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学びと成長
通い始めた心
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日の出と共に畑へ出かけ、午後は三笠の自宅で授業を受ける。そして、夕方になり帰宅する。
そんな日が続き、ギイ達の生活サイクルは変わりつつあった。
当然、ギイ達が畑に出掛ける様子は、住人達の目に留まる。当初は孝道と同様に、住人達も懸念を抱いていた。
しかし政府の対応や、さくらを取り巻く政財界の工作が、功を奏したのだろう。次第に、国民の関心は信川村から逸れ、話題に上がらなくなっていた。
また、面白半分に村を訪れようとし、調査隊から引き返す様に促される者は、数を減らしていた。
元々はつらつとしていたギイ達は、更に活き活きとしている様に見える。彼らが戻った後の家は、賑やかさが増す。
それは、さくらに活力を与えた。そして、彼らの影響は、さくらに留まらない。
嬉しそうに畑へ向かうギイとガアの姿は、好ましく映るのだろう。
未だ、傍観的な態度を崩さない郷善と正一、少し離れた場所に住む幸三を除き、住人達との会話が増え、普通に挨拶を交わす様になる。
それは、草原に咲く大輪の花の如く、平凡な日常に彩りを与えた。
「あら、今日も早いのね」
「おはよう、ございます、あゆかわさん」
「ギギャギャ、ギギャギャギャギャ」
「ガガガァ、ガガアガガァ」
「ふふっ、はなこで良いわよ。今日も孝道さんの所?」
「そう、たかみちさん、てつだう。たかみちさん、すごい」
「ギイギギ、ギヤギャギャ、ギイギイギギギギ」
「ガアガガ、ガガアアガアガガ、ガアガガ、ガガガア」
「ギイちゃんとガアちゃんは、何を言ってるの?」
ギイ達は、バタバタと手を振り、華子に何かを伝えようとする。そして華子は、少しかがむと、ギイ達と視線を合わせた。
「ぎいたちも、たかみちさんから、たくさん、おそわった。それ、つたえたい、おもってる」
「偉いわね、ギイちゃん、ガアちゃん」
「ギイ、ギイ」
「ガアガア」
華子が頭を撫でると、ギイ達は嬉しそうに頬を緩める。そして華子は、背を伸ばすと、クミルに視線を向けた。
「クミルさん。あなたは、少し元気になったのかしら」
「はい。さくらさんも、いってた。ひやけ、おかげ?」
「それも有るけど、前よりも体つきが、がっしりしてきたみたい」
「そう、ですか?」
「自分では、わからないものよ」
筋肉を作るのは、運動と食事だ。過酷な肉体労働と最低限以下の食事では、やつれるだけだろう。
それが、村を訪れるまでのクミルだ。
村を訪れてから、クミルの食生活は激変した。
また、さくらの家で暮らす様になってから、家事で体を動かした。そして今、クミルは畑仕事を手伝い、体を動かしている。
無論、孝道はクミルの様子を観察しながら、仕事を与えている。少しずつ体を動かす時間と内容を増やし、労働に適した体を作るのが狙いだ。
それでもまだ、クミルの体は同年代の男性と比べ、細いと言える。だが、村を訪れた当時よりは、だいぶ同年代のそれに近づいただろう。
日焼けした体は、見た目には健康的とも言えよう。それだけではない。青白く不健康そうなクミルの顔色は、明らかに変化を遂げていた。
「今日も暑くなるわよ。しっかりと、水分補給をしなさいね」
「ギイ!」
「ガア!」
「はい。ありがとう、ございます。はなこさんも、きをつけて」
「そうするわね。ありがとう、クミルさん」
ギイ達は、華子に手を振ると、ぴょんぴょんと跳ねる様に歩き出す。
「やっぱり、良い子達じゃない」
彼らを見ると、動かし辛くなってきた足でも、走れそうな気になる。
心のまま足を動かしても、想像と現実の違いを思い知らされるだけだろう。無理をすれば、年甲斐も無くと叱られる。
