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二つの世界、それぞれの未来
401 アル君の一人で買い物できるかな? その2
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アルキエルが外出してから、少し時間が経過してペスカ達が家を出た。
普通なら、もう電車に乗っていてもおかしくはない。しかし、アルキエルの姿は、駅で見つけることが出来た。
「おい! 俺は聞いてるだけだろ! 逃げんじゃねぇ!」
アルキエルは、帽子を被った人へ、手当たり次第に声をかけていた。
アルキエルに脅す意思がなくても、存在自体に迫力が有る。声をかけられれば、誰もが逃げ出す。そもそも、普通に歩いているだけでも、皆がアルキエルを避けるようにして歩くのだ。
視線を合わせる者は、皆無だと言えよう。
「くそっ。やっぱりブルの奴を、無理にでも連れてくるべきだったか。ブルの奴、何してやがる。全く応答しねぇ。冬也の奴もだ」
アルキエルは、最初から躓いていた。
駅には到着する事は、容易であった。改札も難なく通り抜けた。しかし、電車には上りと下りが有る。どっちの電車に乗ればいいのか、アルキエルにはわからないのだ。
渋々メモに従って、帽子を被った人間に声をかける。だが、アルキエルが声をかけたのは、駅員ではなく一般の人である。
アルキエルが近づくだけで、蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。当の駅員は、訝しげな視線を向け、緊急事態に対応しようと、職員を集めていた。
「アル。なんだか可哀想なんだな」
「しっ! ブル、静かに!」
一部の人間が放つ緊張感を感じ取ると、騒ぎにならない様に、アルキエルは歩き出す。
階段は二つ、間違えれば目的地から遠ざかる。だがアルキエルは、立川に行った際の記憶を呼び起こしながら、正解を引き当てた。
「先ずは、第一関門突破だね」
「ペスカこそ、静かにするんだな」
アルキエルがホームに行くと、タイミングよく電車がやってくる。
電車に乗り込むまではよかった。しかし、徐々に車両から人が消えていく。正確には、他の車両に移っていくのだ。乗り込んでくる乗客もいない。
本来ならば、同じ車両に乗った乗客に目的地を言えば、教えてくれるはずなのだ。
そう難しい事ではない。中央線で御茶ノ水駅まで行き、そこで総武線に乗り換えて次の駅で降りるだけ。
そもそも冬也のメモは、駅名の漢字が違う。車両内に張り出されている路線図を見ても、該当する駅を探すことは出来ない。
隣の車両からは、訝しげな視線が送られてくる。コソコソと話しをしている様子も、見受けられる。耳を澄ませば、警察に連絡するべきだと、言っている様だ。
だが、耳を澄ました事で、事態が好転する。
警察という単語で、とある人物の名が、アルキエルの頭に過る。
支給されたまま持ち歩いているスマートフォンを手に取ると、アルキエルは登録してある番号に電話をかけた。
数コールで、相手が電話に出る。
「珍しいなアルキエル。どうしたんだい?」
「佐藤、わりぃが少し教えてくれ」
「何を? 言ってみな」
「秋葉原とやらに行きてぇ。多分、そこが目的地だと思う」
「君にしては、歯切れが悪いね。何が有ったんだい?」
「ペスカが大事にしてたゲーム機が、壊れちまった。それで、俺が買いに行くことになった」
「はぁ、そんな事か。それで、今はどこだい?」
「電車とやらに乗ってる。どいつだか知らねぇが、次が立川だと言ってやがった」
「それはアナウンスだよ。君はそのまま、御茶ノ水まで乗るんだ。降りる場所は、さっきと同じ様に、アナウンスで教えてくれる」
「冬也が書いた紙には、乗り換えって書いてやがるんだ」
「今乗ってるのは、中央線。御茶ノ水で降りて、総武線ってのに乗り換えるんだ。乗り換えたら、次の駅で降りる。そんなに迷いはしないと思うよ」
「佐藤。わりぃが、よくわからねぇ」
「仕方ない。御茶ノ水で電車から降りたら、もう一度電話をかけて来なよ」
「わかった」
「それと、アルキエル。電車の中では、スマートフォンは使っちゃ駄目だ」
「あぁ? 面倒だな。だが、それも理解した」
察しの良い佐藤の事である。
ゲーム機は、壊れたのではない。壊したのが正解だろう。そしてアルキエルは、罰として買いに行かされたのだ。そう推測していた。
それを敢えて口に出さないのが、大人の対応であろう。
