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神の戦争と巻き込まれる世界
53 ミノタウロスの住む町 その1
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「王手!」
「ちょっと待った! ストップ! いや、パス!」
「将棋にパスは無いよ、冬也」
「くっそ~、何で負けんだ。手加減しろよ、翔一」
「充分手加減してるよ。冬也は弱すぎると言うより、考えなしで指すから。向こう見ずで突っ込んでも、将棋は勝てないよ!」
「くっそ~。次は囲碁だ! 囲碁なら負けねぇ、覚悟しろ翔一」
冬也と翔一は多くのギャラリーの前で、将棋を指している。それは何故か、時はニ週間程前に遡る。
ペスカは女神フィアーナに、ラフィスフィア大陸に送ったと聞かされていた。ラフィスフィア大陸であれば、例えそこがどの国であろうと、ペスカの知名度は高い。そして、旧友と呼べる存在も点在している。ペスカは安心して、翔一の探知を頼りに、近くの街を目指した。
暫く歩いていると、見渡す限りの農園が広がり始める。やがて農園の先に、町が見えて来る。城壁どころか柵すら無い、農園の中心に位置する町である。
今、自分達のいる場所に検討がつかない。町が有れば、人がいるはず。情報が聞ける、そして食事も出来るはず。ペスカ達は、喜び勇んで町へと走っていく。しかし、辿り着いた先の町にいたのは、人間ではなくミノタウロスだった。
「ぎゃ~!」
「きゃ~!」
「うわぁ~!」
「何だあれ!」
一同は、叫び声を上げた。頭が牛、首から下は人間の怪物が、町を闊歩していれば仕方の無い事だろう。その光景に空と翔一は、戦々恐々とする。ペスカと冬也は臨戦態勢を取る。そして闊歩している一人のミノタウロスが、ペスカ達に近づき話しかけた。
「旅の人ですか? 人間とは珍しいですね。ようこそ、ミノータルへ」
空と翔一には、ミノタウロスの言葉が解らない為、怯えている。優しく話しかけて来るミノタウロスに対し、ペスカと冬也は臨戦態勢を崩さない。それは、そうだろう。ラフィスフィア大陸は、人間の住まう大陸である。ペスカでさえ、ミノタウロスを見るのは初めてなのだ。
しかし話しかけて来たミノタウロスは、警戒心を露わにするペスカ達に対しても、態度を変える事は無かった。
「怖がらないで。私達は人間に危害を加えません」
種族が異なれば、コミュニケーションを取り辛いのは当然であろう。表情が読み取り辛いのだ。しかしミノタウロスはあくまでも、穏やかに話しかけてくる。
ただ、四人の中でミノタウロスと会話が出来るのは、ペスカと冬也だけである。状況がわからなければ、行動の指針が立てられない。ペスカは、慎重に問いかけた。
結果として、ここが亜人が住む大陸アンドロケインの中に有る事、そして今はミノータルと言う名の小国にいる事が判明した。
またギリシャ神話と違い、ミノタウロスは穏やかな農耕民族だった。
「あの駄女神! 完全に違う大陸じゃない!」
「大陸が違うって何がだ?」
「この世界には、四つの大陸が有るの。この間まで私達がいたのは、ラフィスフィア大陸。ここは別の大陸なの!」
「それは不味いのか?」
「不味い所の騒ぎじゃ無いよ、お兄ちゃん。エルラフィア王国に戻る所か、ラフィスフィア大陸に戻るのさえどえらい騒ぎだよ。どうやって帰れって言うのよ!」
ペスカは息巻いていた。冬也は事態を飲み込めていない。空と翔一は青筋立てたペスカの表情で、何と無く察した様だった。
人間の暮らすラフィスフィア大陸ならば、英雄ペスカの名は絶大な効果を得る。しかし、亜人の暮らすアンドロケイン大陸には、英雄ペスカの威光は通じない。
そして海を隔てた大陸を渡るには、長い航海を要する。しかし両大陸間の航行は、途絶えて久しい。それはラフィスフィア大陸に帰還する、大きな障害となるのだ。
「そもそも私、アンドロケインなんて来たこと無いんだよ!」
「来ちまったものは仕方ねぇよ。取り敢えず情報収取だな」
怒り心頭という様子で、小刻みに体を震わせるペスカを冬也が宥める。一先ずは、情報取集を行う事を優先する事で二人の意見は一致した。
