The Chess 番外編 王様の結婚篇

白の章

白二十九話

　夏の夜、エーデルがスターチス王の部屋を下がった後のことだった。スターチス王は寝台に座り本を読んでいた。眠気はまだ訪れず、時間が余っていた。本のタイトルは『西大陸の魔法アイテム工房の町とその歴史』。町で作った代表的な魔法アイテムがカラフルな図で現され、歴史が記されていた。
　夜も遅くなった頃、少し開けた窓辺から伝書鳩が入ってきて、窓辺の椅子に止まった。スターチス王はこの時間に来る知らせにあてはなく、怪訝に思った。鳩は静かにしており、急ぎの用事ではないようだった。スターチス王は伝書鳩を手に乗せ、用件を聞いた。エーデルからだった。窓の外を見て欲しいとの事だった。スターチス王は窓から外を眺めた。月が明るく、空に虹が架かっていた。夜の虹は珍しく、幸運を呼ぶと言われていた。スターチス王はしばらく見つめていた。虹が消えかかった時、部屋に残っていた伝書鳩を再び手にし、伝言を託した。鳩は元のエーデルの部屋へ戻った。伝書鳩はすぐ王の部屋に戻ってきた。言伝は夜の挨拶だった。
　スターチス王はそのまま部屋の灯りを消して眠りに就いた。