そんな心配りを察したのか、アルキエルは大人しく佐藤に従った。
指示通りに御茶ノ水で電車を降りると、アルキエルは再び佐藤に電話をかける。そして佐藤の案内を受けながら、順調に乗り換えを行い、秋葉原の地に降り立った。
「アル。良かったんだな」
「何言ってんの。順調すぎたら、つまんないよ」
二柱の会話を呆れた様に、レイピア達は眺めていた。
ただ、ここまでなら、子供でも出来る事なのだ。本当の試練はここから始まる。
目的のゲームを何処で買えばいいのか。アルキエルは、全くわかっていない。
そもそも、新型のゲーム機なら、手に入れる事はそう難しい事ではない。しかし、生産が終了しているゲーム機を、何処で手に入れようというのだ。
ちゃんと下調べをしてから、訪れるのが普通だろう。ゲーム機を売る店はおろか、旧型のゲーム機を扱っている店すら知らないアルキエルは、買って帰る事が出来るのだろうか。
恐らく、不可能に近いミッションであろう。
観光地として名を轟かせていた秋葉原には、外国人旅行者の姿はない。流石に旅行が出来る程、世界は落ち着いていないのだ。
戦争での被害がほとんど無かった日本では、既に日常が戻りつつある。それでも、以前の秋葉原と比べれば、閑散としている。
そんな中、街を活気付ける為に、頑張っている者も存在している。
この日、秋葉原を訪れた者は、不運だと言えよう。何せ、アルキエルが秋葉原に訪れてしまったのだから。
そして不運は重なる。それは世の常なのかもしれない。
きょろきょろと、辺りを見回しながら歩いているアルキエルが、目に入っていなかったのだろう。
エプロンドレスを着用した女性が、振り返りざまに、手に持った看板をぶつけてしまった。それも、女性の横を素通りしようとしたアルキエルへ。
アルキエルは、女性を睨め付けたつもりはなかった。
しかし、女性は余程怖かったのだろう。アルキエルを見た瞬間、腰を抜かして道路に座り込み、失禁してしまった。その数秒後、女性は金切り声を上げる。
そして、周囲の者達の視線が、一斉にアルキエルに集まった。
周りから見れば、女性を襲っている怪しい外国人に見えたのだろう。周囲は騒然とし始める。そして誰かが通報したのだろう、警察官が飛んでくる。
「ちょっと、署までご同行頂けますか?」
女性には可哀想な事をした。しかし、被害を被ったのは、アルキエルである。ただ警察官としては、騒ぎを起こした当事者、両名に事情を聴く必要がある。
アルキエルだけでなく、女性も同行を求められる。しかし失禁した女性を、そのまま連行する訳にはいくまい。
女性には、着替えてから出頭するように言い含めた後、警察官はアルキエルを連行していった。
そしてこっそりと、一部始終を覗いていたペスカは、笑いを堪えていた。
「見てよ、アルキエルがしょぼんってしてる。なんか可愛い、すっごい貴重だよ。写真撮って、お兄ちゃんにも見せなきゃ」
「確かに、あの様なアルキエル様は見た事がありません。ですが、あの誠実さは、見習わなければ」
「レイピアは、相変わらず真面目だね。少し力を抜いても良いんだよ、今のアルキエルみたいにさ。見てよほら、すっかり角が取れてるでしょ? あれなら、誰にも怖がられないよ」
「ところでペスカ様。あの女性には、どう対処致しましょう?」
「ソニア。あの人には、お詫びの品を持っていこう」
「ではペスカ様。俺は、あの女性を追って、拠点を突き止めます」
「拠点じゃなくて、お店だよゼル。迷子になるから、直ぐに戻って来るんだよ」
師と仰ぐアルキエルの慌てる様子に、いたたまれなくなったのか、ゼルはそそくさと女性の追跡を始める。
アルキエルは、地上の者達から怯えられる事に慣れている。それ故、どれだけ避けられても、平然としている。
戦いの神なのだ、畏怖の対象となるのは仕方ない。寧ろ、平然と受け入れられる事の方が、問題であろう。
ただアルキエル自身は、地上の者達を理解しようと努めてきた。どうすれば、交流が図り易くなるのか、試行錯誤を重ねてきた。
関わった者は、決して多いとは言えない。しかしアルキエルは、人間や亜人等の存在を少しずつ理解し始めている。
アルキエルに看板をぶつけた女性は、往来で失禁した。それは本人にとって、この上なく恥ずかしいと、感じるているはず。
あの時アルキエルは、慣れない笑顔を作り、女性に対して優しく手を差し伸べようとした。それは、アルキエルなりの努力であった。しかしその努力も空しく、女性は悲鳴を上げた。