ただ間違いなく、華子の心は軽くなった。羽が生えて、今にも飛び出そうとする位に。
☆ ☆ ☆
早朝の仕事が終わり、朝食を食べ終えると、午前の仕事が始まる。
ギイ達が手伝いに来てから昨日まで、隙込みから種植えは完了していた。今日の作業は、苗の植え付けを予定している。
そして孝道は、作業内容を丁寧に、ギイ達へ説明した。
畑仕事に慣れているからこそだろう。クミルは、手伝いを始めてから、作業の違いに戸惑う事が多かった。
その都度クミルは、孝道へ質問を投げる。そして孝道は、面倒がらずに説明を行う。
「まえの、のこり、えいようにする? なら、ひりょうのついか、なぜ?」
「残りかすを残渣って言うんだ。栄養を吸って育ったんだ、勿体ないから一緒に畑に混ぜちまう。けどな、それだけじゃ栄養が足りないんだ。不足した栄養分を追加して、畑を耕すんだ」
少しずつ、疑問を潰して、クミルは理解を深めていく。そして、日を重ねる毎に、作業に慣れていった。
また孝道は、自分の作業をしつつも、ギイとガアに気を配っていた。
「そっちの植え付け終わったら、休憩してろ」
「ギイ!」
「ガア!」
「あぁ? 大丈夫だ、良く出来てる」
「ギイギギ、ギイギギイ」
「何だ? 体力が余ってんのか? でも、駄目だ。休憩しろ」
「ガアガガ、ガアガガアガ?」
「俺か? これを終わらせたら、休憩する。クミル、お前も切りが良い所で、こっちに来い!」
「わかりました、たかみちさん」
午前中でも、かなり気温が高くなる時期だ。集中して作業をしていると、時間を忘れる。そしてつい、水分補給のタイミングを失わせる。
ギイとガアは、体が小さい。注意を払った方が、良いだろう。多少慣れて来たとはいえ、クミルにもまだまだ配慮が必要だ。
勿論、高齢故に暑さを感じ辛く、汗もかき辛くっている孝道本人が、水分補給と休憩を必要している。
「随分、慣れて来たな」
「ギイ!」
「ガア!」
「良い返事だ」
「たかみちさん、おしえかた、よい」
「そうか? お前らが賢いだけだろ?」
「ギイ、ギイギイ!」
「ガア、ガガガア!」
「ぎいたち、ほめられて、よろこんでる」
「ははっ。まぁ実際、お前等はよくやってるよ」
☆ ☆ ☆
この日の午後、郷善はライカと孝道、そして正一を自宅に呼び寄せていた。目的は会議、議題は継続となった、大学との連携についてである。
大学から求められているのは、複数の育成結果だ。
品種改良は、味が良く安全かつ扱い易い作物を作るのが目的である。
その過程において、異なる土地、異なる栽培方法で、味にどのような変化を与えるのか。そもそも、栽培方法を変えると、育成が可能なのか。耐暑性はどうか、栽培時期は適切か、病虫害の耐性は、薬剤の散布はどの程度必要か。
それら、様々な事を計測するのが、大学と共同で行っている研究である。
ただ、現在の村を取り巻く状況は、従来とは異なる。
これまでは、授業の一環として、定期的に学生が訪れ、実習用地で栽培研修を行っていた。テスト栽培を行っている作物も、幾つかの作業は学生に任せていた。
今は外部の人間を、村には入れていない。
自分の土地での作業と、テスト栽培を並行して行うには、正一だけでは難しい。問題は人手不足であった。
「記録は取るんだろ?」
「当たり前だ、郷善さん」
「ワタシが、ヤリマスヨ」
「ライカ。有難いがお前には、納入先が決まってる、俺達の畑を手伝って欲しい」
「ソレナラ、アルバイトをボシュウしますか?」
「いや、まだ難しい時期だ。孝則が良い顔しないだろ」
「確かに」
四人の男が難しい顔して、膝を突き合わせる。
但し、進行役が不在の会議には、有りがちな事だ。相談の内容は、少しずつ横道へ逸れていく。
「今回は俺と、正一、孝道で、交代して管理した方が良さそうだ」
