上 下
3 / 5

3.東条さん

しおりを挟む
東条ゆい。私の友達。

動きやすい服が好き。部活は陸上部。

時々、言い回しが古い時がある。

高校二年生の初夏に、本人曰くグレたのが黒歴史。
申し訳ないけど、グレたって言い方とか自分で言ってしまうところはかわいいと思う。



「あれ、ひなの弁当、なんかめちゃくちゃデカいエビフライ乗ってない?」
「西尾くんがくれたんだよ。さっき手伝ってくれたお礼にって」
「ああー、そういやなんか手伝ってたね」
「食べる?あーんしてあげるよ」
「いやいいわ。どっちも遠慮しておくわ」
「……」
「あれ、アオバちゃん食べたかった?」
「あ、いや、尊いものを見られたなって。ありがとうございます」
「……?よく分からないけど、どういたしまして?」

お昼休み、私たちは仲の良い3人でご飯を食べていた。
アオバちゃんは二年生になってから仲良くなった子で、作家を目指してるからなのかたまに難しいことを言う。

「にしても付き合い良いよね、あんたも」
「そう?西尾くんの方がよく手伝ってると思うけど」
「それはそうだけどさ、あんたは自主的にやってるじゃん」
「西尾くんのことが好きとかでは?」
「それはないかなー」
「ですよねえ」

別に、困っている人は全員助けたいとか言うつもりはないけれど。
友達の力になれるならなりたい、それくらいの気持ちだ。

「じゃあ南雲は?あいつ、ひなのことよく美しいって言ってるじゃん」
「南雲くんって、結構誰にでも美しいって言ってませんか?」
「いや、あいつ他の人には何処が美しいって言うんだけど、ひなにはただ単に美しいって言ってるんだよね」
「ほうほう、それは面白そうな。ぜひともひなさんの意見が聞きたいですね」
「あはは、ないない」
「一笑に付しましたね……」
「南雲くんはお友達かなー。それに南雲くんも私のことお友達だと思ってるだろうし」
「そうなのかね、結構な特別扱いだと思うけど」
「そうですよ、もし告白されたらどうするんですか」
「うーん……お断りするかなあ。誰にでも美しいって言っちゃう人はちょっとね」

というか南雲くんが私のことを好きな前提で話を進めているが、そんなことは全然ないと思う。
勝手に話を進めて勝手に振ってごめんね、南雲くん。

「なーんだ、残念です」
「創作のネタになりそうにないからって露骨にガッカリしたな」
「だって恋愛ものは王道中の王道じゃないですかー」
「自分で恋愛したらいいじゃない」
「わたし、興味ありませんし。だから人の話が聞きたいんですよ」
「……あたしにもし恋人ができても、アオバには言わないわー」
「あはは、私も」
「えー、ひどーい」

女子高生だというのに華のない会話だが、現実はそんなものだろう。私たちはこれが楽しいのだから問題ない。

「あ、じゃあゆいさんはどうなんですか?最近わたしから恋愛小説借りてますよね」
「え、ゆいちゃんが?」
「ゆいちゃんが、ってどういう意味だ、ひな」
「ごめんごめん、ぐりぐりしないでー」
「尊い……」

またアオバちゃんが変なこと言っている。

「あたしだってそういう作品が読みたい時くらいあるよ」
「まあ小説で読みたいのと実際にしたいかは別ですよね、分かります」
「じゃあゆいちゃんも恋愛には興味ない感じ?」
「興味ないとは言わないけど……。いややっぱこの話はやめよう、アオバの視線がウザい」
「ひどい!」



────────。



恋がよく分からない。恋って何だろう、友達よりも大好きな人に抱くものなのかな。

でも私にも普通の友達より大好きな人は何人か居るけど、その誰とも恋人になりたいわけじゃないと思う。



南雲くんや西尾くんに恋人ができたところを想像する。

うん、心の底から祝福すると思う。そういう確信がある。

ゆいちゃんやアオバちゃんに恋人ができたところを想像する。

こっちも心の底から祝福できると思う。

でもこの四人は私の大好きな人たちなのだ。他にも友達は居るけれど、その人たちよりも。
だからこれを恋と呼ぶのなら、私は四人に恋をしていることになってしまう。



「うーん」
「北添さん、大丈夫?」
「え、わっ、南雲くん」
「驚かせてごめんね、手が止まっていたから。彫刻中にボーっとしてると、危ないよ」
「そうだね、ごめんごめん」
「ううん、ケガしなくて良かった。何か悩み事?」
「悩み事、というか。うーん」

異性に聞くのはちょっと、いや結構恥ずかしいことなんだけど。
でも南雲くんならこういう話題に明るいかもしれない。モテそうだし。

「南雲くんって、誰かと付き合ったりしたことってある?」
「ぼく?ないよ、一度もない」
「そうなんだ、ちょっと意外かも」
「そうかな、ぼくには相応しいと思うけど」
「相応しい?」

「みんなはちゃんと、美しいものを持っている。ぼくにはそれが無いから」

南雲くんの方を見ると、手を止めていて。
その表情はなんだか寂しそうな、羨んでいるような気がした。



「南雲くんは、美しいよ」
「……ありがとう、北添さん」

違う。違うんだよ、南雲くん。
多分その顔は、私の言いたいことがちゃんと伝わっていない。
この感覚的なことを、そのまま南雲くんの中に送り込むことが出来たらいいのに。



南雲くんだって、自分自身を誇っていいんだよって。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秘密基地には妖精がいる。

塵芥ゴミ
青春
これは僕が体験したとある夏休みの話。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

ゆめまち日記

三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。 一般的にそれを――秘密という―― ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。 二つの名前に縛られる者。 過去に後悔した者 とある噂の真相を待ち続ける者。 秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。 『日記』シリーズ第一作!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

幼馴染みに告白されたけど断ったって話

家紋武範
青春
失恋したイケメン柊斗は失意の中だったが、彼を幼い頃より思い続けていたものがいた。 幼馴染みのニコル。いつもニコニコしている彼女だが、柊斗は面食いのため、恋人にはできなかった。 ※この作品は「大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話」の続編ですが単独でもお楽しみ頂けます。

処理中です...