しかし、アンドロケイン大陸という事で問題が生じる。元々ペスカ達は、ロイスマリアで流通する通貨を持ち合わせていない。エルラフィア王国には知人がいる為、それでも何とかなった。アンドロケイン大陸に訪れた経験の無いペスカに、頼れる知人は存在しない。
大陸が変われば、流通する通貨も変わるだろう。だがそれ以前に、四人は一文無しなのだ。
「あの~。私達、旅をしているんですが、この大陸で通用するお金を持って無いんです。何処か泊めて頂く所は、無いでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ。これも何かの縁です。私の家でよければ、いつまでもお泊り下さい」
ペスカのお願いに、ミノタウロスは快く引き受けてくれる。ミノタウロスの言葉が解らない空と翔一は、依然として震えている。
「大丈夫だ、二人共。何か有れば俺が守ってやる」
冬也は童話の常套手段を思い浮かべ、警戒を解いていない。親切にしておいて、夜中にこっそり食べに来る。そんな事を考えていた。しかし、冬也の予想は良い方向に外れる事になる。
「申し遅れましたが、私はメイリーと申します」
「メイリーって、女みたいな名前だな?」
「女ですよ。人間の方々には区別がつかないようですが」
「え~!」
「え~って失礼だよ、お兄ちゃん」
「構いませんよ。ウフフ」
笑っているのだろうか、人間から見れば笑顔も怖い。しかし、メイリーは人当たりの柔らかい女性だった。そしてミノタウロスは、穏やかで争いを好まない種族であった。人間であるペスカ達を、家族一同で持て成してくれた。無論、夜更けに襲われる事も無い。それどころか、この大陸の情報を細かに説明してくれた。その上、町中から寄付を募り、ペスカ達に路銀を持たせてくれた。
ここまで親切にされると、ペスカのやる気に火が付く。翌日ペスカは、空と翔一に言語通訳の魔法をかける。そしてペスカは、メイリーに農園の案内を要求し、冬也達三人を連れて農園を巡った。
ミノタウロスが運営している農園は、一九世紀ヨーロッパで普及した輪栽式農業を主体とした農法が行われ、農作物以外に豚の飼育がおこなわれていた。
彼らは農法の開発に余念が無かった。まだ、ペスカが農業改革に取り組む前のエルラフィア王国では、収穫量が落ちたら神に祈るのが一般的だった。しかし、彼らは違う。連作障害対策、有機肥料の開発、農地の転用、品種改良等、様々な事に力を注いでいる。
ただ農作業自体は、ミノタウロスの類まれな筋力に任せて、鋤を使った耕うんや収穫作業を行っていた。そこでペスカは、メイリーの紹介で町長と面談をし、農業機械の導入を提案した。
「ま、まさか、それが有れば、耕作も収穫も格段に能率が上がると言うのですか?」
「その通りです。数日頂ければ試作機を提出します」
「な、何と。有難い。是非、是非お願いいたします」
ペスカの説明に、町長は身を乗り出す様に興奮して食いついてくる。ただ、これまでの町の様子や、ミノタウロスの人柄を見て、冬也は疑問を感じていた。そして冬也は徐に、その疑問を町長に投げかけた。
「あのさ、町長さん。あんたら怖い顔の上に、かなり強そうじゃねぇか。俺達と違う種族なら、普通はあんたらの方が警戒するだろ。でも、あんたらはすげぇ親切にしてくれた。それと、頑張って農業やってるのは、良い事だと思うぜ。ただよぉ、何て言うか争いの気配がねぇ。あんた等は、お人好し全開の種族なのか?」
「そうですね、少し昔話をしましょう」
冬也の問いに、町長はゆっくりと説明を始めた。
事の起こりは、数百年前である。彼らの祖先は、ラフィスフィア大陸に住む人間であった。祖先達が暮らす国は、戦争をし勢力を広げていた。その延長線上にあったのが、大陸を渡り未知なる富を得る事である。
欲をかいたその国は、大船団で海を渡り、アンドロケイン大陸に攻め込んだ。そして、我が物顔で多くの物を奪い、焼き、殺し尽くした。
その行為は、ある女神の怒りを買う事になる。それが、アンドロケイン大陸の大地母神、ラアルフィーネである。女神ラアルフィーネは、攻め込んだ人間に罰を与えた。
