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人間達の抗い
83 錯綜する情報とライン帝国の壊滅
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神の住む天空の地、現在は様々な神が右往左往している。
ラフィスフィア大陸に戦乱が広がり混迷を極める中、邪神二柱の居場所は依然として見つからない。痺れを切らした女神フィアーナは、単身で地上に降りた。司令塔不在の天空の地では、情報は錯綜し正確な判断力を失くしつつある。そんな中、ラフィスフィア大陸にペスカ達を送った、女神セリュシオネが帰還を果たす。
「フィアーナ、フィアーナは何処です」
「セリュシオネ。フィアーナは地上に行かれましたぞ」
女神セリュシオネは、深い溜息をついて呟いた。
「あぁ、何て身勝手な行動をするのでしょうか。仕方ない貴方、フィアーナに伝えなさい。アルキエル、グレイラス、二柱の神格を確保しました。これから消滅作業に取り掛かります」
「捕らえたのですね、素晴らしいですな」
「私が捕らえたのでは有りませんよ。半神と人間が、神二柱を倒したのです。それも付け加えて、フィアーナに伝えると良いでしょう。では私は作業に取り掛かるので、連絡は任せましたよ」
女神セリュシオネは男神に言伝を命じると、その場から立ち去る。天空の地に戻って以来、右往左往と慌てふためく神々の姿を見て、女神セリュシオネは再び大きな溜息を吐く。
「全く、フィアーナが出払った位で情けない。他に統率する原初の神くらい他にもいるでしょうに。だから、ロメリア如きに良い様にやられるんですよ。馬鹿馬鹿しい」
女神セリュシオネは懐から虹色に輝く魂魄を取り出して見やると、再び独り言ちる。
「本当にね、私は忙しいんですよ。こんな事なら、この魂魄を転生させてやるなんて、約束しなければ良かったですね。そう言えばもう一つ、これに近い輝きを持つ魂魄が有りましたね。賢帝でしたっけ。あの魂魄に、私の神格を少し与えて眷属化しましょう。少しは能率も上がるでしょう。皆好き勝手にやってるんです。私も好きにやらせてもらいますよ」
☆ ☆ ☆
その一方で女神フィアーナは、エルラフィア王国の教会内で、シルビアと話をしていた。
「何てこと・・・。我々は神四柱を相手にしなければ、ならないのですか」
「そうよ。急いで南部四国を中心に、土地の活力を上げて来たわ。少しは、兵糧の足しになるでしょう」
「有難いのですが、この戦乱は邪神達のせいですよね? その相手は我々人間には、荷が重すぎます」
「大丈夫よ。ペスカちゃんと冬也君を探させてるから。東京でロメリアと一戦やった後に、こっちに送っといたのよ。ロイマスリアの何処かにはいるはずよ」
「漠然としてますね。ペスカ様達が健在なら、少しは光明が見えるのですが。何処にいるかわからないのでは・・・」
「その内見つかるわよ。あなた達はその間、頑張って絶えなさい。私は少しずつ大陸に神気を満たしていくわ。その為にも、国中上げて私に祈りを捧げなさいね」
「承知致しました。陛下にもその旨お伝え致します」
「じゃあね、これ以上死人を増やすんじゃないわよ。後、子作りに励む様にね」
女神フィアーナは姿を消す。しかしシルビアは、困り顔になっていた。死者を増やすな、子作りに励め、この混乱中に何を言っている。しかも、神四柱を相手に世界を守るなんて無茶が過ぎる。
だが、女神からの神託を全て陛下に伝えねばと、シルビアは王城へ急いだ。
そして、女神セリュシオネは言伝を命じられた男神は、女神フィアーナを探して大陸を駆け回る事になる。
既にアルキエル、グレイラスの二柱はペスカ達によって倒されているにも係わらず、フィアーナはその事実を知らずに神託を与えた。
現代社会を知っているペスカなら、指を指して笑うだろう。情報の遅れや誤った情報は、誤った行動へとつながる。情報は敏速かつ正確に。誰もが知っている当たり前の事が、神すらも出来ていない。それは常に自分の領分のみを考える神だからこそ、混乱時に情報ネットワークが取れないのかも知れない。
神が出来ない事が、人間に出来ようか?
