ある島国の軍人は異世界へ

太郎

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第四十六話 過去の巨壁

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─北の大森林─


ひたすら北上を続けるスズムラ一行。
大森林に入ってから三日。
三人は特に魔獣を避けたりせず、狩りながらひたすら北上している。

風絶連結ジヴェールド

アストルテが風を圧縮した暴風のような魔法を前方に放つと、数百メートル先まで木々を吹き飛ばした。
薄暗かった森の地面に太陽の日が差し込み、視界が良くなった。
吹き飛ばした木々の破片近くには、元の形状が判別できないほどバラバラになった、魔獣の死骸が散らばる。
莫大な魔力が必要な凄まじい魔法だ。


「相変わらず、とんでもない威力の魔法だな」


魔法の知識が浅い私にとって、彼女の使う魔法は理解の及ぶ遥か先だ。
複雑な魔法陣を構築しているのは分かる、その程度だ。
それでいて彼女の魔力が減ったようには見えないから驚きだな。

例の白い世界の扉を開いてからは、スズムラやアストルテのオーラ量や魔力量の全容が、なんとなく掴めるようになった。
扉の先に広がる世界が何なのかはまだよく理解できていないが、とてつもない広さなのは間違いない。
二人は自分よりも、ずっと前からあの扉を開いていたのだろう。
あの扉を開く事によって、オーラと魔力を同時に扱う事が可能になった。
といっても、今の私では身体をオーラで強化しつつ、剣に炎を纏わせる、といった事ができる程度だが。
更なる高みへ登るならば、魔法も勉強するのも良いかも知れない。

「この辺りは魔素が濃いわね」

魔素とは、自然物が発する魔力。
北に向かうにつれて魔素が濃くなっているようだ。
魔素を吸った木々は、普通の木々と比べて強度が高く寿命が長い。
木々の枝は曲がりくねった変な形状の物が多く、大きく育っているものが多い。

「ん・・・?」

その時、目の端に赤い物体を捉えた。
数百メートル前方に、3メートルをゆうに上回る巨体、オーラを身に纏ったその姿。
手には巨大な木の棍棒を持っている。
準厄災のハイオーガだ。

「ハイオーガ・・」

かつての記憶が蘇る。
右腕を奪われ、最近に至っては戦意を失い、棍棒で叩き潰される寸前だった。

「へえ、あれがハイオーガ。実際に目で見るのは初めてね」

アストルテが前に出ようとするのを、私は手で制する。

「私にやらせてくれ」

剣を抜き放ち、オーラを身に纏う。
ちらりとスズムラへ目を向けると、彼は笑みを浮かべた。
私に任せてくれる、という事だろう。

「ありがとう」

今思えば、スズムラは誰かを守りながら戦っていた。
凄まじい破壊力を持つ剣を周囲に浮かべて、誰も傷つかぬようにしていた。
いざとなれば剣を盾にして。
それがいかに、"狩り"の障害になっていたか。
目の前の戦いに集中できず、周囲の者が彼の邪魔をしていたのだ。


今私の周囲に守る者はいない。
スズムラもアストルテも、私よりも大きな力を持っている。
彼等を心配するなど傲慢だろう。

だからこそ、私は力を全て、"狩る"為だけに使う事ができる。
私たちを目標に定めた、ハイオーガが近づいて来る。
かつては恐怖すら感じた準厄災。
それが今では、心穏やかに"狩る"対象として見ている。

ハイオーガが一気に距離を縮め、棍棒を振り下ろして来た。

「guwooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「はっ!!」

棍棒の一撃を避け、通り抜けながらハイオーガの全身を切り刻む。

「gu..wooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!」

深くまで刃で傷つけるが、傷口が深ければ深いほど再生が早くなるようだ。
全身から血を流しながらも、再び棍棒を振り下ろして来た。
それを避けると、首を薙いだ。

「首回りにはオーラが特に集中させてあるな」

切り落とすつもりで剣を振ったが、骨にすら到達しなかった。

「ふふっ」

かつては刃すら通らなかったのだ。
これだけ剣で切り裂けるのならば、幾らでもやりようは、ある。

「guoooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!」

馬鹿みたいに棍棒を振り回すハイオーガ。
力はあっても、技も何も無い。ただ振り回すだけ。

「はっ!!」

再びハイオーガの全身を切り刻んでやる。
先ほどよりも、刃が深くまで到達するようになっている。

「gu....oooooooooooooo!!!!!!!!!!」

全身から血を噴出しながら、ハイオーガが棍棒を振り回す。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
図体だけは大きな子供だ。
今度は一箇所に狙いを定めて、一度だけではなく何度も切りつける。

「guwooooooooo!!!!!!!」

棍棒を持った腕が吹き飛んで行く。
一度では深くまで刃が入らないが、何度も切りつける事で切断する事ができた。
莫大なオーラにより、身体能力が飛躍的に向上した為に可能となった力技だろう。

「なるほどな。お前の"狩り"方が分かったぞ」

右腕が少しずつ再生していくハイオーガ。
さすがに切断すると再生には時間がかかるらしい。
左手で棍棒を持ち直すと、再び馬鹿の一つ覚えのように棍棒を振り回し始める。

「guwaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

かつて聞いた事の無いような、必死さを感じるハイオーガの雄叫び。
ほとんど感情が無いハイオーガだが、流石に感じるものがあったのだろう。

目の前に迫る"死"の恐怖を。

「はあっ!!!」

「ga...」

重い巨体が静かに、ゆっくりと倒れていく。
そして、地面に倒れると全身が細切れに崩壊した。
辺りには夥しい量の血が流れて行く。

ハイオーガの首を切断するのと同時に、全身を切り刻んだ。
首が胴から離れると、その瞬間にオーラと再生能力は喪失するようだ。

刃こぼれも血のりも無い剣を鞘に戻す。

「ふう・・・」

ようやく過去を乗り越えられた。
人の身では超えられぬと半ば諦めていた壁だ。

こんな日が来るのを夢見ていた。
それは全てを極めた時だと思っていた。
全てを極め、身体能力もオーラも鍛え尽くした先にある場所だと考えていた。

いざ、その思い描いた夢の場所に立ってみると、なんの事はない。
今まで見ていた限界には、まだ先があったのだ。

背後にいる二人に目を向ける。
底知れぬ魔力を秘めた魔女と、とてつもないオーラを持つ男がいる。
私は彼等の背中を見ているだけではない。必ず追い抜いてみせる。
二人が戦いに集中する為には、私は強くならなければならないのだ。






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