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異世界への旅立ち
1 始まりの日
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何故こうなった。
何だこの化け物は。
そもそも此処は何処だ?
深く暗い森の中で、少年は少女を庇い、肩から大量の血を流している。二人の前には、彼らの身長より三倍は有る生物がいる。地球上では見たこともないそれは、赤黒い皮膚に大きな羽を持つ。異形と言ってもいいだろうその怪物は、獰猛な歯をむき出しに少年達へと迫っていた。
怪物が大きな爪を振るう度に、土煙は巻き起こり、木々がはじけ飛ぶ。久々のご馳走とでも思っているのか、怪物は大量の涎を垂らしている。二人を逃す気は、毛ほども無いだろう。
そこは日本で育った者には思いも寄らない、死と隣り合わせの非日常。命など、紙切れ程の価値しか無い悪意に満ちた惨状。どれだけ抗おうとも、弱者は嬲られ捕食される。
怪物の鋭い爪が、少女に向かって降り降ろされる。少女を抱える様に庇い、少年は背を深く抉られる。パックリと開いた傷口からは、血しぶきが噴き出す。その痛みに少年は、気を失いかける。だが、気を失う訳にはいかない。少年は己の身を犠牲にし、少女に覆いかぶさる。
怪物は止めを刺さんと、再び腕を振り上げる。遠ざかる意識の先で、鋭利な爪が少年の首先に迫っていた。
☆ ☆ ☆
少年が目を覚ました時には、まだ外は暗かった。大量の汗をかいたのか、少年のシャツは体に張りついており、ベッドのシーツはじっとりと湿っていた。
「なんだ夢か。にしてもリアルだったな」
薄暗闇の中で目を擦りながら、少年は電子時計の明かりを探す。そして、暗闇に淡く光るブルーの灯りは、午前四時を映していた。
「変な夢を見たのは、VRゲームのせいだろ。遅くまで付き合わせやがって」
やや悪態をつきながらもベッドから降り、寝間着から着替えて部屋を出る。そして脱いだ寝間着とシーツを洗濯機に入れつつ、少年は玄関の扉を開けて庭へと出た。
毎日の習慣とも言える、朝の運動。少年は軽く体をほぐした後、父から教わった型を繰り返した。空手、功夫、ムエタイ、カポエラ等、複数の技が混ざり合った様な型は、少年の父が世界中を渡り独自に編み出したもの。
シュッ、ブワっと激しい風切り音を立てて、拳を振い蹴りを繰り出す。少年にとって早朝の静謐な時間は、誰にも邪魔をされず、稽古に集中出来る貴重なものである。
そして、約一時間ほど体を動かすと、タオルで汗を拭い自宅へ戻った。
彼の朝はそこで終わらない。シャワーを浴びて汗を洗い流すと、新しい部屋着に着替えて洗濯機を動かす。そして、キッチンへ向かい朝食の準備を始める。米を研ぎ炊飯器のスイッチを入れ、前日の夜に、水を張っていた鍋に火をかける。少ししたら、昆布を取り出し花かつおを入れる。
味噌汁の出汁を取りながら、少年はその日の体調を考慮した献立を考え、冷蔵庫を開け食材を探す。
母がおらず、父の不在が多い家で、少年は家事全般を熟していた。そして少年には、血の繋がらない妹が居た。
東郷冬也、少年は常に妹の面倒を見てきた。
冬也が、妹と初めて会ったのは七歳の夏。彼女は一つ年下で、父親の再婚相手の連れ子だった。以来十年間一緒に暮らしている。
再婚して一年も経たずに、義母は行方をくらました。父親は仕事で、ほとんど家に帰る事は無い。
父一人の家庭にも関わらず、その父は冬也に稽古をつける為に、たまに寄るだけ。だけど、寂しいと感じた事は一度も無かった。何故なら、冬也には妹がいたから。
実の両親に置き去りにされた、可愛そうな子。こいつが頼れるのは、俺しかいない、俺が守らなければ。