エルラフィア王国では、情報の入手に難儀していた。間諜達からは、なかなか情報が齎されず、帝国の情報やメルドマリューネの思惑は、未だ詳細が分からずにいた。その為、エルラフィア王は正確な判断が下せずにいる。
もしあの時、出陣させてなければ。もしあの時、撤退させていれば。そんなIFは現実で通用するはずが無い。神も人も、全てが後手後手に回っていた。
謁見室に到着したシルビアは、国王に女神の神託を全て報告する。国王は頭を掻きながら、ひじ掛けに頬杖をついた。
「神四柱がこの混乱の原因か。予想以上に酷い有様だな。ペスカ殿の行方もわからんとはな」
「陛下、女神フィアーナは、大陸を神気で満たしていくと仰いました。国中で祈りを捧げるのは、迅速に行った方が良いかと」
「そうだな。直ぐに触れを出そう。だが、死人を増やすな、子作りを励めは難しいだろうな。せめて、子作りを推奨する様に触れを出すか」
国王は少し考える様に目を閉じる。
確かに神託にある事は、大地の力を取り戻す為に必要なのだろう。マナの循環を滞らせない為に、新たな命は必要だ。しかし、今やらなければならない事は、それではない。そもそも、新たな命は一日やそこらで誕生しない。そんな簡単なものではないのだ。
しかし神託を無視する訳にはいくまい。国王は、女神フィアーナを国中で大々的に祭る事と、子作り政策を検討する事を大臣達に命じる。その後、暫く逡巡する様にシルビアを見た国王は、重い口を開く。
「シルビアよ。帝国がどうなっているのか、全くわからんのだ。ルクスフィア卿、メイザー卿から連絡が無いどころか、シグルドからの連絡も途絶えておる。其方、様子を見て来てくれんか?」
「承知致しました陛下。直ぐに出立致します」
「どの国に送った間諜からも、情報が届かない現状だ。くれぐれも用心せよ」
「有難きお言葉、肝に銘じます」
国王の命を受け、シルビアはその日の内に、帝国へ向けて出発した。夕暮れにはカルーア領を抜け、夜半に国境門へ到着する。国境門で馬を変え、夜の道をひた走る。
帝国を馬で駆けるシルビアは、異変を感じていた。淀んだ空気、枯れ果てる木々、辺境領都に辿り着いた時にその異変は明確な形となって現れる。
そして馬を変える為に、領都に立ち寄る。そこでシルビアが見たのは、地獄そのものだった。
それは確か日本に滞在していた頃に、TVで見た事が有る光景である。人が人を喰らう。喰われて息絶えた死者は立ち上がり、他の生者を喰らう。死者が喰らうのは、人だけでは無い。家畜も食料も草も木も、何もかも喰らいつくす。死者はひたすら獲物を求めて徘徊を続ける。
「な、何これ! まるでゾンビじゃない・・・」
呟いた瞬間、シルビアは死者達に気付かれる。そして死者達は、シルビアを喰らおうと迫って来た。
「清浄の光よ来たれ、エラーリア」
浄化の魔法が死者達に降り注がれる。死者達は一瞬たじろぐものの、歩みを止める事は無い。
「効いて無いの! くそ!」
シルビアには日本で蓄えた知識が有った。ゾンビなら浄化の魔法で倒せるはず。しかし、浄化の魔法が通じない。
「薙ぎはらえ、エアーカッター!」
シルビアは、風の魔法で巨大なかまいたちを起こす。死者達の首や胴を次々と刎ね飛ばしていく。首を無くしても、胴から上が無くなっても、使者達の歩みは止まらない。
現実は残酷である。映画やゲームの様に、頭を潰せば倒せる訳では無い。持てる知識は通用しない。
シルビアは恐怖した。
日本でゾンビ映画を見た時、この作品を作った者は、何て残酷な人間なんだろうと感じた。人間の悍ましい一面、科学の恐ろしい一面を垣間見た気がした。
