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ゴブリンが、現代社会で平和に暮らすには
慰霊
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敏久が寝台車の手配を行う。そして、ギイとガアを乗せて、信川村へと運んでいく。
住人達は乗ってきたバスで、寝台車を先導する。それ以外の者はそれぞれの車で、その後を追う。
勢い良く変わる風景とは対象的に、車内はとても静かであった。
それぞれの中に有る、思い出を蘇らせ、ゆっくりと時間が過ぎる。
信川村へと辿り着く頃には、夜が更けていた。
集会場に遺体を安置すると、住人達はそれぞれの家に戻る。
そして、翌日の早朝には、葬儀の準備を始めた。
ほとんどの者達は、瞼の下に隈をつくっている。眠れない夜を過ごしたのだろう。
それもそのはずだ。村にはギイとガアの思い出が詰まっている。ふっと視線をやると、そこにはギイとガアが走り回ってるかの様に幻視する。
それを感じる度に、寂寥感が増す。
皆の作業を行う姿は、さくらの時とは、少し雰囲気が違った。
いつもと違い、周りをウロチョロしている子供達がいた。そのおかげで、重苦しい空気が、晴れた様な気がした。
今回はその子供達がいない。ましてやここ一年で、三回目の葬儀である。
信川村の住人達は、理解している。
全員が、いつ倒れてもおかしくない。いつあの世に行くかわからない。
だから送り、送られる覚悟が出来ている。
しかし、子供が自分達よりも先に逝く事には慣れていない。耐えようもない寂しさが、心を締め付ける。
子供達が村へ訪れる前に戻った様に、住人達は必要最低限の事しか口にしなかった。
作業自体は慣れている。しかも準備は、自衛隊が補助をしてくれる。
淡々と進み、昼過ぎには葬儀の準備が完了した。
皆で軽い昼食を取ると、男衆は畑に向かい、女衆は各自の家で通夜振る舞いの準備に取り掛かる。
時間はあっという間に過ぎる。
皆が集会場に集まり、通夜振る舞いという名の、宴会が始まる。
やはり前回と違うのは、集会場の空気が重い事だ。そんな時、息を吐くのは、やはり村のリーダーなのだろう。
「おい、お前等! 何をいつまでも、ふさぎ込んでやがる! 特にお前等だ! 敏久、洋子、敏和! お前等は、ギイ達の家族なんだろ! 家族なら、笑って送り出せよ!」
強烈な一言であった。その言葉は、敏久達の心に深く突き刺さる。
言われた事は尤もだ、頭では理解している。だけど、まだ整理がついていない。
敏久と敏和は、ビジネスマンである。
どれだけ落ち込もうが、表情に表さない技術を持っている。寧ろ、ビジネスマンとして、最低限のスキルと言えよう。
その二人が、わかり易く表情に表すのは、相当の事だ。
敏久と洋子は、口には出さなくとも、実孫が欲しいと願っていた。同時に不安も有った。
父や母がそうであった様に、敏久も多忙である。孫を可愛がる暇など無い。場合によっては、顔を会わす機会すら、作るのが難しいだろう。
さくらが可愛がっていたのは、単なるきっかけだ。ギイとガアを調べる度に、愛着が湧いたのは事実だ。
だからこそ、家族になりたいと、心の底から思った。
やっと家族になれた矢先に失った。その喪失感は計り知れない。
さくらは、高齢だった。だから仕方無いと思えたのも、嘘では無い。
だが、ギイとガアは違う。
その喪失感は、共に過ごして来た村の住人達よりも、大きくのしかかってる事だろう。
割り切れない思いに、苛まれているのだろう。僅かな間でも、ギイ達と共に暮らした敏和のショックは、更に大きいだろう。
敏久等の浮かない表情は、自然と周囲に伝染していく。
しかし、孝則は鼻息を荒くした。
「孝道! お前は言ったよな! ギイ達を祝うんだってよ! その言葉は嘘だったのか?」
「嘘な訳ないだろ!」
「だったら、下を向くな! あいつらは、優しい子なんだ。こんなんじゃあいつらは、俺達が心配で旅立てねぇよ!」
ぶっきらぼうに言い放たれた言葉は、集まった者達の顔を上げさせた。
「親父に言われるまでない! わかってんだよ、そんな事!」
「孝道の言う通りだな。みんな、受け止めきれてないだけだ」
「そうね、正一君。あの子達の記憶が、残ってるんですもの」
「どこに行っても、あの子達が笑ってる姿が、見える気がするの」
