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白の章
白二十八話
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ある夏の夜のことだった。スターチス王はエーデルを遠出に誘った。
「今日は新月の夜です。珍しい祭りが開かれるのですが、まだエーデルに見せていないですよね。一緒に見に行きませんか?」
「夜のお祭りなんですね。どんなお祭りですか?」
「ダンスパーティーです。子どもの頃からよく見に行っていました。ペガサスで少し飛んだ所にある森の中で開かれるのですが、後は行ってみてから教えましょう」
エーデルは誘いに乗った。
「分かりました。お祭りを見るのは故郷にいた頃から好きでしたよ。楽しみですね」
スターチス王とエーデルはペガサスに乗り、夜の空を駆けた。空気は暖かかった。ランタンの光を頼りに森の上を渡った。
城から離れて少しした所に、森の中で切り開かれた広場があった。そこには温かい光が灯り、人が集まっていた。スターチス王とエーデルは森の中へ入り、広場の手前で馬から下りた。明るい音楽が訪問客を迎えた。スターチス王は広場に入らず立ち止まった。エーデルは木々の間から広場を眺めた。人が集まりダンスをしているように見えた。二人一組になり、音楽に合わせて回っていた。しかしよく見ると、人々は髪に葉を付け、耳が尖り、質素な服装であった。
エーデルは小声で言った。
「ドリヤードのお祭りなのですね」
スターチス王は頷いた。
「この森は古い森で、多くのドリヤードの住処です。夏の夜に祭りを開き、星明かりの下仲間が集まって踊りを楽しむのです」
「お邪魔しても大丈夫なのですか?」
エーデルは心配して尋ねた。昔話に妖精のお祭りを見た者が酷い目に遭う話を知っていた。
「ええ、ただ眺めるだけなんですが、祭りの輪に快く入れてくれます」
スターチス王はそっと広場に足を踏み入れた。近くで踊りを見ていたドリヤードの男性がスターチス王に気付き挨拶をした。
「今年もようこそ。ホロの町のワインを贈ってくれて感謝するよ。ドリヤードはワインが好きだからね。皆祝杯を楽しんでるよ。ゆっくり眺めていってね」
そう言うと、ドリヤードは木の椅子を二脚現した。スターチス王はエーデルと特等席に座った。
音楽は異国の曲のように珍しい舞曲だった。ドリヤードの楽士がヴァイオリンを奏で、木の横笛が踊り手を盛り上げた。太鼓がリズムを刻む。踊り手達は、あちらで回ったかと思えばふっと消えて、反対側に現れた。また、宙に浮かびながら仲良さそうに踊りを紡いでいた。皆美しい者達だった。広場を囲む木々は小さな風に揺れ、歌っているようだった。
小さなボーイがワインを持ってスターチス王とエーデルの元に来た。ボーイは上品に礼をした。
「ワインはいかがかな?」
「ありがとう」
スターチス王は白ワインを受け取り、一つをエーデルに渡した。エーデルは一口飲んでみた。面白い味だった。糖分が甘さを感じ、また香草や薬草が混ざって苦みもあった。
ワインを飲み終えた頃、スターチス王が席を立った。
「そろそろお暇しましょう」
「あら、まだ早いような……。ええ、でもいいでしょう。楽しかったです」
スターチス王はドリヤードの一人に挨拶をした。
「ありがとうございます。今夜は帰ります」
ドリヤードが葉の付いた木の枝を一つ折ってスターチス王に渡した。
「今日のお土産だよ。コップに入れた水にさしたら木が覚えた音楽を歌うよ」
「いつもありがとうございます」
そう言って、スターチス王とエーデルはドリヤード達と別れた。
「美しい者達の祭りだったでしょう?」
王城に戻ったエーデルは、スターチス王の部屋でお茶を飲みながら余韻に浸った。
「そうですね。夢のような儚さのある一時でしたね」
「まだ眠るには時間があります。お土産の音楽をかけてもいいですか?」
「ええ、楽しみですね」
スターチス王は暖炉の上にいつも置いている花瓶に、水瓶から水を注いだ。そしてドリヤードがお土産に渡した木の枝を飾った。葉が小さく揺れ、枝が震え、水の波紋が音楽になって流れてきた。穏やかな曲だった。
「この枝の魔法は一夜限りです。いつもお祭りの後に頂きました」
エーデルは祭りの名残に浸った。
「一緒に踊りませんか、エーデル?」
スターチス王はエーデルに手を差し伸べた。
「あら、ここでですか?」
「いつもお祭りの踊りには王が入って邪魔をしてはいけないと思い私は遠慮していました。でもいつか私も一緒に踊る相手ができたら踊ってみたいと思っていました。ここでお付き合い願えませんか、エーデル?」
エーデルはにこりと微笑んだ。
