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一章 十年後の解放

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 山道を前へと行く度に、ワゴンが揺れる。
 車窓からは外の風景が流れていき、坂を下りきって岩山を抜けたら、煉瓦作りの建物が並ぶ町へと移り変わっていた。
 外は色鮮やかな家々が行き過ぎる。整頓された石畳の大通りを、スーツを着た紳士と、大きな荷物を背負う行商人と、ボールを持った子供が交差していく。
 俺は目の前の光景を、まじまじと凝視している。町の景色を見たのは久しぶりで、目が離せない。
 やがて大通りの一角に差し掛かると、大きな建物があった。
 今まで見た中でも、最も豪華な場所である。看板には、「宿屋」と文字が書いてある。
 しかし、俺は文字が読めなかった。
 やがて馬車はゆっくりと速度を落とし、「宿屋」の前に停まった。
 すぐにワゴンの扉が開くと、先に老人が降りていき、手招きして促してくる。
 俺も後に続いて降りていき、玄関を潜っていくと、
 「……うぇ?!」
 と、辺りを眺めた瞬間に驚いていた。
 建物の中も、内装が豪華だった。見た目通りの印象である。
 まず入り口の先の部屋は、天井まで吹き抜けだった。高さは三階までありそうだ。
 また真正面の壁際の中央には、受付のカウンターがある。ついで両端にも、観葉植物を植えた鉢を置いていた。
 部屋中は、家具や置物には埃や汚れもなく清潔にされている。
 さらに彼方此方に、多くの宿泊客がいるようだ。
 そして従業員も齷齪と動き回っている。
 凄く繁盛しているようだった。 
 ふと老人が部屋の奥へと進み、カウンターの従業員に声を掛けていた。
 すると、彼等は媚びへつらう態度で返事を返し、
 「おぉ、…リキッド様、お戻りですか?」
 「あぁ。…只今、戻ったよ…。悪いが夕食時にルームサービスを用意してくれ。後、しばらく私の部屋に誰も来ない様に頼むぞ?」
 「かしこまりました。」
 と最後には、お辞儀して業務に戻っていく。
 「ではヒルフェ君、…付いて来てくれ。」
 と老人もカウンターを離れると、先に階段を上がっていってしまう。
 俺も、急いで後を追いかけた。
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