~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ

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2話 野菜のパン粥

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 「ここは日中しかスタッフはいません。…四六時中は面倒を見るのは無理です。…お力沿いは難しいかと。…」
 「そうか。」と村長は話を聞くと、考え込んだ。頭を振って考えを否定しており、再び溜め息を吐くと肩を落とす。
 ハンター支部の人々も、苦い表情で成り行きを見守っている。
 「やはり、村人で交代で面倒を見んと無理か。」
 ようやくして村長は独り言を呟くと、踵を返して人だかりの方まで戻る。
 村の住人達も気がつき、振り返って耳を傾けていく。
 同じくロンドやケリーも、話を終えて聞く姿勢となる。
 村長は周りを見渡しながら、言葉を投げ掛けた。
 「で、皆の者よ。…此処は、食べる物も多くない村じゃ。…それでも、新たに現れた小さな命を皆で持ち回りつつ、守り切ろうと思う。…誰か名乗り出る者はいるか?」
 しかし大人達は、やや躊躇している。未だに誰も手を上げない。
 そんな状況にも関わらず、少し遅れて「…私がやります!」とサーラだけは、手を上げている。
 すると、「何言ってるんだ。…」と村人の誰かが咎めた。
 それを皮切りに、周囲の人々から、否定的な言葉が飛び交いだす。
 「おい、サーラ。…赤ん坊を育てるのは、簡単な事じゃないぞ。」
 「…無理だって。」
 「遊びじゃないんだわさ。」
 やがて支部の中に、険悪な雰囲気が漂いだす。
 「…ほっとけないじゃない。…大丈夫。…私、家事とかは得意だし。…昔にやった事がある気がするから、なんとかなると思う。」
 それでもサーラは、屈託ない笑顔を振り撒いて宣言する。
 「サーラが言うなら、仕方ないか。…一度言い出したら、聞かないからな。…まるで頑固ジジイだ。」
 やや遅れて、ロンドも同調していた。無駄に良い笑顔をしている。
 すぐにサーラは、お礼を言う。
 「…お父ちゃん、許可ありがとう!」
 「娘の為なら、なんて事ないよ!…それに。…」
 とロンドも返事をした。ついでに娘の方に視線を向けだすと、
 「ほ~ら、赤ちゃんも。…お父ちゃんにありがと、しましょうね。…一緒に住むから、私がお姉ちゃんでちゅよ。~」
 「お人形さん遊びしてる様で、うちの娘は可愛いなぁ!!」
 と、大声をあげながら、鼻の下を伸ばした表情となる。サーラと赤ん坊のやり取りを見て、感極まっていたのだった。
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