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反発と理解
検査と結果
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必要な連絡を終えると、さくらは猛烈な眠気に襲われ、ベンチソファーで横になった。
「おい、さくら。みのりが飯を持ってきてる。せめて、それを食ってから横になれ」
「ありがたいけど、今はやめとく。検査が始まる頃に、起こしてくれない?」
「わかった」
蘇生処置で、体力を使い過ぎたのだろう。
成人男性でも、相当の体力を使うはずだ。それを八十八の老婆が行ったのだ。その上、青年に肩を貸して歩いて来たのだ。
途中で倒れなくて良かった。状況を聞いた孝則は、心の底からそう思っていた。
現在、点滴が必要なのは、さくらではなかろうか。
夏が到来し、暑くなっていると言っても、そのまま横になれば体を壊す可能性だってある。
孝則は席を立つと、自分達が到着した時に付けた、待合室の冷房を弱めに設定する。そのまま、貞江が利用している休憩室に向かう。
そして、ブランケットを持ってくると、寝息を立てるさくらを起こさない様に、そっとかける。
心配気な顔で、さくらを見つめる孝則は、吐き捨てる様に呟いた。
「色々と抱え込み過ぎなんだ、馬鹿野郎。俺達は、お前の事くらい、支えてやれるぞ。お前は、あのガキ共と村を守るって言ったな? なら俺は、お前ごと全て守ってやる」
それは、村長としてではなく、一人の男、孝則としての言葉だった。
恐らくこの時、孝則の決心が固まった。もし、それを覚悟と言うのなら、とっくに決まっていた。先代から、村長の座を譲り受ける遥か前に。
やがて、血液パックが届く。だが直接接触して、感染の可能性を増やす訳にはいかない。パックは、入り口前に置かせ様るにして受け取る。
そして、青年への輸血が始まる。
「お母さま、少しお休み下さい」
「そうね、ひと段落ついたし。だけど休憩は、代わり番こにしましょ。あなたも、休んだ方がいいわ。まだまだ時間はかかるんだし」
二人とも理解をしているのだ。村の事を考えるなら、感染症の検査を迅速に行うべきだと。
だが、みのりは八十五歳、貞江でさえ六十五歳なのだ。体力が持つ訳が無い。二人は交代で休憩を取りながら、青年の様子を確認しつつ、検査キットの到着を待った。
検査キットも届くと、貞江は検査の準備を始める。みのりは、さくらを起こす為に待合室へ向かった。
「悪いね、みのり。あたし達だけ休んでさ」
「いいんですよ、さくらさん。でも、うちの人は、もう少し寝かせてあげて下さい」
「あぁ、勿論だよ」
相当に、気を張っていたのだろう。待っている間、孝則はベンチソファーに背を預け、腕組みをしながら寝息を立てていた。
さくらは、ブランケットを折り、孝則の膝にかける。
検査は、患者と直接接触した、貞江、みのり、さくらの順で行った。そして、意識を失ったままの青年、ベッドで眠る子供達へと移る。
青年らが眠ったままであった事が功を奏し、滞りなく進む。最後にみのりが孝則を起こして、検査は終了となる。
しかし、結果が出るまでは、多少の時間がかかる。さくらと孝則は、再び待合室で仮眠を取る。貞江とみのりは、交代で休憩を取りながら作業を続ける。
やがて陽が沈む頃には、検査の結果が出る。さくらと孝則は、既に目を覚ましていた。
そして、皆で食事をしながら、検査の結果を確認をする事になった。
「取り敢えず、妙な結果が出なくて良かったな。さくらの言った通りになったな」
「馬鹿だね、孝則」
「そうですよ、お父さま。この検査では、未知のウイルスを発見する事は出来ませんよ」
「確かにね。でも一通り、感染症の可能性は回避出来たんだし、取り敢えず良しとしましょ」
「でもよ、みのり。その何とかってウイルスが見つかったら、どうするつもりなんだ?」
「そん時は、あたしが検体になればいいだけの話しさ」
「馬鹿な事、言ってんじゃねぇぞ、さくらぁ! お前だけに負担をかけられるか!」
