妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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人間達の抗い

85 モンスターパーティー

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 山の麓で車中泊をしたペスカ達。起き掛けに、翔一は探知をかける。
 常に数キロ圏内の情報が収集される様に、設定をしてある。しかし翔一は、更に広範囲の探知をかけた。そして据え付けられた魔石とリンクする様に、翔一のマナを通じて繋げる。探知し収集した情報を流し込む。すると、周囲の状況が地図とリンクし、スクリーンに映し出される。

 スクリーンに映し出されたのは、真っ赤な点で染まっているアーグニール王国の地図。さらに、王国の一部では、赤い点が点滅し消える箇所もあった。

「ペスカちゃん、どういう意味だと思う?」
「翔一君、嫌な予感がするよ。清浄化したなら、点が青くなるはず。でも、消えるって事はね。しかも、国境沿いのモンスター達は、明らかにアーグニールから来た」
「ペスカ、不味いんじゃねぇか!」
「わかってるよお兄ちゃん。一番近くの港へ急ぐよ!」

 朝食もそこそこに、一行は車を走らせる。しかし待ち受けるのは、地元民でも脱走兵でも無い、モンスターの大軍である。意図的に進行方向を封鎖する様に、モンスターの大軍が封鎖をしている。国境越えの際に見た、オークやサラマンダーが地を埋め、黒光りして飛ぶ巨大なアレが空を埋め尽くす。
 その光景に、ペスカは舌打ちをし、空と翔一は顔を青ざめさせ、冬也は怒りに身を震わせた。
 
「糞野郎! 俺達を狙ってやがる! 足止めでもしようってか?」
「だぶんね。サクッと一掃しよう。空ちゃん、魔攻砲準備。目標、モンスター軍団!」

 空は操作管前に陣取り、スコープ越しに狙いを定める。そしてペスカの合図で、レバーを引いた。魔攻砲から放たれた光は、モンスター軍団の中心に直撃し、周囲一帯を巻き込む様に爆発する。

 爆炎が広がりモンスターの軍団を包んでいく。ほとんどのモンスターは、灰になって消えた。しかし、運よく爆発から逃げおおせた、黒光り軍団が車に向かって勢い良く飛んでくる。
 
「翔一君、ライフルで撃ち落として!」

 ハッチから翔一が上半身を出して、向かって来る黒光り軍団を撃ち落としていく。これも前回の反省を活かした、魔法の改良である。撃たれた黒光り軍団は弾け飛ばずに、焼き尽くされ灰になって大地に降り注いだ。そして行く手を封鎖するモンスターは、全て消滅した。

 空と翔一だけで、モンスターの軍団を一掃した事は重畳であろう。二人のマナは実戦を重ねる毎に、大きくなっている。そして魔法の多様性も増し、充分な戦力になりつつある。

 マナを使い、少し疲れた様子の空と翔一を、ペスカが労う。そして冬也は再び車を走らせる。
 一刻も早く街に到着しなければ。ペスカ達は急く思いを押し止め、冷静さを失わない様に気を引き締めた。
 
 一行は海岸沿いをひた走る。そしてモンスターの襲来は止まない。
 オークとミノタウロスの軍団の襲来は、昼夜絶え間なく続いた。ペスカ達は昼と夜の二交代制で、モンスターを駆逐しながら車を走らせる。
 国境近くでは、比較的弱いモンスターが出現していた。しかし内陸部を進む毎に、強力なモンスターが出現し始める。オークに混ざったミノタウロス。それ以外にも、マンティコア、ヘルハウンド、ケルベロス等、兵士が束になっても敵わないモンスターが出現している。

 明らかに、足止めの意志を感じる。しかしこれは、非常に良くない状態なのだ。
 どんな辺境で小さい村にも、一人くらいは駐在する兵士がいる。シュロスタイン王国では、それが無かった。逃亡兵を取り締まり、王都へ報告する存在がいなかったのだ。

 では、アーグニール王国はどうか? シュロスタイン王国と変わらないだろう。戦時下なのだから。そうなれば、村や町を守る者が存在しない。それは無防備のままモンスターの脅威に、晒されている事になる。 

 一行は、魔攻砲とライフルで遠距離射撃で、モンスターを狙撃し駆逐していく。しかし、ミノタウロスやマンティコア等の強力なモンスターは、オークとは段違いの強靭さを持っている。
 自身のマナが大きくなり、戦い慣れてきた空と翔一でも、ライフルの一撃では倒しきれない。数発貫通させて、やっと消滅させられる状況だった。

 魔攻砲とライフルには、備えられた魔石により、直接魔法を放つよりも消費するマナが軽減している。しかし、頻繁な襲撃による応戦で、マナが枯渇し始めている。
 加えて戦闘続きによる肉体的疲労、緊張状態が続く事による精神的疲労が重なる。それは一行の首を、じわじわと締め付けた。

 モンスターが絶え間なく襲い続けるせいで、車の進行速度は低下する。地図上では近くの街まで、一日もかからない距離に思えたが、二日を経過しても未だ到着していない。あと数十キロ地点まで近づいている。しかし、その距離がなかなか縮まらない。

