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1.南雲くん

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南雲ひろと。私の隣の席の男の子。

美しいものが好き。でも美術は苦手。

私のクラスで誰か1人思い浮かべてと言われたら、多分1番多く名前があがる人。

それはみんなに好かれているからとか、嫌われているからとかではなく。
勉強ができるからとか、スポーツができるからとかでもなく。

「あ、おはよう、南雲くん」
「おはよう、北添さん」






「今日も美しいね」






いわゆる"変わった人"だから。



「あはは、ありがとう。今日は美術あるけど、デザインは考えてきた?」
「ありきたりな形だけど、一応ね。見た通りに描くことならできるんだけど、デザインまで自分で考えるっていうのは、ぼくはやっぱり苦手だな」

軽く流して、今日の授業について話す。
そう、さっきの発言は今に始まったことではない。

「おはよー、ひな!南雲!」
「おはよう、東条さん」
「おはよう、ゆいちゃん。今日も朝練?」
「今日は軽く走ってきただけだよ」
「昨日もそう言ってたの覚えてるよ」
「そうそう、毎日部活に真面目に打ち込んでるんだから、もっと自信を持って良いよ」

「東条さんのその心構え、美しいんだから」
「おー、ありがと」

そう、さっきの発言は私だけに送られるものでもない。



南雲くんは、人に"美しい"と言うことに対して抵抗がないのだ。



本人曰く、本当に美しいと思ったものにだけ言っているとのことで、確かに四六時中言っているわけではない。
ただ本人がそう思えば相手が誰であろうと、男女関係なく、時には先生にさえ美しいと発言している。
今でこそみんな慣れているが、初めは度肝を抜かれたものだ。

始まりは去年、高校一年生の春。
私と彼は一年生の頃からクラスメイトだった。

仲良くなったキッカケは、授業で4人グループを組む際に同じグループになったから。
その4人グループは二年生になった今でも同じクラスで仲良くしている。アオバちゃん曰く、東西南北グループ。
閑話休題。

そして私たちがよく話すようになって、ある日4人で一緒にお昼ご飯を食べ始めようとした時のこと。

「北添さんのお弁当、美しいね」

後日、お母さんの努力の賜物が感じられたから、という意味だったと知るのだが。
それはもうビックリした。突然すぎて言葉が出なかった。
幸い他のふたりがツッコミをしてくれたお陰でその場はお笑いになった。というか、それが私たちの定番ネタみたいになった。

南雲くんが私たち三人の誰かに対して、何々が美しいと言って、私が困ったように笑って、ふたりがツッコミを入れる。

そんなこともあってか、別に南雲くんはクラスで浮いたりはしてなかった。むしろ自己肯定感が上がるからと、ほんの一部の人から人気があった。
先生に対して美しいと言った時は、先生が「おいおいナンパかー?」なんて言って、クラスが爆笑に包まれた。

そして現在。
私も南雲くんも友達が増えて、それぞれ女子グループ、男子グループで集まっていることが多くなった。
それでも同じクラスだったから、会えば話すしたまに4人で集まることもある。

二年生になっても南雲くんは相変わらずだった。友達に美しいと言って、友達からツッコミを受ける。

でも、一年生の頃から友達だった私はとあることに気付いたのだ。

南雲くんは必ず、何が美しい、何処が美しいと言う。
それは作品だったり、人の努力する姿などといった内面的なものであったり。
人の外見的なものに対して言ってるところはまだ見たことがないけれど。
とにかく自分が美しいと感じたものを必ず述べる。



でも私が知る限りでは。
何故か私にだけ、ただ"美しいね"と言うだけなのだ。



まあ、だからといって南雲くんは私のことが好きなんじゃないか、と思ったりはしないけど。
だって別に言う時のテンションは他と変わらないし。
好きになってもらえるような理由もキッカケもないし。
仲がいいのは4人グループのゆいちゃんも同じだし、ゆいちゃんの方がかわいくて良い子だし。

だけど勉強もスポーツも目立って得意分野がない私が、些細なことでも誰かの特別だというのは自信がついてありがたかった。

念のため言っておくと、私も南雲くんのことが好きというわけではない。いや、友達としては好きだけど。
そう、これは友達としての感情。恋はしたことがないからどんなものか分からないけど、ゆいちゃんやアオバちゃん、西尾くんに抱くものと同じ。

友達。恋人ではない。だけど特別。
私はそんな居心地の良い距離感に浸かっていた。

それと、気付いたことはもう一つある。これは4人グループの、他のふたりとも共有している情報なのだが。

──南雲くんは決して、自分のことを"美しい"とは言わないのだ。
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