「そんなことを思ってらしたのですね。分かりました。お相手お願いします」
エーデルは上品に一礼した。王と女王は踊った。静かに、互いの心を労るように。
音楽は夜更けまで続いた。
「今日は新月の夜です。珍しい祭りが開かれるのですが、まだエーデルに見せていないですよね。一緒に見に行きませんか?」
「夜のお祭りなんですね。どんなお祭りですか?」
「ダンスパーティーです。子どもの頃からよく見に行っていました。ペガサスで少し飛んだ所にある森の中で開かれるのですが、後は行ってみてから教えましょう」
エーデルは誘いに乗った。
「分かりました。お祭りを見るのは故郷にいた頃から好きでしたよ。楽しみですね」
スターチス王とエーデルはペガサスに乗り、夜の空を駆けた。空気は暖かかった。ランタンの光を頼りに森の上を渡った。
城から離れて少しした所に、森の中で切り開かれた広場があった。そこには温かい光が灯り、人が集まっていた。スターチス王とエーデルは森の中へ入り、広場の手前で馬から下りた。明るい音楽が訪問客を迎えた。スターチス王は広場に入らず立ち止まった。エーデルは木々の間から広場を眺めた。人が集まりダンスをしているように見えた。二人一組になり、音楽に合わせて回っていた。しかしよく見ると、人々は髪に葉を付け、耳が尖り、質素な服装であった。
エーデルは小声で言った。
「ドリヤードのお祭りなのですね」
スターチス王は頷いた。
「この森は古い森で、多くのドリヤードの住処です。夏の夜に祭りを開き、星明かりの下仲間が集まって踊りを楽しむのです」
「お邪魔しても大丈夫なのですか?」
エーデルは心配して尋ねた。昔話に妖精のお祭りを見た者が酷い目に遭う話を知っていた。
「ええ、ただ眺めるだけなんですが、祭りの輪に快く入れてくれます」
スターチス王はそっと広場に足を踏み入れた。近くで踊りを見ていたドリヤードの男性がスターチス王に気付き挨拶をした。
「今年もようこそ。ホロの町のワインを贈ってくれて感謝するよ。ドリヤードはワインが好きだからね。皆祝杯を楽しんでるよ。ゆっくり眺めていってね」
そう言うと、ドリヤードは木の椅子を二脚現した。スターチス王はエーデルと特等席に座った。
音楽は異国の曲のように珍しい舞曲だった。ドリヤードの楽士がヴァイオリンを奏で、木の横笛が踊り手を盛り上げた。太鼓がリズムを刻む。踊り手達は、あちらで回ったかと思えばふっと消えて、反対側に現れた。また、宙に浮かびながら仲良さそうに踊りを紡いでいた。皆美しい者達だった。広場を囲む木々は小さな風に揺れ、歌っているようだった。
小さなボーイがワインを持ってスターチス王とエーデルの元に来た。ボーイは上品に礼をした。
「ワインはいかがかな?」
「ありがとう」
スターチス王は白ワインを受け取り、一つをエーデルに渡した。エーデルは一口飲んでみた。面白い味だった。糖分が甘さを感じ、また香草や薬草が混ざって苦みもあった。
ワインを飲み終えた頃、スターチス王が席を立った。
「そろそろお暇しましょう」
「あら、まだ早いような……。ええ、でもいいでしょう。楽しかったです」
スターチス王はドリヤードの一人に挨拶をした。
「ありがとうございます。今夜は帰ります」
ドリヤードが葉の付いた木の枝を一つ折ってスターチス王に渡した。
「今日のお土産だよ。コップに入れた水にさしたら木が覚えた音楽を歌うよ」
「いつもありがとうございます」
そう言って、スターチス王とエーデルはドリヤード達と別れた。
「美しい者達の祭りだったでしょう?」
王城に戻ったエーデルは、スターチス王の部屋でお茶を飲みながら余韻に浸った。
「そうですね。夢のような儚さのある一時でしたね」
「まだ眠るには時間があります。お土産の音楽をかけてもいいですか?」
「ええ、楽しみですね」
スターチス王は暖炉の上にいつも置いている花瓶に、水瓶から水を注いだ。そしてドリヤードがお土産に渡した木の枝を飾った。葉が小さく揺れ、枝が震え、水の波紋が音楽になって流れてきた。穏やかな曲だった。
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「一緒に踊りませんか、エーデル?」
スターチス王はエーデルに手を差し伸べた。
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エーデルはにこりと微笑んだ。
「そんなことを思ってらしたのですね。分かりました。お相手お願いします」
エーデルは上品に一礼した。王と女王は踊った。静かに、互いの心を労るように。
音楽は夜更けまで続いた。
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