130 / 209
7話 思い出のアップルパイ
16
しおりを挟む
釜戸では、親方や一部のハンター達が作業を引き継いだ。予め余熱しておき、温かさが隅々まで行き届いている。奥まで均等にパイ生地を並べたら、じっくりと火を入れる。たまに手前と奥の生地の位置を入れ替えながら、釜の内部に水を射し込んだりして、温度を調節している。
「今、だいたい温度は、200くらいか?」
と親方が代表して報告していた。
「じゃあ、そのままの温度を保って。…焼き続けて。」
「後、どのくらいだ?」
「…20分くらい。」
それをサーラも聞いて指示を送ると、暫しの間、釜戸の側で屈みながら中の炎を見つめる。
ゆらゆらと炎は揺らめいていた。じっとりと熱が温かさが伝わる。
さらに薪はパチパチと音を鳴らし、煙は香ばしい薫りを漂わす。
あらゆる要因が、人々の五感を刺激していた。
「そうか。…またマリーには、これを食べさせてやれんのか。…また約束守れなかったのう。」
ふとサーラは、知らず知らずに両目から涙を溢していた。同時に脳裏には懐かしいと感じる光景が過っており、特に栗色の髪青い両目の少女の笑った顔や、お祝いの日の出来事を鮮明に思い出してしまう。なんとなく寂しさや悲しさが心の中に渦巻いてしまう。
「サーラちゃん?…」
「お前、何を言ってんだ?」
「どうして、泣いているの?」
その様子に村人達も気がつき、矢継ぎ早に理由を聞いてくる。
だが、サーラは俯きながら涙を袖で拭うと、「…なんでもない。」とだけ呟いた。続けざまに利き手に布を巻き付けたら、釜戸の中から全てのパイを取り出す。
そうしてアップルパイは完成したのだった。
「今、だいたい温度は、200くらいか?」
と親方が代表して報告していた。
「じゃあ、そのままの温度を保って。…焼き続けて。」
「後、どのくらいだ?」
「…20分くらい。」
それをサーラも聞いて指示を送ると、暫しの間、釜戸の側で屈みながら中の炎を見つめる。
ゆらゆらと炎は揺らめいていた。じっとりと熱が温かさが伝わる。
さらに薪はパチパチと音を鳴らし、煙は香ばしい薫りを漂わす。
あらゆる要因が、人々の五感を刺激していた。
「そうか。…またマリーには、これを食べさせてやれんのか。…また約束守れなかったのう。」
ふとサーラは、知らず知らずに両目から涙を溢していた。同時に脳裏には懐かしいと感じる光景が過っており、特に栗色の髪青い両目の少女の笑った顔や、お祝いの日の出来事を鮮明に思い出してしまう。なんとなく寂しさや悲しさが心の中に渦巻いてしまう。
「サーラちゃん?…」
「お前、何を言ってんだ?」
「どうして、泣いているの?」
その様子に村人達も気がつき、矢継ぎ早に理由を聞いてくる。
だが、サーラは俯きながら涙を袖で拭うと、「…なんでもない。」とだけ呟いた。続けざまに利き手に布を巻き付けたら、釜戸の中から全てのパイを取り出す。
そうしてアップルパイは完成したのだった。
10
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる