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バレンタインデーのチョコ作り対決

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「バレンタインか~。何が楽しいんだろう~」
 
 おぅ。思わず口に出てしまった。しかも、チョコ売り場の前で。わいわい楽しそうにチョコを物色する女の子達の白い目が、私に突き刺さります。やばいです。怖いです。

 多分ね、バレンタインデーって、ドキドキ感が良いんですよ。チョコを貰えるかどうかっていう、フワフワしてる男の子達。渡すの渡さないのって、一喜一憂する女の子達。ほのかな恋心ってやつですよ、ねっお客さん!

 私? そりゃあ、私もれっきとした女ですよ。「そうじゃ無くて、チョコを渡さないの?」って、聞くな!

「年齢イコール彼氏いない歴の私が、不思議っ子として地元で扱われて来た私が、チョコを渡す相手なんているもんかぁ~!」

 最近では勉強やバイト三昧で、手段が目的に変わりつつある毎日ですよ。
 出会い? 私だって頑張ってますよ。大学では、男の子と積極的に話をしますし。清楚系女子をたっぷりとアピールしますし。でもね、妄想するとちらつくんですよ。

 彼氏と遊びに行く時に、予防医療の妖精さんがちらり。
 彼氏の家に遊びに行くと、お掃除の妖精さんがちらり。
 手料理をって頑張ると、お料理の妖精さんがちらり。

 きっと、あの子達はどこでもついて来る。そして、サイコな状況に彼氏がドン引き。

 駄目駄目。ネガティブになってはいけない。妖精さんも、私も悪くない。悪くないったら悪くない。
 箒がフワフワ動いてたり、フライパンが浮かんでたりなんて、ホラーな環境すら受け入れてくれる男性が、きっと何処かに居るはず! 若しくは、私と同じく妖精さんが見える特殊体質の男性が存在するはず! 目指せお嫁さん! そんでもって、女子力アップ!

 ☆ ☆ ☆

「と言う訳で、チョコを作ります!」

 私は自宅で、妖精さん達を集めて言いました。お掃除や他の妖精さん達は、首を傾げています。しかし、お料理の妖精さんはやる気満々どころか、クルクルと踊り出しました。

「いや、別にあなた等にお願いするんじゃ無いよ」

 その言葉に、お料理の妖精さんは泣き出しました。四つん這いで、床を思いっきり叩きながら号泣してます。いやいや、話しは最後まで聞こうよ。

「チョコ作り対決だよ!」

 私はビシっと、お料理の妖精さんを指さします。すると、お料理の妖精さんは、ちょこんっと顔を上げて私を見上げます。
 
「私とあなた達、どっちがよりプレゼントに相応しいチョコを作るか、勝負するの!」

 お料理の妖精さんは両腕を上げ、雄叫びを上げています。映画のボクサーみたいです。グゴゴゴって効果音が聞こえて来るようです。某映画のテーマ曲を、音楽の妖精さんが奏でて盛り上げてます。
 そんなお料理の妖精さんを、モグとペチがちっちゃい前足で、ちょいちょいと突いています。君達、そんなに派手なリアクションが面白いか?

「まだ話しは終ってないよ、諸君! 勝負の判定は、何とこの人!」
「私だ~!」

 そしてガチャリとドアを開けて、ドカドカと音を立てて入って来る裕子ちゃん。何故か大量の荷物を抱えています。
 そう。勝負の判定人は、食欲魔王こと裕子ちゃんです。
 
 突然の乱入と大声に驚いた、モグ、ペチ、ミィは、逃げ出しつつ、フ~って毛を逆立てています。驚かしちゃ駄目だよ、裕子ちゃん。
 しかし裕子ちゃんは、しょっちゅう私の自宅に出入りしているのに、まだモグ達に警戒されるとは不憫な子ですね。
 
 もう、気が付いてると思いますが、材料は裕子ちゃんが用意しました。裕子ちゃんが両手にいっぱいに抱えてる荷物を見る限り、あやつ盛ったね。今回は、私のお小遣い出した三千円程度じゃ、あんな荷物にならないし。流石は食欲魔王です。

 そんなこんなで、チョコ作り対決の開始です。

 私が作るのは、トリュフチョコをアレンジした『妖精さん型チョコ』です。
 基本のガナッシュ作りは、刻んだ板チョコと生クリーム、それとラム酒を少々です。滑らかになるまで混ぜ合わせてから、スプーンを使って小分けにします。冷やし固めてから丸く成型、これがベースになります。

