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2.西尾くん
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西尾しょうた。南雲くんの友達。
甘いものが好き。趣味は料理。
料理を作るのも好きだけど、作ってもらう方がもっと好き。だけどそんな関係の子ができたことはないみたい。
目つきがキツくて誤解されがちだけど、実はとっても愉快な人。
「ありがとう北添さん、手伝ってくれて」
「大丈夫だよ、これくらい」
「オレ、生徒にノート運ぶの手伝わせる先生なんて漫画の世界だけだと思ってたよ」
「あはは、西尾くんいつも頼まれてるよね」
「1番前の席だからだよ、酷い話だ」
「おーい、西尾ー。聞こえてるぞー」
「せんせーに聞こえるように言ってまーす」
「あはは……」
3人でノートを職員室に運んでいる最中のやり取り。西尾くんは先生相手でも物怖じしない。
「両手に花で嬉しいだろー?」
「片方の花、枯れてますよ」
「誰が枯れた花だ!まだ20代だよ!」
「……」
「北添ー?笑い堪えてるの見えてるからな」
「す、すいません」
「せんせー、若い子を妬むのはどうかと思います」
「お前な……礼にいつも購買でなんか買ってやってるだろ、やめるか?」
「せんせー大好き、いよっ、美人さん!」
「あはははは!」
「北添、笑いすぎだぞ」
西尾くんの周りはいつも、こんな感じに賑やかだ。私のツボが浅いのもあるけど、ボケの才能があると思う。
ちゃんとラインは超えないように気を付けているところとか、相手をちゃんと選んでいるところとかもあって、しっかりしてるし。
でもそんな西尾くんも、南雲くんの前だとツッコミにならざるを得ないのだから面白い。
「ほい、ふたりともありがとな。で、続けざまに悪いんだがふたりには聞きたいことがあるんだよ」
「何ですか、オレ達何も悪いことしてませんよ」
「悪いことしてないんだから悪いことしたやつみたいなセリフを言うな。せんせーが聞きたいのは南雲のことだよ」
「南雲くんですか?」
「そう。クラスで浮いてたりしないか?」
「男子の中では特にそういう感じはないですね。友達が多いわけじゃないけど、居ないわけでもないですし」
「女子の中でも大丈夫だと思います。あんまり南雲くんのこと知らないって子にも、美しいの人って愛称で呼ばれてますよ」
「それはそれで浮いてる気もするが……、まあそれなら良いんだ」
先生は話はこれで終わりって感じに締めたけど、急にどうしたんだろう。この間の三者面談で何かあったのだろうかと、勘繰ってしまう。
「もしかして、あいつの自己肯定感が低いのが気になる、とかですか」
「……本人から聞いたのか?」
「いえ。でもあいつが自分のことを美しいって言ってるところ、見たことないんで」
「そうだな、自己肯定感が低いっていうより、自己評価が正し過ぎるんだよ」
「……それって良いことなんじゃないですか?」
「大人なら、な。でもお前たちはまだまだ子供だ、子供の自己評価なんて理由もなく過大評価だったり過小評価だったりするもんなんだよ」
「……」
今の話だと、南雲くんが大人びているってだけの話に聞こえたけれど。
それの一体何が悪いんだろう。
「あーすまん、お前たちに話す内容じゃなかったな。まあアレだ、子供の頃から大人になり過ぎると苦労するってことだ」
「よく分かんないんですけど」
「気にすんな、そのままで良い。一年生の頃に南雲が孤立しなかったのはお前たちのお陰だ、もっとお礼を言われても良いくらいだぞ」
「南雲くん、大丈夫なんですか?」
「……南雲は本当に良い友達を持ったな。大丈夫、そのためにせんせーが居るんだ。教師ってのは教え子守るために給料もらってるんだよ」
「教師が給料とか言っちゃうの、どうかと思います」
「時代ってのは変わっていくもんなの。せんせーは最先端ってわけ」
今度こそ話は終わりだと言われ、私と西尾くんは職員室から退室した。
「北添さん、先生の言ってること分かった?」
「いや、あんまり……」
「そっか、オレも」
「でも頼もしかったね」
「……うん、普段はすごい気怠げなのにね」
多分先生は私たちが想像も付かないところに配慮して、気遣って、見守ってくれているんだろう。
だからそれが何か分からない私にできることはないのかもしれないけれど。
「私たちも何か、南雲くんの力になれたら良いね」
「北添さんは大丈夫じゃない?あいつ、北添さん見るだけで美しいって言うし」
「……えっ、気付いてたの!?」
「え、逆に何で気付かれてないと思ってたの」
「もしかして、ゆいちゃんも?」
「東条さん?気付いてると思うよ」
「……」
そっか、みんなの前で言ってるもんね、そりゃそうか。今まで、私は気付いてる、とかドヤ顔してた自分が恥ずかしい。
これがさっき先生の言ってた自己の過大評価ってやつか。
「えっと、その反応はもしかして、北添さんってそういうこと?」
「あっ、ううん、別に恋愛的な意味で南雲くんが好きってわけじゃないよ」