それが現実に起こり得るとは思っていなかった。
「何? 何これ! どういう事なの?」
帝国で死兵の様に戦う兵士達を見た。しかし、あれはロメリアに操られていただけで、生きている兵士だった。死人が動くなど、この世界で見た事が無い。有ってはならない、生への冒涜である。
そしてこの現象は、起こり得る可能性を想起させた。
女神に聞かされた、地上に災いを起こしている四柱の神。そう、神であればこんな現象を引き起こす事は容易であろう。そうなれば、危惧していた帝国はどうなっている。最早、想像する余地もないかもしれない。
帝国にはシグルドがいた。エルラフィア王国を含む大陸の南部四国。そして帝国、ミケルディアにショールケールを含めても、シグルドに敵う者はいない。
そしてクラウスとシリウスが軍を率いて、帝国に向かっていた。エルラフィア最強の軍と、最高の指揮官が向かった。
この状況で連絡が取れないなど、有り得ない。もし有り得るとすれば、既に全滅している可能性だろう。
敵は神、そして倒しても蘇り増え続ける、死者の軍勢。敵うはずがない。
シルビアは発狂寸前であった。
そんなシルビアを支えていたのは、ペスカに誓った約束だった。
守るのだ。人を、世界を、必ず守るのだ!
「焼き尽くせ、煌めく暁の焔。ヴァーンヘイル!」
領都を焼き尽くさんとする巨大な炎が巻き上がる。死者を片っ端から焼き尽くしていく。領都中の使者を焼き尽くして、炎は消え去る。
「これで駄目なら、逃げるしかないわね」
焼き尽くされて死者は灰になる。灰は周囲のマナを吸収しながら固まり始め、人型を作っていく。
「嘘でしょ! マナを吸収してるの? なら、そのマナを利用させてもらうわよ」
それはペスカと共に、数多の戦場を経験したシルビアだからこそ、辿り着いた発想であろう。シルビアは意識を集中させると呪文を唱えた。
「地を司どる神に変わり命じる! マナよ、清浄なる地に還れ! 灰は大地に還り、新たな生を!」
シルビアの魔法で人型が崩れ去り、灰は土と一つになっていった。シルビアは片付いた事を確認すると、領都を確認して回る。炎の魔法は生きる者を対象にしていない。だが、生きている者は一人もいなかった。
シルビアは携帯していた通信機で、王都に連絡を入れる。死者が生者を喰らう前代未聞の状況であるが、理解してもらうしか無い。有りのままを国王に報告し、シルビアは帝都へ向かう。
急を要する事態である。辺境領で、これだけの異常事態が起きている。帝都ではどうなっているのか。そんな事は想像したくもない。
シルビアは焦り、馬を駆ける。前回の来訪では、境界門まで三日間を要した。しかしシルビアは、昼夜を問わず、睡眠も取らずに馬を走らせる。馬に治療魔法をかけて走り、一日足らずで境界門に到着する。
到着した境界門は固く閉じられていた。そしてシルビアが境界門の前に立った時、ゆっくりと門が開いた。
門から出てきたのは、クラウス、シリウス、メルフィー、セムス、トールの五名だけであった。五人は、肩を貸し合いながらフラフラと歩き、門から出て来る。それぞれが深い傷を負っている。目はくぼみ、頬がこけ、一見しただけで酷くやつれているのがわかった。
だがそれは、一つの事実の証明でもあった。
門から出て来たのは五人だけ。帝国の民、兵士、エルラフィアの兵士達。無論、攻め込んだと思われる隣国の兵達も、ここにはいない。
特にエルラフィア軍は、ペスカの考案した最新鋭の兵器を装備していた。にも関わらず、五人の手には折れた剣があるのみ。
