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白の章
白二十六話 (2/3)【本編ネタバレ有り】
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翌日不思議な旅人リアの話を父王から聞いた。城へは書庫にある本を魔術でスキャニングしていると。王子は本のことに詳しい旅人に興味を持った。少し話したくて、旅人が籠もる書庫にお茶を持って訪ねた。
リアは机に座りながら、新しく城の元へ来た本を開いて何かをしていた。机の上には黒い小さな箱型の機械のようなものが置いてあった。リアは王子に気付くと本を閉じた。
「ありがとうございます。シエララントで頂くマヨルのお茶は美味しいんですよね」
王子も椅子に座り、黒い機械を見た。
「その中に本のデータが入っているのですか?」
どういう仕組みか分からなかったが、王子は直感的に推察した。リアは頷いた。
「はい。これが僕の書庫です。これを定期的に塔の町へ持っていきます。アーサ王子は本がお好きのようですから、もし良かったら中身を見てみますか?」
「はい。ぜひ」
王子は異界の者の不思議な書庫を楽しみにした。きっと異空間を使ったものなのだろうと予想した。リアは黒い機械を手に持ち、横にあるスイッチを入れた。
王子は迷宮に佇んでいた。王城の書庫とは比にならない数多の書架が遠くまで見渡せ、その書架には色とりどりの本が収まっていた。迷宮の案内人はにこりと笑った。
「これが今まで僕が二千年間集めた本です。西大陸ではない文字の本もありますが、全部読めるものです」
王子は近くにあった本を一つ手に取ってみた。それは北大陸の言葉の本だった。王子は呟いた。
「すごいですね。一人の司書がこれだけ集めたのなら、塔の町は気が遠くなるような広さなのでしょう」
「先ほどの黒いハードディスクが小さかったように、塔の町は角砂糖一個分ほどの大きさしかありません」
王子はよく分からなかったが、異界の技術を使うと現実の本を小さくできるという意味に捉えた。
「面白い稀書はありますか?」
リアは少し歩いた。王子は付いていった。ある所で止まると、リアは一つの本を手に取った。
「どうぞ」
王子は本を渡され表紙を見た。『ドラゴンの冒険』と書いていた。一枚目をめくり、目次をめくり、次のページを開けた。本から大きな翼竜が飛び出した。それは幻影で透き通っていて、書架を潰すことはなかった。ドラゴンは王子の目の前に留まっていた。
「この本はドラゴンに乗って冒険することができます。良かったら少し書架を回ってみませんか?」
「いいですね。でも、どうやってあの高い所にある背に乗るのですか?」
「僕が運びます」
そう言うとリアは続けて
「その本を落とさないように持っていて下さい」
と王子に注意をした。りん、と音がした。次の瞬間、王子はドラゴンの背に座っていた。空間を渡ったようだった。そういえば、この案内人は異界の者なので、空間を渡るのはお手のものだと思い出した。
「不思議ですね。ドラゴンは透き通っているのに私たちは乗れるのですね」
王子は後ろに乗るリアに尋ねた。
「この本は、本を持っている人たちだけ冒険に連れて行くことができます」
ドラゴンは羽ばたいた。書庫には天井はなく、空もなかった。書架の森は果てが無く、この知を全て吸収したら優れた賢者になるだろう、と王子は思った。
大きな本棚があった。そこには大きな本が並んでいた。
「あれは何ですか?」
「あの本は北大陸の巨人の本です。巨人は料理を好み料理書をよく作るので、その本を収めています」
小さな池があった。その中に本が眠っていた。
「あれは?」
王子は好奇心で案内人に聞いた。
「あれは珍しい魚のことが書かれた図鑑です。本の中に魚のデータが入っているので、水の中に保存しなければならないんです」
「変わった本ですね」
「本には魔法がかけられたものも多いので、保管方法も気を付けなくちゃいけないんです」
まだまだ書庫は広かったが、ドラゴンは翻し元の場所へ戻った。リアは王子を連れてドラゴンから降りた。ドラゴンは消えた。
「ありがとうございました、リア」
王子は礼を言った。異空間の冒険を楽しんだようなのを見てリアはにこりと微笑んだ。
「本を大切にする方には、僕はたまに書庫を見せます。スターチス王家の方は、王自ら本を整えていますので、たまに冒険に誘ったりしています」
リアは黒い箱を現し、そのスイッチを切った。元の城の書庫に戻った。王子はこの旅人ともっと話をしたくなった。
「“チェス”ではお世話になると思います、アーサ王子」
リアは机に座り、お茶を一口飲んだ。その様子は休憩を意味していた。王子も椅子に座った。
「二千年前からこの世界にいたのなら、青年王アーサ様にお会いになったこともありますか?」
リアは肩をすくめた。
