妖精さん達と暮らそう 改訂版

東郷 珠

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さあ、お花見だ!

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 朝から満員電車に乗って、大学で講義を受けてから、夕方からアルバイトに行きました。いつもの会計事務所で、入力作業や書類整理などを数時間ほど行って疲れて家に戻ると、なぜか裕子ちゃんが私の部屋の前で待ち構えてました。

「あんた、今日バイトだったの? 待ってたんだよ」

 この子、まさか外で待ってたなんて事は無いでしょうね。

「まだ夜は寒いわね。早く部屋に入ろうよ」
「裕子ちゃん。自分の部屋は隣なんだし、勝手に戻れば良いじゃない」
「グチグチとうるさい子ね。早く鍵を開けなさいよ。それか合鍵を渡しなさい」

 この子って、本当に何を言っているのでしょう。合鍵なんて渡したら、居座られるに決まってるじゃないですか。いやですよ。
 で、結局は裕子ちゃんを自宅に上げてしまう私って、甘々さんですね。

 鍵を開けると、ペチとミィがお出迎えしてくれます。ニャーって鳴いて、もう。かわいいったらないですね。

 子猫たちの後を着いて回るお掃除の妖精さんは、もう見慣れた光景になりました。お料理の妖精さんは、私が帰ると同時に料理の支度を始めます。音楽の妖精さんが、ヒーリング音楽を奏でてくれます。

 ここまでだけ見れば、どこのお嬢様って感じの至れり尽くせり感です。

 だけど机の上では、お勉強の妖精さんが手招きをしています。おぅ、まだ頑張れと言うんですね。相変わらず、妖精さんにはモテモテの私です。

 裕子ちゃんといえば、すやすや寝ているモグを押しやって、ずかっと床に座ります。モグは不満そうにシャーって鳴いて、窓際に去って行きました。モグ、可哀そうに。だから裕子ちゃんは、いまだに子猫に好かれないんですよ。

「あんた、今週末は暇よね」
「暇じゃないよ。勉強するんだもん」
「それは、暇だっていうのよ。決まりね、お花見をするわよ」

 裕子ちゃんって、どっかの武くんみたいですね。ガキ大将ですね。天下無敵さんですね。夕食をガツガツ食べて、おなかを擦りながら自分の部屋に戻っていきました。べつに、いいですけど。食材の調達は、ほとんど裕子ちゃんですし。

 しかしですよ。私が気が付いてないだけで、実は既に事件は始まっていたんです。もはや私の家族と言っても過言ではない子達は、ひと際目を輝かせていたんです。
 
 週末の朝に目を覚ましたのは、呼び鈴の音でした。ドアを開けると、薄汚れた格好の美夏ちゃんが立ってました。
 事情を聞くと、あれからずっといろいろな山を登り、サバイバルをしながら生活していたそうです。ドン引きするくらいの、脳筋さんです。

 仕方なく、服を引っぺがして洗濯機に入れ、美夏ちゃんを浴室に放り込みました。もちろん、火と水の妖精さんにお願いして、お湯は張ってあります。
 美夏ちゃんは「ふぃ~」ってのんきな声を上げながら、お風呂でくつろいでいます。困った子ですよ、本当に。

 私が起きたのを見計らって、お料理の妖精さんがお花見弁当を作り始めます。匂いに釣られたのか、裕子ちゃんが起きて来ました。

「あ~。おなか空いた~。あれ、美夏じゃない。来てたの?」

 裸で私の部屋をウロチョロする美夏ちゃんに、服を着せようと私が悪戦苦闘している所に、裕子ちゃんはのんきな事を言ってます。
 
「美夏ってば、ずいぶんと野生化してるわね」
「裕子ちゃん、そう思うなら手伝ってよ。美夏ちゃん、服を着ないんだよ。完全な野生児だよ」

 結局、すっごく時間がかかりましたけど、美夏ちゃんに服を着せました。これだけで、もうへとへとになりました。軽く朝食を済ませて、出発したかったんですが。裕子ちゃんと美夏ちゃんは、モリモリと朝食を食べてます。

「この子たちって、何を作ってるの? お弁当? どこに行くの? ぼくも行きたいな?」
「美夏。あんたも来なさい。お花見よ」
「いいね、お花見か~。楽しみだね」

 あなたたちの目的は、桜よりお弁当だよね、きっと。こういう時に、行動力の有る裕子ちゃんは頼もしいんです。前の日から、レンタカーを借りていたそうです。

 お弁当も完成しましたし、いざ出発です。私も少し楽しみになってきました。そして車の中には沢山の妖精さんが飛び跳ねてました。
 そっか、うんうん。わかってましたよ。きっとこの子達は、私のウキウキに反応したんだね。
 
 今日の目的地は、昭和記念公園だそうです。のんびりピクニックだそうです。たまにはそんなのも良いよねなんて、思っていた時期が私にもありました。

 だけど、私はまだ気が付いてなかったんです。裕子ちゃんは、桜の開花時期なんて気にもかけてませんでした。なぜなら、お花のスペシャリストが居るのを、裕子ちゃんは知っているからです。公園に着いてシートを引いてから、裕子ちゃんは言いました。

「枯れ木に花を咲かせましょう!」

 そして裕子ちゃんは、私の方をちらちら見ます。何を考えているのかと思った瞬間でした。お花の妖精さんが、私の後ろからヒョコっと顔を出しました。珍しく裕子ちゃんに反応しています。そして、桜をはじめ、さまざまな花を咲かせてしまいました。

 姉さん、事件です。

 時期外れの花が咲き乱れる異常事態に、職員さんたちは大騒ぎです。お客さん達は、大はしゃぎです。そんな中で、裕子ちゃんはお弁当を広げました。

 私は気が気じゃなくて、お弁当が喉を通りません。そもそも朝ごはんを食べてから、そんなに時間が経過してませんし。だけど、裕子ちゃんと美夏ちゃんはただ者じゃありません。ほとんど二人で、お弁当を食べ尽くしました。

「満開の花に囲まれて食事するのは、良いよね。ぼくは好きだなぁ」
「それより何よこれ、美味しすぎ!」
「ねぇ、二人とも。この騒ぎが気にならないの?」
「ぼくは別に気にならないよ」
「そんな事より、あんたも食べて見なよ」

 無理ですよ。穴があったら入りたいですよ。
 
 でもね、はしゃいでいるのは人間だけじゃないんです。満開の桜の下で、妖精さん達が輪になって踊ってます。美夏ちゃんにくっ付いていった、サバイバルの妖精さんも加わって、癒しの空間が作られています。

 なんだか、見た事がない妖精さんも居る気がする。でも、かわいさ満点だから、いっか。
 あなたたちだけだよ、私の癒しは。ちょっと、現実逃避する私です。

 私を現実に戻してくれたのは、夕方のニュースでした。SNSもすごい事になってたみたいです。もう、二度と裕子ちゃんとはお花見に行かないぞ。そう心に決める、私でした。
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