スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。

あおいろ

文字の大きさ
上 下
33 / 402
二章 ギルドとスキルと勝負

15

しおりを挟む
 「…そう言えば昼間に、ルームサービスを頼んだが。…もう持って来てもいい頃だけど。」
 「…私の方で出かける前に、丁重にお断りを入れました。」
 それにもダフネは、淡々と答えていた。
 リキッドは驚き、振り向き様に問い詰めだす。
 「何で?!…せっかく美味しい物を食べて貰おうと思ったのに。」
 「いや、当たり前でしょう。…今のヒルフェ様の胃に、宿屋で出てくる味の濃い食事を与えたら、身体を悪くします。」
 しかし、すぐにダフネは強めの口調で指摘する。
 端から聞いても、至極真っ当な意見だった。
 「…うぅ、…わかりました。」
 とリキッドは苦々しく返事をした。静かに口を紡ぐと姿勢を正して座り直す。やがて背中が丸まっていき、項垂れる程に落ち込んでいく。
 さっきまでの凛々しさは、嘘の様に失くなった。
 情けないな、と俺は、冷ややかな視線を送っていた。
 それからダフネは部屋の奥に移動する。少ししてカートを押しながらテーブルまで戻ってきたら、乗せていた大きな鍋の蓋を取る。続けて、お玉で鍋の中から黄金色の透明な液体を皿に注ぎ入れて、配り始めた。
 俺とリキッドの目の前に、皿は置かれる。
 すると、皿から良い香りが漂う。
 すかさずダフネが説明しだした。
 「鳥を煮たコンソメのスープです。…薄めに作っているので、飲んでください。」
 「あぁ……。」
 と俺はスプーンで掬って、口に含む。確かに薄味だった。しかし、奴隷の頃の食事よりも旨い。また一口目、二口目と食べ進め、胃の中が温かさで満たされると、視界が涙で滲みだした。
 やがて、カチャ。っと音が鳴るとーー
 「あ、…!」
 と俺が気がついた時には、皿は空っぽになっていた。まだまだ物足りない。
 またダフネがスープを皿に入れてくれる。
 「充分に用意してあります。…足りないのでしたら、仰ってください。」
 「あぁ、…」
 俺は遠慮なく、食べだした。再びスープを口に運び、胃に流し込んでいく。ずっと無我夢中で何度も繰り返していた。まだまだ物足りない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...