～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

４話 野菜のポトフ

１９

　その質問にサーラは、首を横に振って否定する。
　続けざまにアニタは、ロンドの方にも視線を送ってみた。
　するとロンドも首を横に振っており、次第に話に割って入り、説明をする。
　「…サーラちゃんは、自分で覚えたんだ。…村で唯一の子供で、小さい頃から私の仕事の都合で隣の婆さん達に預けてたけど、誰に料理を教わた話は聞いた事がないよ。」
　「事実なの？……」
　「恥ずかしい話だが。…家には母親はいない。…この村に来たばかりの頃は、私も日銭を稼ぐのに精一杯だったんだ。…だから知らず知らずに、いつの間にか一人で出来てたんだよ。」
　「そんな馬鹿な？」
　「信じられないけど、…嘘は言ってないよ。」
　「…………。」
　アニタも説明を聞くも、納得が出来ずに渋い表情をしながら、再びサーラの方へと視線を向ける。
　サーラも視線に気がつき、真似して見つめ返していた。
　「やっぱり家の子は可愛い。…」と、ロンドが呟いているのが聞こえてきた。彼女達の仕草を目撃して、咽び泣きそうになっている。
　先程までの雰囲気が霧散してしまった。
　辺りに一瞬だけ、沈黙が漂いだす。
　「…食べようか。」
　「そうじゃの。…お腹空いたのじゃ。」
　ほぼ同時に、彼女達は呟きながら食事を再開した。共に匙でポトフの具材を掬い、口に含んで咀嚼する。
　サーラは食べ進めていくと、頬袋が一杯になるまで詰め込み、満面の笑みを浮かべていた。
　「あ、……。」
　ふと不意にアニタは、目を擦り瞬きする。サーラの姿を見て、同じ仕草をするリリャーの幻と重なった様に見えたからだ。前にも似た様な光景を眺めていた事を思いだし、懐かしくも寂しい気持ちを感じながら、
　「何処に行ったんだい。」
　と、呟いていた。
　そうして夜が更けていく。