～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

第５話 ポテトオムレツ

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　「あれは、…リリャー、！？」
　とアニタは悲鳴の様な声をあげ、すぐさま木から降りていく。もう崖下まで行ってしまい、瞬く間に眼下の山林の中へと姿を消えた。
　サーラも気がついた時には、止める間もなく、必死に呼び掛けるだけだった。
　「あ！？…ちょっと待って、アニタさん！」
　「サーラ、…そこにいろ！…ありゃ、狼に襲われているんだ！…追いかけていったら危ないぞ！」
　と親方は指示すると、「野郎共、続けぇ！」と声を張り上げて、仲間と共に踵を返して走り出す。どうやら崖を迂回する道を選んで進んでいくようだった。
　しかし、それでもサーラは不安げな様子だ。そわそわと落ち着かずに、再び川の方へと顔を向ける。先程よりもハッキリした狼の遠吠えを耳にしてしまい、慌てて鞄からフライパンとお玉を取り出すと力一杯に叩いて音を鳴らしだした。
　カンカンカンカンカン！！
　カンカンカンカンカン！！
　「お父ちゃぁぁーーーん！！…此方に狼がいるよおぉぉ！！」
　さらには彼女の必死な呼び掛けが、空に向かって響き渡る。
　だが、辺りには全く反応はなかった。
　それでもサーラは何度も何度も、同じ行動を繰り返す。