妖精さん達と暮らそう 改訂版

東郷 珠

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お仕事の妖精さん

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 私は週に一度位のペースで、アルバイトをしています。お金に困ってるとか、欲しい物が有るって訳では無いんです。私の目標は『出来る女』そして『幸せな結婚』ですから。今の内に、職場体験っぽい事をしても良いかな位に、考えたわけですよハハハ。

 因みにお勉強の妖精さんにスパルタされて合格した国家試験は、宅地建物取引主任者、行政書士、税理士の三つです。難易度高いのが混じって無いかって? そうですよ。苦労したんです。寝不足まっしぐらだったんですよ。

 税理士試験は、会計学二科目と、法人税法、消費税法、所得税法の税法三科目に挑戦しました。それを全て一発合格って凄くないですか? まぁ本当に凄いのは、出来の悪い私を指導してくれた、お勉強の妖精さんなんですけどね。

 せっかく超難関試験をクリアしたんだから、やってみよう職場体験! って事で、運良く応募していた、自宅近くの税理士事務所で面接、即採用に至りました。やったね。

 順風満帆じゃないですか。とうとう私の時代が来たかと思いました。はい、調子に乗るのはここまでです。知ってます。人生そんな甘くないって。でも良いじゃないですか、夢くらい見たって。
 
 税理士ってなんかカッコイイねとか、収入良さげだねとか、私だってその位は考えますよ。「御社はここを注意した方が良いですよ」なんて、さらっと言っちゃたりして。『これぞ出来る女!』でも、実際にはと~っても地味でした。

 ファイリング等の雑用から始まり、先輩職員の補助をして、空いた時間にパソコンへ向かって伝票入力の日々です。
 
「先輩職員が合格出来て無い税理士試験を、五科目私は合格してるんだぞ! もっと内容の濃い仕事よカモーン!」

 そんな愚痴を言っても仕方ありません。だって、仕事未経験の人間、それに週一のアルバイトに任せる仕事なんて、たかが知れてます。なので黙々と言われた事をこなしつつ、先輩職員の仕事ぶりを拝見させてもらいます。

 税理士事務所のお仕事は、ざっくり言うと申告のお手伝いと税務相談です。申告するには申告書を作らなければいけません。その為に、企業が一年間どの様な経営を行ってきたかを、まとめる必要が有るんです。それが年度決算、四半期決算、月次決算と言われる物です。

 企業によっては、税理士事務所へ全て丸投げする所もあれば、全て自社で決算を行い、申告書のチェックだけお願いする企業も有り、依頼形態は様々です。ですが、申告のお手伝いという所に変わりは有りません。

 多分誰でも慣れれば、基礎的な簿記の知識で、決算に関連した作業は出来るでしょう。大切なのは正確である事です。その為に、税務のスペシャリストで有る、税理士が居るのです。

 当然ながら、税計算は法律に基づいて計算が行われます。会計処理も会計基準と呼ばれる物が存在します。税法を逸脱した処理を行えば、税務調査が入った時に追徴課税をされるでしょう。しかも、税理士事務所が確認した申告にミスが有ったら、目も当てられません。実にシビアな仕事です。

 アルバイトを始めて気が付いたのは、仕事って楽じゃないって事です。知識だけでは分からない。実際に体験して始めて気が付いたシビアな現実です。「内容の濃い仕事カモーン」と調子に乗っていた私を、叱りつけたい気分になります。

 私は自分を要領が良いタイプと思った事は、一度も有りません。頭の回転も良くないです。そんな私が国立大学に通い、税理士試験に合格したのは、何度も言いますがお勉強の妖精さんのおかげなんです。

 そしてここでも、登場しました。
 じゃん! お仕事の妖精さん。

「この資料、あのファイルに入れといて」

 先輩職員のぶっきら棒な指示に、「えっ! どのファイル?」とまごつく私に、お仕事の妖精さんは、ひらひらと飛んでファイルの所の場所を教えてくれます。
 パソコンに入力していると「この仕訳間違ってるよ」と優しく教えてくれます。他にも仕事の段取りやら何やら、色々と教えてくれます。社会経験の無い私にとって、とても有難い存在です。
 
 お仕事の妖精さんって位だから、仕事を代わりにしてくれないのかって? 甘々ですね。お砂糖盛り沢山です。この妖精さん、リアルに干渉する力は持ってません。

「あなたは、入力とか出来るの?」

 そう言うと、お仕事の妖精さんは小さい体をぴょんぴょん動かして、キーボードーを打ってくれました。キーボードの上でダンスをしているみたいで可愛かったです。
 でもね、実際には記録に残りませんでした。不思議ですね。でも良いんです。丁寧に仕事を教えてくれますし、右も左もわからない私には貴重な存在なんです。

 そんなお仕事の妖精さんは、アルバイトに向かう私に必ず着いて来てくれます。
 
「今日もよろしくね」

 お仕事の妖精さんを撫でると、笑顔でかっこよくポーズを決めてくれます。その笑顔だけで、やる気がムクムク湧いてきます。

 仕事に慣れ始めた頃です。ある先輩職員に言われました。

「君、凄いね。仕事は早いし正確だし。流石その年で税理試験に合格しただけ有るね」
「いや、まだまだ勉強させて頂いてます、ハハハ」

 褒められたのは嬉しいけど。言えない、全て妖精さんアドバイスですとは。
 税理士の先生からは、勧誘されました事もあります。

「君、大学卒業したら、うち来ない?」
「け、検討させて頂きます」

 先生に答えた時の私は、引き攣った笑顔だったと思います。だって税理士になって開業しても、私が新規顧客開拓を出来る筈が無いでしょ。そんな事を裕子ちゃんに相談したら、あっさりと流されました。

「あんた、ノリだけで生きてるよね。もう少し深く将来の事を考えなよ」
「美味しい物を食べる為に生きている様な、裕子ちゃんに言われたくないよ」
「馬鹿ね。私は美味しい物食べる為に、お金を稼ぐのよ。目的がはっきりしてるでしょ。あんたは、お嫁さんとかフワフワした事考えて無いで、具体的にどうするのか考えた方が良いのよ」
「やってるじゃない。国家試験も受かったし、バイトもしてるし」
「でも、税理士になるつもりは無いんでしょ?」

 私は返す言葉が有りませんでした。くそぅと思っている私に、お仕事の妖精さんが頬擦りしてくれます。

 そう。私にはこの子が居るんです。どんな仕事も、この子が居ればへっちゃらよ!

「これからも、相談に乗ってね」

 私がお仕事の妖精さんを撫でると、キラキラ笑顔でサムズアップしてくれました。

「仕事が出来ても、結婚は出来ないんだからね」

 裕子ちゃんに止めを刺されて、私は崩れ落ちます。何処かに恋愛の妖精さんは居ないでしょうか?
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