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二つの世界、それぞれの未来
399 遼太郎の決断
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戦いが終わり数日も経たずに、各国は戦争に至った経緯や、その背景を詳らかにした。
邪悪な神の存在。ミストルティンの存在と、実行部隊として存在する複数の下部組織の暗躍。他にも深山達の行動とその理由、テロリストと見なされていた特霊局の活躍、組織に反抗してまで正義を貫いた一部の警官達の存在。
異界からの訪問者を除く、事態に関わった者達、戦い半ばにして命を落とした者達についても、説明が行われた。
そして自国の組織をテロリストと認定した日本政府は、公式に発言を撤回する。三島を除く特霊局員は、時の人となる。
また、佐藤ら警察チームも、その功績を称えられ、昇進した上で再度警察に迎えられる。
それと反比例する様に、ミストルティンやその下部組織へ批判は集中する。但し、既にミストルティンのメンバーは、生ける屍と成り果てている。
唯一、無事であった三島が、ミストルティンとそれに関わる組織の解体を宣言。そして、組織全体が保有する、財産の全てを復興へと充てる事を、公式会見で明らかにした。
そして自らは、経験と知識を新世界の為に活かす事を約した。
深山に関しても、批判の声は上がった。
確かに人類を洗脳した事は、許し難い。しかし、ミストルティンによる人類選別計画の阻止を、行動目的としていた深山に関しては、批判よりも養護する声が多かった。
三島の発言を受けて、富を独占していた富裕層は、保有する財産の全てを集めて、復興及び慈善事業を行う為の基金を設立する。
また三島の指導により、基金から復興に関する資金が各国に流れる。また、困窮する国々への援助活動も開始された。
世界各地で戦争復興が行われると共に、大々的な慰霊祭も執り行われる。
更に国連やその関連組織が解散となる。同時に、世界各国の首脳及び、それに代わる権限を持つ者を代表者とした、人類史上初の世界平和と統治を目的とした世界政府が樹立される。
慌ただしく変化する情勢、その多くを指揮していたのは、依然として世界中に影響力を持つ、三島であった。
無論、首脳達を集め、戦争を終わらせたペスカの存在も、欠かす事は出来ない。
ただしペスカは、既に異界の神である。地球での影響を軽減する為、直接的な関与は行わず、あくまでも補助的な役割を果たした。
それでも、世界政府を設立する中で、取り決めなければならない事は、山の様に存在する。
ペスカは、忙しく各地を飛び回る事になる。
また佐藤は、自ら宣言した通り、公的な記録作成に取り掛かる。
記録の作成に当り、佐藤は冬也に証言を求めた。冬也もまた、忙しない日々を過ごす事になった。
ミストルティンの下部組織が全て解散した事を受けて、特霊局も解体となる。但し、主な構成員が陰陽師である赤坂と北千住事務所の面々は、正式に政府の依頼を受けて、高尾周辺の復興に取り掛かる。
また、日本では内閣の解散と総選挙が行われる。この際に深山が当選し、外務大臣として入閣を果たす。そして深山の要望により、外務省の特別機関として、元特霊局の面々が集められる事になる。
☆ ☆ ☆
この日、珍しく休みが重なったペスカと冬也を連れて、遼太郎は外出する事にした。移動手段は、つい最近になって米軍から回収出来た、自家用車である。
ブルが着いて来ようとしたが、それを止めたのは意外にもアルキエルである。
後部座席を陣取る冬也に対し、珍しくペスカは、冬也の隣ではなく助手席に座る。そして、手を振るブルを横目に、車は走り出した。
「それにしても、外務省って。パパリンはともかく、他の人達は大丈夫なの?」
「問題ねぇよ。エリーは、日本語がいまいちなだけで、フランス語とドイツ語が堪能だ。安西は、中国語とハングルだっけか? リンリンはよく覚えてねぇけど、十か国語位は話せたはずだ」
「うそ! リンリンの癖に、ハイスペック! じゃあ問題は、翔一君だけだね」
「翔一の奴も、問題ねぇだろ。あいつが頭良いのは、お前も知ってんだろ?」
「う~ん、翔一君は成績は良いかもしれないけど、要領が悪いからね」
「相変わらずお前は、翔一に対して厳しいな」
「だって、お兄ちゃんがいなければ、何も出来ないんだもん。本当は、モーリスに鍛えて貰うつもりだったんだけどさ。まぁいいや。パパリンがちゃんと鍛えてあげてね」