「待ってくれ。それなら管理は、俺と孝道だけにしてくれ。郷善さんには、総括をお願いしたい」
「お前ら二人で、出来んのか? 出来ねぇから、こうやって集まってんだろ?」
「体力的にはキツイな。でも大丈夫だ、郷善さん。俺の所には、ギイ達が入ってくれてる」
「孝道。あいつらの様子はどうだ? お前の畑を任せられるのか?」
「真面目な奴らだから、心配は要らない。特にクミルは、慣れれば戦力になる」
「チビ共は?」
「あいつらは、予想以上に器用だし賢い。教えた事は、直ぐに出来る。心配なのは、体力面だろうな」
「あぁ? 何か有んのか? 持病みてぇなのを、持ってんのか?」
「いや、逆だよ郷善さん。ギイとガアは、元気の塊みたいなもんだ。だから頑張り過ぎるんだ。こっちが止めてやらないと、心配になる位にな」
「そうか」
「孝道。ゴブリンって言ったか、種族の違いとか、心配ないのか?」
「正一。それは、俺にもわからねぇよ。でも何せ、体が小さいだろ? 人間の子供と、同じ様に考えてやらないと、駄目だと思う」
孝道の説明を最後まで聞くと、郷善はフウと大きく息を吐く。
そして、一同を見渡して、ゆっくりと口を開いた。
「孝道。ガキ共の世話は、暫くお前に任せるぞ。たぶん、さくらも同じ事を言うはずだ。それと洋二、大学との共同研究は、孝道と二人でやってみろ。勿論、時間が有る限り、俺も補助をする」
「わかった。ありがとう、郷善さん」
「こっちも了解だ、郷善さん」
「そんで、ライカ。お前を、良い様に使う事になるが、許してくれ」
「カマイマセン。ドコニデモ、オテツダイにイキマス」
「助かる、ライカ」
☆ ☆ ☆
死を待つだけではないと、抗い続けて来た。だが、いずれ訪れる死は避けられない。いずれ村は、日本から消える。
そんな村に、さくらという希望が現れた。それでも、未来への不安は、拭いきる事は出来ない。
ギイとガア、そしてクミルの存在は、未来への懸け橋になろうとしていた。
ただ、いつの時も平和な時間は、長続きしない。
この夜、一本の電話が鳴り響く。それは、村に不穏を運び込もうとしていた。
そんな日が続き、ギイ達の生活サイクルは変わりつつあった。
当然、ギイ達が畑に出掛ける様子は、住人達の目に留まる。当初は孝道と同様に、住人達も懸念を抱いていた。
しかし政府の対応や、さくらを取り巻く政財界の工作が、功を奏したのだろう。次第に、国民の関心は信川村から逸れ、話題に上がらなくなっていた。
また、面白半分に村を訪れようとし、調査隊から引き返す様に促される者は、数を減らしていた。
元々はつらつとしていたギイ達は、更に活き活きとしている様に見える。彼らが戻った後の家は、賑やかさが増す。
それは、さくらに活力を与えた。そして、彼らの影響は、さくらに留まらない。
嬉しそうに畑へ向かうギイとガアの姿は、好ましく映るのだろう。
未だ、傍観的な態度を崩さない郷善と正一、少し離れた場所に住む幸三を除き、住人達との会話が増え、普通に挨拶を交わす様になる。
それは、草原に咲く大輪の花の如く、平凡な日常に彩りを与えた。
「あら、今日も早いのね」
「おはよう、ございます、あゆかわさん」
「ギギャギャ、ギギャギャギャギャ」
「ガガガァ、ガガアガガァ」
「ふふっ、はなこで良いわよ。今日も孝道さんの所?」
「そう、たかみちさん、てつだう。たかみちさん、すごい」
「ギイギギ、ギヤギャギャ、ギイギイギギギギ」
「ガアガガ、ガガアアガアガガ、ガアガガ、ガガガア」
「ギイちゃんとガアちゃんは、何を言ってるの?」
ギイ達は、バタバタと手を振り、華子に何かを伝えようとする。そして華子は、少しかがむと、ギイ達と視線を合わせた。
「ぎいたちも、たかみちさんから、たくさん、おそわった。それ、つたえたい、おもってる」
「偉いわね、ギイちゃん、ガアちゃん」
「ギイ、ギイ」
