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赤の章
赤八話
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メリルは西大陸の者だけでなく、褐色肌の中央大陸の者や、瞳の色が薄い北大陸の者や、西大陸とは違う服装をした東大陸の者や、精悍な顔をした南大陸の者など様々な人々が歩いていた。国際色豊かな都市だった。
デンファーレ王は国内の政治を重臣に任せ、アキレスと馬車で西大陸の中央に位置するメリルまで旅をした。途中、宿泊は先に書簡で伝えてあった領主の城に泊まった。城では持てなしを受けて、つつがなく旅の道を進めた。アキレスは王との旅を楽しんだ。
メリルの町は人混みが激しく、色々な髪の色、色々な職業の人が混ざり合っていた。スーツ姿の男性や女性も多かった。裕福そうな人々も多くいた。
町に入り、アキレスが馬車の中で人混みを観察していると、デンファーレ王はアキレスに言った。
「この町ではカトレアの屋敷で旅の足を休めようと思っている。カトレアは西大陸でも指折り数える大きな王家で、メリルに屋敷を持っている。蘭族の者はメリルに来ると、カトレアの屋敷に世話になる。そこで挨拶も済まそう」
「分かった」
アキレスは頷き、馬車は町の郊外へ向かった。
カトレアの屋敷は広く、城のようだった。そこには他にも同じ大きさの邸宅が並ぶ、別荘地だった。
アキレスは中に通されると、品のいい美術品が客人に挨拶するようにエントランスに並び、屋敷の主のセンスの良さを思った。デンファーレ王とアキレスは階段を上り客室に案内された。
「美しい町だな!」
アキレスは部屋に落ち着くと、窓から見渡せる景色に声を上げた。四階の部屋からは、赤い三角屋根が並ぶ町の様子が見渡せた。町は広く、噴水広場を中心に建物が増えていったことが見てとれた。
「広いだろう?」
「そうだな。ここに富が集まるのも分かる」
「この町は大学もあり、王族の子弟も集まる。治安もいいから、様々な王族の者と顔を合わせることもある。夜は酒場へ行くが一緒にチェスの賭けを見てみないか?」
「よし、ここまで来たのだから、私も見てみよう」
デンファーレ王は眼を細めて笑った。
町最大の宿屋は、夜は最大の賭博場となった。上は王族や裕福な商人から、下は賭けを生業とする流れの賭博師まで、雑多な者が集まった。胡乱な者も多く、情報を売る者がそれを聞きに来た宮仕えの者の耳元でささやき、密談を探す者が一晩中店の奥で目を光らせながら客の会話を聴き入っていた。
店の中に肩に鳥を乗せた者がうろうろしていた。
「あれは?」
アキレスは王に聞いた。その者はその場に馴染んだ常連客のようだが、賭けを楽しみに来たのではなさそうだった。
「ああ。あれは新聞の記者だ。あの鳥はここで話された内容を記憶する記者が持つ特殊な鳥だ」
記者はアキレスの視線に気付くと、近寄ってきた。
「ああ。初めまして。アキレス女王陛下ですね。この度はご結婚おめでとうございます」
「私のことを知っているのだな?」
「そりゃ、もちろんです。ウチの新聞でも記事にさせて頂きました」
デンファーレ王が代わりに答えた。
「それは読んだ。好意的に書かれていたと思う」
「今日はお二人でご旅行ですか?」
記者は礼儀正しく、しかし好奇の眼でアキレスを見た。デンファーレ王が答えた。
「婚礼の後の長旅は不思議ではないはずだが」
「そうですね。ゆっくり楽しんでいって下さい」
記者は祝うように挨拶し、その場を去った。
「記者はこういう場所で有名な者に顔を覚えてもらおうとよく声を掛ける。あまり気にするものでもない」
「そうか」
アキレスは何となく、好意的ではない記事を書かれたことがあるようだと思った。
店の中央に来た。鋭い眼つきの黒服の男性が、広いテーブルの前でそこに集まった客人達を眺めまわした。テーブルの上には赤と白の賭け率の棒グラフが立体的な映像となって映し出されていた。赤の方が断然多かった。
客人達はざわめいた。
「今年は賭けにならないね」
「ひっくり返ることないでしょう」
「白はアリスが出るという噂があったけど、あれは何だったんだろうね」
黒服の男性はにやりと笑った。
「さあて皆さん、これはもう白の負けで決まりのようですね。では勝負が決まるのは今週中か、または来週以降か賭けようではありませんか!」
「随分ドライだな」
アキレスは呟いた。辺りは新しい賭けに乗って、テーブルの上にワイングラスに金貨と札を入れて置きあった。新しい賭けの比率が棒グラフになった。結果は半々だった。
「これは頑張っているプレイヤーに対して酷いな」
「皆も分かっている。これは同元に対する祝儀でしかない。普通の賭けでは、この何倍もの金貨が賭けられ盛り上がるのだがな」
「そうか、その方が楽しそうだな」
「私は即位してすぐここに来た。ここの賑わいはよく知っている」