先ずは攻め込んだ者達に、アンドロケイン大陸中を、農作物で満たす事を命じた。しかし、大船団で攻め込んだとは言え、数千人程度である。大陸中の飢えを満たす農作物など、作れるはずが無い。
そして次に、人間の姿をミノタウロスに変え、強靭な肉体を与えた。結果として肉体労働には、十二分の体力を得られた。しかし、ただそれだけでは罰にならない。最後に女神ラアルフィーネが命じたのは、マナの使用禁止だった。
マナを使わず、ただ己の肉体だけを酷使し罪を償え。それが女神ラアルフィーネの定めた罰であった。
「確かに我らの頑強な肉体であれば、戦闘も容易でしょう。しかし、我らはその罪を世代を通して、贖っていかなければなりません。農業を発展させ、この大陸を潤す事は我らの使命なのです」
神の定めた事とは言え、それを守り続けるのは、どれだけ大変な事か。ましてや、今の世代には、無用な罰であろう。それでも彼らは、過ちを悔いて未来を切り開こうとする。町長の言葉を聞いて、冬也のやる気にも火が付く。
「いいぜ、町長さん。力仕事は俺達が手伝うぜ。メイリーさんの家に泊めて貰った恩も、返さなきゃな。そうだろ翔一!」
「あぁ。そうだね冬也。僕も力になるよ」
「わ、私もなにか」
「空ちゃんは、私の手伝いかな」
それから冬也と翔一は農作業の手伝い、ペスカと空は納屋を借りて農業機械の作成に取り組んだ。懸命に働くペスカ達は、二日と経たずミノタウロス達に溶け込んだ。最初は異様な怪物に思えたミノタウロスの姿も、慣れてしまえば只の亜人である。穏やかな性格のミノタウロスに、ペスカ達が馴染むのは早かった。
町長に依頼し、数名のミノタウロスの男達の手を借り、農業機械の試作機は作られて行く。ペスカは、男達に機械の材料の調達と組み立て方を指示し、空には魔石の精製方法を教えた。しかも、現在のエルラフィアでも開発されて無い、新型の魔石を空に大量生産させた。
ペスカ監修の下、約束通りの日数で、耕作機と収獲機が完成する。マナの扱えないミノタウロスでも使用可能の、半永久マナ運用システム。ペスカが考案した、新システム搭載機の完成だった。
町長に試作機が完成した事を伝えると、直ぐに試運転が行われる事になる。町中に噂が広がり、試運転には、住人全員が興味を持って集まった。
「そこの突起を押して、動かすんだよ」
ペスカが町長に説明をし、いざ試運転が開始される。町長がレバーを握り、ペスカの指示したボタンを押す。すると、機械の前面に据え付けられたローターが回転し、少ない力で畑が耕されていく。
「す、凄い、凄いですよペスカ殿! なんて事だ! 力を入れなくても、勝手に耕してくれる! それに、あっという間だ!」
町長の驚きは住民全体に伝播し、どよめきが上がる。続いての試運転は、収穫期の麦の収穫で試す事になった。収獲機のレバーを握る町長は、再び驚きの声を上げる事になる。
先程と同様にボタンを押すと、前面の下部に取り付けられた大型の刃が、一気に麦を刈り取る。そして束を作り麻で縛り、進行方向の右側に排出される。
一連の作業がスムーズに行われるのを目の当たりして、住民全体から割れんばかりの歓声が上がった。
「な、な、何ですか? これ、何でこんな簡単に、収獲が出来るんですか? ペスカ殿、これを量産は出来るのでしょうか?」
「可能だよ。動力源の魔石は空ちゃんが頑張って作ったし、機械の作り方は手伝ってくれた人達に教えて有るからね」
「あ、有難う。有難う。あぁ、なんと素晴らしい。ペスカ殿有難うございます」
町長は涙をボロボロと流しながら、ペスカに頭を下げる。住民達が自然とペスカに集まり、盛大な胴上げを行う。ミノタウロス膂力に、あり得ない高さでペスカが宙を舞う。
「いや~! 高い、高いってば! 力任せに胴上げしないで~!」
ペスカの叫び声は、住民達の歓声にかき消され、暫く胴上げが収まる事は無かった。
それからの数日も、騒ぎは続く。
ミノータルの町々から多くの人が訪れ、ミノータル国の元首も顔を出した。騒ぎが収まる様子が無い為、町長からペスカ達に暫く町に滞在して欲しいと懇願された。
アンドロケイン大陸の情報を得ていたペスカ達は、農業機械の試作機が完成した段階で、旅立つ予定だった。しかし町長の懇願に圧され、ペスカ達は一週間ほど、滞在期間の伸ばす事になった。
