 …………

 ハッ!!

 いつもの天井。
 ここは、俺の寝室か……
 家族の皆が俺のベッドの周りを塞ぎこむようにして寝ていた。

「みんな、おはよう」

 彼女達が俺が起きたことに気づいて、飛び込むようにして抱きついてきた。
 俺は、全員の頭を撫でてやった。

「みんな、心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」

「ハジメさんが2日も起きなかったから――みんな心配したんですよ」

 エミリーは、少しグズりながら話してくれた。
 シェリーは、声にならない声で泣いて俺に抱きついてる。
 キャリーは、涙を流していながらも気丈に振る舞っていた。

 あれ、みんな泣いてる?
 一番最後に出会ったアリアもか?

「みんな、泣かないでよ。
 可愛い顔が台無しだよ」

「起きた途端に、そう言う事を言うんですね」

「お兄さんらしいですね」

「お兄ちゃん。もう無理しちゃダメ」

「ご主人様。お加減はよろしいのですか?」

「うん、大丈夫だよ。アリア……
 みんな聞いてもらえるかな。
 2日前、魔力の使いすぎで軽く死にかけてたんだと思う。
 それで、女神様に会ってきたよ」

「えっ、ノルン様ですか?」と、エミリーが言ってきた。

「久しぶりに会った気がしたよ。
 そこで今回の事を色々と聞いたんだ」

 彼女達に女神と話をした内容を話した。

「お兄さん、魔王になってたかもしれなかったんですね」

「そういえば、歴代の魔王も嫁の数が多かったらしいですよ」
 ……と、エミリーが言ってきた。

「お兄ちゃんは悪い人なの?」

「どうだろう? それを考えるのは君達に任せるよ」

「お兄さん。レベル40に上がらないで、本番すると魔王になるんですよね?」

「その時は、女神様がココに魔王が現れたって連絡出すらしいよ。
 なので、レベル40迄は今まで通りでお願いします」

「無理しないように、レベル40まで急いで上げて下さいね。お兄さん」

します」

「お兄さんの善処は、やりませんって聞こえるんですよね」

 ぎくっ!!バレテーラ。

 ……と、罰が悪いところに救いの声が……
「お姉ちゃん、お兄ちゃんを虐めたらダメ」

「ダメだってよ、キャリー。
 まぁ、その件は保留させて下さい。
 無理したら、またエミリーに怒られちゃうからさ」

「そうですよ、あまり無理させたらダメです。
 ハジメさんは、働きすぎなんですから」

「ごめんなさーい」と、キャリーに軽く謝られた。

 俺もキャリーの気持ちがわかるし、許してあげた。

「それで、話を戻すんだけど。
 町の防衛の件はどうなった?」

「今回の責任は、ボルグ様が全て引き受けるという事で全て決着がつきましたよ」と、エミリーが教えてくれた。

「サドタの街の兵士達は?」

「あいにく怪我人もいませんし。
 今日の朝方、全て引き上げましたよ」

「ウチの町のギルド長と副町長は?」

「何度も、お兄ちゃんの様子見に来てたよー」

「そっか……
 従業員のみんなと、この町のお偉方にも挨拶しとかないとな」

 俺は2日間眠りっぱなしで少し臭うな。とりあえず、風呂に入りたい……

「ごめん、ちょっとお風呂入りたいからさ。
 みんな解散してくれるかい?」

「ダメです」と、エミリーに即答された。

「みんなで、入りましょう。
 ハジメさんが倒れてるって事で、3号店の工事も止まってますから。
 三号店の大浴場は修理済みなので使えますよ」

 その後、私は四人に介助されるような形で、お風呂に入ったのであった。
 俺の体調がイマイチだった為、やましい事をする余裕はなかった。
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