「早とちりするんじゃないよ! 未知のウイルスなんて、ありはしないよ!」
「さくらさん。なんでそう言い切れるんです? 彼らがこの世界の住人じゃないなら、有り得る事じゃないんですか?」
「貞江さん、よくお聞き。あんたは医者として、事態をしっかりと観察しな。あたしが言ってるのは、ただの勘だよ。だけど、一か月もしない内に、あたしが正しかったって証明出来るさ」
さくらは、箸を置くと右手で胸を叩く。そして、孝則と貞江はため息をつき、みのりは笑っていた。
長い付き合いの、みのりは知っている。
人間は誰しも間違える。さくらだって、間違える事はある。
例え間違えても、必ず結果を出す。同じ間違いを、二度はしない。そして、挫折しても歩みを止めない。それがさくらなのだ。
さくらが、何とかなると言う時は、偶然や運に頼りはしていない。何とか出来ると確信している。だからみのりは、さくらという存在を信じていられる。
ただ、それを孝則と貞江に求めるのは、酷と言うものだ。
「ただなぁ、さくらぁ。お前がどれだけ息巻いても、みんな反対するぞ。俺はかばいきれねぇぞ」
「必要ないよ。あんたは、親分らしくびしっとしてれば、いいんだ」
「なんで、そんなに悠長にしてられんだよ!」
「心配してんのかい? 待合室じゃ、あんなに偉そうにしてたってのにさ」
「うるせぇんだよ。一言多いんだ、馬鹿野郎!」
孝則は、ご飯粒を飛ばしながら、声を荒げる。そして、対面に座っていたさくらとみのりは、巧みに首を捻って、飛んでくるご飯粒を躱した。
「あたしが、落ち着いている理由がそんなに知りたいのかい? じゃあ、教えてあげるよ。この村はねぇ、よそ者を受け入れる度量が有るんだよ」
小さな村だから、よそ者を受け付けない。そんな考えは、捨てたほうがいい。
コミュニティに参加する者が、順応するかどうかは、参加する者だけではなく、受け入れる方にも努力が必要なのだ。
人は臆病で寂しがり屋なのだ。だから、大なり小なりコミュニティに属そうとする。
確かに生活の為に必要な場合もあるだろう。法律で決まっているから仕方なくの場合もあるだろう。
だが、企業に属さないと収入を得られない、そんなはずがないのだ。義務教育期間が終われば、進学をする必要すらない。
それでも人は、コミュニティに属そうとする。
同時に人は、見知らぬ他人を恐怖するのだ。
知らないから怖い、だから身構える。場合によっては、コミュニティへの侵入を、阻止しようと考える。その方法が無視であり、心無い言葉を浴びせる行為であるのだ。
見知らぬコミュニティに属そうとする時、かなり緊張するものだ。同時に、受け入れる側も怖いのだ。
しかし、この村は特別だ。
この村は、ヘンゲル夫妻を受け入れた。
そして、夫妻に農業を教え、生活が出来る様にした。
この村は、さくらを受けれ入れた。
それは、みのりが居たからだけじゃない。さくらという存在を、信じたのだ。
誰にだって出来る事ではない。
桑山孝則、鮎川郷善を始め、この村には口が悪い男が多い。しかし、面倒見がいい。
面倒見の良さは、女性陣も同じだ。
明け透けなく話し、笑い合う事が出来る。いつの間にか心の中に入り込み、いつの間にか家族になっている。
そんな仲間だから、さくらは落ち着いていられる。
誰かもわからない、何処から来たのかもわからない、その中には人間じゃないのもいる。
でも、絶対にこの村は、彼らを受け入れる。さくらは、そう確信しているのだ。
「やっぱり、姉さんは最高ね!」
「うるさいよ、みのり。子供みたいに、くっつくんじゃないよ!」
「いいじゃないですか、姉さん」
「その呼び方は止めなって、言ったじゃないか!」
さくらの想いを聞いたみのりは、嬉しそうに腕にしがみつく。
口では、さも迷惑そうにしているが、さくらの表情は柔らかい。そして、優しく妹分の頭を撫でる。
この瞬間、さくらとみのりは、幼い頃に戻っていたのだろう。
だが、優しい時間はそう長く続かない。
全員のスマートフォンへ、一斉にメールが入る。それは、集会の時間が到来した事を告げていた。
