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第二十七話 危険な公爵
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─カルロ公国 首都グルーゼン─
カルロ公国で、公爵の地位に就く者は…僅か五人。
いずれも大公より、多大なる功績を認められた、真の実力を持つ者である。
軍施設にある広い一室には、五人の男女が集まっていた。
円卓にはそれぞれが、離れた場所に座る。
誰も口を開く事はなく、ただその時が来るのを待っていた。
その時───
室内に一人の男が入って来た。
真っ白な髪は腰まで伸び、白い肌には皺一つなく瑞々しさに溢れている。
まるで女性のように美しい顔である。
「おう、集まってるな」
部屋を見回し、見知った面々がいる事を確認し、自らの席に座る。
男の名前はベリオス。
このカルロ公国を支配する者であり、大公の地位にある。
他の面々と違うとすれば、それはまず年齢だろう。
あくまで見た目の年齢だが──、若々しく20代そこそこにしか見えない。
そして──細長い耳。
非常に珍しい、天使と人間の間に生まれた存在を示す。
半天人の彼は歳を取る事もなく、寿命があるのかさえ分かっていない。
何せ前例が彼以外に無いからだ。
「さて、報告書は読んだが、面白い男の事が書いてあった。たった一人で"災厄"を撃退したとか」
ベリオスは用意されてある、飲み物に手を伸ばす。
「……スズムラの事ですな」
隣に座る老人…豪華な貴族衣装に身を包む、ガルドラス公爵が口を開く。
「そう、そんな名前だった。その男とは後日会うとしよう。………さて」
ベリオスの表情が真剣なものとなり、室内の気温が一気に下がる。
そして、ベリオスの向かいに座る者──アストルテ公爵に目を向けた。
「アストルテよ」
呼ばれて表情を引き攣らせる、アストルテ公爵。
この中で歳が一番若く、見た目は30歳代に見える美しい女性。
完璧なまでに整った体型であり、男なら誰もが振り向くだろう。
実年齢は七十を超えているが、それを知るのはこの場にいる者以外に、ほとんどいない。
無類の男好きで、気に入った男を見つければ、すぐに屋敷へ呼んで世話をしてやっているとか。
魔法使いとしては非常に優秀であり、若返りの魔法でも使用しているのだろう、ともっぱらの噂であった。
「ヴェルナント……とやらを俺は知らんが……お前は知っているな?」
有無を言わせぬベリオスの言葉。ここで答えを偽れば、確実に処刑されるだろう。
長年の付き合いから、アストルテはその事をよく理解していた。
「はっ……存じ上げております」
ベリオスは右肘を机に乗せ、拳を作り頬杖をする。
「単刀直入に聞くが───お前は 公金横領に 加担していたか ? 」
魔力の篭った質問。
それはつまり、何らかの魔法を発動した上で、この質問はされている。
アストルテは震える。
ここまでするという事は、何やら自分の与り知らぬ所で、ヴェルナントがマズい事をしていた、という事だ。
見た目はなかなか良かったのに……どうして自分の気に入った男は、何かしら危険な事をしているのだ。
せっかく今度こそ、結婚相手が見つかったと思ったのに───
「いえ……全く関与しておりません……」
意気消沈しながら、真実を口にする。
しばらくアストルテを見つめていたベリオスは、やれやれ、といった表情で腕を組む。
「またお前の悪癖が出たようだな……いい加減にしておけよ?」
ベリオスに睨まれ、肩を竦めるアストルテ。
「申し訳ありません……私の気に入った男が、またご迷惑をおかけしまして……」
厳密に言えばアストルテは悪く無いのだが、公爵という立場の者が易々と騙され、公金横領の片棒を担いだと言っても過言ではない。公爵とは責任ある立場であり、易々と利用されるような事があってはならないのだ。
「今回ばかりは許さん」
今までは辛うじて許されて来たが、今回ばかりは大公の怒りは静まらない様子だ。
とうとう処刑される時が来たか、そう観念したアストルテ。
「ご迷惑をおかけした事実を認め、いかなる処罰も甘んじてお受けします。なんなりと罰して下さい」
静かに頭を下げるアストルテ。
その様子を見ていたガルドラスは口を開く。
「閣下、この者の才を捨てる前に、もう一度だけ機会を、与えてやっては下さりませぬか」
ガルドラスの言葉に、ベリオスは考える。
「ふむ───お前ならどうする?」
アストルテを放置しておけば、再び同じ過ちを繰り返す、そうベリオスは確信していた。
アストルテの男好きを利用し、彼女を利用しようとする者が再び現れるだろう。
「アストルテは婚期を逃し焦っておるのです。ならば───褒美を与えるべき者がおりましょう。この通り、アストルテも見た目だけは若く、美しいですからな」
ガルドラスの言わんとする事、それは長年の付き合いで、ベリオスはすぐに理解した。
「ふっ───お前も面白い事を考えるではないか」
ベリオスは笑みを浮かべた。
言わんとする事が伝わり、ガルドラスも笑みを浮かべる。
「褒美と地位、───あの者の素性を更に知る事もでき、公国との繋がりも出来る……一石四鳥ですな」
「はっはっは。褒美に公爵をくれてやるか……面白いではないか。よし、決めたぞアストルテよ」
話の流れが、全く理解できていないアストルテ。
