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三章 山での攻防 後編

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 ※※※

 それは遠い過去の事で、実際にあった出来事なのだろう。
 まだ祖母と家にいた頃である。ただ何時の事かは、ハッキリしない。
 場所は居間の食卓だった。
 テーブルの側で、祖母が椅子に腰かけている。
 幼い俺がたどたどしい足取りで、近寄って行った。
 「あら、どうしたの?」
 と祖母も微笑みながら、此方を優しく抱き上げて膝の上に座らせると、頭を撫でてくれた。
 俺も気持ちよさそうにすると、祖母の顔を見る。
 この時の、やり取りが好きだったのは覚えている。
 「ヒルフェちゃん。」
 突然、祖母が話しかけてきた。
 幼い俺は相づちを打ちながら、話に耳を傾ける。
 「あのね。…貴方のお名前は、お爺ちゃんが付けたがって名前なのよ。」
 「…うん。」
 「あの人は、…私達の子供が男の子ならヒルフェにしようって頑なだったわ。結局は女の子だったから、別の名前にしたの。…でも、その後に必ず、こう言うの。」
 「……うん。」
 「ヒルフェってね。救いと言う意味なんですって、…だから貴方には将来、色んな人を助ける凄い人になってほしいんだって。」
 と、祖母は楽しそうに言いながら、やや寂しげな雰囲気を醸し出す。
 この話は、いつも同じ台詞を決まって伝えており、何回も話してくれていた。
 幼い俺は「うん。」と頷いて返事をする。ただの子供の同意だった。ただただ祖母を元気づけようと、力強く決意した様な気がする。
 そう言うと祖母は嬉しそうにしながら、明後日の方を向いて黄昏ていた。まるで過去を懐かしんでいるようだった。
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