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訪れる危機
戻りゆく日常
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「はぁ? 盗聴器だぁ?」
「おい! 俺は何も聞いてねぇぞ!」
「村長、鮎川さん、声が大きい!」
「馬鹿野郎、佐川! なんでそれを言わねぇ!」
「さくらさんの中で、お二人は演者だったんですよ。私もね」
「おかしいと思ったぜ。あいつが、ガキ共の事を知らねぇなんて、言いやがるからよぉ」
「きっと、あんな言い方しか、出来なかったんですよ」
乗って来た高級車を、役場の駐車場に停めたまま、阿沼はSPを連れて、村の視察を始める。その案内役として、さくらがついて行った。
内閣官房長官と、大企業の元会長のツーショットに、興奮しない報道陣は居まい。報道陣が役場を離れた後、孝則と郷善を役場の外に連れ出した佐川は、事の真相を二人に話した。
「いずれにしても、政府は何も知らない、何も見ていないを貫き通すはずです。これは、世界中に向けて発信されるでしょう」
「で、その先グチグチ掘り返す奴らには、鉄槌って事か?」
「鉄槌とはいかないでしょうが、情報統制は行うでしょうね」
「俺達は、さくらの手のひらで踊らされたって訳か。あの馬鹿、結局一人で背負い込みやがって。どうせ、検疫とやらも、あいつが行くって言いだすんだろ?」
「そうでしょうね」
「なら、俺達がやれる事は、あいつが帰って来るまで、村とあいつ等を守る事か?」
「郷善。その辺は、みのりと華子が上手くやるだろ?」
「わかった。華子には、俺から伝えとく」
「それよりもだ。段取りは、どうすんだ? 家まで入れば、あいつ等は見つかんだろ?」
「そうはなりませんよ。調査日程を組むでしょうから、それに合わせて、隠せばいいんです」
「マスコミの連中は、どうすんだ? それこそ、事務所の盗聴器みたいに、何かしでかすんじゃないか?」
「それ程、甘くはないでしょう。マスコミは、調査隊にべったりでしょうし、事務所の盗聴器も、調査の際に外して貰えるはずです」
「自衛隊の件は、どうなるんだ?」
「村長。私は、さくらさんじゃ無いんです。そんなに質問しないで下さい」
「馬鹿言うな、俺達は何も理解してねぇんだ!」
「仕方ないですね、今の時点では予想でしかないですよ」
「それでいい。取り敢えず話せ!」
「調査隊は、各家だけじゃなくて、山まで入るでしょう。対外的には、未確認生命体の存在が無い事と発表する」
「その後は? そこからが問題だろ?」
「恐らくですが、調査隊は目にするはずです。手付かずの山、放置されっぱなしの休耕地、空き家の数々。これらを見て、利用価値が有ると判断するのでしょう」
「そこで、基地を作る計画になるって事か?」
「まぁ、私の予想ですが」
体力の無い小さな村。そんな村が、存続できるはずがない。本来なら、合併を受け入れるべきだった。
残したかったのは、村の名前だけじゃない。自然を含めた風景を、後世に残したかった。
当時、合併の打診が来た時の条件は、山々を切り開いて住宅地にする事。それは、決して受け入れられる事じゃない。
では、村の再生を計画しているさくらを、どうして信じられたのか?