「ちょっと待った! ストップ! いや、パス!」
「将棋にパスは無いよ、冬也」
「くっそ~、何で負けんだ。手加減しろよ、翔一」
「充分手加減してるよ。冬也は弱すぎると言うより、考えなしで指すから。向こう見ずで突っ込んでも、将棋は勝てないよ!」
「くっそ~。次は囲碁だ! 囲碁なら負けねぇ、覚悟しろ翔一」
冬也と翔一は多くのギャラリーの前で、将棋を指している。それは何故か、時はニ週間程前に遡る。
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暫く歩いていると、見渡す限りの農園が広がり始める。やがて農園の先に、町が見えて来る。城壁どころか柵すら無い、農園の中心に位置する町である。
今、自分達のいる場所に検討がつかない。町が有れば、人がいるはず。情報が聞ける、そして食事も出来るはず。ペスカ達は、喜び勇んで町へと走っていく。しかし、辿り着いた先の町にいたのは、人間ではなくミノタウロスだった。
「ぎゃ~!」
「きゃ~!」
「うわぁ~!」
「何だあれ!」
一同は、叫び声を上げた。頭が牛、首から下は人間の怪物が、町を闊歩していれば仕方の無い事だろう。その光景に空と翔一は、戦々恐々とする。ペスカと冬也は臨戦態勢を取る。そして闊歩している一人のミノタウロスが、ペスカ達に近づき話しかけた。
「旅の人ですか? 人間とは珍しいですね。ようこそ、ミノータルへ」
空と翔一には、ミノタウロスの言葉が解らない為、怯えている。優しく話しかけて来るミノタウロスに対し、ペスカと冬也は臨戦態勢を崩さない。それは、そうだろう。ラフィスフィア大陸は、人間の住まう大陸である。ペスカでさえ、ミノタウロスを見るのは初めてなのだ。
しかし話しかけて来たミノタウロスは、警戒心を露わにするペスカ達に対しても、態度を変える事は無かった。
「怖がらないで。私達は人間に危害を加えません」
種族が異なれば、コミュニケーションを取り辛いのは当然であろう。表情が読み取り辛いのだ。しかしミノタウロスはあくまでも、穏やかに話しかけてくる。
ただ、四人の中でミノタウロスと会話が出来るのは、ペスカと冬也だけである。状況がわからなければ、行動の指針が立てられない。ペスカは、慎重に問いかけた。
結果として、ここが亜人が住む大陸アンドロケインの中に有る事、そして今はミノータルと言う名の小国にいる事が判明した。
またギリシャ神話と違い、ミノタウロスは穏やかな農耕民族だった。
「あの駄女神! 完全に違う大陸じゃない!」
「大陸が違うって何がだ?」
「この世界には、四つの大陸が有るの。この間まで私達がいたのは、ラフィスフィア大陸。ここは別の大陸なの!」
「それは不味いのか?」
「不味い所の騒ぎじゃ無いよ、お兄ちゃん。エルラフィア王国に戻る所か、ラフィスフィア大陸に戻るのさえどえらい騒ぎだよ。どうやって帰れって言うのよ!」
ペスカは息巻いていた。冬也は事態を飲み込めていない。空と翔一は青筋立てたペスカの表情で、何と無く察した様だった。
人間の暮らすラフィスフィア大陸ならば、英雄ペスカの名は絶大な効果を得る。しかし、亜人の暮らすアンドロケイン大陸には、英雄ペスカの威光は通じない。
そして海を隔てた大陸を渡るには、長い航海を要する。しかし両大陸間の航行は、途絶えて久しい。それはラフィスフィア大陸に帰還する、大きな障害となるのだ。
「そもそも私、アンドロケインなんて来たこと無いんだよ!」
「来ちまったものは仕方ねぇよ。取り敢えず情報収取だな」
怒り心頭という様子で、小刻みに体を震わせるペスカを冬也が宥める。一先ずは、情報取集を行う事を優先する事で二人の意見は一致した。
しかし、アンドロケイン大陸という事で問題が生じる。元々ペスカ達は、ロイスマリアで流通する通貨を持ち合わせていない。エルラフィア王国には知人がいる為、それでも何とかなった。アンドロケイン大陸に訪れた経験の無いペスカに、頼れる知人は存在しない。
大陸が変われば、流通する通貨も変わるだろう。だがそれ以前に、四人は一文無しなのだ。