「そ、そっか、ごめんごめん。オレから見てもそうは見えなかったけど、一応ね」
「あはは、一応ね」
甘いものが好き。趣味は料理。
料理を作るのも好きだけど、作ってもらう方がもっと好き。だけどそんな関係の子ができたことはないみたい。
目つきがキツくて誤解されがちだけど、実はとっても愉快な人。
「ありがとう北添さん、手伝ってくれて」
「大丈夫だよ、これくらい」
「オレ、生徒にノート運ぶの手伝わせる先生なんて漫画の世界だけだと思ってたよ」
「あはは、西尾くんいつも頼まれてるよね」
「1番前の席だからだよ、酷い話だ」
「おーい、西尾ー。聞こえてるぞー」
「せんせーに聞こえるように言ってまーす」
「あはは……」
3人でノートを職員室に運んでいる最中のやり取り。西尾くんは先生相手でも物怖じしない。
「両手に花で嬉しいだろー?」
「片方の花、枯れてますよ」
「誰が枯れた花だ!まだ20代だよ!」
「……」
「北添ー?笑い堪えてるの見えてるからな」
「す、すいません」
「せんせー、若い子を妬むのはどうかと思います」
「お前な……礼にいつも購買でなんか買ってやってるだろ、やめるか?」
「せんせー大好き、いよっ、美人さん!」
「あはははは!」
「北添、笑いすぎだぞ」
西尾くんの周りはいつも、こんな感じに賑やかだ。私のツボが浅いのもあるけど、ボケの才能があると思う。
ちゃんとラインは超えないように気を付けているところとか、相手をちゃんと選んでいるところとかもあって、しっかりしてるし。
でもそんな西尾くんも、南雲くんの前だとツッコミにならざるを得ないのだから面白い。
「ほい、ふたりともありがとな。で、続けざまに悪いんだがふたりには聞きたいことがあるんだよ」
「何ですか、オレ達何も悪いことしてませんよ」
「悪いことしてないんだから悪いことしたやつみたいなセリフを言うな。せんせーが聞きたいのは南雲のことだよ」
「南雲くんですか?」
「そう。クラスで浮いてたりしないか?」
「男子の中では特にそういう感じはないですね。友達が多いわけじゃないけど、居ないわけでもないですし」
「女子の中でも大丈夫だと思います。あんまり南雲くんのこと知らないって子にも、美しいの人って愛称で呼ばれてますよ」
「それはそれで浮いてる気もするが……、まあそれなら良いんだ」
先生は話はこれで終わりって感じに締めたけど、急にどうしたんだろう。この間の三者面談で何かあったのだろうかと、勘繰ってしまう。
「もしかして、あいつの自己肯定感が低いのが気になる、とかですか」
「……本人から聞いたのか?」
「いえ。でもあいつが自分のことを美しいって言ってるところ、見たことないんで」
「そうだな、自己肯定感が低いっていうより、自己評価が正し過ぎるんだよ」
「……それって良いことなんじゃないですか?」
「大人なら、な。でもお前たちはまだまだ子供だ、子供の自己評価なんて理由もなく過大評価だったり過小評価だったりするもんなんだよ」
「……」
今の話だと、南雲くんが大人びているってだけの話に聞こえたけれど。
それの一体何が悪いんだろう。
「あーすまん、お前たちに話す内容じゃなかったな。まあアレだ、子供の頃から大人になり過ぎると苦労するってことだ」
「よく分かんないんですけど」
「気にすんな、そのままで良い。一年生の頃に南雲が孤立しなかったのはお前たちのお陰だ、もっとお礼を言われても良いくらいだぞ」
「南雲くん、大丈夫なんですか?」
「……南雲は本当に良い友達を持ったな。大丈夫、そのためにせんせーが居るんだ。教師ってのは教え子守るために給料もらってるんだよ」
「教師が給料とか言っちゃうの、どうかと思います」
「時代ってのは変わっていくもんなの。せんせーは最先端ってわけ」
今度こそ話は終わりだと言われ、私と西尾くんは職員室から退室した。
「北添さん、先生の言ってること分かった?」
「いや、あんまり……」
「そっか、オレも」
「でも頼もしかったね」
「……うん、普段はすごい気怠げなのにね」
多分先生は私たちが想像も付かないところに配慮して、気遣って、見守ってくれているんだろう。
だからそれが何か分からない私にできることはないのかもしれないけれど。
「私たちも何か、南雲くんの力になれたら良いね」
「北添さんは大丈夫じゃない?あいつ、北添さん見るだけで美しいって言うし」
「……えっ、気付いてたの!?」
「え、逆に何で気付かれてないと思ってたの」
「もしかして、ゆいちゃんも?」
「東条さん?気付いてると思うよ」
「……」
そっか、みんなの前で言ってるもんね、そりゃそうか。今まで、私は気付いてる、とかドヤ顔してた自分が恥ずかしい。
これがさっき先生の言ってた自己の過大評価ってやつか。
「えっと、その反応はもしかして、北添さんってそういうこと?」
「あっ、ううん、別に恋愛的な意味で南雲くんが好きってわけじゃないよ」
「そ、そっか、ごめんごめん。オレから見てもそうは見えなかったけど、一応ね」
「あはは、一応ね」
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