～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

幕話３～街道での出来事

１

　王国【ランドロス】の最南端には辺境地がある。
　そこの海沿いの港街【ネオマルフィア】から、北に向かえば、ほぼ草原と森しかない。
　さらに先は高く聳えた山脈が連なるだけである。
　内陸部に向かうには、避けては通れない場所だった。
　また北の山脈から【ネオマルフィア】までの間は、長い長い川が流れるとともに、すぐ側を沿う様に馬車道がある。まるで草原や森を縦に分断する様な長い道のりである。
　同線上には、小さな村が幾つも点々と存在している。
　その村の一つ、ーちょうど中央に位置する村では、広場で旅商人が商いの片付けをしている。既に売り物は全て完売してしまい、馬車の前に置かれた入れ物の木箱は空っぽである。
　辺りからは買い物客のご婦人達が嬉しそうに、話す声が聞こえてくる。
　「あら奥さん、貴女も蜂蜜を買ったの？…」
　「えぇ、奮発して。…なんでもお肉に揉み混むと柔らかくなるとか。」
　「ねぇ～。…知らなかったわ。…今日は早速帰ったら試してみましょ。」
　「そうね。…うちも、そうしようかしら。」
　それを二人の商人が聞き耳を立てており、次第に口角が吊り上げていた。
　「やりましたね。」と若い商人が声をかける
　「あぁ、そうだな。」と店主も返事し、誇らしげに頷いていた。