ある島国の軍人は異世界へ

太郎

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第四十八話 闇の者

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─北の大森林─


それは突然だった。
爆発音と共に、要塞の警報アラートが鳴り響く。
時刻にして、明け方の3時といった所だろう。

それぞれの部屋から飛び出て来る三人。
緊急アラートが鳴った時の決め事として、すぐに中央の大部屋に集まるという事。
三人が食事をとった場所だ。

三人はほぼ同時に部屋へ到着し、アストルテが状況確認の為に、要塞の外にいる駆動騎士ゴーレムの視線を映像魔法で映し出す。それと同時に、外部の全景を映し出す映像も出力した。

「何もいない・・・?」

全ての映像を確認するが、そのどれにも魔獣の姿が映ってはいなかった。

「地雷魔法で即死したのではありませんか?」

地雷魔法の爆発力は強力だが、それで外壁が傷つかない設計になっている。

「警報が鳴ったという事は・・・やはり駆動騎士ゴーレムが破壊されているわね」

アストルテが指差す先には、10機分の映像を映し出しているが、映像が乱れているものが2つある。
2機の駆動騎士ゴーレムが破壊されたという事だ。

「破壊とほぼ同時に地雷魔法が発動してるわ。かなりの破壊力を持った魔獣のようね」

「私が始末してこよう」

出て行こうとするミシュールをスズムラが引き止める。

「もう少し情報を収集しましょう。戦場でこれだけ情報を得る機会があるのです。活用しない手はありません」

「そうね。もう少し確認しましょう。下には駆動騎士ゴーレムもまだ残っているのだし」

あと8機の駆動騎士ゴーレムが残っており、周囲の索敵をさせている。

三人が全ての映像に注意を向ける。

「ん・・・?あの黒い陰は・・・何だ?」

ミシュールが指差す映像は、全景を映し出したものだ。
周囲300メートルを見渡す事ができる。
砦から少し離れた場所から、ゆっくり近づいてくる黒いものがある。

「人影・・・か?」

「人のようにも見えますね」

「まさか。ここは人類未踏の地よ、人がいる訳ないでしょう」

人の形をした魔獣となると、ゴブリンか?
オーガやハイオーガとなると、遥かに体格が大きくなるので、このサイズには当てはまらない。
ゴブリンにしては大きい、しっかりと二足歩行しているようにも見える。
となると、ゴブリンロードと呼ばれる希少種だろうか。
しかし、ゴブリンロードは知識が増えるだけで、体がハイオーガのように頑強になる訳ではない。
この砦の地雷魔法の直撃を受ければ、簡単に粉々になるだろう。

その黒い人型が歩いて来る。

駆動騎士ゴーレムよ、始末しなさい」

アストルテの指令を受け、8機全てがその黒い人型に殺到する。
それぞれが手に持った、ミスリルソードで切りつける。
それはアストルテの魔法で強化された剣。魔獣程度は簡単に切り裂く一撃だ。

ガシャアァァッッンと音を立て、全ての駆動騎士ゴーレムがバラバラに破壊される。
まるで苦も無く、あまりにもあっさりと破壊された。
その動きはやはり魔獣ではない。ゴブリンでも無い。人に近いが人間では無いはずだ。
これだけ接近しているにも関わらず、その姿は黒い人型としか言いようが無い。

「普通じゃないわね、私が片付けてくるわ」

アストルテが出て行く。その後をミシュールがついて行く。

「スズムラはそこで待っていてくれ」

「任せてちょうだい」

二人が出て行く。

「では・・お二人にお任せします」

二人の背中にスズムラが声をかけた。
こういう時こそ男の出番のハズだが、このチームは血気盛んな女性ばかりだ。

外に出ると、まるで二人が出て来るのを待っていたように、その黒い影は静かにその場に佇んでいた。
二人から黒い影まで、距離にして30メートルといった所か。

「何処を見ている」

上空に顔を向けているようだが、目が無いので何処を見てるのかは分からない。

「監視魔法に気付いたようね」

監視魔法に気付き、更にその先を見通そうとしているような、そんな感じを受ける。

ふと思い出したように、黒い影が二人に顔を向ける。

「黒い人型・・・か。得たいが知れんな。だが、その好戦的なオーラは隠しきれていないぞ?」

こんな魔獣など見た事も聞いた事も無い。
完全に新発見の魔獣だろう。やはり人類未踏の地だ、何が潜んでいるか分かったものではない。
しかし・・・そもそもこいつは魔獣なのだろうか?
ミシュールが剣を抜き放ち、全身を莫大なオーラで覆う。

アストルテも自身をオーラで覆い、右手を突き出し莫大な魔力でもって魔法陣を描く。

「消えなさい。崩壊獄炎熱砲ラズア・ゲルン

アストルテから放たれた巨大な炎の熱線が、凄まじい速度で黒い影に直撃する。

着弾した付近の地面が溶解するほどの熱量。
ゴポゴポと泡立つ場所から歩み出てくる黒い影。
その様子から、全くダメージを負ったようには見えない。

「仕方無いわね。ちょっと本気でいくわ」

アストルテが両手を前に突き出し、先ほどの単一魔法陣とは違い、9つもの魔法陣が発現し、それらが連結されていく。
周囲に風を巻き起こすほどの魔力の波動を放ち、魔法陣が力を解放する。

殲滅極大炎獄魔法アルヴァズド・フレア!!!」

それはまるで古竜の放つ竜破滅砲アーク・ドラゴン・フレア
大きな城門ですら通れないほど巨大な極太の熱線が、黒い影に直撃して貫通し、その背後の大森林の木々をなぎ倒しながら突き進む。そして数km先で大爆発を起こし、その衝撃波がここまで伝わってくる。

「なんという破壊力だ・・」

驚愕の表情を浮かべるミシュール。
凄まじい破壊力の魔法の直撃を受け、それでもなお、かろうじて動く黒い影。
体の半分が吹き飛んでおり、頭部も左腕も無い有様なのにだ。右腕はかろうじて繋がっている程度で、もはやただぶら下がっているだけだろう。

「くたばれ、化け物」

ミシュールが接近すると、全力で切りつけた。
その手に伝わる重い感触。まるで巨大な魔獣に切りつけているかのような感触だ。
それに構わず、ミシュールはその黒い影の全身を、超高速の刃で切り刻む。

黒い影を細切れにした頃、ギィィンッという音を立て、ミシュールの剣が折れて地面に突き刺さった。

「・・・ちっ」

柄だけになった、長年愛用していたミスリルソードを見つめる。
研ぎ直して刃こぼれの無かった剣だったのだが、オーラで強化したにも関わらず、あの黒い影の強度に耐えられなかったか。

「後で直してあげるわ」

「──ああ、すまない」

一直線に熱線の通った場所が焼け野原となっている。
パチパチと生木が焼けて爆ぜる音がする。
遥か遠くでは魔法の爆発で巻き上げた粉塵が舞っている。

朝日が顔を覗かせ、日の光を浴びながら二人はしばらく、黒い影が粒子になって消えて行くのを静かに見つめていた。


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