～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

間章 驚愕な話

１４

　その後ろ姿をリリャーは、寂しげな瞳で見つめている。さらには口元が微かに動いており、何かを呟く。
　不意に赤ん坊が身動ぎ、母に近づこうとする。
　それでサーラは、リリャーの様子に気がつくが、ー
　「ごめんなさい。…でも、他に思いつかなかったんです。…マリーお婆さんの、アップルパイしか。…」
　「…マリー、じゃと？」
　と、すぐに呆けた表情で固まっている。彼女の言葉を聞いた瞬間に、妙な既視感と覚えのある光景が脳裏を過った。
　「どうしたんだい？…サーラ。」と、ばあ様が気がつき、問いかける。
　次の瞬間に、サーラは我に返ると、すぐさまリリャーに聞き返す。
　「…そやつは、栗色の髪と青い瞳ではなかったかの？」
　「は、はい。…髪の毛は白髪交じりでしたが、そんな色よ。…あと、確かに目は青かったわ。」と、リリャーは答えた。
　「な？！…まさか本当に、マリー！！？」と、サーラは再び驚く。だが、すぐさま踵を返して扉の方に向かい、部屋を飛び出していた。
　「サーラ！…本当に、どうしたんだい！？…ちょっと、お待ちよ！！」
　ばあ様は、大声で呼び掛けた。
　しかし、既にサーラの姿はなく、足音はどんどんと遠くに離れていくのだった。