「はい。一度だけです。リンが去った後、青年王の王宮へ何か便りがないか確認しに行ったことがあります。勘の良い方で、親切にしてもらいました」
「魔術師リン・アーデンを探されているということですが、リン・アーデンは生きているのですか?」
リアは困った顔をした。
「分かりません。でも青年王と約束をしたそうなので、きっとその約束は守ると思います。異界の者は人によっては寿命が長いです。たぶんどこかでうたた寝しながら呑気に暮らしているのだと思います」
「アーサ様の命を狙った暗殺者の女魔術師ルフェはリン・アーデンとも共に旅をしたことがあると聞いたことがあるのですが、どうして仲間になっていたのか分かりません。何か知っていますか?」
王子は理解できない昔話を異界の者に尋ねてみた。ルフェも時間に嫌われし者である。異界の者達には独自のネットワークがあるという話だが、昨日の味方は今日の敵というのも平気なのだろうか。リアはくすりと笑った。
「その頃はリンと一緒に旅をしていました。少しお話してもいいですか?」
「リアのお仕事の邪魔にならなければ、お聞きしたいです」
リアは冒険の話を語った。ある不思議な城から貰った不思議な地図のこと。それは世の果てにある宝物の地図で、それをリアとリン・アーデンが探しに行ったこと。その間に世の果てを探していたルフェも同行したこと。世の果てでは異界の宝物を得たこと。その後はルフェとはつかず離れずの知り合いとなり、情報を得たり、違うクエストでライバルになったりしたこと。
王子は察した。この旅人はリン・アーデンとの旅の時間は長く、その間に恋人として過ごす時間を経ていると。
「どうもありがとうございました、リア」
王子は長い話に礼を言った。
「いいえ。僕の話は長いので、いつも聞いている人が退屈しないかと心配しています」
「そんなことはないです。楽しかったですよ」
王子はにこにこと微笑んだ。
夕方は厨房で働く時間だった。王子は料理の匂いが漂う厨房で、小さなナイフでじゃがいもの皮を剥いていた。西大陸の王は騎士と同じように子どもの頃は城の下働きをさせられる者も多かった。同じ年頃の騎士も城で働いており、後の盟友となる縁をここで育てていた。
「王子もメリルに行ってみたい?」
いつも雑談する同じ年頃の少年が王子に声を掛けた。客人の話していた話だった。噂の王は王位に就いて早々城を空けてメリルまで行った。その話について少年は王子に尋ねた。
「そうですね。メリルにはチェスの強い方がいるという話なので腕試しをしてみたいですね。でも私はもう少し年を取ってから、自由気ままに旅をしてみたいです」
「王子は自分のペースを保つことが上手だね」
少年は感心して言った。
リアは机に座りながら、新しく城の元へ来た本を開いて何かをしていた。机の上には黒い小さな箱型の機械のようなものが置いてあった。リアは王子に気付くと本を閉じた。
「ありがとうございます。シエララントで頂くマヨルのお茶は美味しいんですよね」
王子も椅子に座り、黒い機械を見た。
「その中に本のデータが入っているのですか?」
どういう仕組みか分からなかったが、王子は直感的に推察した。リアは頷いた。
「はい。これが僕の書庫です。これを定期的に塔の町へ持っていきます。アーサ王子は本がお好きのようですから、もし良かったら中身を見てみますか?」
「はい。ぜひ」
王子は異界の者の不思議な書庫を楽しみにした。きっと異空間を使ったものなのだろうと予想した。リアは黒い機械を手に持ち、横にあるスイッチを入れた。
王子は迷宮に佇んでいた。王城の書庫とは比にならない数多の書架が遠くまで見渡せ、その書架には色とりどりの本が収まっていた。迷宮の案内人はにこりと笑った。
「これが今まで僕が二千年間集めた本です。西大陸ではない文字の本もありますが、全部読めるものです」
王子は近くにあった本を一つ手に取ってみた。それは北大陸の言葉の本だった。王子は呟いた。
「すごいですね。一人の司書がこれだけ集めたのなら、塔の町は気が遠くなるような広さなのでしょう」
「先ほどの黒いハードディスクが小さかったように、塔の町は角砂糖一個分ほどの大きさしかありません」
王子はよく分からなかったが、異界の技術を使うと現実の本を小さくできるという意味に捉えた。
「面白い稀書はありますか?」
リアは少し歩いた。王子は付いていった。ある所で止まると、リアは一つの本を手に取った。
「どうぞ」
王子は本を渡され表紙を見た。『ドラゴンの冒険』と書いていた。一枚目をめくり、目次をめくり、次のページを開けた。本から大きな翼竜が飛び出した。それは幻影で透き通っていて、書架を潰すことはなかった。ドラゴンは王子の目の前に留まっていた。
「この本はドラゴンに乗って冒険することができます。良かったら少し書架を回ってみませんか?」
「いいですね。でも、どうやってあの高い所にある背に乗るのですか?」
「僕が運びます」
そう言うとリアは続けて