アルキエルは、その結果が理解出来なかった。故に多少の気落ちもしていた。それが返って、アルキエルの迫力を軽減させたのは、皮肉な事であろう。
アルキエルが、何に対しても真摯に取り組む事は、関わった誰もが知っている。
当初、面倒がった弟子を取る事。日本を訪れてから、積極的に歴史や文化を学ぼうとした事。どれも興味がない、どうでも良いと、切り捨てる事は出来たのだ。だがアルキエルは、そうしなかった。
だからこそ、弟子達に慕われた。同じ冬也の眷属達に、認められた。
それはペスカとて同じだ。寧ろペスカは、やんちゃな子供を見守る母の気持ちに近いだろう。
確かに、大切にしていたゲーム機を壊されたのは、ショックであった。しかし、微塵も怒ってはいない。アルキエルなら、仕方ないとすら思っている。
おまけに、アルキエルが独りで買い物に出かけた事が、心配でならない。
そんなペスカの心を理解していたからこそ、ブルはアルキエルに手を貸さず、ペスカと共に見守っていたのだろう。
派出所に連れていかれたアルキエルは、警察官から執拗な質問を受ける。
何処から来た。何をしていた。女性はなぜ泣いていた。本当に何もしていないのか。そんな質問を幾らされても、何もしてないとしか答えようが無い。ましてや異世界から来たと言っても、信じてもらえるはずがない。
やがて、着替え終わった女性が到着し証言をした事で、アルキエルが無実であることが証明される。
「脅かしたつもりはねぇが、悪かったな」
「い、いえ。わ、わた、わたしこそ。す、すす、すみません」
女性は怯えながらも、アルキエルに謝罪の言葉を述べる。そして派出所を出ていく。
ただ警察官としては、女性を開放しても、アルキエルをそのまま開放する訳にはいかない。身分が証明出来ない外国人を、放置する訳にはいかないからだ。
この時、アルキエルは非常に困っていた。
大見えを切ったからには、ペスカに頼る事は出来ない。忙しそうにしている冬也に、迷惑をかけたくない。ミスラに頼るのは、プライドが許さない。
そんな状況で、再び脳裏に再び浮かんだのは、あの男の存在である。アルキエルは、警察官に連絡する許可を求めると、スマートフォンを操作する。
「任意同行されたのは、やはり君だったか。東郷さん達に、連絡し辛い事情があるのかい? どの道、今向かってるから、十分ほど待っていてくれ」
その後、驚くのは派出所勤務の警察官である。
まさか、怪しげな外国人の身元引受人として、警視正に昇格した佐藤が訪れるとは、誰も考えまい。
「これ以上、騒ぎを起こされても面倒だから、君の用事を済ませてしまおう。ついでに送っていくよ」
「そういう訳にはいかねぇんだよ」
「意地を張るな。君のプライドも有るだろうけど、ここは僕の顔を立ててくれないか」
「どういう事だ?」
「さっき匿名の電話が有ってね。君が探している物の在処も、検討をつけて来た。まぁ、そう言う事だよ」
そこまで言われれば、誰の手配か直ぐに理解も出来よう。ここまでの行動を見られていた事にも、アルキエルは気がつく。
「くそっ。最初から、あいつの手のひらで踊らされてたって事かよ」
「まぁそう言うな。せっかくだから、観光案内をしてやる。旨いものも食わせてやる。それで、機嫌を直してくれ」
「仕方ねぇ。お偉いさんが、案内してくれるってんなら、勘弁してやるぜ」
佐藤の案内で、直ぐにゲームを購入したアルキエルは、日が落ちるまで観光を楽しんだ。
無論、アルキエルを佐藤に託し、女性に見舞品を渡したペスカも、ブル達を連れて観光を楽しむ。
結局アルキエルに、一人で買い物をさせる事は出来なかった。しかし、帰宅したアルキエルは、満足気な表情を浮かべていた。それは、ブルやレイピア達も同じである。
貴重な生産終了品のゲーム機、しかも未開封品を手に入れたペスカも、ご満悦であった。
夕食を囲み、その日の出来事でワイワイと盛り上がる一同を、冬也は優し気な表情で見守る。
みんなが満足したんなら、それに越したことはない。
「よかったな」
冬也もまた、一家団欒の光景に充足感を覚えていた。
普通なら、もう電車に乗っていてもおかしくはない。しかし、アルキエルの姿は、駅で見つけることが出来た。
「おい! 俺は聞いてるだけだろ! 逃げんじゃねぇ!」
アルキエルは、帽子を被った人へ、手当たり次第に声をかけていた。
アルキエルに脅す意思がなくても、存在自体に迫力が有る。声をかけられれば、誰もが逃げ出す。そもそも、普通に歩いているだけでも、皆がアルキエルを避けるようにして歩くのだ。
視線を合わせる者は、皆無だと言えよう。
