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白の章
白二話
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「エーデル女王陛下万歳」
「エーデル女王陛下万歳」
王城守護魔術師のブリックリヒトとブラッカリヒトが万歳を斉唱した。そこに集まった人達が後に付いて万歳を唱えた。
エーデルは朝起きて、スターチス王と食事を共にした後、王に連れ添われて王の間に行き、城で働く者達が集まっている中で玉座に座った。空気は歓迎一色だった。
「強い女王っていいね」
「頼れる女王っていいね」
ブリックリヒトとブラッカリヒトが他の王城守護魔術師とひそひそと、しかし聞こえる声で囁き合っていた。そこに集まった顔ぶれは、すでに王から紹介されたことのある人達だった。エーデルは挨拶した。
「皆さん、僭越ながら私エーデルがスターチス王のお心により女王を任されました。拙いこともあると思いますが、宜しくお願いします」
拍手が鳴り響いた。その様子にスターチス王も微笑んだ。
「こりゃチェスが楽しみだね」
ブリックリヒトが呟いた。
「今日はお疲れ様でした、エーデル」
スターチス王の執政室での政務が夕方に終わり、夕食を共にした後、寝室で休むまでの間、エーデルは王の部屋で過ごすことにした。何となく、一緒にいたかった。自分にそんな気持ちが芽生えることも不思議だったが、エーデルはその気持ちを育てることにした。スターチス王は使用人にお茶を運ばせ、一つをエーデルに勧めた。
エーデルは窓のそばの椅子に座り、夜風に当たった。何となく、その場所が王城の中で一番居心地の良い場所になるような気がした。
「皆さん強い女王をお望みでしたが、私は政治に携わるのでしょうか?」
エーデルは不思議に思っていることを王に訊いた。スターチス王は答えた。
「政治には内政の他に外交もあります。内政は私がやるつもりですが、外交は一緒に協力してくれたらありがたいです」
「紛争なんてありませんよね?」
「さじ加減は難しいですが、揉め事は私が把握して処理します。西大陸には大小様々な国があるので、おおっぴらには争い事は起きません。均衡が保たれているのです。どの王も今の均衡を崩したいとはなかなか思わないようです。エーデルに戦いの先頭に立たせるようなことは起きないと思います」
エーデルはほっと息を吐いた。
「そうですか。私が戦うのはチェスだけですね」
「もしエーデルがお望みなら、馬上試合に自由に参加して下さって構いません。エーデルの剣技を鈍らせるのは心苦しいです」
「そのうち考えます」
エーデルはお茶を一口飲んだ。
「私は日中何をしていれば宜しいでしょう?」
「今は自由にしていて下さい。おいおい直轄領や同盟都市のことなどを教えたり、顔を見せに行ったりしたいと思います」
「この辺の町は面白い町が多いのでしょう? 見に行ってもいいですか?」
「どうぞ」
エーデルは少し寂しい感じがした。きっと王と一緒に行きたいのだと自分の心を観察した。しかし、いつかはこの心に王が触れるとの予感があり、今は気にしないことにした。
エーデルは何気なく尋ねた。
「子は欲しいですか?」
「いきなりですね」
エーデルは久しぶりに意地悪をしたくなった。
「大事なことでしょう?」
「そうですね。あまりエーデルの枷になることは話したくないのですが、いいのですか?」
「ええ、どうぞ」
「そうですね、私は兄弟がいないので、兄弟を育てたいですね」
「もし女の子が生まれて、その子が隣国のデンファーレ王の子の元へ嫁ぎたいと言ったらどうしますか?」
「それもいいでしょう」
「気にしないのですね」
エーデルは少し意外に思った。チェスでいつも戦う相手なら、少し躊躇するかと思った。しかし王はさっぱりと答えた。
「きっとデンファーレも悪いようにはしないと思いますよ」
「そんなものですか?」
「隣国なので、そんなものです」
エーデルはそろそろお暇しようと思った。スターチス王は一言付け加えた。
