妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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それぞれの決着

101 終焉の序曲

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 神々の世界に反旗を翻した四柱の神がいた。
 邪神ロメリア、嫉妬の女神メイロード、混沌の神グレイドス、戦の神アルキエル。彼等四柱を、神々は混沌勢と呼んだ。
 
 混沌勢の四柱は、文字通りラフィスフィア大陸に混沌を起こした。
 混沌の神グレイドスは、大陸中央部のクライア王国、メイレア王国、ラリュレル王国で人々を洗脳し、ライン帝国へ侵略させた。更に、大陸東方のシュロスタイン王国、アーグニール王国、グラスキルス王国で人々を洗脳し、三国同士の戦争を起こさせた。

 大陸で起こる戦争は、戦の神アルキエルにより拡大され、多くの人々が犠牲になった。
 自力で存在を保つ事が出来ない程、東京でペスカ達にダメージを与えられた邪神ロメリアは、嫉妬の女神メイロードの神気を分け与えられ、力を取り戻した。

 そして邪神ロメリアは、いずれ来る決着の時に向けて、闇に潜み力を溜める。混沌とする大陸に渦巻く、恐怖や怒り等の感情を吸収し、更に力を増していく。

 ライン帝国では動く死者を増殖させ、大陸の東方ではモンスターを大量発生させた。その結果、ラフィスフィア大陸の中でも一番大きい国土を持ち、発言力と影響力を持っていたライン帝国が壊滅。その帝国に攻め入った隣国三国も壊滅。泥沼の戦争を繰り広げていた、東方三国も壊滅の窮地にあった。

 混沌勢の四柱は、侮っていた。所詮神は、己の領分にのみ執着するものだと。
 確かに、その目論見は間違っていなかった。碌に連携も取れない神々は、混沌勢が好き勝手にラフィスフィア大陸で暴れるのを止められなかった。

 しかし、生前の活躍により英雄視され、丈夫な体を求めて現代日本に転生したペスカ。彼女の力は、既に神に届く域まで達していた。そして彼女の兄である冬也は、大地母神フィアーナの血を引く半神。彼の力は、戦いを重ねる毎に強くなっていく。
 
 混沌の神グレイドスは、ペスカと冬也の手で倒された。圧倒的な戦闘力を誇る戦の神アルキエルは、冬也の手により倒された。
 嫉妬の女神メイロードは、ペスカの策略で神気を封じられ、いとも簡単に倒された。

 ペスカと冬也は、仲間達の力を借り、世界を動かし始める。
 東方三国で人々を助け、溢れかえるモンスター達を掃討し、沈静化させていく。その勇気を貰い、民も国も自らの窮地を撥ね退ける様に、一つになり立ち上がる。
 そして混乱時に途絶えていた大陸間の交流が復旧し始め、東方の三国とエルラフィア王国を中心に、残された国々は大陸に蔓延する混乱に向い、団結の傾向を見せていた。
 更にペスカ達は女神の力を借りて、ライン帝国周辺からゾンビを浄化した。
  
 人々が平和に向けて歩み出したその時、終焉が訪れる。
 それは嘲笑うかの様に、易々と世界を蹂躙していく。

 ライン帝国周辺からゾンビが浄化されたその日、魔道大国メルドマリューネから、数万発のミサイルが発射された。
 ミサイルは空を渡り、大陸の東と南西方向に向かう。そして混乱から復旧しつつある国々を、奈落の底に突き落とす。
 大陸南西のエルラフィア王国、以南の三国、東方の三国、各都市にミサイルは雨の様に降り注いだ。

 魔道大国メルドマリューネの新兵器、この構造は酷く単純である。ペスカの発明を基盤とし、邪神ロメリアが日本潜伏時に得た知識を借りて作り上げたのである。
 
 大型の魔攻砲から、細長く先の尖ったロケット型の砲弾を打ち出す。弾頭の代わりに魔石が装填され、着弾と同時に爆発する様に仕掛けられている。推進と誘導も魔石で管理され、標的を正確に捉える様に設計されている。
 そして、ミサイルの推進と爆発力の源となるのは、奴隷達のマナであった。多くの奴隷達から極限までマナを搾り取りとって、数万発のミサイルは発射された。

