～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

２話 一章 オムパスタ

５

　サーラは、食前の祈りを捧げる。
　だがアリサは、真っ先にパスタを両手で鷲掴みにし、口一杯に頬張ってしまう。
　「あぁ？！…もう、アリサちゃんたら。」
　とサーラは呆れる様に呟きつつも、様子を優しげな視線で見守るだけで、自らも食べ進める方を優先した。
　パスタをフォークで巻き付けて口に運ぶと、塩味と共に、食材本来の旨味が口に広がった。
　ささみは淡白ながらしっとりしていた。
　パスタは小麦の甘さがする。
　卵も優しい甘さが感じた。
　アリサも無我夢中で、どんどんと口に運んでいる。全く手が止まらないようだ。
　「うぅむ。…でもなぁ、…足りないんだよねぇ。」
　だがサーラは、やや不満げである。眉間に皺を寄せながら、空になった皿やアリサを交互に見つめつつ、首を傾げて悩んでいる。
　今日の料理も味は申し分ない。しかし、彩りや野菜が足りない。
　それがサーラには、不満だった。
　この村の近辺は、農作物が育ちにくい。原因は土壌が乾燥しやすく、栄養の少ない痩せ細った土地だからだ。
　また若い人手が足りず、田畑を耕したり、土の状態改善を行えないのもある。
　せいぜい育てても、良くて自分達が食べる分の豆やらが精一杯だった。
　だから此処等は、狩猟が主な生業である。
　定期的に行商人が馬車で、南の街から各村に食品を運んでくるも、最後の此処は大した野菜やらは滅多に回ってこないのだった。
　「…アリサちゃんには、他にも沢山の栄養のある物を食べてほしいしなぁ。」
　とサーラは呟きつつ、アリサの方を一瞥する。
　対してアリサは、瞬く間にオムパスタを完食してしまっている。さらに今は空の皿を口でハミハミしながら遊んでいるようだった。