「まだ先のことなので、エーデルも気にしないで下さい」
「エーデル女王陛下万歳」
王城守護魔術師のブリックリヒトとブラッカリヒトが万歳を斉唱した。そこに集まった人達が後に付いて万歳を唱えた。
エーデルは朝起きて、スターチス王と食事を共にした後、王に連れ添われて王の間に行き、城で働く者達が集まっている中で玉座に座った。空気は歓迎一色だった。
「強い女王っていいね」
「頼れる女王っていいね」
ブリックリヒトとブラッカリヒトが他の王城守護魔術師とひそひそと、しかし聞こえる声で囁き合っていた。そこに集まった顔ぶれは、すでに王から紹介されたことのある人達だった。エーデルは挨拶した。
「皆さん、僭越ながら私エーデルがスターチス王のお心により女王を任されました。拙いこともあると思いますが、宜しくお願いします」
拍手が鳴り響いた。その様子にスターチス王も微笑んだ。
「こりゃチェスが楽しみだね」
ブリックリヒトが呟いた。
「今日はお疲れ様でした、エーデル」
スターチス王の執政室での政務が夕方に終わり、夕食を共にした後、寝室で休むまでの間、エーデルは王の部屋で過ごすことにした。何となく、一緒にいたかった。自分にそんな気持ちが芽生えることも不思議だったが、エーデルはその気持ちを育てることにした。スターチス王は使用人にお茶を運ばせ、一つをエーデルに勧めた。
エーデルは窓のそばの椅子に座り、夜風に当たった。何となく、その場所が王城の中で一番居心地の良い場所になるような気がした。
「皆さん強い女王をお望みでしたが、私は政治に携わるのでしょうか?」
エーデルは不思議に思っていることを王に訊いた。スターチス王は答えた。
「政治には内政の他に外交もあります。内政は私がやるつもりですが、外交は一緒に協力してくれたらありがたいです」
「紛争なんてありませんよね?」
「さじ加減は難しいですが、揉め事は私が把握して処理します。西大陸には大小様々な国があるので、おおっぴらには争い事は起きません。均衡が保たれているのです。どの王も今の均衡を崩したいとはなかなか思わないようです。エーデルに戦いの先頭に立たせるようなことは起きないと思います」
エーデルはほっと息を吐いた。
「そうですか。私が戦うのはチェスだけですね」
「もしエーデルがお望みなら、馬上試合に自由に参加して下さって構いません。エーデルの剣技を鈍らせるのは心苦しいです」
「そのうち考えます」
エーデルはお茶を一口飲んだ。
「私は日中何をしていれば宜しいでしょう?」
「今は自由にしていて下さい。おいおい直轄領や同盟都市のことなどを教えたり、顔を見せに行ったりしたいと思います」
「この辺の町は面白い町が多いのでしょう? 見に行ってもいいですか?」
「どうぞ」
エーデルは少し寂しい感じがした。きっと王と一緒に行きたいのだと自分の心を観察した。しかし、いつかはこの心に王が触れるとの予感があり、今は気にしないことにした。
エーデルは何気なく尋ねた。
「子は欲しいですか?」
「いきなりですね」
エーデルは久しぶりに意地悪をしたくなった。
「大事なことでしょう?」
「そうですね。あまりエーデルの枷になることは話したくないのですが、いいのですか?」
「ええ、どうぞ」
「そうですね、私は兄弟がいないので、兄弟を育てたいですね」
「もし女の子が生まれて、その子が隣国のデンファーレ王の子の元へ嫁ぎたいと言ったらどうしますか?」
「それもいいでしょう」
「気にしないのですね」
エーデルは少し意外に思った。チェスでいつも戦う相手なら、少し躊躇するかと思った。しかし王はさっぱりと答えた。
「きっとデンファーレも悪いようにはしないと思いますよ」
「そんなものですか?」
「隣国なので、そんなものです」
エーデルはそろそろお暇しようと思った。スターチス王は一言付け加えた。
「まだ先のことなので、エーデルも気にしないで下さい」
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