冬也の彼女に対する想いは、憐憫だけでは無い。十年に渡る二人の同居生活で、いつしか彼女を本当の妹の様に感じていた。
冬也が妹の世話を面倒がった事は、一度として無い。中学に入ってからは、お弁当の用意も欠かさなかった。食事の支度から掃除洗濯まで、十年近くも毎日続けてきた。
また、大雑把な性格が幸いしたのか、血の繋がりを意識した事もなかった。十年をかけて、二人は本当の家族になっていた。
朝食の準備が粗方整うと、階段越しに二階へ届く様、冬也は大声を張り上げる。だが、反応は無い。ただ呼びかけただけでは、妹が起きない事はいつもの事である。冬也はタオルで手を拭うと、二階に上がり寝室の戸を開けた。
「ペスカ、起きろよ。時間だぞ」
「もうちょい」
ペスカは布団を覆いかぶさりながら、ぼそぼそと呟く。冬也は布団を揺さぶりながら、再び声を掛けた。
「何がもうちょいだよ。遅くまでゲームしてたせいだろ。早く寝ないから、朝が辛いんだ。早く起きろよ」
「うにゃあ~、わかった。チュウしてくれたら起きる」
「馬鹿な事言ってないで、早く起きろ」
冬也は妹を目覚めさせ様と、布団を強引に剥ぎ取る。
そして布団の中から現れたのは、光輝く様な金髪に、端正な顔立ちの美少女。透き通った青い瞳は、宝石の様に美しい。細くしなやかな体躯は、所々が開けて露になっていた。
冬也は、あられも無い恰好でモゾモゾしている妹の姿を、なるべく視界に入れない様に、部屋を出てリビングに戻る。
冬也が朝食の盛り付けをしていると、開けっ放しにしたペスカの部屋から、声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、パンツ何処~?」
「押し入れに入ってるだろ! 勝手に選んで履けよ!」
「お兄ちゃん、髪やって~」
「後でやってやるから、早く顔洗いに降りて来い! 飯が冷めちまうぞ!」
フラフラと体を揺らしながら、ペスカは階段を降りてくる。その光景に危なっかしさを感じながらも、冬也は優し気な笑みを湛えて見守る。
やがて食卓に着く二人。時折欠伸しながらおかずをつつくペスカに、冬也は味噌汁を啜りながら話しかけた。
「そう言えばお前、今日から旅行って言ってたよな? 支度は出来てんのか?」
「だいじょうぶ~、だったはず?」
冬也の問いに、小首を傾げて答えるペスカ。
「なんで疑問形なんだよ! 何時に出発なんだ? 飯食ったら手伝ってやるよ」
「大丈夫だって! お兄ちゃんは朝から気にしすぎ」
ペスカの答えに不安を感じた冬也だが、ペスカはあっけらかんとし、気にも留めずに居る。もそもそと、白米を口に入れながら、呑気な顔で笑っている。
「仕方ねぇ~だろ。お前こういうの駄目だからな」
「私だって色々出来るもん。お兄ちゃんより成績良いし!」
「なんでお前の成績良いのかわかんねぇよ。いつもゲームばっかりしてるくせに」
「お兄ちゃん成績はあれだからね~。お兄ちゃんはやれば出来る子なのにね~」
冬也は幼い頃から、成績優秀な妹と比較される事が多かった。しかし、冬也は妹に対し劣等感を抱く事は無かった。それは冬也にとってペスカが、常に庇護対象であり、比較対象では無かったからである。
体育以外の科目で、赤点以外の成績を取った事が無い冬也。短髪に切り揃えた黒髪と、凛々しい顔立ち、やや筋肉質の身体つき。どちらかと言えばスポーツ系の冬也は、男女問わず友人がおり、その面倒見の良さから、多くの友人に好かれていた。
対してペスカは、文武両道の美人。告白された回数は数えきれない程である反面、親友と呼べる友人は数える程しか居なかった。
ペスカは今でこそ、アイドル的存在となっているが、幼い頃は容姿をからかわれたり、やっかまれる等の虐めを受けた事があった。そんなペスカを冬也は常に壁となり守ってきた。
冬也にとってペスカが可愛い妹であると同時に、ペスカにとって冬也は頼れる大好きな兄であった。
