～前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚～

１話 芋餅

５

　すると、その時に家の玄関をノックする音が聞こえており、
　「すいませ～ん。」
　と、誰かが呼び掛ける声もする。やけに聞き覚えがあった。
　急いでサーラは玄関へ向かい、扉を開けてみた。
　そこには、隣の家に住む御婦人がいた。名前をケリーといい、恰幅のある体型の気の良いおばちゃんである。
　「あ、おはようございます。ケリーさん。」とサーラは視線があった瞬間に、挨拶をする。
　「おはよう、サーラちゃん。」とケリーも同様に返事をしている。だが、ふと狼狽えている様な仕草をしている。
　「あれ、ケリーさん？…どうしたの？」
　「いやぁね。…サーラちゃんさ、……アンタの家の裏に物置小屋があるだろう。…昨日の夜になんかしたかい？」
　「え？…あの扉の鍵が壊れてるやつ？…もう、ずっと使ってないけど。…」
　「…やっぱりかい。…実は、…そこで、さっきから変な音が度々聞こえてんだよ。…」
　「ほへ？」
　と話を聞いてサーラは驚いて、思わず変な声をだしてしまう。
　「…え？…何それ！？」
　「…恐いだろう。…あたしも、そういうの苦手なんだよ。…うちの旦那にアンタの父ちゃんを呼び戻しに、広場のハンター組合の支部まで行ってもらっていて。…」
　そしてケリーもまた、話を進めていくうちに、背中に寒気を感じて身震いしている。何度も何度も家の裏手に視線を送っているようだった。
　その様子をサーラ見かねて、
　「なら、あたしが先に見てくるよ。」
　「え！？…駄目だよ、危ないから。」
　「…でも、うちになんかあったらヤダから、それでも見てくるから！」
　と言いながら、走り出した。ケリーの制止する声や追いかけてくる足音も、あっという間に遠くなってしまう。