「あの~。私達、旅をしているんですが、この大陸で通用するお金を持って無いんです。何処か泊めて頂く所は、無いでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ。これも何かの縁です。私の家でよければ、いつまでもお泊り下さい」
ペスカのお願いに、ミノタウロスは快く引き受けてくれる。ミノタウロスの言葉が解らない空と翔一は、依然として震えている。
「大丈夫だ、二人共。何か有れば俺が守ってやる」
冬也は童話の常套手段を思い浮かべ、警戒を解いていない。親切にしておいて、夜中にこっそり食べに来る。そんな事を考えていた。しかし、冬也の予想は良い方向に外れる事になる。
「申し遅れましたが、私はメイリーと申します」
「メイリーって、女みたいな名前だな?」
「女ですよ。人間の方々には区別がつかないようですが」
「え~!」
「え~って失礼だよ、お兄ちゃん」
「構いませんよ。ウフフ」
笑っているのだろうか、人間から見れば笑顔も怖い。しかし、メイリーは人当たりの柔らかい女性だった。そしてミノタウロスは、穏やかで争いを好まない種族であった。人間であるペスカ達を、家族一同で持て成してくれた。無論、夜更けに襲われる事も無い。それどころか、この大陸の情報を細かに説明してくれた。その上、町中から寄付を募り、ペスカ達に路銀を持たせてくれた。
ここまで親切にされると、ペスカのやる気に火が付く。翌日ペスカは、空と翔一に言語通訳の魔法をかける。そしてペスカは、メイリーに農園の案内を要求し、冬也達三人を連れて農園を巡った。
ミノタウロスが運営している農園は、一九世紀ヨーロッパで普及した輪栽式農業を主体とした農法が行われ、農作物以外に豚の飼育がおこなわれていた。
彼らは農法の開発に余念が無かった。まだ、ペスカが農業改革に取り組む前のエルラフィア王国では、収穫量が落ちたら神に祈るのが一般的だった。しかし、彼らは違う。連作障害対策、有機肥料の開発、農地の転用、品種改良等、様々な事に力を注いでいる。
ただ農作業自体は、ミノタウロスの類まれな筋力に任せて、鋤を使った耕うんや収穫作業を行っていた。そこでペスカは、メイリーの紹介で町長と面談をし、農業機械の導入を提案した。
「ま、まさか、それが有れば、耕作も収穫も格段に能率が上がると言うのですか?」
「その通りです。数日頂ければ試作機を提出します」
「な、何と。有難い。是非、是非お願いいたします」
ペスカの説明に、町長は身を乗り出す様に興奮して食いついてくる。ただ、これまでの町の様子や、ミノタウロスの人柄を見て、冬也は疑問を感じていた。そして冬也は徐に、その疑問を町長に投げかけた。
「あのさ、町長さん。あんたら怖い顔の上に、かなり強そうじゃねぇか。俺達と違う種族なら、普通はあんたらの方が警戒するだろ。でも、あんたらはすげぇ親切にしてくれた。それと、頑張って農業やってるのは、良い事だと思うぜ。ただよぉ、何て言うか争いの気配がねぇ。あんた等は、お人好し全開の種族なのか?」
「そうですね、少し昔話をしましょう」
冬也の問いに、町長はゆっくりと説明を始めた。
事の起こりは、数百年前である。彼らの祖先は、ラフィスフィア大陸に住む人間であった。祖先達が暮らす国は、戦争をし勢力を広げていた。その延長線上にあったのが、大陸を渡り未知なる富を得る事である。
欲をかいたその国は、大船団で海を渡り、アンドロケイン大陸に攻め込んだ。そして、我が物顔で多くの物を奪い、焼き、殺し尽くした。
その行為は、ある女神の怒りを買う事になる。それが、アンドロケイン大陸の大地母神、ラアルフィーネである。女神ラアルフィーネは、攻め込んだ人間に罰を与えた。
先ずは攻め込んだ者達に、アンドロケイン大陸中を、農作物で満たす事を命じた。しかし、大船団で攻め込んだとは言え、数千人程度である。大陸中の飢えを満たす農作物など、作れるはずが無い。
そして次に、人間の姿をミノタウロスに変え、強靭な肉体を与えた。結果として肉体労働には、十二分の体力を得られた。しかし、ただそれだけでは罰にならない。最後に女神ラアルフィーネが命じたのは、マナの使用禁止だった。