朝食が終わり、冬也はペスカの旅支度のチェックをする。旅支度と言っても用意してあるのは、リュック一つだけで、中には適当に着替えや下着、水や栄養食品が詰まってるだけであった。
ペスカの旅支度を見て疑問を感じたのか、冬也はペスカに質問を投げかける。
「そう言えばお前、何処行くの? ちゃんと聞いてないよな」
「そう? 言ってなかったっけ?」
冬也は、少し眉を吊り上げて質問を続ける。
「一人で旅行って訳じゃないよな? 誰と行くんだ? クラスの子か? それとも空ちゃんか? 男子は混じって無いだろうな!」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ~」
「お前くらい可愛いと攫われちゃうんだぞ。気をつけなきゃいけないんだぞ」
「心配しないでも、大丈夫だって。私だって、お兄ちゃんと一緒に、パパリンから格闘技を教わってたんだから」
冬也の問いを、笑顔で適当に流すペスカ。ペスカは、小さい頃から不思議な行動をする事が多い。そのため冬也は、ついペスカの行動が心配になる。しかし今回は別の何か。そう、胸騒ぎの様なものを感じていた。
端的には、昨晩見た夢が脳裏から離れられないだけ。しかし決して蔑ろには出来ない、そんな予感めいた不思議な感覚である。
荷物の確認が終わると、せめて駅まで見送ろうと、冬也は立ち上がった。ペスカと共に玄関までやって来た冬也は、念を押す様にペスカに注意する。
「気をつけるんだぞ。わかったな」
「わかってるって! 行こ、お兄ちゃん。駅まで送ってくれるんでしょ?」
「本当に大丈夫なのか? 兄ちゃんは、心配なんだぞ」
不安に駆られる冬也と、あっけらかんとしたペスカ。玄関のノブに手をかける瞬間、ペスカからニヤリとした笑みが零れるのを、冬也は気が付かない。
何も気が付かずに冬也は、玄関をゆっくりと開けた。
玄関を開けると光に包まれ、ペスカと冬也を吸い込んでいく。
光が消えると、そこは見知らぬ森の中だった。
何だこの化け物は。
そもそも此処は何処だ?
深く暗い森の中で、少年は少女を庇い、肩から大量の血を流している。二人の前には、彼らの身長より三倍は有る生物がいる。地球上では見たこともないそれは、赤黒い皮膚に大きな羽を持つ。異形と言ってもいいだろうその怪物は、獰猛な歯をむき出しに少年達へと迫っていた。
怪物が大きな爪を振るう度に、土煙は巻き起こり、木々がはじけ飛ぶ。久々のご馳走とでも思っているのか、怪物は大量の涎を垂らしている。二人を逃す気は、毛ほども無いだろう。
そこは日本で育った者には思いも寄らない、死と隣り合わせの非日常。命など、紙切れ程の価値しか無い悪意に満ちた惨状。どれだけ抗おうとも、弱者は嬲られ捕食される。
怪物の鋭い爪が、少女に向かって降り降ろされる。少女を抱える様に庇い、少年は背を深く抉られる。パックリと開いた傷口からは、血しぶきが噴き出す。その痛みに少年は、気を失いかける。だが、気を失う訳にはいかない。少年は己の身を犠牲にし、少女に覆いかぶさる。
怪物は止めを刺さんと、再び腕を振り上げる。遠ざかる意識の先で、鋭利な爪が少年の首先に迫っていた。
☆ ☆ ☆
少年が目を覚ました時には、まだ外は暗かった。大量の汗をかいたのか、少年のシャツは体に張りついており、ベッドのシーツはじっとりと湿っていた。
「なんだ夢か。にしてもリアルだったな」
薄暗闇の中で目を擦りながら、少年は電子時計の明かりを探す。そして、暗闇に淡く光るブルーの灯りは、午前四時を映していた。
「変な夢を見たのは、VRゲームのせいだろ。遅くまで付き合わせやがって」
やや悪態をつきながらもベッドから降り、寝間着から着替えて部屋を出る。そして脱いだ寝間着とシーツを洗濯機に入れつつ、少年は玄関の扉を開けて庭へと出た。