どれだけの戦場がこの先にあったのか。それは想像に難くない。領都の戦いでさえ、シルビアの心は容易く折れかけたのだから。
門を出たクラウスがシルビアに気が付く。駆け寄るシルビアにクラウスが問いかける。
「シルビア! 何故ここに!」
「陛下のご命令で、帝国の様子を見に来ました。何が有ったのですか?」
「帝国は終りだ。門の先は死者が生者を喰らう地獄だ。生きている者は誰もおらん。我等は兵も民も全て失った」
「近衛はどうしたのです?」
「全て神の策略と、一方的な通信が有ってから、連絡が途絶えた」
「なんて事・・・」
「近衛は講和調停に向かったのだ。そして莫大なマナの使用を感じた後、隣国が攻めて来た。シグルド程の使い手がやられるとは考えたくないが、絶望的だろう」
「あのシグルド殿が・・・」
「我等は内部から崩されたのだ」
三国が連合して攻め入った。内乱で兵力が激減していた帝国は、籠城を余儀なくされる。しかしそこに、エルラフィア軍が到着した。エルラフィア軍は、ミケルディアにとショールケールの連合と同様に、最新鋭の兵器で瞬く間に洗脳を解いていった。
だが、帝国内の被害は甚大である。内乱に次いで、他国からの侵略。その犠牲になったのは、周辺領の民である。連合軍を治めた後、直ぐに周辺領の民を帝都で受け入れた。
しかし、悲劇はそこから始まる。
受け入れた難民の死体から、人を喰らう死体が現れた。そして喰われて死んだはずの者が立ち上がり、生者を求めて徘徊する。それは伝染する様に、加速度的に広がっていった。
帝都中が動く死体で埋め尽くされるのは、そう時間が掛からなかった。三国の兵達も同様に喰らいつくされ、動く死体となった。燃やしても灰となって蘇る。周囲のマナを喰らい尽くし、大地は枯れ果てた。
剣が通じる相手では無い。ましてやマナが尽きれば、ペスカの兵器は使用が出来ない。五人は何とかこの状況をエルラフィア王に伝える為、ここまで歩いてきた
クラウスから聞かされた予想以上の状況に、シルビアは崩れる様に膝を折った。
ラフィスフィア大陸に戦乱が広がり混迷を極める中、邪神二柱の居場所は依然として見つからない。痺れを切らした女神フィアーナは、単身で地上に降りた。司令塔不在の天空の地では、情報は錯綜し正確な判断力を失くしつつある。そんな中、ラフィスフィア大陸にペスカ達を送った、女神セリュシオネが帰還を果たす。
「フィアーナ、フィアーナは何処です」
「セリュシオネ。フィアーナは地上に行かれましたぞ」
女神セリュシオネは、深い溜息をついて呟いた。
「あぁ、何て身勝手な行動をするのでしょうか。仕方ない貴方、フィアーナに伝えなさい。アルキエル、グレイラス、二柱の神格を確保しました。これから消滅作業に取り掛かります」
「捕らえたのですね、素晴らしいですな」
「私が捕らえたのでは有りませんよ。半神と人間が、神二柱を倒したのです。それも付け加えて、フィアーナに伝えると良いでしょう。では私は作業に取り掛かるので、連絡は任せましたよ」
女神セリュシオネは男神に言伝を命じると、その場から立ち去る。天空の地に戻って以来、右往左往と慌てふためく神々の姿を見て、女神セリュシオネは再び大きな溜息を吐く。
「全く、フィアーナが出払った位で情けない。他に統率する原初の神くらい他にもいるでしょうに。だから、ロメリア如きに良い様にやられるんですよ。馬鹿馬鹿しい」
女神セリュシオネは懐から虹色に輝く魂魄を取り出して見やると、再び独り言ちる。