それは、さくらがこの村に移り住む、前の事である。みのりを経由し、さくらを紹介された孝則と佐川は、宮川グループの本社に訪問した。
その際に、村の現状と今後の対応策について、相談をした。
最初にさくらは、「自然を残さなきゃ駄目だ」と、孝則らに告げた。そして、幾つかの欠点を挙げ、村を残す為の再生方法を示唆した。
それは、孝則らの意図に沿うものであった。だから、孝則らは、さくらを信用した。
さくらを、信川村に招致する事が出来たのは、みのりの存在が大きかったのだろう。孝則だけでは、説得する事は不可能であっただろう。
さくらは、介護補助に関わる事業計画を立てた。
それと同時に、事業責任者を現社長である息子に任せ、事業計画を推進する部署を分社化した。
だが、新規事業である介護補助について、宮川グループはノウハウを持っていない。それ故、開発商品の実証実験をする場として信川村を選び、スタッフを常駐させることにした。
さくらの引退には、また別の理由が有る。
経営者とは、孤独なものである。また、三百六十五日、心も体も休む事が無い。さくらにとって心の拠り所は、夫と家族だったのだろう。
夫の死去により、大きな精神的な支えを、さくらは失った。また、自らも高齢であり、事業の承継時期が訪れている事も、常に頭の中に有った。
故に、夫が持つ株式を相続した時に、グループ会社を整理し、息子に後を継がせて引退をしたのだ。
必然と偶然が重なり、さくらは信川村に移り住む。そしてさくらは、改革を始めた。
思い返せば、どれだけさくらに助けられてきたか。今もこうして守られている。
今度こそ、自分達がさくらを守る番ではないのか。
さくらが帰る場所は、東京の家ではない。信川村の自宅なのだ。今は、自分達がさくらの家族なのだ。
孝則は自宅に連絡し、暫くの間みのりに、さくらの家へ泊まる様に告げる。郷善は華子と園子姉妹に連絡を入れ、みのりのサポートと鮎川家の家事を行う様に告げる。
佐川は自分のメモ帳に、思いつく限り調査の段取りと、注意事項を書きなぐる。
各々がさくらの為に、行動を開始する中、さくらと阿沼がSPと報道陣を引き連れて、役場に戻って来る。
そして阿沼は、孝則らに挨拶をすると、高級車に乗って去って行く。
官房長官が去った事で、さくらに質問が集中し始める。
「あたしは、歳だからね。もう、へとへとなんだ。そろそろ、開放しておくれよ」
流石にさくらなのだろう。満点の演技に化かされた報道陣は、諦めた様に去って行く。
そして、さくらは郷善に送られて、自宅へ戻った。
宮川グループを筆頭とした各企業の牽制は、報道各社を沈黙させた。そして機動隊の出動により、村での暴動が鎮圧された。
これに加えて、阿沼が信川村を訪れた翌日、政府は閣議決定を発表する。
その結果、民衆の姿勢は非難から、成り行きの傍観へ変わっていった。
しかし依然として、信川村は注目を集めている。そんな中、信川村で政令の一つが行使される。
閣議決定が発表された翌日、さくらの自宅前には、高級車が停まっていた。
そして自宅の中では、出発の準備をするさくらに、ギイとガアがしがみついていた。
「ギャアギャ」
「ガアガ」
「ちょっとだけ、離れておくれ。支度が出来ないよ」
「ギイちゃん、ガアちゃん。私のお手伝いしてくれるかな?」
「ギャギャ」
「ガガ」
普段のギイ達は、とても聞き分けがいい。
さくらの言った事は、必ず守る。みのりが手伝えと言えば、直ぐに駆けつける。そして、滅多に我儘を通す事はない。
だが今のギイ達は、何を言おうと聞く耳を持たずに、さくらから離れようとしない。
余程、さくらと離れたくないのだろう。僅かにでも感情を読んだクミルは、ギイ達に語りかけた。
「ぎい、があ。さくらさんの、るす、まもる。みんなで、まもる。さくらさん、あんしん、させる。ちから、あわせれば、できる」
「ギャギャギャ?」
「ガガガ?」
「そう、まもる。ぎい、があ、ちからかす?」
「ギイ!」
「ガア!」
