非実在系弟がいる休暇

あるふれん

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姉弟

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「ただいまー」

返事はない。

「弟くーん?」

静寂。

「……」

そうだ、自分で言ったじゃないか。
主人公を変えるキッカケとなる存在。それは逆にいえば、主人公が成長したらお役御免なのだ。
だからその後消えるのは何ら不思議じゃない。それが王道ってやつだ。

「神さまも、ベッドを消すくらいのサービスしてくれたっていいのに」

一緒に買ったベッドも、服も、日用品も、すべて残ったままだ。こういう痕跡も全部跡形もなく消えるのが王道だというのに。
これじゃあ寂しさが増すだけ……いや、弟くんは今でもわたしの頭の中にいる。けど、だけど、今だけは。



「ただいまー」
「えっ」
「あ、姉さん帰ってきてたんだ。おかえり」
「あっ、うん、ただいま」

え?いや、え?
居る。普通に居る。何事もなかったように帰ってきた。

「……?どうしたの、姉さん」

どうしたのもなにも、さっきまで泣きそうになってたんだが?大泣きする直前だったが?

「ど、どこ行ってたの」
「ああ、ケーキ買ってきたんだよ。結構並んでてさ、でも良いとこのケーキ」
「なんで?」
「姉さんの成長記念」

脳の処理が追い付いていないのだが、弟くんは気にせずケーキを食べる準備をする。
……というかケーキ、デカくない?ホールで買ってきたの?

「はい、姉さんの分」
「あ、ありがと」
「どうしたの?やっぱり変だよ」
「いや、だって、弟くん、消えたかと思って」
「なに言ってるの、姉さん。人が消えるわけないじゃん」

……ええー?なんかこの間意味深なこと言ってたじゃん。なのに何その至って普通の反応。納得いかない……。

「姉さん、食べないの?」
「……弟くんに、あーんして欲しい」
「しょうがないなあ。……はい、あーん」
「あーん」

口元に運ばれたケーキを食べる。うん、ケーキの味するわ、夢じゃないわ。

「美味しい?」
「美味しいよ。ありがとね」
「どういたしまして」

正直、まだ理解が追い付いてないが。

「ね、また一緒にアニメでも見ない?」
「いいね、この間の続き見よっか」

わたし達の日常はまだまだ続く、ということなのだろう。



<了>
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