笑みを浮かべる、ガルドラスとベリオスを見て、何やら嫌な予感がするのであった。
カルロ公国で、公爵の地位に就く者は…僅か五人。
いずれも大公より、多大なる功績を認められた、真の実力を持つ者である。
軍施設にある広い一室には、五人の男女が集まっていた。
円卓にはそれぞれが、離れた場所に座る。
誰も口を開く事はなく、ただその時が来るのを待っていた。
その時───
室内に一人の男が入って来た。
真っ白な髪は腰まで伸び、白い肌には皺一つなく瑞々しさに溢れている。
まるで女性のように美しい顔である。
「おう、集まってるな」
部屋を見回し、見知った面々がいる事を確認し、自らの席に座る。
男の名前はベリオス。
このカルロ公国を支配する者であり、大公の地位にある。
他の面々と違うとすれば、それはまず年齢だろう。
あくまで見た目の年齢だが──、若々しく20代そこそこにしか見えない。
そして──細長い耳。
非常に珍しい、天使と人間の間に生まれた存在を示す。
半天人の彼は歳を取る事もなく、寿命があるのかさえ分かっていない。
何せ前例が彼以外に無いからだ。
「さて、報告書は読んだが、面白い男の事が書いてあった。たった一人で"災厄"を撃退したとか」
ベリオスは用意されてある、飲み物に手を伸ばす。
「……スズムラの事ですな」
隣に座る老人…豪華な貴族衣装に身を包む、ガルドラス公爵が口を開く。
「そう、そんな名前だった。その男とは後日会うとしよう。………さて」
ベリオスの表情が真剣なものとなり、室内の気温が一気に下がる。
そして、ベリオスの向かいに座る者──アストルテ公爵に目を向けた。
「アストルテよ」
呼ばれて表情を引き攣らせる、アストルテ公爵。
この中で歳が一番若く、見た目は30歳代に見える美しい女性。
完璧なまでに整った体型であり、男なら誰もが振り向くだろう。
実年齢は七十を超えているが、それを知るのはこの場にいる者以外に、ほとんどいない。
無類の男好きで、気に入った男を見つければ、すぐに屋敷へ呼んで世話をしてやっているとか。
魔法使いとしては非常に優秀であり、若返りの魔法でも使用しているのだろう、ともっぱらの噂であった。
「ヴェルナント……とやらを俺は知らんが……お前は知っているな?」
有無を言わせぬベリオスの言葉。ここで答えを偽れば、確実に処刑されるだろう。
長年の付き合いから、アストルテはその事をよく理解していた。
「はっ……存じ上げております」
ベリオスは右肘を机に乗せ、拳を作り頬杖をする。
「単刀直入に聞くが───お前は 公金横領に 加担していたか ? 」
魔力の篭った質問。
それはつまり、何らかの魔法を発動した上で、この質問はされている。
アストルテは震える。
ここまでするという事は、何やら自分の与り知らぬ所で、ヴェルナントがマズい事をしていた、という事だ。
見た目はなかなか良かったのに……どうして自分の気に入った男は、何かしら危険な事をしているのだ。
せっかく今度こそ、結婚相手が見つかったと思ったのに───
「いえ……全く関与しておりません……」
意気消沈しながら、真実を口にする。
しばらくアストルテを見つめていたベリオスは、やれやれ、といった表情で腕を組む。
「またお前の悪癖が出たようだな……いい加減にしておけよ?」
ベリオスに睨まれ、肩を竦めるアストルテ。
「申し訳ありません……私の気に入った男が、またご迷惑をおかけしまして……」
厳密に言えばアストルテは悪く無いのだが、公爵という立場の者が易々と騙され、公金横領の片棒を担いだと言っても過言ではない。公爵とは責任ある立場であり、易々と利用されるような事があってはならないのだ。
「今回ばかりは許さん」
今までは辛うじて許されて来たが、今回ばかりは大公の怒りは静まらない様子だ。
とうとう処刑される時が来たか、そう観念したアストルテ。
「ご迷惑をおかけした事実を認め、いかなる処罰も甘んじてお受けします。なんなりと罰して下さい」
静かに頭を下げるアストルテ。
その様子を見ていたガルドラスは口を開く。
「閣下、この者の才を捨てる前に、もう一度だけ機会を、与えてやっては下さりませぬか」
ガルドラスの言葉に、ベリオスは考える。
「ふむ───お前ならどうする?」
アストルテを放置しておけば、再び同じ過ちを繰り返す、そうベリオスは確信していた。
アストルテの男好きを利用し、彼女を利用しようとする者が再び現れるだろう。
「アストルテは婚期を逃し焦っておるのです。ならば───褒美を与えるべき者がおりましょう。この通り、アストルテも見た目だけは若く、美しいですからな」
ガルドラスの言わんとする事、それは長年の付き合いで、ベリオスはすぐに理解した。
「ふっ───お前も面白い事を考えるではないか」
ベリオスは笑みを浮かべた。
言わんとする事が伝わり、ガルドラスも笑みを浮かべる。
「褒美と地位、───あの者の素性を更に知る事もでき、公国との繋がりも出来る……一石四鳥ですな」
「はっはっは。褒美に公爵をくれてやるか……面白いではないか。よし、決めたぞアストルテよ」
話の流れが、全く理解できていないアストルテ。
笑みを浮かべる、ガルドラスとベリオスを見て、何やら嫌な予感がするのであった。
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