ただ忘れてはならない。
コミュニティを大切にしている者程、守ろうとするのだ。コミュニティの中から、危機を排除しようとするのだ。
そして、信川村会議が始まる。
「おい、さくら。みのりが飯を持ってきてる。せめて、それを食ってから横になれ」
「ありがたいけど、今はやめとく。検査が始まる頃に、起こしてくれない?」
「わかった」
蘇生処置で、体力を使い過ぎたのだろう。
成人男性でも、相当の体力を使うはずだ。それを八十八の老婆が行ったのだ。その上、青年に肩を貸して歩いて来たのだ。
途中で倒れなくて良かった。状況を聞いた孝則は、心の底からそう思っていた。
現在、点滴が必要なのは、さくらではなかろうか。
夏が到来し、暑くなっていると言っても、そのまま横になれば体を壊す可能性だってある。
孝則は席を立つと、自分達が到着した時に付けた、待合室の冷房を弱めに設定する。そのまま、貞江が利用している休憩室に向かう。
そして、ブランケットを持ってくると、寝息を立てるさくらを起こさない様に、そっとかける。
心配気な顔で、さくらを見つめる孝則は、吐き捨てる様に呟いた。
「色々と抱え込み過ぎなんだ、馬鹿野郎。俺達は、お前の事くらい、支えてやれるぞ。お前は、あのガキ共と村を守るって言ったな? なら俺は、お前ごと全て守ってやる」
それは、村長としてではなく、一人の男、孝則としての言葉だった。
恐らくこの時、孝則の決心が固まった。もし、それを覚悟と言うのなら、とっくに決まっていた。先代から、村長の座を譲り受ける遥か前に。
やがて、血液パックが届く。だが直接接触して、感染の可能性を増やす訳にはいかない。パックは、入り口前に置かせ様るにして受け取る。
そして、青年への輸血が始まる。
「お母さま、少しお休み下さい」
「そうね、ひと段落ついたし。だけど休憩は、代わり番こにしましょ。あなたも、休んだ方がいいわ。まだまだ時間はかかるんだし」
二人とも理解をしているのだ。村の事を考えるなら、感染症の検査を迅速に行うべきだと。
だが、みのりは八十五歳、貞江でさえ六十五歳なのだ。体力が持つ訳が無い。二人は交代で休憩を取りながら、青年の様子を確認しつつ、検査キットの到着を待った。
検査キットも届くと、貞江は検査の準備を始める。みのりは、さくらを起こす為に待合室へ向かった。
「悪いね、みのり。あたし達だけ休んでさ」
「いいんですよ、さくらさん。でも、うちの人は、もう少し寝かせてあげて下さい」
「あぁ、勿論だよ」
相当に、気を張っていたのだろう。待っている間、孝則はベンチソファーに背を預け、腕組みをしながら寝息を立てていた。
さくらは、ブランケットを折り、孝則の膝にかける。
検査は、患者と直接接触した、貞江、みのり、さくらの順で行った。そして、意識を失ったままの青年、ベッドで眠る子供達へと移る。
青年らが眠ったままであった事が功を奏し、滞りなく進む。最後にみのりが孝則を起こして、検査は終了となる。
しかし、結果が出るまでは、多少の時間がかかる。さくらと孝則は、再び待合室で仮眠を取る。貞江とみのりは、交代で休憩を取りながら作業を続ける。
やがて陽が沈む頃には、検査の結果が出る。さくらと孝則は、既に目を覚ましていた。
そして、皆で食事をしながら、検査の結果を確認をする事になった。
「取り敢えず、妙な結果が出なくて良かったな。さくらの言った通りになったな」
「馬鹿だね、孝則」
「そうですよ、お父さま。この検査では、未知のウイルスを発見する事は出来ませんよ」
「確かにね。でも一通り、感染症の可能性は回避出来たんだし、取り敢えず良しとしましょ」
「でもよ、みのり。その何とかってウイルスが見つかったら、どうするつもりなんだ?」
「そん時は、あたしが検体になればいいだけの話しさ」
「馬鹿な事、言ってんじゃねぇぞ、さくらぁ! お前だけに負担をかけられるか!」
「早とちりするんじゃないよ! 未知のウイルスなんて、ありはしないよ!」
「さくらさん。なんでそう言い切れるんです? 彼らがこの世界の住人じゃないなら、有り得る事じゃないんですか?」