毎日の習慣とも言える、朝の運動。少年は軽く体をほぐした後、父から教わった型を繰り返した。空手、功夫、ムエタイ、カポエラ等、複数の技が混ざり合った様な型は、少年の父が世界中を渡り独自に編み出したもの。
シュッ、ブワっと激しい風切り音を立てて、拳を振い蹴りを繰り出す。少年にとって早朝の静謐な時間は、誰にも邪魔をされず、稽古に集中出来る貴重なものである。
そして、約一時間ほど体を動かすと、タオルで汗を拭い自宅へ戻った。
彼の朝はそこで終わらない。シャワーを浴びて汗を洗い流すと、新しい部屋着に着替えて洗濯機を動かす。そして、キッチンへ向かい朝食の準備を始める。米を研ぎ炊飯器のスイッチを入れ、前日の夜に、水を張っていた鍋に火をかける。少ししたら、昆布を取り出し花かつおを入れる。
味噌汁の出汁を取りながら、少年はその日の体調を考慮した献立を考え、冷蔵庫を開け食材を探す。
母がおらず、父の不在が多い家で、少年は家事全般を熟していた。そして少年には、血の繋がらない妹が居た。
東郷冬也、少年は常に妹の面倒を見てきた。
冬也が、妹と初めて会ったのは七歳の夏。彼女は一つ年下で、父親の再婚相手の連れ子だった。以来十年間一緒に暮らしている。
再婚して一年も経たずに、義母は行方をくらました。父親は仕事で、ほとんど家に帰る事は無い。
父一人の家庭にも関わらず、その父は冬也に稽古をつける為に、たまに寄るだけ。だけど、寂しいと感じた事は一度も無かった。何故なら、冬也には妹がいたから。
実の両親に置き去りにされた、可愛そうな子。こいつが頼れるのは、俺しかいない、俺が守らなければ。
冬也の彼女に対する想いは、憐憫だけでは無い。十年に渡る二人の同居生活で、いつしか彼女を本当の妹の様に感じていた。
冬也が妹の世話を面倒がった事は、一度として無い。中学に入ってからは、お弁当の用意も欠かさなかった。食事の支度から掃除洗濯まで、十年近くも毎日続けてきた。
また、大雑把な性格が幸いしたのか、血の繋がりを意識した事もなかった。十年をかけて、二人は本当の家族になっていた。
朝食の準備が粗方整うと、階段越しに二階へ届く様、冬也は大声を張り上げる。だが、反応は無い。ただ呼びかけただけでは、妹が起きない事はいつもの事である。冬也はタオルで手を拭うと、二階に上がり寝室の戸を開けた。
「ペスカ、起きろよ。時間だぞ」
「もうちょい」
ペスカは布団を覆いかぶさりながら、ぼそぼそと呟く。冬也は布団を揺さぶりながら、再び声を掛けた。
「何がもうちょいだよ。遅くまでゲームしてたせいだろ。早く寝ないから、朝が辛いんだ。早く起きろよ」
「うにゃあ~、わかった。チュウしてくれたら起きる」
「馬鹿な事言ってないで、早く起きろ」
冬也は妹を目覚めさせ様と、布団を強引に剥ぎ取る。
そして布団の中から現れたのは、光輝く様な金髪に、端正な顔立ちの美少女。透き通った青い瞳は、宝石の様に美しい。細くしなやかな体躯は、所々が開けて露になっていた。
冬也は、あられも無い恰好でモゾモゾしている妹の姿を、なるべく視界に入れない様に、部屋を出てリビングに戻る。
冬也が朝食の盛り付けをしていると、開けっ放しにしたペスカの部屋から、声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、パンツ何処~?」
「押し入れに入ってるだろ! 勝手に選んで履けよ!」
「お兄ちゃん、髪やって~」
「後でやってやるから、早く顔洗いに降りて来い! 飯が冷めちまうぞ!」
フラフラと体を揺らしながら、ペスカは階段を降りてくる。その光景に危なっかしさを感じながらも、冬也は優し気な笑みを湛えて見守る。
やがて食卓に着く二人。時折欠伸しながらおかずをつつくペスカに、冬也は味噌汁を啜りながら話しかけた。
