妖精さん達と暮らそう 改訂版

東郷 珠

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お花の妖精さん

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 妖精と言えば定番はお花の妖精さんじゃないでしょうか?
 愛らしい姿、背中の羽をパタパタと花の周りを飛び回り人を癒す。そんな姿を妄想します。

 王道中の王道な、お花の妖精さん。あれっそう言えば、今まで見た事無いかもしれない。
 ただね、そろそろ定員オーバー気味な気がするんですよ。六畳のワンルームに、妖精さん達と子猫三匹ですよ。もう良いんじゃ無い?

 そんな時に限って出会いが訪れるものです。

 寒いし新しいコートが欲しいなと、休日にショッピングモールへ行った時の事です。たまたま私は、ガーデニングショップに立ち寄りました。冬にもこんなに咲いてる花があるんだなんて、私は呑気に花々を眺めていました。

 冬の花と言えば定番のパンジーやビオラから、オキザリス、シクラメン、クリスマスローズ等、様々な花が所狭しと並んでいます。見ているだけで、潤いを与えてくれます。寄せ植えも見つけました。綺麗ですね~! 売り物っぽいけど値段をチラッと、うわっ高っ!
 流石に学生の私が手に出来る値段では無かったですが、ポット苗自体はそれ程高くありません。
 
「お花か~。いいな~」

 そんな事を呟いた時の事でした。私はお花の間に潜む影を見つけます。そして目が合いました。小さく可憐な妖精さんです。少し逞しさが有るお掃除やお料理の妖精さんより、雪や氷の妖精さんに近い感じです。
 そんでもって実物は想像以上に可愛い。羽はありませんけど、それが何だって言うんです。可愛いは正義です!

 目が合った瞬間、私の鼻先でひらひらと舞い始めました。可愛い妖精さんに懐かれると悪い気はしません。
 でも、この子ず~と私にひらひらと着いて来ます。私は尋ねました。

「あなた、お花の妖精さんでしょ? お花と一緒に居なくていいの?」

 お花の妖精さんはにこっと笑って、手招きして飛んでいきます。数ある花の中から、特定のポット苗に止まりました。
 
「もしかして、お勧めを教えてくれてるの?」

 お花の妖精さんは、笑顔で頷きます。

「でもな~。手入れとか面倒だし~」

 そう呟きチラッとお花の妖精さんを見ると、何だかボディーランゲージで私に訴えかけようとしてます。あ~、何となくわかった。この子、着いて来る気だ。「花の手入れは任せて」って言ってるんだ。

 どうしよう……。

 私が暫く考えながら、じっとお花の妖精さんを見つめていると、段々と目を潤ませていきます。あ~泣きそうになってる。

「もう、仕方ないな~。うちに来るのね? いらっしゃい。それでお勧めは?」

 あんな可愛い子を泣かせては、女が廃るってもんですよ。お花の妖精さんは、嬉しそうにお勧めのポット苗を見繕っていきます。
 
 せっかくだから、白いプラスチックのフラワーポットと吊り下げ用のフックを、数点一緒に買いました。
 園芸用の腐葉土はどうするの? そんなの適当に選びます。うちには取って置きの妖精さんが居るんですから。土に関してはプロフェッショナルの、土の妖精さんにお任せしましょう。
 だけど、結構な荷物になりました。今日の目的であるコートは、園芸用品に化けました。グスン。

 園芸用品を持って、電車に乗ろうと思ったんですが土が重くて。こんな時こそ貸しを返してもらおうと、裕子ちゃんに電話しました。暇なんですかあの人、車で直ぐに駆け付けてくれました。

「何あんた、ガーデニング始めるの?」
「うん。ちょっと訳が有って」
「また、なんか変なのがくっ着いて来たとかそんな感じか。馬鹿ね」
「馬鹿じゃないよ。可愛いお花の妖精さんだよ」
「それは良いから、何買ったのよ」

 そう言って裕子ちゃんは私の荷物を見ます。しげしげと見つめた後、徐に失礼な事を言いました。

「地味ね。あんたとそっくり!」

 ねぇ、酷いと思いません?

「それだけじゃ駄目よ。せっかくだから、もっと飾りつけなきゃ! 豪華に行くわよ」

 あぁ、裕子ちゃんに電話した私が悪いのでしょうか? 裕子ちゃんが借りた車でホームセンターに連れて行かれます。
 ウッドデッッキにラティスにワイヤー等、色々買わされてやっと自宅に辿り着きました。

 その後も大変でした。
 ベランダにウッドデッキを敷いて、ラティスをベランダの支柱に取り付ける。フラワーポットに花を植えて、吊り下げフックでラティスに飾り付けていきます。裕子ちゃんも手伝ってくれたので、作業は小一時間程で終わりました。けど、もうへとへとです。

 作業が気になるのか、モグやミィがウロチョロするし。お掃除の妖精さん達は、舞い散る土埃を片付ける為に忙しなく動き回るし。
 おまけに新しい仲間に興味津々な火、水、風の妖精さんが、お花の妖精さんに纏わりつくし。そこに裕子ちゃんが近付くと、蜘蛛の子を散らしたように逃げ回るし。そんなこんなで、私の自宅はお祭り騒ぎになってました。

 完成したのは白で統一された、小さいベランダガーデン。出来栄えには大満足です。お花の妖精さんも大喜びです。ベランダガーデンをクルクルと飛び回っています。

 お掃除の妖精さんも心なしか嬉しそうです。お掃除の場所が増えたのがそんなに嬉しいのでしょうか……。
 
 ラティスをよじ登ろうとするモグを抱えて、私は室内に戻ります。その間、水の妖精さんがお花に水をあげてくれました。

 でも、ふと私は気が付きました。

 お花の植え付けをしたのは私、ラティスを組み立てたのは裕子ちゃんと私です。お花に水をあげたのは水の妖精さん、土に栄養を与えてくれるのは、土の妖精さんです。
 お花の妖精さんってポット苗を選んだだけで、何もしてなく無い?

 ガーデニングを少しでもやった事が有る人は、知ってると思います。花の苗は、植え付けた所に根を伸ばしていき、生育していくものです。
 いくら初心者が育成し易いビオラでも、ポット苗を一株程度植え付けた所で、一日でフラワーポットいっぱいには成長しません。

 でも、ファンタジーはそこに有りました。

 翌朝目覚めてベランダを見ると、フラワーポットいっぱいに花々広がっています。
 土の妖精さんが与えた肥料が良かったのか……。まさか、肥料だけでこんな育ち方しませんよ。

 原因はこの子。お花の妖精さんです。どうやら、お花の妖精さんが本気を出して、育成を速めた様です。様子を見に来た裕子ちゃんは、呆れた口調で言いました。

「やっぱりね」

 お花の妖精さんは、こまめに花がら摘みや摘心をやって、花の状態を維持してくれます。
 それはもう、嬉しそうに花の手入れをしています。水の妖精さんは、フンって顔をしながらもお尻をフリフリして、花に水をあげてます。
 土の妖精さんからは、「自分が潜っているプランターにも花を植えろ」と、催促されました。根が邪魔にならないでしょうか? その内、花苗を買ってきてプランターにも植えてあげましょう。

 そんなこんなで、私の自宅に仲間が増えました。おまけに緑溢れるベランダになりました。どんどん豪華で、賑やかになっていく私の自宅です。
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