「本当にね、私は忙しいんですよ。こんな事なら、この魂魄を転生させてやるなんて、約束しなければ良かったですね。そう言えばもう一つ、これに近い輝きを持つ魂魄が有りましたね。賢帝でしたっけ。あの魂魄に、私の神格を少し与えて眷属化しましょう。少しは能率も上がるでしょう。皆好き勝手にやってるんです。私も好きにやらせてもらいますよ」
☆ ☆ ☆
その一方で女神フィアーナは、エルラフィア王国の教会内で、シルビアと話をしていた。
「何てこと・・・。我々は神四柱を相手にしなければ、ならないのですか」
「そうよ。急いで南部四国を中心に、土地の活力を上げて来たわ。少しは、兵糧の足しになるでしょう」
「有難いのですが、この戦乱は邪神達のせいですよね? その相手は我々人間には、荷が重すぎます」
「大丈夫よ。ペスカちゃんと冬也君を探させてるから。東京でロメリアと一戦やった後に、こっちに送っといたのよ。ロイマスリアの何処かにはいるはずよ」
「漠然としてますね。ペスカ様達が健在なら、少しは光明が見えるのですが。何処にいるかわからないのでは・・・」
「その内見つかるわよ。あなた達はその間、頑張って絶えなさい。私は少しずつ大陸に神気を満たしていくわ。その為にも、国中上げて私に祈りを捧げなさいね」
「承知致しました。陛下にもその旨お伝え致します」
「じゃあね、これ以上死人を増やすんじゃないわよ。後、子作りに励む様にね」
女神フィアーナは姿を消す。しかしシルビアは、困り顔になっていた。死者を増やすな、子作りに励め、この混乱中に何を言っている。しかも、神四柱を相手に世界を守るなんて無茶が過ぎる。
だが、女神からの神託を全て陛下に伝えねばと、シルビアは王城へ急いだ。
そして、女神セリュシオネは言伝を命じられた男神は、女神フィアーナを探して大陸を駆け回る事になる。
既にアルキエル、グレイラスの二柱はペスカ達によって倒されているにも係わらず、フィアーナはその事実を知らずに神託を与えた。
現代社会を知っているペスカなら、指を指して笑うだろう。情報の遅れや誤った情報は、誤った行動へとつながる。情報は敏速かつ正確に。誰もが知っている当たり前の事が、神すらも出来ていない。それは常に自分の領分のみを考える神だからこそ、混乱時に情報ネットワークが取れないのかも知れない。
神が出来ない事が、人間に出来ようか?
エルラフィア王国では、情報の入手に難儀していた。間諜達からは、なかなか情報が齎されず、帝国の情報やメルドマリューネの思惑は、未だ詳細が分からずにいた。その為、エルラフィア王は正確な判断が下せずにいる。
もしあの時、出陣させてなければ。もしあの時、撤退させていれば。そんなIFは現実で通用するはずが無い。神も人も、全てが後手後手に回っていた。
謁見室に到着したシルビアは、国王に女神の神託を全て報告する。国王は頭を掻きながら、ひじ掛けに頬杖をついた。
「神四柱がこの混乱の原因か。予想以上に酷い有様だな。ペスカ殿の行方もわからんとはな」
「陛下、女神フィアーナは、大陸を神気で満たしていくと仰いました。国中で祈りを捧げるのは、迅速に行った方が良いかと」
「そうだな。直ぐに触れを出そう。だが、死人を増やすな、子作りを励めは難しいだろうな。せめて、子作りを推奨する様に触れを出すか」
国王は少し考える様に目を閉じる。
確かに神託にある事は、大地の力を取り戻す為に必要なのだろう。マナの循環を滞らせない為に、新たな命は必要だ。しかし、今やらなければならない事は、それではない。そもそも、新たな命は一日やそこらで誕生しない。そんな簡単なものではないのだ。