「ガアガア」
華子が頭を撫でると、ギイ達は嬉しそうに頬を緩める。そして華子は、背を伸ばすと、クミルに視線を向けた。
「クミルさん。あなたは、少し元気になったのかしら」
「はい。さくらさんも、いってた。ひやけ、おかげ?」
「それも有るけど、前よりも体つきが、がっしりしてきたみたい」
「そう、ですか?」
「自分では、わからないものよ」
筋肉を作るのは、運動と食事だ。過酷な肉体労働と最低限以下の食事では、やつれるだけだろう。
それが、村を訪れるまでのクミルだ。
村を訪れてから、クミルの食生活は激変した。
また、さくらの家で暮らす様になってから、家事で体を動かした。そして今、クミルは畑仕事を手伝い、体を動かしている。
無論、孝道はクミルの様子を観察しながら、仕事を与えている。少しずつ体を動かす時間と内容を増やし、労働に適した体を作るのが狙いだ。
それでもまだ、クミルの体は同年代の男性と比べ、細いと言える。だが、村を訪れた当時よりは、だいぶ同年代のそれに近づいただろう。
日焼けした体は、見た目には健康的とも言えよう。それだけではない。青白く不健康そうなクミルの顔色は、明らかに変化を遂げていた。
「今日も暑くなるわよ。しっかりと、水分補給をしなさいね」
「ギイ!」
「ガア!」
「はい。ありがとう、ございます。はなこさんも、きをつけて」
「そうするわね。ありがとう、クミルさん」
ギイ達は、華子に手を振ると、ぴょんぴょんと跳ねる様に歩き出す。
「やっぱり、良い子達じゃない」
彼らを見ると、動かし辛くなってきた足でも、走れそうな気になる。
心のまま足を動かしても、想像と現実の違いを思い知らされるだけだろう。無理をすれば、年甲斐も無くと叱られる。
ただ間違いなく、華子の心は軽くなった。羽が生えて、今にも飛び出そうとする位に。
☆ ☆ ☆
早朝の仕事が終わり、朝食を食べ終えると、午前の仕事が始まる。
ギイ達が手伝いに来てから昨日まで、隙込みから種植えは完了していた。今日の作業は、苗の植え付けを予定している。
そして孝道は、作業内容を丁寧に、ギイ達へ説明した。
畑仕事に慣れているからこそだろう。クミルは、手伝いを始めてから、作業の違いに戸惑う事が多かった。
その都度クミルは、孝道へ質問を投げる。そして孝道は、面倒がらずに説明を行う。
「まえの、のこり、えいようにする? なら、ひりょうのついか、なぜ?」
「残りかすを残渣って言うんだ。栄養を吸って育ったんだ、勿体ないから一緒に畑に混ぜちまう。けどな、それだけじゃ栄養が足りないんだ。不足した栄養分を追加して、畑を耕すんだ」
少しずつ、疑問を潰して、クミルは理解を深めていく。そして、日を重ねる毎に、作業に慣れていった。
また孝道は、自分の作業をしつつも、ギイとガアに気を配っていた。
「そっちの植え付け終わったら、休憩してろ」
「ギイ!」
「ガア!」
「あぁ? 大丈夫だ、良く出来てる」
「ギイギギ、ギイギギイ」
「何だ? 体力が余ってんのか? でも、駄目だ。休憩しろ」
「ガアガガ、ガアガガアガ?」
「俺か? これを終わらせたら、休憩する。クミル、お前も切りが良い所で、こっちに来い!」
「わかりました、たかみちさん」
午前中でも、かなり気温が高くなる時期だ。集中して作業をしていると、時間を忘れる。そしてつい、水分補給のタイミングを失わせる。
ギイとガアは、体が小さい。注意を払った方が、良いだろう。多少慣れて来たとはいえ、クミルにもまだまだ配慮が必要だ。
勿論、高齢故に暑さを感じ辛く、汗もかき辛くっている孝道本人が、水分補給と休憩を必要している。
「随分、慣れて来たな」
「ギイ!」
「ガア!」
「良い返事だ」
「たかみちさん、おしえかた、よい」
「そうか? お前らが賢いだけだろ?」
「ギイ、ギイギイ!」
「ガア、ガガガア!」