アキレスは王の即位は七才だったことを思い出した。子どもでも堂々としていたのだな、と想像した。アキレスは笑いをかみ殺した。
「ギャンブラーなのだな」
デンファーレ王は国内の政治を重臣に任せ、アキレスと馬車で西大陸の中央に位置するメリルまで旅をした。途中、宿泊は先に書簡で伝えてあった領主の城に泊まった。城では持てなしを受けて、つつがなく旅の道を進めた。アキレスは王との旅を楽しんだ。
メリルの町は人混みが激しく、色々な髪の色、色々な職業の人が混ざり合っていた。スーツ姿の男性や女性も多かった。裕福そうな人々も多くいた。
町に入り、アキレスが馬車の中で人混みを観察していると、デンファーレ王はアキレスに言った。
「この町ではカトレアの屋敷で旅の足を休めようと思っている。カトレアは西大陸でも指折り数える大きな王家で、メリルに屋敷を持っている。蘭族の者はメリルに来ると、カトレアの屋敷に世話になる。そこで挨拶も済まそう」
「分かった」
アキレスは頷き、馬車は町の郊外へ向かった。
カトレアの屋敷は広く、城のようだった。そこには他にも同じ大きさの邸宅が並ぶ、別荘地だった。
アキレスは中に通されると、品のいい美術品が客人に挨拶するようにエントランスに並び、屋敷の主のセンスの良さを思った。デンファーレ王とアキレスは階段を上り客室に案内された。
「美しい町だな!」
アキレスは部屋に落ち着くと、窓から見渡せる景色に声を上げた。四階の部屋からは、赤い三角屋根が並ぶ町の様子が見渡せた。町は広く、噴水広場を中心に建物が増えていったことが見てとれた。
「広いだろう?」
「そうだな。ここに富が集まるのも分かる」
「この町は大学もあり、王族の子弟も集まる。治安もいいから、様々な王族の者と顔を合わせることもある。夜は酒場へ行くが一緒にチェスの賭けを見てみないか?」
「よし、ここまで来たのだから、私も見てみよう」
デンファーレ王は眼を細めて笑った。
町最大の宿屋は、夜は最大の賭博場となった。上は王族や裕福な商人から、下は賭けを生業とする流れの賭博師まで、雑多な者が集まった。胡乱な者も多く、情報を売る者がそれを聞きに来た宮仕えの者の耳元でささやき、密談を探す者が一晩中店の奥で目を光らせながら客の会話を聴き入っていた。
店の中に肩に鳥を乗せた者がうろうろしていた。
「あれは?」
アキレスは王に聞いた。その者はその場に馴染んだ常連客のようだが、賭けを楽しみに来たのではなさそうだった。
「ああ。あれは新聞の記者だ。あの鳥はここで話された内容を記憶する記者が持つ特殊な鳥だ」
記者はアキレスの視線に気付くと、近寄ってきた。
「ああ。初めまして。アキレス女王陛下ですね。この度はご結婚おめでとうございます」
「私のことを知っているのだな?」
「そりゃ、もちろんです。ウチの新聞でも記事にさせて頂きました」
デンファーレ王が代わりに答えた。
「それは読んだ。好意的に書かれていたと思う」
「今日はお二人でご旅行ですか?」
記者は礼儀正しく、しかし好奇の眼でアキレスを見た。デンファーレ王が答えた。
「婚礼の後の長旅は不思議ではないはずだが」
「そうですね。ゆっくり楽しんでいって下さい」
記者は祝うように挨拶し、その場を去った。
「記者はこういう場所で有名な者に顔を覚えてもらおうとよく声を掛ける。あまり気にするものでもない」
「そうか」
アキレスは何となく、好意的ではない記事を書かれたことがあるようだと思った。
店の中央に来た。鋭い眼つきの黒服の男性が、広いテーブルの前でそこに集まった客人達を眺めまわした。テーブルの上には赤と白の賭け率の棒グラフが立体的な映像となって映し出されていた。赤の方が断然多かった。
客人達はざわめいた。
「今年は賭けにならないね」
「ひっくり返ることないでしょう」
「白はアリスが出るという噂があったけど、あれは何だったんだろうね」
黒服の男性はにやりと笑った。
「さあて皆さん、これはもう白の負けで決まりのようですね。では勝負が決まるのは今週中か、または来週以降か賭けようではありませんか!」
「随分ドライだな」
アキレスは呟いた。辺りは新しい賭けに乗って、テーブルの上にワイングラスに金貨と札を入れて置きあった。新しい賭けの比率が棒グラフになった。結果は半々だった。
「これは頑張っているプレイヤーに対して酷いな」
「皆も分かっている。これは同元に対する祝儀でしかない。普通の賭けでは、この何倍もの金貨が賭けられ盛り上がるのだがな」
「そうか、その方が楽しそうだな」
「私は即位してすぐここに来た。ここの賑わいはよく知っている」
アキレスは王の即位は七才だったことを思い出した。子どもでも堂々としていたのだな、と想像した。アキレスは笑いをかみ殺した。
「ギャンブラーなのだな」
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