「いい、ちょうし。さすが、ぎい、があ。さくらさんに、めいわくかけない。しんぱい、させない。やくそく、できる?」
「ギイ!」
「ガア!」
「それなら、じゅんび、てつだう」
「ギイ!」
「ガア!」
クミルは、優しく諭す様に、ギイ達に話した。ギイ達は、次第にさくらから離れる。やがてクミルの問いかけに、元気よく手を挙げて答えた。
さくらが支度を終えると、ギイとガアが荷物を持って玄関まで運ぶ。だが、ギイとガアの役目はここまで、外に出す事は出来ない。
さくらは、ギイとガアの頭を優しく撫でる。そしてクミル、みのりの順で視線を送る。
「ギイ、ガア。いい子にしてるんだよ」
「ギイ、ギイ!」
「ガア、ガア!」
「クミル、ギイ達の事を頼んだよ」
「わかりま、した。さくらさん」
「みのり、後は頼んだよ」
「はい、姉さん」
そして、さくらは高級車に乗って、信川村を去って行く。
さくらは、山道に差し掛かるまで、何度も振り返っては村を眺めた。それは、村の風景を目に焼き付ける為だろう。
検査をすれば、直ぐに戻る。何も心配する事はない。そう自分に言い聞かせて。
「おい! 俺は何も聞いてねぇぞ!」
「村長、鮎川さん、声が大きい!」
「馬鹿野郎、佐川! なんでそれを言わねぇ!」
「さくらさんの中で、お二人は演者だったんですよ。私もね」
「おかしいと思ったぜ。あいつが、ガキ共の事を知らねぇなんて、言いやがるからよぉ」
「きっと、あんな言い方しか、出来なかったんですよ」
乗って来た高級車を、役場の駐車場に停めたまま、阿沼はSPを連れて、村の視察を始める。その案内役として、さくらがついて行った。
内閣官房長官と、大企業の元会長のツーショットに、興奮しない報道陣は居まい。報道陣が役場を離れた後、孝則と郷善を役場の外に連れ出した佐川は、事の真相を二人に話した。
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「鉄槌とはいかないでしょうが、情報統制は行うでしょうね」
「俺達は、さくらの手のひらで踊らされたって訳か。あの馬鹿、結局一人で背負い込みやがって。どうせ、検疫とやらも、あいつが行くって言いだすんだろ?」
「そうでしょうね」
「なら、俺達がやれる事は、あいつが帰って来るまで、村とあいつ等を守る事か?」
「郷善。その辺は、みのりと華子が上手くやるだろ?」
「わかった。華子には、俺から伝えとく」
「それよりもだ。段取りは、どうすんだ? 家まで入れば、あいつ等は見つかんだろ?」
「そうはなりませんよ。調査日程を組むでしょうから、それに合わせて、隠せばいいんです」
「マスコミの連中は、どうすんだ? それこそ、事務所の盗聴器みたいに、何かしでかすんじゃないか?」
「それ程、甘くはないでしょう。マスコミは、調査隊にべったりでしょうし、事務所の盗聴器も、調査の際に外して貰えるはずです」
「自衛隊の件は、どうなるんだ?」
「村長。私は、さくらさんじゃ無いんです。そんなに質問しないで下さい」
「馬鹿言うな、俺達は何も理解してねぇんだ!」
「仕方ないですね、今の時点では予想でしかないですよ」
「それでいい。取り敢えず話せ!」
「調査隊は、各家だけじゃなくて、山まで入るでしょう。対外的には、未確認生命体の存在が無い事と発表する」
「その後は? そこからが問題だろ?」
「恐らくですが、調査隊は目にするはずです。手付かずの山、放置されっぱなしの休耕地、空き家の数々。これらを見て、利用価値が有ると判断するのでしょう」
「そこで、基地を作る計画になるって事か?」
「まぁ、私の予想ですが」
体力の無い小さな村。そんな村が、存続できるはずがない。本来なら、合併を受け入れるべきだった。
残したかったのは、村の名前だけじゃない。自然を含めた風景を、後世に残したかった。
当時、合併の打診が来た時の条件は、山々を切り開いて住宅地にする事。それは、決して受け入れられる事じゃない。
では、村の再生を計画しているさくらを、どうして信じられたのか?