しかし神託を無視する訳にはいくまい。国王は、女神フィアーナを国中で大々的に祭る事と、子作り政策を検討する事を大臣達に命じる。その後、暫く逡巡する様にシルビアを見た国王は、重い口を開く。
「シルビアよ。帝国がどうなっているのか、全くわからんのだ。ルクスフィア卿、メイザー卿から連絡が無いどころか、シグルドからの連絡も途絶えておる。其方、様子を見て来てくれんか?」
「承知致しました陛下。直ぐに出立致します」
「どの国に送った間諜からも、情報が届かない現状だ。くれぐれも用心せよ」
「有難きお言葉、肝に銘じます」
国王の命を受け、シルビアはその日の内に、帝国へ向けて出発した。夕暮れにはカルーア領を抜け、夜半に国境門へ到着する。国境門で馬を変え、夜の道をひた走る。
帝国を馬で駆けるシルビアは、異変を感じていた。淀んだ空気、枯れ果てる木々、辺境領都に辿り着いた時にその異変は明確な形となって現れる。
そして馬を変える為に、領都に立ち寄る。そこでシルビアが見たのは、地獄そのものだった。
それは確か日本に滞在していた頃に、TVで見た事が有る光景である。人が人を喰らう。喰われて息絶えた死者は立ち上がり、他の生者を喰らう。死者が喰らうのは、人だけでは無い。家畜も食料も草も木も、何もかも喰らいつくす。死者はひたすら獲物を求めて徘徊を続ける。
「な、何これ! まるでゾンビじゃない・・・」
呟いた瞬間、シルビアは死者達に気付かれる。そして死者達は、シルビアを喰らおうと迫って来た。
「清浄の光よ来たれ、エラーリア」
浄化の魔法が死者達に降り注がれる。死者達は一瞬たじろぐものの、歩みを止める事は無い。
「効いて無いの! くそ!」
シルビアには日本で蓄えた知識が有った。ゾンビなら浄化の魔法で倒せるはず。しかし、浄化の魔法が通じない。
「薙ぎはらえ、エアーカッター!」
シルビアは、風の魔法で巨大なかまいたちを起こす。死者達の首や胴を次々と刎ね飛ばしていく。首を無くしても、胴から上が無くなっても、使者達の歩みは止まらない。
現実は残酷である。映画やゲームの様に、頭を潰せば倒せる訳では無い。持てる知識は通用しない。
シルビアは恐怖した。
日本でゾンビ映画を見た時、この作品を作った者は、何て残酷な人間なんだろうと感じた。人間の悍ましい一面、科学の恐ろしい一面を垣間見た気がした。
それが現実に起こり得るとは思っていなかった。
「何? 何これ! どういう事なの?」
帝国で死兵の様に戦う兵士達を見た。しかし、あれはロメリアに操られていただけで、生きている兵士だった。死人が動くなど、この世界で見た事が無い。有ってはならない、生への冒涜である。
そしてこの現象は、起こり得る可能性を想起させた。
女神に聞かされた、地上に災いを起こしている四柱の神。そう、神であればこんな現象を引き起こす事は容易であろう。そうなれば、危惧していた帝国はどうなっている。最早、想像する余地もないかもしれない。
帝国にはシグルドがいた。エルラフィア王国を含む大陸の南部四国。そして帝国、ミケルディアにショールケールを含めても、シグルドに敵う者はいない。
そしてクラウスとシリウスが軍を率いて、帝国に向かっていた。エルラフィア最強の軍と、最高の指揮官が向かった。
この状況で連絡が取れないなど、有り得ない。もし有り得るとすれば、既に全滅している可能性だろう。
敵は神、そして倒しても蘇り増え続ける、死者の軍勢。敵うはずがない。
シルビアは発狂寸前であった。
そんなシルビアを支えていたのは、ペスカに誓った約束だった。
守るのだ。人を、世界を、必ず守るのだ!
