~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ

文字の大きさ
上 下
112 / 199
間章 驚愕な話

13

しおりを挟む
 リリャーも、ゆっくりと答えている。
 「形は四角かったです。…味付けも強くないのは覚えています。甘酸っぱさが優しい感じでした。…でも、作り方は知りません。」
 「えぇ?…料理を習ってたんじゃないの?」
 「…あの人にとっても、アップルパイは特別な思い入れがあるようでした。…もっと私が料理上手になったら教えてくれるって言ってたんです。…でも、結局は教えてもらえませんでした。」
 「なんで?」
 「その人、…病で身体を悪くして、人知れずに半年前に亡くなりました。」
 「それだと…作れないよ。困ったねぇ。…」
 とケリーは話を聞き、困った表情で呟いた。
 「ごめん、なさい。…………」
 とリリャーも、最後には謝ってしまう。
 次第に、部屋の中には気まずい空気が漂い出す。 
 「でもさ、用意するよ。…リリャー、任せといて。」
 しかし、アニタは、二つ返事で了承してしまう。
 それに対して、ばあ様が慌てて止めに入った。アニタの手を引いて、ベッドから離れると否定する。
 「…待ちな!…勝手に、安請け合いするんじゃないよ。」
 「いや、…ですけど!」
 それでもアニタは、食い下がらない。
 しかし、ばあ様も説得を続ける。
 「…この娘の求めている味の料理が出来るの?…こんな貧相な村で、材料も少ないのに、一から用意するのも時間が掛かるよ。…もし違うのを用意したら期待を裏切ってしまうよ!」
 「う、…それは。」
 「…気持ちはわかるよ。…そんな事が出来たら奇跡だよ。…暫く頭を冷やしてきな。」
 「ほら、あたしが付いて行くから、向こうに行くよ。」
 「……はい、……。」
 やがてアニタは諭され、肩を落とす。
 すかさずケリーが隣に来て、彼女を伴ないながら部屋を退室して行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

処理中です...