上 下
128 / 479
2話 序章 七年前の辛い出来事。~それからの様子~

しおりを挟む
 少女は夢を見ているのだと気がついた。
 何故なら目の前に映る光景が、実際に体験した出来事だからだ。
 もう七年もの間、少女自身の心を深く掻き乱す嫌な思い出である。

 バキッ。
 と大きな衝撃音がすると、ーー
 髪を纏めた勝ち気そうな少女が、芝生の地面へと勢いよく倒れる。
 その少女は、夢を見ている本人自身である。
 ここは、とある豪華で立派な屋敷の庭先。有名な騎士爵の家であり、また彼女の実家でもある。
 そこの一角では、屋敷の主人である父親によって直々に、子供達に剣の稽古をつけており、
 「どうした、もう終わりか!」
 と大声で叱咤している。
 相手をしていた少女は、踞りながら痛さに打ちひしがれ、悶え苦しんでいた。すぐに立つことすらままならない。
 その様子を、参加している他の三人の兄達が見下した様に下卑た笑顔を浮かべ、後ろ指を指している。
 同様に父親もまた、より厳しい目付きを向けては、分かりやすく溜め息を吐きながら、文句を言う。
 「全く、なんて無様なんだ。…この程度も、まともに剣を振れないとは。……」
 「あ、あう、…」
 対して勝ち気な少女は口を開こうとするも、上手く呼吸が出来ずに喋れない。終いには咳き込んで、胃の中の物を地面にぶちまける。
 それが余計に、男には腹立たしく感じていた。助けもせずに踵を返して、屋敷へと向かう。
 彼の後に続いて、兄達も歩いて追いかけていく。離れていく際に、
 「情けない。…あれで、本当に僕達と血が繋がっているのかよ。…」
 「あぁ、本当に恥さらしもいいところだ。…あれじゃ、どう頑張ってもエーデルヴァイス家の守護役には選ばれないな。」
 「やっぱり昔と同じで、女は駄目なんだな。」
 と囁く様に言っているのが聞こえてくる。
 勝ち気な少女は涙を堪えているが、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。しばらくして、ゆっくりと立ち上がると、無理矢理身体を動かして自分の家である屋敷とは別の方向へ、よろよろと歩きだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...