「冬也がいなければ、何も出来ねぇのは、お前だろペスカ」
「そんな事ないもん! ちゃんと頑張ってるもん! パパリンのバーカ、バーカ、うんこ!」
車内の会話が弾んでいる訳では無い。冬也が押し黙っている為、車内の空気が重いのだ。故にペスカが、気を使って明るく振舞っている。
別段、冬也が怒っている訳では無い。目的も告げずに、遼太郎は車を走らせている。その事に対して、冬也が不満を持っているのでも無い。
冬也は何かを考える様に、じっと一点を見つめている。それに対して、遼太郎は一切触れない。
気まずい雰囲気を、何とか緩和しようと奮闘するペスカは、娘の鏡だろう。
一時間が過ぎた頃に、車は目的地に到着する。そして着いた先は、墓苑であった。
遼太郎の後について、ペスカと冬也は歩みを進める。目的の場所へと辿り着くと、そこには東郷遼太郎と書かれた墓石があった。
「これはよぉ。冬也、お前が生まれて直ぐに作ったんだ。当時は何となくって感じだったけど、今ならその理由が理解出来るぜ」
遼太郎は静かに語り出した。
自分の神気は、全て無くなった。それにより、神格の維持が困難になった。
元を辿れば、アルキエルから逃れる為に、神格を分断した。割れた神格を、誰ともわからない魂魄と、強引に融合させたのだ。
魂魄側に歪が出来なかったのは、神格が守ったせいである。しかし、神格の維持が儘ならなければ、魂魄は崩壊する。
地上の生物は、その一生で多くの経験を得る。しかし、魂魄には容量が有る。一生で得る経験は、魂魄の容量を超える。それ故に、星の記憶へ経験を託し、真っ新な状態で転生を行うのだ。
何度も転生を繰り返し、経験を積み重ねる事で、魂魄の容量は成長を遂げる。より、多くの経験が蓄えられる程に成長した時、魂魄は神格へと変わる。
ミスラの神格と融合した魂魄は、神格を持つが故に、成長する事は無かった。言い換えれば、既に神格を備えている為、成長する必要が無かった。
ミスラの神格が、融合された魂魄から消え失せれば、容量を超えて経験を蓄積し続けた事により自壊する。
「ミスラとして、神格を分断しても生き延びた目的は、既に果たされた。これ以上、転生する目的はねぇ」
最後の別れとも言える遼太郎の言葉に、ペスカと冬也は深い溜息をついた。
「なぁ、糞親父。俺達を馬鹿にでもしてんのか? それとも、てめぇが馬鹿なだけか?」
「そうだよ、パパリン。私達が気付いてないと、本気で思ってたの?」
ミスラの神格を失った遼太郎の魂魄を、維持する方法は二つ存在する。
一つは、いずれかの神の眷属になり、加護を受ける事。もう一つは、ミスラが存在していた事を、魂魄から完全に消し去り、長い時間をかけて修復を行う事。
それに関して、アルキエルは既に、ペスカと冬也に告げていた。
「あいつは、誰かの眷属になるたまじゃねぇ。目的もねぇまま、生き延びる事を良しとはしねぇ。あいつは、俺の為に戦い続けたんだ。そろそろ、逝かせてやってくれ」
それは奇しくも、遼太郎の考えと同じであった。
「魂魄の持ち主には、悪い事をした。だから返さねぇとならねぇよ。何て言うか、永遠の別れじゃねぇって。ミスラとしての神格は、アルキエルに融合された。あいつの中で、ミスラは存在し続ける。まぁ、俺とは全くの別もんだがな」
「それって永遠の別れじゃない。パパリンって、やっぱり馬鹿なの?」
「うるせぇよペスカ。俺が納得してんだ、それで良いじゃねぇか」
「あのなぁ、糞親父。てめぇが納得してんなら、俺は一向に構わねぇよ。だけど、アルキエルが本心で、あんな事を言ったとでも思ってんのか? てめぇは、親友の気持ちもわからねぇ程、馬鹿なのか?」
「あぁ? 何だと冬也! 俺が何にもわかってねぇとでも言いてぇのか!」
「わかってねぇだろ。現に、てめぇの中だけで、勝手に完結させてんだろ!」
「冬也! ガキのお前にはわからねぇんだよ。俺はここに至るまで、何千、何万の人間を殺して来た。そうやって、アルキエルに対抗出来る力を蓄えて来たんだ! もう充分だろうが!」
「それが勝手だって言ってんだ! てめぇがアルキエルの親友だって言うなら、あいつの気持ちを汲んでやれ! 残される奴の想いを汲んでやれ! 独りで完結すんじゃねぇ!」
「うるせぇ! ミスラの存在は、役目を終えたんだ。もう必要ねぇんだ! 返さなきゃいけねぇ時が来たんだよ! その位わかりやがれ、糞馬鹿野郎!」