「みのり、華子。俺も同じだ。たった半年だけど、あいつらは村の一部だ。でも、孝則の言う事も尤もだ。俺達がしょげた顔してたら、あいつらは心配しやがる」
郷善の言葉は、正しい。
ギイとガアを送る為に、村へ帰って来た。誰もが寂しい、誰もが辛い。
しかしギイとガアは、もっと辛い事に耐えた。
そんな子供達に、今の情けない顔は見せられまい。そんな資格など、誰にも有るまい。
「みんな! グラスを持て! 今夜は、飲み明かすぞ! あいつらを、笑って送り出す。あいつらに、いろんなものを貰ったから、だから安心できる様に送り出す! 乾杯だ!」
喪主の敏久を差し置いて、孝道は乾杯の音頭を取る。本来であれば、乾杯という言葉は相応しくない。
だが、乾杯でいいのだ。旅立ちの前祝なのだから。
本来、粛々と行われるべき通夜振る舞いは、朝まで続いた。皆が、ギイとガアの事を語り明かした。
そして、誰一人として眠らぬまま、しかも泥酔している様子を一欠けらも見せずに、葬儀の時間となる。
葬儀には、海藤、カール、井川も参列した。
そしてお経が終わり、別れとなる。そこからは、親族だけが焼き場へと向かう。普通ならば。
今回は、全員で焼き場へ向かった。そして最後の別れを、全員で済ませた。
別れの言葉は、何度も告げている。それ故か、皆が一様に同じ言葉を告げた。
「さくらと一緒に、幸せに慣れよ」
それから精進落としに移る。昨夜とは打って変わって、賑やかなものになった。
それは、精進落としでも、別れを惜しむ場でもない。まるで送別会の様な、雰囲気に包まれていた。
飲んで騒いで楽しんで、おまけに蛍の光の大合唱が何度も行われる。
自分達は大丈夫だと、ギイとガアに見せつける。
二晩続けての宴会である。段々と、酔い潰れて寝始める者が現れる。
そんな中、考え混む様にじっと黙って、食事に手を付けない者がいた。
敏久が近づくと、その者は気配に気が付き、顔を向ける。
「隆君、君にも世話になったね」
敏久の言葉に、隆は横に首を降る。
「さくらさんは、僕に勇気を下さいました。ギイさんとガアさんは、僕に希望を下さいました。僕にどんな恩返しが出来るか、ずっと考えてました」
「それで、考えは纏まったのかい?」
「はい。隆久さん、お願いします。僕に、ギイさんとガアさんの物語を書かせて下さい。彼らがここにいた事を、後世に残したいんです」
隆は、真剣な眼差しをして頭を下げる。
本来ならば、言語道断の願いだ。何の為に国が先導し、ギイとガアの存在を隠蔽したのだ。記録に残せば、国が国民を騙した事が明らかになる。
それは、有ってはならない事だ。
しかし敏久は、子供の戯言と切って捨てる事をしなかった。
「そっか。君は、どんな形の物語にしようと思うんだい?」
「絵本にしようと思います」
「確か、君は絵が上手かったね」
「はい。ギイさんとガアさんの愛らしさ、そして純真さを、僕の絵で表現したいです」
「そうか、良いアイデアだ」
「ギイさんとガアさんは、何も知らない、言葉も通じない世界で、種族の壁を乗り越えて来ました」
「それを絵本にするんだね。素晴らしいね、大人の事情は私が責任を持とう。完成したら、是非見せてくれないか?」
「はい。一番に持っていきます」
かつて敏久は、母に関する事を、全て調べ上げた。それ故、隆の事も知っている、絵の才能も知っている。
隆だからこそ出来た、提案だろう。敏久には、考えも付かなかった。
そしてクミルは、そんな幸せな光景を見ながら、ぽつりと呟いた。
「ぎい、があ、よかったね。たくさん、あいされた」
「そうだな、クミル」
「としかずさん?」
「なあ。あいつ等は幸せだったよな?」
クミルの呟きに、敏和が反応した時だった。
「クミリュ、としかじゅ。ギイ、しああせ」
「クミリュ、としかじゅ。しああせ、なって」
振り向いても、そこには誰もいない。しかし、声が聞こえた気がした。
その声と共に、クミルの心に感情が流れ込む。
その感情を、一言で言い合わすなら、感謝。それは、ギイとガアが最後に残した想いなのだろう。
それを知ってか知らずか、敏和が再び口を開く。
「なあ、クミル。俺は兄貴だからな。ギイとガアの、代わりって訳じゃ無い。だけど、これから俺が一緒に居る。駄目か?」
「いいえ、うれしい」
「これからも、宜しくな」
「こちらこそ」
彼らの物語も、続いていく。
時代が移り、人が変わり、文化も変化を遂げる。その中で、廃れていくものも有るのだろう。