マナを使わず、ただ己の肉体だけを酷使し罪を償え。それが女神ラアルフィーネの定めた罰であった。
「確かに我らの頑強な肉体であれば、戦闘も容易でしょう。しかし、我らはその罪を世代を通して、贖っていかなければなりません。農業を発展させ、この大陸を潤す事は我らの使命なのです」
神の定めた事とは言え、それを守り続けるのは、どれだけ大変な事か。ましてや、今の世代には、無用な罰であろう。それでも彼らは、過ちを悔いて未来を切り開こうとする。町長の言葉を聞いて、冬也のやる気にも火が付く。
「いいぜ、町長さん。力仕事は俺達が手伝うぜ。メイリーさんの家に泊めて貰った恩も、返さなきゃな。そうだろ翔一!」
「あぁ。そうだね冬也。僕も力になるよ」
「わ、私もなにか」
「空ちゃんは、私の手伝いかな」
それから冬也と翔一は農作業の手伝い、ペスカと空は納屋を借りて農業機械の作成に取り組んだ。懸命に働くペスカ達は、二日と経たずミノタウロス達に溶け込んだ。最初は異様な怪物に思えたミノタウロスの姿も、慣れてしまえば只の亜人である。穏やかな性格のミノタウロスに、ペスカ達が馴染むのは早かった。
町長に依頼し、数名のミノタウロスの男達の手を借り、農業機械の試作機は作られて行く。ペスカは、男達に機械の材料の調達と組み立て方を指示し、空には魔石の精製方法を教えた。しかも、現在のエルラフィアでも開発されて無い、新型の魔石を空に大量生産させた。
ペスカ監修の下、約束通りの日数で、耕作機と収獲機が完成する。マナの扱えないミノタウロスでも使用可能の、半永久マナ運用システム。ペスカが考案した、新システム搭載機の完成だった。
町長に試作機が完成した事を伝えると、直ぐに試運転が行われる事になる。町中に噂が広がり、試運転には、住人全員が興味を持って集まった。
「そこの突起を押して、動かすんだよ」
ペスカが町長に説明をし、いざ試運転が開始される。町長がレバーを握り、ペスカの指示したボタンを押す。すると、機械の前面に据え付けられたローターが回転し、少ない力で畑が耕されていく。
「す、凄い、凄いですよペスカ殿! なんて事だ! 力を入れなくても、勝手に耕してくれる! それに、あっという間だ!」
町長の驚きは住民全体に伝播し、どよめきが上がる。続いての試運転は、収穫期の麦の収穫で試す事になった。収獲機のレバーを握る町長は、再び驚きの声を上げる事になる。
先程と同様にボタンを押すと、前面の下部に取り付けられた大型の刃が、一気に麦を刈り取る。そして束を作り麻で縛り、進行方向の右側に排出される。
一連の作業がスムーズに行われるのを目の当たりして、住民全体から割れんばかりの歓声が上がった。
「な、な、何ですか? これ、何でこんな簡単に、収獲が出来るんですか? ペスカ殿、これを量産は出来るのでしょうか?」
「可能だよ。動力源の魔石は空ちゃんが頑張って作ったし、機械の作り方は手伝ってくれた人達に教えて有るからね」
「あ、有難う。有難う。あぁ、なんと素晴らしい。ペスカ殿有難うございます」
町長は涙をボロボロと流しながら、ペスカに頭を下げる。住民達が自然とペスカに集まり、盛大な胴上げを行う。ミノタウロス膂力に、あり得ない高さでペスカが宙を舞う。
「いや~! 高い、高いってば! 力任せに胴上げしないで~!」
ペスカの叫び声は、住民達の歓声にかき消され、暫く胴上げが収まる事は無かった。
それからの数日も、騒ぎは続く。
ミノータルの町々から多くの人が訪れ、ミノータル国の元首も顔を出した。騒ぎが収まる様子が無い為、町長からペスカ達に暫く町に滞在して欲しいと懇願された。
アンドロケイン大陸の情報を得ていたペスカ達は、農業機械の試作機が完成した段階で、旅立つ予定だった。しかし町長の懇願に圧され、ペスカ達は一週間ほど、滞在期間の伸ばす事になった。
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訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
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