「くそっ。やっぱりブルの奴を、無理にでも連れてくるべきだったか。ブルの奴、何してやがる。全く応答しねぇ。冬也の奴もだ」
アルキエルは、最初から躓いていた。
駅には到着する事は、容易であった。改札も難なく通り抜けた。しかし、電車には上りと下りが有る。どっちの電車に乗ればいいのか、アルキエルにはわからないのだ。
渋々メモに従って、帽子を被った人間に声をかける。だが、アルキエルが声をかけたのは、駅員ではなく一般の人である。
アルキエルが近づくだけで、蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。当の駅員は、訝しげな視線を向け、緊急事態に対応しようと、職員を集めていた。
「アル。なんだか可哀想なんだな」
「しっ! ブル、静かに!」
一部の人間が放つ緊張感を感じ取ると、騒ぎにならない様に、アルキエルは歩き出す。
階段は二つ、間違えれば目的地から遠ざかる。だがアルキエルは、立川に行った際の記憶を呼び起こしながら、正解を引き当てた。
「先ずは、第一関門突破だね」
「ペスカこそ、静かにするんだな」
アルキエルがホームに行くと、タイミングよく電車がやってくる。
電車に乗り込むまではよかった。しかし、徐々に車両から人が消えていく。正確には、他の車両に移っていくのだ。乗り込んでくる乗客もいない。
本来ならば、同じ車両に乗った乗客に目的地を言えば、教えてくれるはずなのだ。
そう難しい事ではない。中央線で御茶ノ水駅まで行き、そこで総武線に乗り換えて次の駅で降りるだけ。
そもそも冬也のメモは、駅名の漢字が違う。車両内に張り出されている路線図を見ても、該当する駅を探すことは出来ない。
隣の車両からは、訝しげな視線が送られてくる。コソコソと話しをしている様子も、見受けられる。耳を澄ませば、警察に連絡するべきだと、言っている様だ。
だが、耳を澄ました事で、事態が好転する。
警察という単語で、とある人物の名が、アルキエルの頭に過る。
支給されたまま持ち歩いているスマートフォンを手に取ると、アルキエルは登録してある番号に電話をかけた。
数コールで、相手が電話に出る。
「珍しいなアルキエル。どうしたんだい?」
「佐藤、わりぃが少し教えてくれ」
「何を? 言ってみな」
「秋葉原とやらに行きてぇ。多分、そこが目的地だと思う」
「君にしては、歯切れが悪いね。何が有ったんだい?」
「ペスカが大事にしてたゲーム機が、壊れちまった。それで、俺が買いに行くことになった」
「はぁ、そんな事か。それで、今はどこだい?」
「電車とやらに乗ってる。どいつだか知らねぇが、次が立川だと言ってやがった」
「それはアナウンスだよ。君はそのまま、御茶ノ水まで乗るんだ。降りる場所は、さっきと同じ様に、アナウンスで教えてくれる」
「冬也が書いた紙には、乗り換えって書いてやがるんだ」
「今乗ってるのは、中央線。御茶ノ水で降りて、総武線ってのに乗り換えるんだ。乗り換えたら、次の駅で降りる。そんなに迷いはしないと思うよ」
「佐藤。わりぃが、よくわからねぇ」
「仕方ない。御茶ノ水で電車から降りたら、もう一度電話をかけて来なよ」
「わかった」
「それと、アルキエル。電車の中では、スマートフォンは使っちゃ駄目だ」
「あぁ? 面倒だな。だが、それも理解した」
察しの良い佐藤の事である。
ゲーム機は、壊れたのではない。壊したのが正解だろう。そしてアルキエルは、罰として買いに行かされたのだ。そう推測していた。
それを敢えて口に出さないのが、大人の対応であろう。
そんな心配りを察したのか、アルキエルは大人しく佐藤に従った。
指示通りに御茶ノ水で電車を降りると、アルキエルは再び佐藤に電話をかける。そして佐藤の案内を受けながら、順調に乗り換えを行い、秋葉原の地に降り立った。
「アル。良かったんだな」
「何言ってんの。順調すぎたら、つまんないよ」
二柱の会話を呆れた様に、レイピア達は眺めていた。
ただ、ここまでなら、子供でも出来る事なのだ。本当の試練はここから始まる。
目的のゲームを何処で買えばいいのか。アルキエルは、全くわかっていない。
そもそも、新型のゲーム機なら、手に入れる事はそう難しい事ではない。しかし、生産が終了しているゲーム機を、何処で手に入れようというのだ。
ちゃんと下調べをしてから、訪れるのが普通だろう。ゲーム機を売る店はおろか、旧型のゲーム機を扱っている店すら知らないアルキエルは、買って帰る事が出来るのだろうか。
