～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

２話 ３章 玉葱ソースの鹿肉ハンバーグ

７

　「そうですわ。…大伯父様。」
　「侯爵様、…子供同士には、よくある対立ですし、…。」
　「しかしだな。…客人に不快な思いをさせたままにしておくなど、侯爵家の沽券に関わる。…身内のしでかした失態は、親族の私がやるべきだ。」
　しかし、それでもマーチスは引き下がらずに、己の主張を言い続けてくる。
　「う、…。」
　「いえ、…それは確かにそうですが、…あの、その。…」
　次第にエピカやメイド達は気圧され、しどろもどろになっていく。喋る言葉の語尾が尻すぼみになっていた。
　「そうだ。…おい、…誰か！…厨房に行って料理人に、あれを持って来させなさい。…私が土産に持ってきた奴だ。…この人達に、振る舞うのだ。」
　すると、マーチスが、今度は何かを思い付いたようだ。さらに続けて、使用人達に指示を飛ばしだす。
　それを受けて、一人のメイドが慌てて部屋を飛び出していき、僅か十数分も経たぬ間に戻ってきた。
　やや遅れて、ついでに一人の男も一緒に入室してくる。
　それはブランモンである。両手で抱えながら大きな肉の塊を持ってくると、長テーブルの上に置いて語り掛けてきた。
　「…マ、マーチスさま。…お、お待たせしました。…ご所望の品です。」
　「おぉ！…来たか。…早速で悪いが、これを皆さんに振る舞まってくれ。…ステーキで頼むぞ。」
　と、マーチスは要求してくるが、
　「し、しかし。…お言葉を返すようですが、…此方の肉はステーキに適してません。」
　「…何だと？」
　「…えっと。…」
　対してブランモンは即座に出来ないと断った。おどおどしながらも、慎重に説明をし始めていく。
　「…この肉は見たところ、鹿肉です。…しかも肩の部位に近いところでございます。…この部位は運動量が多くて、繊維質な部分ばかりでして。…だから、ただステーキにしてしまうと、パサパサとした固い肉になってしまいます。」