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白の章

白三十三話

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  シエララントの王城に吟遊詩人バニラが訪れた。エーデルはこの女性の騎士をもてなすのは初めてであった。
 バニラは王の間に上がり、王とエーデルの前で人懐こく、しかし礼儀を弁えた笑顔で口上を述べた。
「スウェルトから参りましたバニラと申します。今夜は一夜の宿をお願いしたく参りました」
 スターチス王は珍しい来客を明るくもてなした。
「よく来ました、バニラ。食事の後に、ゆっくり話を聞かせて下さい」
「歓迎の言葉、ありがたく頂戴致します」
 バニラは城の召使いに客人の部屋へ案内された。
 スターチス王はバニラが去ると、エーデルに客人を紹介した。
「エーデル、バニラは蘭族の旅人なのですよ。西大陸の噂話や事件の話などを語ってくれるのです」
「裏表の無さそうな方でしたね。スウェルトから来たということは、デンファーレ王の話などをされるということですか?」
「きっと、惚気話を持ってきたのでしょう」

 バニラは王から夕食に招待され、西大陸の旅で得た話を語った。デンファーレ王とアキレスの結婚は西大陸の間でも祝福されているという話だった。夕食が終わると、バニラはハープを爪弾き、歌を歌った。

「王女の元に恋が届きました。
 それは馬上試合のことでした。
 かの者は形見を贈って思慕を伝えました。
 王女はかの者と馬上試合で会ううちに
 仲を深めました。

 王女は硬骨、かの者は冷徹、
 王女とかの者は正反対のようでした。
 しかし不思議と距離は近付きました。
 王女とかの者は誓いました。
 お互い変えようとはしないことを。
 その約束は二人の仲を温めました。

 かの者は王女に王家の花を贈りました。
 それを合図に二人は絆を結びました。
 周りの者は冷徹なかの者が変わることを
 望む者もありました。
 しかし王女は約束を守り、かの者のそばを離れないことを誓ったのでした。

 ご清聴ありがとうございました」
 バニラはにこりと笑顔で聞き手を見た。エーデルにはピンとこなかった。アキレスのことは以前から知っていた。同じ馬上試合に参加することもあった。とても強くよく女傑として並べて語られることもあった。
 しかしこの詩の通りだと、複雑な事情を受け入れる深い愛情で結ばれているということだった。
 エーデルはバニラにお礼を言った。
「ありがとうございます、バニラ。デンファーレ王とアキレスは仲が良いのですね」
「そのようでございます」
 バニラは茶目っ気のある声音で答えた。
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