 成形したベースの塊を、溶かしたホワイトチョコに潜らせて、二層のチョコにします。
 もちろん冷やし固めてから、丸く成型します。この時ついでに、手とか足等のパーツをホワイトチョコで作っちゃいます。一緒に冷やしちゃいましょう。

 ここまでの作業で注意するのは、チョコの大きさです。
 丸いチョコを小さいスプーンと大きいスプーンを使って、二種類の大きさを作るんです。わかります? 小さいのが頭で、大きいのが胴体になるんですよ。

 ここから登場するのは、必殺アイスピック! 頭の部分に表情を作っていきます。口を掘って、目を作って、眉を作って、掘った屑で鼻を作る。口と目は深めに掘ると、ベースチョコの黒い部分が見えるので、それっぽくなります。

 それから、頭用の小さいのと、胴体用の大きいのをホワイトチョコで接着する様に重ねて、手足のパーツもくっつけてから冷やし固めます。じゃないと、崩れちゃいますから。
 固まったら微調整で多少削り、デコペンでほっぺを少し赤くして完成です!

「へぇ~、あんた器用ね。雪だるま? 可愛いじゃない」
「雪だるまじゃ無くて、妖精さんだよ!」
「妖精って雪だるまなの?」
「違うよ、デフォルメしてるの! 私の腕では、これ以上の再現が出来ないんだよ」
「あっそ」
 
 あっそですって、聞きました奥さん。私の小一時間かけた努力の結晶を、あっそで終わらせたんですよ。酷い人です、裕子ちゃん。

 そして、私の足に食欲旺盛なモグ纏わりつきます。あげないよ。チョコ食べたらお腹壊すよ。ミャーって可愛い声出しても、あげないよ。飼育の妖精さんが、腕でバツを作ってるもん。
 そしてミィとペチは、風の妖精さんを枕に窓際で寝てます。君もあっちで寝てらっしゃい、モグ。

 さて、これで終わりじゃ無いのです。私は、よりプレゼントに相応しいチョコと告げたはず。ラッピングがと~っても大切なんです。
 
 ビニールの袋に詰めてから、リボンで口を縛ります。そして箱にペーパークッションを敷き詰めて、妖精さんチョコを入れます。可愛い柄の包装紙で包んだ後、リボンで飾り付けして完成です。

 じゃ~ん! 私だってやれば出来るんです。どうです? 私の女子力! フフフ。

 でもね、やっぱり私は甘すぎた様です。ミルクチョコの様に。
 そして現実は、何時も私に厳しいんです。ビターチョコの様に。
 某ボクシング映画のテーマをバックに、本気を出すお料理の妖精さん。
 
 圧巻のガトーショコラ。
 魅惑のフォンダンショコラ。
 誘惑のザッハトルテ。
 屋台名物チョコバナナ。

「って、バナナなんて何で買って来たの?」
「それは、私が食べたかったからじゃない」

 裕子ちゃんのせいで、若干お祭りっぽくなりましたが、結果は言わずもがな。
 そりゃあ、お料理の妖精さんが作ったチョコづくしに、私のちんまい手作りチョコが勝てるはず無いです。きっと裕子ちゃんは、可愛さとは無縁の世界に居るんだ。シクシク。

 でも、私の手作りチョコは、全ての妖精さんに人気が出ました。
 雪だるまと言われた妖精さん型チョコに、みんなが群がりだすと輪になって踊り始めます。そんなに気に入ってくれるなら、作ったかいが有るね。でも、そのチョコを裕子ちゃんは、頭からボリボリ齧って一言。

「まあまあね」

 妖精さん達は、絶句した様にあんぐりと口を開けて裕子ちゃんを見つめています。その後、シクシクと泣き始めました。う~ん、すごい罪悪感です。
 気持ちはわかるけど食べ物だしね、仕方ないんだよ。そして、妖精さん達は暫くの間、私にしがみ付いて泣いてました。

 その間、裕子ちゃんはチョコづくしを食べ尽くし、満足気な顔をしてました。
 そう言えば、これって友チョコ? まぁ良いか。誰にも渡さないよりはね。
 
 実はその後に余った材料で、妖精さん型チョコを作り直しました。尚、お料理の妖精さんが手伝ってくれたおかげで、抜群の再現度です。
 芸術品の域に達したチョコを作り上げました。展示してお金を取れるレベルです。暫くの間、妖精さん達と愛でてましたが、バレンタインデー当日に、美味しく頂かれました。裕子ちゃんに。
 
 でも、寂しく無いバレンタインになった事には、感謝しなきゃいけませんね。裕子ちゃんと妖精さん達に。
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