変わらないとすれば、心の在り方かも知れない。どんな時代でさえ、仲間を、家族を想う心は変わらないのだから。
住人達は乗ってきたバスで、寝台車を先導する。それ以外の者はそれぞれの車で、その後を追う。
勢い良く変わる風景とは対象的に、車内はとても静かであった。
それぞれの中に有る、思い出を蘇らせ、ゆっくりと時間が過ぎる。
信川村へと辿り着く頃には、夜が更けていた。
集会場に遺体を安置すると、住人達はそれぞれの家に戻る。
そして、翌日の早朝には、葬儀の準備を始めた。
ほとんどの者達は、瞼の下に隈をつくっている。眠れない夜を過ごしたのだろう。
それもそのはずだ。村にはギイとガアの思い出が詰まっている。ふっと視線をやると、そこにはギイとガアが走り回ってるかの様に幻視する。
それを感じる度に、寂寥感が増す。
皆の作業を行う姿は、さくらの時とは、少し雰囲気が違った。
いつもと違い、周りをウロチョロしている子供達がいた。そのおかげで、重苦しい空気が、晴れた様な気がした。
今回はその子供達がいない。ましてやここ一年で、三回目の葬儀である。
信川村の住人達は、理解している。
全員が、いつ倒れてもおかしくない。いつあの世に行くかわからない。
だから送り、送られる覚悟が出来ている。
しかし、子供が自分達よりも先に逝く事には慣れていない。耐えようもない寂しさが、心を締め付ける。
子供達が村へ訪れる前に戻った様に、住人達は必要最低限の事しか口にしなかった。
作業自体は慣れている。しかも準備は、自衛隊が補助をしてくれる。
淡々と進み、昼過ぎには葬儀の準備が完了した。
皆で軽い昼食を取ると、男衆は畑に向かい、女衆は各自の家で通夜振る舞いの準備に取り掛かる。
時間はあっという間に過ぎる。
皆が集会場に集まり、通夜振る舞いという名の、宴会が始まる。
やはり前回と違うのは、集会場の空気が重い事だ。そんな時、息を吐くのは、やはり村のリーダーなのだろう。
「おい、お前等! 何をいつまでも、ふさぎ込んでやがる! 特にお前等だ! 敏久、洋子、敏和! お前等は、ギイ達の家族なんだろ! 家族なら、笑って送り出せよ!」
強烈な一言であった。その言葉は、敏久達の心に深く突き刺さる。
言われた事は尤もだ、頭では理解している。だけど、まだ整理がついていない。
敏久と敏和は、ビジネスマンである。
どれだけ落ち込もうが、表情に表さない技術を持っている。寧ろ、ビジネスマンとして、最低限のスキルと言えよう。
その二人が、わかり易く表情に表すのは、相当の事だ。
敏久と洋子は、口には出さなくとも、実孫が欲しいと願っていた。同時に不安も有った。
父や母がそうであった様に、敏久も多忙である。孫を可愛がる暇など無い。場合によっては、顔を会わす機会すら、作るのが難しいだろう。
さくらが可愛がっていたのは、単なるきっかけだ。ギイとガアを調べる度に、愛着が湧いたのは事実だ。
だからこそ、家族になりたいと、心の底から思った。
やっと家族になれた矢先に失った。その喪失感は計り知れない。
さくらは、高齢だった。だから仕方無いと思えたのも、嘘では無い。
だが、ギイとガアは違う。
その喪失感は、共に過ごして来た村の住人達よりも、大きくのしかかってる事だろう。
割り切れない思いに、苛まれているのだろう。僅かな間でも、ギイ達と共に暮らした敏和のショックは、更に大きいだろう。
敏久等の浮かない表情は、自然と周囲に伝染していく。
しかし、孝則は鼻息を荒くした。
「孝道! お前は言ったよな! ギイ達を祝うんだってよ! その言葉は嘘だったのか?」
「嘘な訳ないだろ!」
「だったら、下を向くな! あいつらは、優しい子なんだ。こんなんじゃあいつらは、俺達が心配で旅立てねぇよ!」
ぶっきらぼうに言い放たれた言葉は、集まった者達の顔を上げさせた。
「親父に言われるまでない! わかってんだよ、そんな事!」
「孝道の言う通りだな。みんな、受け止めきれてないだけだ」
「そうね、正一君。あの子達の記憶が、残ってるんですもの」
「どこに行っても、あの子達が笑ってる姿が、見える気がするの」
「みのり、華子。俺も同じだ。たった半年だけど、あいつらは村の一部だ。でも、孝則の言う事も尤もだ。俺達がしょげた顔してたら、あいつらは心配しやがる」
郷善の言葉は、正しい。
ギイとガアを送る為に、村へ帰って来た。誰もが寂しい、誰もが辛い。