恐らく、不可能に近いミッションであろう。
観光地として名を轟かせていた秋葉原には、外国人旅行者の姿はない。流石に旅行が出来る程、世界は落ち着いていないのだ。
戦争での被害がほとんど無かった日本では、既に日常が戻りつつある。それでも、以前の秋葉原と比べれば、閑散としている。
そんな中、街を活気付ける為に、頑張っている者も存在している。
この日、秋葉原を訪れた者は、不運だと言えよう。何せ、アルキエルが秋葉原に訪れてしまったのだから。
そして不運は重なる。それは世の常なのかもしれない。
きょろきょろと、辺りを見回しながら歩いているアルキエルが、目に入っていなかったのだろう。
エプロンドレスを着用した女性が、振り返りざまに、手に持った看板をぶつけてしまった。それも、女性の横を素通りしようとしたアルキエルへ。
アルキエルは、女性を睨め付けたつもりはなかった。
しかし、女性は余程怖かったのだろう。アルキエルを見た瞬間、腰を抜かして道路に座り込み、失禁してしまった。その数秒後、女性は金切り声を上げる。
そして、周囲の者達の視線が、一斉にアルキエルに集まった。
周りから見れば、女性を襲っている怪しい外国人に見えたのだろう。周囲は騒然とし始める。そして誰かが通報したのだろう、警察官が飛んでくる。
「ちょっと、署までご同行頂けますか?」
女性には可哀想な事をした。しかし、被害を被ったのは、アルキエルである。ただ警察官としては、騒ぎを起こした当事者、両名に事情を聴く必要がある。
アルキエルだけでなく、女性も同行を求められる。しかし失禁した女性を、そのまま連行する訳にはいくまい。
女性には、着替えてから出頭するように言い含めた後、警察官はアルキエルを連行していった。
そしてこっそりと、一部始終を覗いていたペスカは、笑いを堪えていた。
「見てよ、アルキエルがしょぼんってしてる。なんか可愛い、すっごい貴重だよ。写真撮って、お兄ちゃんにも見せなきゃ」
「確かに、あの様なアルキエル様は見た事がありません。ですが、あの誠実さは、見習わなければ」
「レイピアは、相変わらず真面目だね。少し力を抜いても良いんだよ、今のアルキエルみたいにさ。見てよほら、すっかり角が取れてるでしょ? あれなら、誰にも怖がられないよ」
「ところでペスカ様。あの女性には、どう対処致しましょう?」
「ソニア。あの人には、お詫びの品を持っていこう」
「ではペスカ様。俺は、あの女性を追って、拠点を突き止めます」
「拠点じゃなくて、お店だよゼル。迷子になるから、直ぐに戻って来るんだよ」
師と仰ぐアルキエルの慌てる様子に、いたたまれなくなったのか、ゼルはそそくさと女性の追跡を始める。
アルキエルは、地上の者達から怯えられる事に慣れている。それ故、どれだけ避けられても、平然としている。
戦いの神なのだ、畏怖の対象となるのは仕方ない。寧ろ、平然と受け入れられる事の方が、問題であろう。
ただアルキエル自身は、地上の者達を理解しようと努めてきた。どうすれば、交流が図り易くなるのか、試行錯誤を重ねてきた。
関わった者は、決して多いとは言えない。しかしアルキエルは、人間や亜人等の存在を少しずつ理解し始めている。
アルキエルに看板をぶつけた女性は、往来で失禁した。それは本人にとって、この上なく恥ずかしいと、感じるているはず。
あの時アルキエルは、慣れない笑顔を作り、女性に対して優しく手を差し伸べようとした。それは、アルキエルなりの努力であった。しかしその努力も空しく、女性は悲鳴を上げた。
アルキエルは、その結果が理解出来なかった。故に多少の気落ちもしていた。それが返って、アルキエルの迫力を軽減させたのは、皮肉な事であろう。
アルキエルが、何に対しても真摯に取り組む事は、関わった誰もが知っている。
当初、面倒がった弟子を取る事。日本を訪れてから、積極的に歴史や文化を学ぼうとした事。どれも興味がない、どうでも良いと、切り捨てる事は出来たのだ。だがアルキエルは、そうしなかった。
だからこそ、弟子達に慕われた。同じ冬也の眷属達に、認められた。
それはペスカとて同じだ。寧ろペスカは、やんちゃな子供を見守る母の気持ちに近いだろう。
確かに、大切にしていたゲーム機を壊されたのは、ショックであった。しかし、微塵も怒ってはいない。アルキエルなら、仕方ないとすら思っている。
おまけに、アルキエルが独りで買い物に出かけた事が、心配でならない。
そんなペスカの心を理解していたからこそ、ブルはアルキエルに手を貸さず、ペスカと共に見守っていたのだろう。