「そう言えばお前、今日から旅行って言ってたよな? 支度は出来てんのか?」
「だいじょうぶ~、だったはず?」
冬也の問いに、小首を傾げて答えるペスカ。
「なんで疑問形なんだよ! 何時に出発なんだ? 飯食ったら手伝ってやるよ」
「大丈夫だって! お兄ちゃんは朝から気にしすぎ」
ペスカの答えに不安を感じた冬也だが、ペスカはあっけらかんとし、気にも留めずに居る。もそもそと、白米を口に入れながら、呑気な顔で笑っている。
「仕方ねぇ~だろ。お前こういうの駄目だからな」
「私だって色々出来るもん。お兄ちゃんより成績良いし!」
「なんでお前の成績良いのかわかんねぇよ。いつもゲームばっかりしてるくせに」
「お兄ちゃん成績はあれだからね~。お兄ちゃんはやれば出来る子なのにね~」
冬也は幼い頃から、成績優秀な妹と比較される事が多かった。しかし、冬也は妹に対し劣等感を抱く事は無かった。それは冬也にとってペスカが、常に庇護対象であり、比較対象では無かったからである。
体育以外の科目で、赤点以外の成績を取った事が無い冬也。短髪に切り揃えた黒髪と、凛々しい顔立ち、やや筋肉質の身体つき。どちらかと言えばスポーツ系の冬也は、男女問わず友人がおり、その面倒見の良さから、多くの友人に好かれていた。
対してペスカは、文武両道の美人。告白された回数は数えきれない程である反面、親友と呼べる友人は数える程しか居なかった。
ペスカは今でこそ、アイドル的存在となっているが、幼い頃は容姿をからかわれたり、やっかまれる等の虐めを受けた事があった。そんなペスカを冬也は常に壁となり守ってきた。
冬也にとってペスカが可愛い妹であると同時に、ペスカにとって冬也は頼れる大好きな兄であった。
朝食が終わり、冬也はペスカの旅支度のチェックをする。旅支度と言っても用意してあるのは、リュック一つだけで、中には適当に着替えや下着、水や栄養食品が詰まってるだけであった。
ペスカの旅支度を見て疑問を感じたのか、冬也はペスカに質問を投げかける。
「そう言えばお前、何処行くの? ちゃんと聞いてないよな」
「そう? 言ってなかったっけ?」
冬也は、少し眉を吊り上げて質問を続ける。
「一人で旅行って訳じゃないよな? 誰と行くんだ? クラスの子か? それとも空ちゃんか? 男子は混じって無いだろうな!」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ~」
「お前くらい可愛いと攫われちゃうんだぞ。気をつけなきゃいけないんだぞ」
「心配しないでも、大丈夫だって。私だって、お兄ちゃんと一緒に、パパリンから格闘技を教わってたんだから」
冬也の問いを、笑顔で適当に流すペスカ。ペスカは、小さい頃から不思議な行動をする事が多い。そのため冬也は、ついペスカの行動が心配になる。しかし今回は別の何か。そう、胸騒ぎの様なものを感じていた。
端的には、昨晩見た夢が脳裏から離れられないだけ。しかし決して蔑ろには出来ない、そんな予感めいた不思議な感覚である。
荷物の確認が終わると、せめて駅まで見送ろうと、冬也は立ち上がった。ペスカと共に玄関までやって来た冬也は、念を押す様にペスカに注意する。
「気をつけるんだぞ。わかったな」
「わかってるって! 行こ、お兄ちゃん。駅まで送ってくれるんでしょ?」
「本当に大丈夫なのか? 兄ちゃんは、心配なんだぞ」
不安に駆られる冬也と、あっけらかんとしたペスカ。玄関のノブに手をかける瞬間、ペスカからニヤリとした笑みが零れるのを、冬也は気が付かない。
何も気が付かずに冬也は、玄関をゆっくりと開けた。
玄関を開けると光に包まれ、ペスカと冬也を吸い込んでいく。
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