しかしギイとガアは、もっと辛い事に耐えた。
そんな子供達に、今の情けない顔は見せられまい。そんな資格など、誰にも有るまい。
「みんな! グラスを持て! 今夜は、飲み明かすぞ! あいつらを、笑って送り出す。あいつらに、いろんなものを貰ったから、だから安心できる様に送り出す! 乾杯だ!」
喪主の敏久を差し置いて、孝道は乾杯の音頭を取る。本来であれば、乾杯という言葉は相応しくない。
だが、乾杯でいいのだ。旅立ちの前祝なのだから。
本来、粛々と行われるべき通夜振る舞いは、朝まで続いた。皆が、ギイとガアの事を語り明かした。
そして、誰一人として眠らぬまま、しかも泥酔している様子を一欠けらも見せずに、葬儀の時間となる。
葬儀には、海藤、カール、井川も参列した。
そしてお経が終わり、別れとなる。そこからは、親族だけが焼き場へと向かう。普通ならば。
今回は、全員で焼き場へ向かった。そして最後の別れを、全員で済ませた。
別れの言葉は、何度も告げている。それ故か、皆が一様に同じ言葉を告げた。
「さくらと一緒に、幸せに慣れよ」
それから精進落としに移る。昨夜とは打って変わって、賑やかなものになった。
それは、精進落としでも、別れを惜しむ場でもない。まるで送別会の様な、雰囲気に包まれていた。
飲んで騒いで楽しんで、おまけに蛍の光の大合唱が何度も行われる。
自分達は大丈夫だと、ギイとガアに見せつける。
二晩続けての宴会である。段々と、酔い潰れて寝始める者が現れる。
そんな中、考え混む様にじっと黙って、食事に手を付けない者がいた。
敏久が近づくと、その者は気配に気が付き、顔を向ける。
「隆君、君にも世話になったね」
敏久の言葉に、隆は横に首を降る。
「さくらさんは、僕に勇気を下さいました。ギイさんとガアさんは、僕に希望を下さいました。僕にどんな恩返しが出来るか、ずっと考えてました」
「それで、考えは纏まったのかい?」
「はい。隆久さん、お願いします。僕に、ギイさんとガアさんの物語を書かせて下さい。彼らがここにいた事を、後世に残したいんです」
隆は、真剣な眼差しをして頭を下げる。
本来ならば、言語道断の願いだ。何の為に国が先導し、ギイとガアの存在を隠蔽したのだ。記録に残せば、国が国民を騙した事が明らかになる。
それは、有ってはならない事だ。
しかし敏久は、子供の戯言と切って捨てる事をしなかった。
「そっか。君は、どんな形の物語にしようと思うんだい?」
「絵本にしようと思います」
「確か、君は絵が上手かったね」
「はい。ギイさんとガアさんの愛らしさ、そして純真さを、僕の絵で表現したいです」
「そうか、良いアイデアだ」
「ギイさんとガアさんは、何も知らない、言葉も通じない世界で、種族の壁を乗り越えて来ました」
「それを絵本にするんだね。素晴らしいね、大人の事情は私が責任を持とう。完成したら、是非見せてくれないか?」
「はい。一番に持っていきます」
かつて敏久は、母に関する事を、全て調べ上げた。それ故、隆の事も知っている、絵の才能も知っている。
隆だからこそ出来た、提案だろう。敏久には、考えも付かなかった。
そしてクミルは、そんな幸せな光景を見ながら、ぽつりと呟いた。
「ぎい、があ、よかったね。たくさん、あいされた」
「そうだな、クミル」
「としかずさん?」
「なあ。あいつ等は幸せだったよな?」
クミルの呟きに、敏和が反応した時だった。
「クミリュ、としかじゅ。ギイ、しああせ」
「クミリュ、としかじゅ。しああせ、なって」
振り向いても、そこには誰もいない。しかし、声が聞こえた気がした。
その声と共に、クミルの心に感情が流れ込む。
その感情を、一言で言い合わすなら、感謝。それは、ギイとガアが最後に残した想いなのだろう。
それを知ってか知らずか、敏和が再び口を開く。
「なあ、クミル。俺は兄貴だからな。ギイとガアの、代わりって訳じゃ無い。だけど、これから俺が一緒に居る。駄目か?」
「いいえ、うれしい」
「これからも、宜しくな」
「こちらこそ」
彼らの物語も、続いていく。
時代が移り、人が変わり、文化も変化を遂げる。その中で、廃れていくものも有るのだろう。
変わらないとすれば、心の在り方かも知れない。どんな時代でさえ、仲間を、家族を想う心は変わらないのだから。
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