派出所に連れていかれたアルキエルは、警察官から執拗な質問を受ける。
何処から来た。何をしていた。女性はなぜ泣いていた。本当に何もしていないのか。そんな質問を幾らされても、何もしてないとしか答えようが無い。ましてや異世界から来たと言っても、信じてもらえるはずがない。
やがて、着替え終わった女性が到着し証言をした事で、アルキエルが無実であることが証明される。
「脅かしたつもりはねぇが、悪かったな」
「い、いえ。わ、わた、わたしこそ。す、すす、すみません」
女性は怯えながらも、アルキエルに謝罪の言葉を述べる。そして派出所を出ていく。
ただ警察官としては、女性を開放しても、アルキエルをそのまま開放する訳にはいかない。身分が証明出来ない外国人を、放置する訳にはいかないからだ。
この時、アルキエルは非常に困っていた。
大見えを切ったからには、ペスカに頼る事は出来ない。忙しそうにしている冬也に、迷惑をかけたくない。ミスラに頼るのは、プライドが許さない。
そんな状況で、再び脳裏に再び浮かんだのは、あの男の存在である。アルキエルは、警察官に連絡する許可を求めると、スマートフォンを操作する。
「任意同行されたのは、やはり君だったか。東郷さん達に、連絡し辛い事情があるのかい? どの道、今向かってるから、十分ほど待っていてくれ」
その後、驚くのは派出所勤務の警察官である。
まさか、怪しげな外国人の身元引受人として、警視正に昇格した佐藤が訪れるとは、誰も考えまい。
「これ以上、騒ぎを起こされても面倒だから、君の用事を済ませてしまおう。ついでに送っていくよ」
「そういう訳にはいかねぇんだよ」
「意地を張るな。君のプライドも有るだろうけど、ここは僕の顔を立ててくれないか」
「どういう事だ?」
「さっき匿名の電話が有ってね。君が探している物の在処も、検討をつけて来た。まぁ、そう言う事だよ」
そこまで言われれば、誰の手配か直ぐに理解も出来よう。ここまでの行動を見られていた事にも、アルキエルは気がつく。
「くそっ。最初から、あいつの手のひらで踊らされてたって事かよ」
「まぁそう言うな。せっかくだから、観光案内をしてやる。旨いものも食わせてやる。それで、機嫌を直してくれ」
「仕方ねぇ。お偉いさんが、案内してくれるってんなら、勘弁してやるぜ」
佐藤の案内で、直ぐにゲームを購入したアルキエルは、日が落ちるまで観光を楽しんだ。
無論、アルキエルを佐藤に託し、女性に見舞品を渡したペスカも、ブル達を連れて観光を楽しむ。
結局アルキエルに、一人で買い物をさせる事は出来なかった。しかし、帰宅したアルキエルは、満足気な表情を浮かべていた。それは、ブルやレイピア達も同じである。
貴重な生産終了品のゲーム機、しかも未開封品を手に入れたペスカも、ご満悦であった。
夕食を囲み、その日の出来事でワイワイと盛り上がる一同を、冬也は優し気な表情で見守る。
みんなが満足したんなら、それに越したことはない。
「よかったな」
冬也もまた、一家団欒の光景に充足感を覚えていた。
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転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
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大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
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不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
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地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
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高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
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