それは、さくらがこの村に移り住む、前の事である。みのりを経由し、さくらを紹介された孝則と佐川は、宮川グループの本社に訪問した。
その際に、村の現状と今後の対応策について、相談をした。
最初にさくらは、「自然を残さなきゃ駄目だ」と、孝則らに告げた。そして、幾つかの欠点を挙げ、村を残す為の再生方法を示唆した。
それは、孝則らの意図に沿うものであった。だから、孝則らは、さくらを信用した。
さくらを、信川村に招致する事が出来たのは、みのりの存在が大きかったのだろう。孝則だけでは、説得する事は不可能であっただろう。
さくらは、介護補助に関わる事業計画を立てた。
それと同時に、事業責任者を現社長である息子に任せ、事業計画を推進する部署を分社化した。
だが、新規事業である介護補助について、宮川グループはノウハウを持っていない。それ故、開発商品の実証実験をする場として信川村を選び、スタッフを常駐させることにした。
さくらの引退には、また別の理由が有る。
経営者とは、孤独なものである。また、三百六十五日、心も体も休む事が無い。さくらにとって心の拠り所は、夫と家族だったのだろう。
夫の死去により、大きな精神的な支えを、さくらは失った。また、自らも高齢であり、事業の承継時期が訪れている事も、常に頭の中に有った。
故に、夫が持つ株式を相続した時に、グループ会社を整理し、息子に後を継がせて引退をしたのだ。
必然と偶然が重なり、さくらは信川村に移り住む。そしてさくらは、改革を始めた。
思い返せば、どれだけさくらに助けられてきたか。今もこうして守られている。
今度こそ、自分達がさくらを守る番ではないのか。
さくらが帰る場所は、東京の家ではない。信川村の自宅なのだ。今は、自分達がさくらの家族なのだ。
孝則は自宅に連絡し、暫くの間みのりに、さくらの家へ泊まる様に告げる。郷善は華子と園子姉妹に連絡を入れ、みのりのサポートと鮎川家の家事を行う様に告げる。
佐川は自分のメモ帳に、思いつく限り調査の段取りと、注意事項を書きなぐる。
各々がさくらの為に、行動を開始する中、さくらと阿沼がSPと報道陣を引き連れて、役場に戻って来る。
そして阿沼は、孝則らに挨拶をすると、高級車に乗って去って行く。
官房長官が去った事で、さくらに質問が集中し始める。
「あたしは、歳だからね。もう、へとへとなんだ。そろそろ、開放しておくれよ」
流石にさくらなのだろう。満点の演技に化かされた報道陣は、諦めた様に去って行く。
そして、さくらは郷善に送られて、自宅へ戻った。
宮川グループを筆頭とした各企業の牽制は、報道各社を沈黙させた。そして機動隊の出動により、村での暴動が鎮圧された。
これに加えて、阿沼が信川村を訪れた翌日、政府は閣議決定を発表する。
その結果、民衆の姿勢は非難から、成り行きの傍観へ変わっていった。
しかし依然として、信川村は注目を集めている。そんな中、信川村で政令の一つが行使される。
閣議決定が発表された翌日、さくらの自宅前には、高級車が停まっていた。
そして自宅の中では、出発の準備をするさくらに、ギイとガアがしがみついていた。
「ギャアギャ」
「ガアガ」
「ちょっとだけ、離れておくれ。支度が出来ないよ」
「ギイちゃん、ガアちゃん。私のお手伝いしてくれるかな?」
「ギャギャ」
「ガガ」
普段のギイ達は、とても聞き分けがいい。
さくらの言った事は、必ず守る。みのりが手伝えと言えば、直ぐに駆けつける。そして、滅多に我儘を通す事はない。
だが今のギイ達は、何を言おうと聞く耳を持たずに、さくらから離れようとしない。
余程、さくらと離れたくないのだろう。僅かにでも感情を読んだクミルは、ギイ達に語りかけた。
「ぎい、があ。さくらさんの、るす、まもる。みんなで、まもる。さくらさん、あんしん、させる。ちから、あわせれば、できる」
「ギャギャギャ?」
「ガガガ?」
「そう、まもる。ぎい、があ、ちからかす?」
「ギイ!」
「ガア!」
「いい、ちょうし。さすが、ぎい、があ。さくらさんに、めいわくかけない。しんぱい、させない。やくそく、できる?」
「ギイ!」
「ガア!」
「それなら、じゅんび、てつだう」
「ギイ!」
「ガア!」
クミルは、優しく諭す様に、ギイ達に話した。ギイ達は、次第にさくらから離れる。やがてクミルの問いかけに、元気よく手を挙げて答えた。
さくらが支度を終えると、ギイとガアが荷物を持って玄関まで運ぶ。だが、ギイとガアの役目はここまで、外に出す事は出来ない。
さくらは、ギイとガアの頭を優しく撫でる。そしてクミル、みのりの順で視線を送る。
「ギイ、ガア。いい子にしてるんだよ」
「ギイ、ギイ!」
「ガア、ガア!」
「クミル、ギイ達の事を頼んだよ」
「わかりま、した。さくらさん」
「みのり、後は頼んだよ」
「はい、姉さん」
そして、さくらは高級車に乗って、信川村を去って行く。
さくらは、山道に差し掛かるまで、何度も振り返っては村を眺めた。それは、村の風景を目に焼き付ける為だろう。
検査をすれば、直ぐに戻る。何も心配する事はない。そう自分に言い聞かせて。
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