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白の章
白二十四話【本編ネタバレ有り】
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王城の書庫は広かった。この書庫の本は珍しき本を探して訪った旅人に快く貸し与えることもあるという。シエララントの城で建国した最初のスターチス王は歴史の本を大切に扱ったという。その心は子孫に受け継がれ、王は本を読み、歴史に詳しかった。
書庫は涼しく、本たちは安らいでいた。
エーデルはスターチス王と書庫に来ていた。
「ここの本は主に僧侶が自分の研究のために使っています。教会と連携して遠くの町の僧侶へ貸すこともあります。私の国では書庫番は雇っていません。王が好んで書庫の整理をしています。エーデルにも書庫の中を知って欲しいので、今日は一日お付き合い願います」
エーデルは肯った。
「はい、分かりましたよ」
書庫には地図があった。それはどの本がどこにあるかが書かれていた。それを見ながら、エーデルはどんな本があり、どこに置かれているか覚えていった。意外と本の並びがずれていることもあり、エーデルは丁寧に直していった。
とても古い本もあった。しかしどれもなぜか字が薄くなることもなく、しっかりと読めた。その謎をスターチス王は説明した。
「この書庫には、塔の町の司書が時々訪れます。その方は古くなった本を直していってくれます。私がチェスで眠っている間もきっとその方が来るでしょうから、その時は私の代わりにエーデルが書庫の案内をお願いします」
「分かりました。大切なお客様をもてなしましょう」
蔵書整理には時間がかかった。スターチス王は時々本を手に取っては、しばらく読みふけっていた。
「ここの本達は全部読まれたのですか?」
エーデルはふふと笑いながら、スターチス王に尋ねた。スターチス王も微笑んだ。
「いいえ。全部は無理ですね。でも子どもの頃はよく寝る前にここの本を部屋へ持ってきて読んでいたものです。スターチス王家の王は本が好きなようで、私も例外ではないようです」
「こんなに本を集めて大切に管理しているのですから、とても本に愛情があるのですね」
「おかげで希覯本も集まってきます」
スターチス王が読んでいた本をエーデルに見せた。開いてみると、エーデルの目に立体的に花が浮かび上がって見えた。本には、その花の生育地の説明と、花の王家の歴史が載っていた。エーデルは目次に戻り、試しにスターチスを調べてみた。そのページを開くと、色とりどりの萼のスターチスの花が浮かび上がり、その説明が載っていた。生育地は西大陸の浜辺だと書いてあった。
「もともと王家の花は海のそばに咲いていたものだそうです。子どもの頃は、その景色を実際見てみたいと思っていたものでした」
スターチス王は故郷を懐かしむように語った。
「一度ブラッカリヒトに異空間を使って浜辺に咲くスターチスの幻影を見せてもらったことがありました。私が大きな海を見たのはそれだけですね」
スターチス王はエーデルを別の場所に案内した。
「海と言えば、この本も好きでした」
それは他より厚い本だった。何となく普通の本とは違うとエーデルは直感した。エーデルは渡された本を開いてみた。海の描写がされていた。文字がうっすら光っているように見えた。
「その文字を手に触れてみて下さい」
エーデルは言われたとおりにしてみた。するといきなり目の前の風景が真夏の波打ち際になった。静かな波はずっと聞いていたい心地の良いものだった。
「本から手を離すと元に戻りますよ」
耳に直接スターチス王の声がして、エーデルは自分がまだ本を持っていたことに気付いた。エーデルは本のページから手を離した。もとの書庫の風景に戻った。
「これは魔書の一種です。良かったら部屋で読んだらいいですよ」
「こんな本もあったのですね。私は今まで知りませんでしたが、この書庫は宝の宝庫なのですね」
「そうですね。歴代の王は遊び心もあったようです。ぜひエーデルも気に入った本を見つけて下さい」
書庫は涼しく、本たちは安らいでいた。
エーデルはスターチス王と書庫に来ていた。
「ここの本は主に僧侶が自分の研究のために使っています。教会と連携して遠くの町の僧侶へ貸すこともあります。私の国では書庫番は雇っていません。王が好んで書庫の整理をしています。エーデルにも書庫の中を知って欲しいので、今日は一日お付き合い願います」
エーデルは肯った。
「はい、分かりましたよ」
書庫には地図があった。それはどの本がどこにあるかが書かれていた。それを見ながら、エーデルはどんな本があり、どこに置かれているか覚えていった。意外と本の並びがずれていることもあり、エーデルは丁寧に直していった。
とても古い本もあった。しかしどれもなぜか字が薄くなることもなく、しっかりと読めた。その謎をスターチス王は説明した。
「この書庫には、塔の町の司書が時々訪れます。その方は古くなった本を直していってくれます。私がチェスで眠っている間もきっとその方が来るでしょうから、その時は私の代わりにエーデルが書庫の案内をお願いします」
「分かりました。大切なお客様をもてなしましょう」
蔵書整理には時間がかかった。スターチス王は時々本を手に取っては、しばらく読みふけっていた。
「ここの本達は全部読まれたのですか?」
エーデルはふふと笑いながら、スターチス王に尋ねた。スターチス王も微笑んだ。
「いいえ。全部は無理ですね。でも子どもの頃はよく寝る前にここの本を部屋へ持ってきて読んでいたものです。スターチス王家の王は本が好きなようで、私も例外ではないようです」
「こんなに本を集めて大切に管理しているのですから、とても本に愛情があるのですね」
「おかげで希覯本も集まってきます」
スターチス王が読んでいた本をエーデルに見せた。開いてみると、エーデルの目に立体的に花が浮かび上がって見えた。本には、その花の生育地の説明と、花の王家の歴史が載っていた。エーデルは目次に戻り、試しにスターチスを調べてみた。そのページを開くと、色とりどりの萼のスターチスの花が浮かび上がり、その説明が載っていた。生育地は西大陸の浜辺だと書いてあった。
「もともと王家の花は海のそばに咲いていたものだそうです。子どもの頃は、その景色を実際見てみたいと思っていたものでした」
スターチス王は故郷を懐かしむように語った。
「一度ブラッカリヒトに異空間を使って浜辺に咲くスターチスの幻影を見せてもらったことがありました。私が大きな海を見たのはそれだけですね」
スターチス王はエーデルを別の場所に案内した。
「海と言えば、この本も好きでした」
それは他より厚い本だった。何となく普通の本とは違うとエーデルは直感した。エーデルは渡された本を開いてみた。海の描写がされていた。文字がうっすら光っているように見えた。
「その文字を手に触れてみて下さい」
エーデルは言われたとおりにしてみた。するといきなり目の前の風景が真夏の波打ち際になった。静かな波はずっと聞いていたい心地の良いものだった。
「本から手を離すと元に戻りますよ」
耳に直接スターチス王の声がして、エーデルは自分がまだ本を持っていたことに気付いた。エーデルは本のページから手を離した。もとの書庫の風景に戻った。
「これは魔書の一種です。良かったら部屋で読んだらいいですよ」
「こんな本もあったのですね。私は今まで知りませんでしたが、この書庫は宝の宝庫なのですね」
「そうですね。歴代の王は遊び心もあったようです。ぜひエーデルも気に入った本を見つけて下さい」
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