「その本を落とさないように持っていて下さい」
と王子に注意をした。りん、と音がした。次の瞬間、王子はドラゴンの背に座っていた。空間を渡ったようだった。そういえば、この案内人は異界の者なので、空間を渡るのはお手のものだと思い出した。
「不思議ですね。ドラゴンは透き通っているのに私たちは乗れるのですね」
王子は後ろに乗るリアに尋ねた。
「この本は、本を持っている人たちだけ冒険に連れて行くことができます」
ドラゴンは羽ばたいた。書庫には天井はなく、空もなかった。書架の森は果てが無く、この知を全て吸収したら優れた賢者になるだろう、と王子は思った。
大きな本棚があった。そこには大きな本が並んでいた。
「あれは何ですか?」
「あの本は北大陸の巨人の本です。巨人は料理を好み料理書をよく作るので、その本を収めています」
小さな池があった。その中に本が眠っていた。
「あれは?」
王子は好奇心で案内人に聞いた。
「あれは珍しい魚のことが書かれた図鑑です。本の中に魚のデータが入っているので、水の中に保存しなければならないんです」
「変わった本ですね」
「本には魔法がかけられたものも多いので、保管方法も気を付けなくちゃいけないんです」
まだまだ書庫は広かったが、ドラゴンは翻し元の場所へ戻った。リアは王子を連れてドラゴンから降りた。ドラゴンは消えた。
「ありがとうございました、リア」
王子は礼を言った。異空間の冒険を楽しんだようなのを見てリアはにこりと微笑んだ。
「本を大切にする方には、僕はたまに書庫を見せます。スターチス王家の方は、王自ら本を整えていますので、たまに冒険に誘ったりしています」
リアは黒い箱を現し、そのスイッチを切った。元の城の書庫に戻った。王子はこの旅人ともっと話をしたくなった。
「“チェス”ではお世話になると思います、アーサ王子」
リアは机に座り、お茶を一口飲んだ。その様子は休憩を意味していた。王子も椅子に座った。
「二千年前からこの世界にいたのなら、青年王アーサ様にお会いになったこともありますか?」
リアは肩をすくめた。
「はい。一度だけです。リンが去った後、青年王の王宮へ何か便りがないか確認しに行ったことがあります。勘の良い方で、親切にしてもらいました」
「魔術師リン・アーデンを探されているということですが、リン・アーデンは生きているのですか?」
リアは困った顔をした。
「分かりません。でも青年王と約束をしたそうなので、きっとその約束は守ると思います。異界の者は人によっては寿命が長いです。たぶんどこかでうたた寝しながら呑気に暮らしているのだと思います」
「アーサ様の命を狙った暗殺者の女魔術師ルフェはリン・アーデンとも共に旅をしたことがあると聞いたことがあるのですが、どうして仲間になっていたのか分かりません。何か知っていますか?」
王子は理解できない昔話を異界の者に尋ねてみた。ルフェも時間に嫌われし者である。異界の者達には独自のネットワークがあるという話だが、昨日の味方は今日の敵というのも平気なのだろうか。リアはくすりと笑った。
「その頃はリンと一緒に旅をしていました。少しお話してもいいですか?」
「リアのお仕事の邪魔にならなければ、お聞きしたいです」
リアは冒険の話を語った。ある不思議な城から貰った不思議な地図のこと。それは世の果てにある宝物の地図で、それをリアとリン・アーデンが探しに行ったこと。その間に世の果てを探していたルフェも同行したこと。世の果てでは異界の宝物を得たこと。その後はルフェとはつかず離れずの知り合いとなり、情報を得たり、違うクエストでライバルになったりしたこと。
王子は察した。この旅人はリン・アーデンとの旅の時間は長く、その間に恋人として過ごす時間を経ていると。
「どうもありがとうございました、リア」
王子は長い話に礼を言った。
「いいえ。僕の話は長いので、いつも聞いている人が退屈しないかと心配しています」
「そんなことはないです。楽しかったですよ」
王子はにこにこと微笑んだ。
夕方は厨房で働く時間だった。王子は料理の匂いが漂う厨房で、小さなナイフでじゃがいもの皮を剥いていた。西大陸の王は騎士と同じように子どもの頃は城の下働きをさせられる者も多かった。同じ年頃の騎士も城で働いており、後の盟友となる縁をここで育てていた。
「王子もメリルに行ってみたい?」
いつも雑談する同じ年頃の少年が王子に声を掛けた。客人の話していた話だった。噂の王は王位に就いて早々城を空けてメリルまで行った。その話について少年は王子に尋ねた。
「そうですね。メリルにはチェスの強い方がいるという話なので腕試しをしてみたいですね。でも私はもう少し年を取ってから、自由気ままに旅をしてみたいです」
「王子は自分のペースを保つことが上手だね」
少年は感心して言った。
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