「貞江さん、よくお聞き。あんたは医者として、事態をしっかりと観察しな。あたしが言ってるのは、ただの勘だよ。だけど、一か月もしない内に、あたしが正しかったって証明出来るさ」
さくらは、箸を置くと右手で胸を叩く。そして、孝則と貞江はため息をつき、みのりは笑っていた。
長い付き合いの、みのりは知っている。
人間は誰しも間違える。さくらだって、間違える事はある。
例え間違えても、必ず結果を出す。同じ間違いを、二度はしない。そして、挫折しても歩みを止めない。それがさくらなのだ。
さくらが、何とかなると言う時は、偶然や運に頼りはしていない。何とか出来ると確信している。だからみのりは、さくらという存在を信じていられる。
ただ、それを孝則と貞江に求めるのは、酷と言うものだ。
「ただなぁ、さくらぁ。お前がどれだけ息巻いても、みんな反対するぞ。俺はかばいきれねぇぞ」
「必要ないよ。あんたは、親分らしくびしっとしてれば、いいんだ」
「なんで、そんなに悠長にしてられんだよ!」
「心配してんのかい? 待合室じゃ、あんなに偉そうにしてたってのにさ」
「うるせぇんだよ。一言多いんだ、馬鹿野郎!」
孝則は、ご飯粒を飛ばしながら、声を荒げる。そして、対面に座っていたさくらとみのりは、巧みに首を捻って、飛んでくるご飯粒を躱した。
「あたしが、落ち着いている理由がそんなに知りたいのかい? じゃあ、教えてあげるよ。この村はねぇ、よそ者を受け入れる度量が有るんだよ」
小さな村だから、よそ者を受け付けない。そんな考えは、捨てたほうがいい。
コミュニティに参加する者が、順応するかどうかは、参加する者だけではなく、受け入れる方にも努力が必要なのだ。
人は臆病で寂しがり屋なのだ。だから、大なり小なりコミュニティに属そうとする。
確かに生活の為に必要な場合もあるだろう。法律で決まっているから仕方なくの場合もあるだろう。
だが、企業に属さないと収入を得られない、そんなはずがないのだ。義務教育期間が終われば、進学をする必要すらない。
それでも人は、コミュニティに属そうとする。
同時に人は、見知らぬ他人を恐怖するのだ。
知らないから怖い、だから身構える。場合によっては、コミュニティへの侵入を、阻止しようと考える。その方法が無視であり、心無い言葉を浴びせる行為であるのだ。
見知らぬコミュニティに属そうとする時、かなり緊張するものだ。同時に、受け入れる側も怖いのだ。
しかし、この村は特別だ。
この村は、ヘンゲル夫妻を受け入れた。
そして、夫妻に農業を教え、生活が出来る様にした。
この村は、さくらを受けれ入れた。
それは、みのりが居たからだけじゃない。さくらという存在を、信じたのだ。
誰にだって出来る事ではない。
桑山孝則、鮎川郷善を始め、この村には口が悪い男が多い。しかし、面倒見がいい。
面倒見の良さは、女性陣も同じだ。
明け透けなく話し、笑い合う事が出来る。いつの間にか心の中に入り込み、いつの間にか家族になっている。
そんな仲間だから、さくらは落ち着いていられる。
誰かもわからない、何処から来たのかもわからない、その中には人間じゃないのもいる。
でも、絶対にこの村は、彼らを受け入れる。さくらは、そう確信しているのだ。
「やっぱり、姉さんは最高ね!」
「うるさいよ、みのり。子供みたいに、くっつくんじゃないよ!」
「いいじゃないですか、姉さん」
「その呼び方は止めなって、言ったじゃないか!」
さくらの想いを聞いたみのりは、嬉しそうに腕にしがみつく。
口では、さも迷惑そうにしているが、さくらの表情は柔らかい。そして、優しく妹分の頭を撫でる。
この瞬間、さくらとみのりは、幼い頃に戻っていたのだろう。
だが、優しい時間はそう長く続かない。
全員のスマートフォンへ、一斉にメールが入る。それは、集会の時間が到来した事を告げていた。
ただ忘れてはならない。
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