 人の命に欠片も価値を感じていない、悪魔の所業。
 
 ミサイルは着弾すると爆発し、周囲を巻き込んで燃やしていく。都市は破壊され、人々は焼き尽くされる。ミサイルの被害から逃れたのは、冬也の神気が籠った魔石で結界を張った一部の都市だけ。

 この日、ラフィスフィア大陸から、多くの命が失われた。

 それだけでは、終わらない。
 ミサイルの発射を合図に、魔道大国メルドマリューネと国境を接する、エルラフィア王国とグラスキルス王国に、大軍が侵攻を始めた。
 エルラフィア王国のミレーディア領軍は、半刻も持たずに壊滅。グラスキルス王国の国境門を守る兵士達も、ほぼ同時に壊滅した。
 
 狙いすました様な攻勢に、次々と敗れ去っていく。
 警戒はしていた。守りも固めていたつもりだった。しかし、相手の準備が遥かに上回っていた。

 サムウェルは王都帰還中に、ミサイルの雨を見る。遠目に見える王都には、見た事の無い物が降り注いでいる。

「何だあれ? メルドマリューネか? そんな、まさか・・・」

 サムウェルの肌は粟立つ。それは歴戦の勇士だけが感じる、胸騒ぎだったのかもしれない。そして、サムウェルの感じた悪寒は、間違いなく正解なのである。

 王都が攻撃を受けている。もしかしたら、この国だけで無く、大陸全土が同じ状況かも知れない。早く状況を確認しなければ、直ぐに手を打たなければ、大陸から国が全て消えてしまうかも知れない。
 想定以上の事態に、サムウェルの心は揺れる。サムウェルはマナを強め、駆けるスピードを上げた。

 アーグニール王国のモンスターをほぼ沈静化させたモーリスとケーリアは、グラスキルス王国の国境沿いで、空を飛ぶ異質な物体を見た。

「ケーリア、上を見ろ!」
「北から飛んできている様に見えるが、まさかメルドマリューネか?」
「ケーリア、嫌な予感がする。急いでサムウェルと合流しよう」
「そうだな、モーリス。我等の三国は、ペスカ殿のおかげで都市に結界が張れた」
「エルラフィアか?」
「あぁ。あの国まで落ちる事があれば、我等だけではメルドマリューネに太刀打ちできんぞ」

 モーリスとケーリアは、急く心を必死に抑えて、行軍を再開させた。

 エルラフィア王国の王都では、謁見室にクラウスとシリウスを始め、主だった貴族が集められていた。そして次々と入る報告に、顔を青ざめさせていく。
 王都近隣の領地は、結界が間に合ったので、住民への直接的な被害は少なかった。しかし、王都遠方の領地にある都市は壊滅していた。
 エルラフィア王国の約半数の住民が、一瞬にして命を失くした。
 
「陛下。これがミケルディアとショールケールを、壊滅させた兵器なのでは?」
「そうだろうな。早く奴らの、兵器開発を掴めていれば。くそっ」

 エルラフィア王は、床を蹴り上げる。表情は怒りで、激しく歪んでいた。
 そして、クラウスとシリウス両者に視線を送る。

「ルクスフィア卿、メイザー卿。其方達の領軍はどうなっている」
「数時間前に国境沿いを抜けたと連絡が有りました」
「我が領軍も、同様でございます」
「其方達の領都は?」
「ペスカ様のおかげで、無事でございます」
「我が領も同様、結界に救われました」
「其方達の軍が到着次第、メルドマリューネを迎え撃つぞ。準備を急げ」
「畏まりました!」

 エルラフィア王の顔は晴れる事は無い。たった数時間で多くの犠牲者を出し、今猶攻勢をかけられている。
 
「では、狙われたのは都市だけか。移動中の軍が無事なのは助かったが」
「陛下、南部の三国との連絡は如何でしょうか?」
「いや、取れていない。嫌な予感はするがな」

 エルラフィア王国の南には、三国の小国が有る。エルラフィア王国の影響下に有る三国は、ミサイルの雨により全ての都市が壊滅。
 たまたま、都市を離れていた一部の住民、それと援軍としてエルラフィア王国を訪れていた軍だけが、生き残る事を許された。

 行軍を続ける魔道大国メルドマリューネ軍。その足音は、破滅への序章を告げる。動き出した大国は、牙を剥き蹂躙を行う。
 平和への道は遥か遠く、幻の如き淡い幻想に見えた。 
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