「焼き尽くせ、煌めく暁の焔。ヴァーンヘイル!」
領都を焼き尽くさんとする巨大な炎が巻き上がる。死者を片っ端から焼き尽くしていく。領都中の使者を焼き尽くして、炎は消え去る。
「これで駄目なら、逃げるしかないわね」
焼き尽くされて死者は灰になる。灰は周囲のマナを吸収しながら固まり始め、人型を作っていく。
「嘘でしょ! マナを吸収してるの? なら、そのマナを利用させてもらうわよ」
それはペスカと共に、数多の戦場を経験したシルビアだからこそ、辿り着いた発想であろう。シルビアは意識を集中させると呪文を唱えた。
「地を司どる神に変わり命じる! マナよ、清浄なる地に還れ! 灰は大地に還り、新たな生を!」
シルビアの魔法で人型が崩れ去り、灰は土と一つになっていった。シルビアは片付いた事を確認すると、領都を確認して回る。炎の魔法は生きる者を対象にしていない。だが、生きている者は一人もいなかった。
シルビアは携帯していた通信機で、王都に連絡を入れる。死者が生者を喰らう前代未聞の状況であるが、理解してもらうしか無い。有りのままを国王に報告し、シルビアは帝都へ向かう。
急を要する事態である。辺境領で、これだけの異常事態が起きている。帝都ではどうなっているのか。そんな事は想像したくもない。
シルビアは焦り、馬を駆ける。前回の来訪では、境界門まで三日間を要した。しかしシルビアは、昼夜を問わず、睡眠も取らずに馬を走らせる。馬に治療魔法をかけて走り、一日足らずで境界門に到着する。
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だがそれは、一つの事実の証明でもあった。
門から出て来たのは五人だけ。帝国の民、兵士、エルラフィアの兵士達。無論、攻め込んだと思われる隣国の兵達も、ここにはいない。
特にエルラフィア軍は、ペスカの考案した最新鋭の兵器を装備していた。にも関わらず、五人の手には折れた剣があるのみ。
どれだけの戦場がこの先にあったのか。それは想像に難くない。領都の戦いでさえ、シルビアの心は容易く折れかけたのだから。
門を出たクラウスがシルビアに気が付く。駆け寄るシルビアにクラウスが問いかける。
「シルビア! 何故ここに!」
「陛下のご命令で、帝国の様子を見に来ました。何が有ったのですか?」
「帝国は終りだ。門の先は死者が生者を喰らう地獄だ。生きている者は誰もおらん。我等は兵も民も全て失った」
「近衛はどうしたのです?」
「全て神の策略と、一方的な通信が有ってから、連絡が途絶えた」
「なんて事・・・」
「近衛は講和調停に向かったのだ。そして莫大なマナの使用を感じた後、隣国が攻めて来た。シグルド程の使い手がやられるとは考えたくないが、絶望的だろう」
「あのシグルド殿が・・・」
「我等は内部から崩されたのだ」
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だが、帝国内の被害は甚大である。内乱に次いで、他国からの侵略。その犠牲になったのは、周辺領の民である。連合軍を治めた後、直ぐに周辺領の民を帝都で受け入れた。
しかし、悲劇はそこから始まる。
受け入れた難民の死体から、人を喰らう死体が現れた。そして喰われて死んだはずの者が立ち上がり、生者を求めて徘徊する。それは伝染する様に、加速度的に広がっていった。
帝都中が動く死体で埋め尽くされるのは、そう時間が掛からなかった。三国の兵達も同様に喰らいつくされ、動く死体となった。燃やしても灰となって蘇る。周囲のマナを喰らい尽くし、大地は枯れ果てた。
剣が通じる相手では無い。ましてやマナが尽きれば、ペスカの兵器は使用が出来ない。五人は何とかこの状況をエルラフィア王に伝える為、ここまで歩いてきた
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異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
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前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
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三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
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天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
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