 疲労も蓄積され、魔法の威力と精度は格段に落ちている。もう、限界が訪れていたのだろう。ペスカは空と翔一に魔法をかけて、強引に睡眠を取らせる。

 そして襲い来るモンスターの中に、バジリスク、ヒュドラ、キュプロークスと大型のモンスターも増え始める。
 車を完全に止めて、冬也は降りて神剣を手にする。そしてペスカが魔攻砲で射撃し、冬也が神剣で大型モンスターを倒す。
 更にモンスターは数を増やし続ける。ようやく大型のモンスターが数を減らし始めた時である。スクリーンの状況変化が、ペスカの視界に入る。投影された近くの街、その上で光る赤い点滅が、完全に消えうせた。

「くそ、きりがねぇ! あと少しなのに!」
「お兄ちゃん不味い! 点滅が消えた!」
「ペスカ、街の様子を拡大出来るか?」

 いったん冬也は車内に戻る。そしてペスカが街の様子をスクリーンに拡大する。そこに映されたのは、これ見よがしに街の中央に積まれた死体の山。それを取り囲むモンスターの群れ。全ての死体から首が捥がれて、死体の山へ誘う道を作る様に、整然と並べられている。

 ペスカと冬也の顔から血の気が失せた。残酷、残忍、残虐、どんな言葉で綴ればいい。その光景は、二人に言葉では言い表せないショックを与える。
 挑発するかの様な行動、それは知能の無いモンスターが取る行動では無い。
  
「あの糞野郎! ここまですんのか!」

 冬也は怒りが溢れ大声で叫ぶ。ペスカは言葉にならない程の、怒りを感じていた。冬也の怒鳴り声で、目を覚ました空と翔一は、スクリーンに映る余りの光景に目を疑った。
  
「何これ!」

 零す様に呟いた空の言葉が車内に響き渡り、翔一は青ざめて言葉を失う。

「許せねぇよ。なぁ! 許せねぇ~よ! ロメリア゛!」

 冬也は運転席に座り、車を急発進させる。 

「お兄ちゃん、待って! 罠だよ!」
「わかってる。でもこれを許せんのか!」

 ペスカはそれ以上、冬也を止める言葉を持ち合わせていない。慌ててペスカは魔攻砲の操作席に座り、空と翔一に向かい指示を飛ばす。
    
「空ちゃん、翔一君と一緒にライフルで左右のモンスターを迎撃!」

 ペスカの撃った巨大な光弾が、前方を塞ぐモンスター達を消し飛ばしていく。冬也はモンスターの隙間を、猛スピードで走り抜ける。走り抜ける車の左右から襲い来るモンスターを、空と翔一が撃ちぬく。再び前方を塞ぐモンスターを、ペスカが魔攻砲で消し飛ばす。
 何度も、何度も同じ事を繰り返し、マナを使い果たして、ペスカ達は街に辿り着いた。

 街に辿り着いた瞬間、ペスカ達を車に残し、冬也は飛び出す。神剣を出し、神気を爆発的に周囲に広げた。

 街中にいるモンスターの軍勢は、一斉に冬也の気配を感じて襲い掛かって来る。
 冬也は走った。モンスターを斬り飛ばしながら、走り続けた。街中にいたモンスターを、全て抹殺するまで走りぬいた。

 冬也の神気は、天空の地まで届くほどに高まっていた。それ程、怒りに満ちていた。台地を揺らし、風を切る。冬也の怒りは、震える自然を通してペスカ達にも伝わる。

 モンスターを駆逐し、中央広場に冬也が近づいた時、積まれた死体の山が爆発する。爆発は広場を中心に街中へ広がって行く。しかし中心にいた冬也は、その爆発ごと神剣で切り裂いた。

「ロメリア゛~! こんなチンケな罠で、俺を殺せると思うじゃねぇ!」

 声と共に神気がビリビリと響く。台地や空気、自然そのものが、冬也の神気に怯えている様だった。

 今のアーグニール王国には、住民を守るべき兵士がいない。二十年前の状況とは違う。あの時は、どれだけモンスターが現れようが、住民を守る兵士がいた。今回その兵士達は、国境沿いで戦を繰り広げている。

 スクリーンを見やると、所々から赤い点が消滅していくのが見える。もう時間が無い。時間が経てば経つ程、人が死んでいく。

 嫌だ。もう嫌だ。 

 あれだけ戦って、死んで蘇って、また同じ光景をみるのか。また同じ苦しみを味わうのか。許せない。許してはいけない。ペスカは運転席に座り、冬也の元へと向かう。

「お兄ちゃん! 早く乗って! 急ぐよ! 全部、全部、ぜ~んぶ、守るよ!」

 ペスカの大声が閑散とした街に響き渡り、冬也は急いで車に乗り込む。車は猛スピードで街を抜け、王都へ向け走り出す。
 死に瀕したアーグニール王国を救うため、ペスカ達の命をかけた戦いが始まった。
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