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三章 山での攻防 後編
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それは遠い過去の事で、実際にあった出来事なのだろう。
まだ祖母と家にいた頃である。ただ何時の事かは、ハッキリしない。
場所は居間の食卓だった。
テーブルの側で、祖母が椅子に腰かけている。
幼い俺がたどたどしい足取りで、近寄って行った。
「あら、どうしたの?」
と祖母も微笑みながら、此方を優しく抱き上げて膝の上に座らせると、頭を撫でてくれた。
俺も気持ちよさそうにすると、祖母の顔を見る。
この時の、やり取りが好きだったのは覚えている。
「ヒルフェちゃん。」
突然、祖母が話しかけてきた。
幼い俺は相づちを打ちながら、話に耳を傾ける。
「あのね。…貴方のお名前は、お爺ちゃんが付けたがって名前なのよ。」
「…うん。」
「あの人は、…私達の子供が男の子ならヒルフェにしようって頑なだったわ。結局は女の子だったから、別の名前にしたの。…でも、その後に必ず、こう言うの。」
「……うん。」
「ヒルフェってね。救いと言う意味なんですって、…だから貴方には将来、色んな人を助ける凄い人になってほしいんだって。」
と、祖母は楽しそうに言いながら、やや寂しげな雰囲気を醸し出す。
この話は、いつも同じ台詞を決まって伝えており、何回も話してくれていた。
幼い俺は「うん。」と頷いて返事をする。ただの子供の同意だった。ただただ祖母を元気づけようと、力強く決意した様な気がする。
そう言うと祖母は嬉しそうにしながら、明後日の方を向いて黄昏ていた。まるで過去を懐かしんでいるようだった。
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