ある島国の軍人は異世界へ

太郎

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第四話 オーラの勉強です

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─レウス王国 スエル町─


ハイオーガから命からがら敵前逃亡した私たちは、なんとか町に駆け込みました。
幸いにもハイオーガは、私たちが討伐した魔獣の死骸に興味を示してくれたので、無事に逃げる事ができました。
よほどお腹が減っていたのでしょう。

カハーナさんは戻ってすぐに、ハイオーガ討伐部隊の組織に取り掛かりました。
上級冒険者を呼び集め、他にもハイオーガがいた場合に備えて、他の町にも警戒の報せを出しました。
お忙しそうですので、私はとりあえずオーラについて理解を深める事にします。
オーラを使えれば私の戦力は、確実に向上するはずです。

町の外れにある空き地で、体内に流れるオーラを確認します。
ふわふわと流れるエネルギーを感じる事ができました。
これは私の国で言う『気』のようなものでしょうか。
それを体の外に放出してみます───

「・・・・うっ!!?」

強烈な虚脱感が全身を襲いました。
すぐにオーラの放出を止めます。
地面に両手両膝を付いて体の回復を待ちます。

───10分ほど経った頃、ようやく動けるようになってきました。
どうやらオーラの絶対量が少な過ぎて、少し使うだけで底を尽き、あのような症状が起きると思われます。
人間の肉体とは酷使すれば回復し、前以上の能力を得るように出来ています。
おそらくオーラも同じだと考えられます。
この仮説を検証してみる事にしましょう。
先ほどと同じようにオーラを放出し、完全に使い切る前に止め、回復したら再び放出するのを繰り返します。





ハイオーガに会敵してから、ギルド支部は忙しそうに動き回っています。
翌日には上級冒険者が集められ、ハイオーガ討伐隊が出撃したとの事です。
周辺警戒部隊も数百人規模で組織されています。
レベル2以下の中級冒険者以下は、指定区域への立ち入り禁止が通達されたので、レベル1の初級冒険者である私は、この範囲外で子鬼や魔獣を探して、討伐する日々を過ごしました。
日々の生活費を稼ぎながら、オーラについての知識を高め、2週間が経過しました。

私の推測通り、オーラも鍛えれば鍛えるほどに、上限が増える事が確認できました。
初期の頃はすぐに枯渇したオーラも、今は全身を覆う事がしばらく維持できるようになっています。
オーラは応用の幅が非常に広い事もわかってきました。
武器にオーラを流せば強度や切れ味を強化する事ができ、肉体にオーラを流せば肉体強度、身体能力が向上できます。
ガリューが見せてくれたように、自身にそっくりな分身体を作り出す事も可能です。
更に重要なのは──ガリューの分身は、『本体と同じロングソード』を持っていた事から、同じ物体を複製する事すらも可能である、という事になります。
オーラであるのでいずれ消えてしまいますが、瞬間的とはいえ『複製』できるのは非常に有意義でしょう。

剣士にとって一番恐ろしいのは『剣』を失う事です。
武器の無い剣士は剣士に非ず、件のハイオーガを相手にするなど到底不可能であり、その先にあるのは『死』です。
特に私の武器である刀は軍より頂いた大切な品物ですので、簡単に壊される訳にはいきません。

刀を抜いて眼前に構えます。
そしてオーラで刀の複製を試みます。
オーラを刀に流して形状を把握し、オーラの感触を頼りに全く同じ物を出現させます。

「おぉ・・・できました」

思わず感嘆の声が漏れます。
刀を構える右手のすぐ横に、空中に浮かぶ1本の刀が出現しました。
形状を細部まで再現しようと念じれば、細部も瞬時に描かれていきます。

出現させた刀の刃を対面でこちらに向け、私は手に持っている刀の刃を合わせてみました。
金属同士が重なり合う高音が響きました。

「素晴らしい出来です」

出現させた刀を手に取り、近くにある直径30cmほどの木を切りつけると、簡単に両断する事ができました。
切れ味はオーラで強化した刀と同等のものであるようです。
素晴らしい結果に満足です。
あとはこれを何度も繰り返し、いちいち本物の刀の形状を把握しなくても瞬時に複製できるように、この技術を高めていくとしましょう。




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