「ぎいたち、ほめられて、よろこんでる」
「ははっ。まぁ実際、お前等はよくやってるよ」
☆ ☆ ☆
この日の午後、郷善はライカと孝道、そして正一を自宅に呼び寄せていた。目的は会議、議題は継続となった、大学との連携についてである。
大学から求められているのは、複数の育成結果だ。
品種改良は、味が良く安全かつ扱い易い作物を作るのが目的である。
その過程において、異なる土地、異なる栽培方法で、味にどのような変化を与えるのか。そもそも、栽培方法を変えると、育成が可能なのか。耐暑性はどうか、栽培時期は適切か、病虫害の耐性は、薬剤の散布はどの程度必要か。
それら、様々な事を計測するのが、大学と共同で行っている研究である。
ただ、現在の村を取り巻く状況は、従来とは異なる。
これまでは、授業の一環として、定期的に学生が訪れ、実習用地で栽培研修を行っていた。テスト栽培を行っている作物も、幾つかの作業は学生に任せていた。
今は外部の人間を、村には入れていない。
自分の土地での作業と、テスト栽培を並行して行うには、正一だけでは難しい。問題は人手不足であった。
「記録は取るんだろ?」
「当たり前だ、郷善さん」
「ワタシが、ヤリマスヨ」
「ライカ。有難いがお前には、納入先が決まってる、俺達の畑を手伝って欲しい」
「ソレナラ、アルバイトをボシュウしますか?」
「いや、まだ難しい時期だ。孝則が良い顔しないだろ」
「確かに」
四人の男が難しい顔して、膝を突き合わせる。
但し、進行役が不在の会議には、有りがちな事だ。相談の内容は、少しずつ横道へ逸れていく。
「今回は俺と、正一、孝道で、交代して管理した方が良さそうだ」
「待ってくれ。それなら管理は、俺と孝道だけにしてくれ。郷善さんには、総括をお願いしたい」
「お前ら二人で、出来んのか? 出来ねぇから、こうやって集まってんだろ?」
「体力的にはキツイな。でも大丈夫だ、郷善さん。俺の所には、ギイ達が入ってくれてる」
「孝道。あいつらの様子はどうだ? お前の畑を任せられるのか?」
「真面目な奴らだから、心配は要らない。特にクミルは、慣れれば戦力になる」
「チビ共は?」
「あいつらは、予想以上に器用だし賢い。教えた事は、直ぐに出来る。心配なのは、体力面だろうな」
「あぁ? 何か有んのか? 持病みてぇなのを、持ってんのか?」
「いや、逆だよ郷善さん。ギイとガアは、元気の塊みたいなもんだ。だから頑張り過ぎるんだ。こっちが止めてやらないと、心配になる位にな」
「そうか」
「孝道。ゴブリンって言ったか、種族の違いとか、心配ないのか?」
「正一。それは、俺にもわからねぇよ。でも何せ、体が小さいだろ? 人間の子供と、同じ様に考えてやらないと、駄目だと思う」
孝道の説明を最後まで聞くと、郷善はフウと大きく息を吐く。
そして、一同を見渡して、ゆっくりと口を開いた。
「孝道。ガキ共の世話は、暫くお前に任せるぞ。たぶん、さくらも同じ事を言うはずだ。それと洋二、大学との共同研究は、孝道と二人でやってみろ。勿論、時間が有る限り、俺も補助をする」
「わかった。ありがとう、郷善さん」
「こっちも了解だ、郷善さん」
「そんで、ライカ。お前を、良い様に使う事になるが、許してくれ」
「カマイマセン。ドコニデモ、オテツダイにイキマス」
「助かる、ライカ」
☆ ☆ ☆
死を待つだけではないと、抗い続けて来た。だが、いずれ訪れる死は避けられない。いずれ村は、日本から消える。
そんな村に、さくらという希望が現れた。それでも、未来への不安は、拭いきる事は出来ない。
ギイとガア、そしてクミルの存在は、未来への懸け橋になろうとしていた。
ただ、いつの時も平和な時間は、長続きしない。
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