「どっちが馬鹿だ! てめぇが、どんな事をして来たかなんて、関係ねぇんだよ! てめぇは、三島のおっさんに、家族になるって言ったんじゃねぇのか! 深山には何て言った? どうせ、生きて償えとでも言ったんだろ? 協力するとでも言ったんだろ? それを放棄して、てめぇ独りで逃げんのか? あぁ? どうなんだよ!」
「勘違いしてんじゃねぇよ! 俺が消えるのは、生涯を全うした時だ! 意地でもそれまでは、生き抜いてやる! この魂魄は自壊させねぇし、あいつらも見捨てねぇ!」
冬也と遼太郎は、睨み合う。
恐らく互いに譲らない。それは、両者共に理解していた。冬也はアルキエルや残された者達の為に。そして遼太郎は、名も知らぬ魂魄を輪廻に戻す為に。
どっちの言い分が正しいのか、それは誰にも決める事は出来ないだろう。
ミスラという存在が有って、遼太郎という人間がここに居るのだ。
遼太郎の選択では、魂魄はミスラの神格と融合する前の状態に戻る。
それは一見すれば、正しい事の様にも思える。ただし、遼太郎という存在を、愛した者もいるのだ。その想いを置き去りにしてまで、行うべきなのか。
ミスラと融合した魂魄は、アルキエルを倒せる者を生み出す為だけに、戦いに身を置いてきた。だからアルキエルは、宿命に縛られるだけの状態から、ミスラを解放させる事を望んだ。
正しい答えは存在しない。どちらを選択するのか、結局は本人次第なのだ。
ペスカと冬也でさえ、遼太郎の決断を止める事は出来ない。たった一柱を除いて。
だから冬也は、事前に呼んでいた。そして、凛とした声が、墓地に響く。それは美しさの中にも、憤りを含めた、複雑な旋律の様であった。
「遼太郎さん。それは、夫婦の問題じゃないんですか? あなたの選択に、私が納得するとでも?」
「フィアーナ! なんでここに?」
「神気を感じられない今のあなたでは、わからないでしょ? わたしは今日、ずっとあなたの隣に居たんですよ」
女神フィアーナの登場で、状況は一変した。
先の武闘会で、遼太郎がミスラの記憶を取り戻した時、女神フィアーナはこの状況を予測していたのだろう。冬也の呼びかけに、一も二も無く応じて、日本に訪れていた。
敢えて顕現していないだけで、この日はずっと一緒にいたのだ。
気が付いていないのは、遼太郎だけである。
ブルとアルキエルは、女神フィアーナが居る事をわかっていた。ブルが着いて来ようとしたのは、遼太郎を心配したからである。
女神フィアーナは、車内でも一緒だった。そしてペスカは敢えて、無視をしていた。
自分では説得が出来ない事を、冬也は理解していたのだ。だから、口論になった際の仲裁と、遼太郎の説得を、女神フィアーナに頼んだのだ。
そして女神フィアーナは、用意していた。
遼太郎が何を言おうと、女神フィアーナは論破する。冷静に、且つ徹底的に、ぐうの音も出ない程に。
それは、数時間に渡って行われた。
どれだけ意地があっても、説得する為の準備を重ねて来た女神フィアーナには勝てない。そして、女神フィアーナは一歩も引かない。
「別に、あなたが消滅する必要は無いんですよ」
最終的に、遼太郎を頷かせたのは、女神フィアーナが用意した、第三の選択肢であった。
それは、ペスカをして、考え付かない方法でもあった。
今生を全うした後、魂魄に残るミスラの記憶を分離する。その記憶に神気を与えて神格を作り上げ、遼太郎をロイスマリアの神として迎える
魂魄は、多少の修復が必要になる。ただその提案ならば、強引に存在を奪った魂魄を、元の輪廻に戻す事が出来る。そして、遼太郎の理由は消滅する。
「夫婦なんです。一緒にいて当然でしょ? それとも、まだ言い訳を続けるつもりですか?」
「はぁ。俺の負けだ、フィアーナ。ずっとお前の傍にいてやる。お前等もそれで良いんだろ?」
「初めから素直に、そう言ってりゃ良いんだよ。糞親父」
「もう、良いじゃないお兄ちゃん。そうやって、パパリンに喧嘩を売らないでよ」
「そうだ、糞息子。お前は少し黙ってろ!」
「うっさい、パパリン! パパリンは、三島のおじさんに、結果を教えてあげなよ」
「はぁ? なんで、健兄さんが出てくんだ?」
「だって、三島のおじさんは、土下座して頼んで来たんだよ。遼太郎の事を頼むってさぁ。お兄ちゃんにも土下座してたよね」
「ったく、どいつもこいつも」
遼太郎は、溜息交じりに苦笑いを浮かべる。
事情を知る者全てが、遼太郎の為に考え、行動していたのだ。遼太郎の中に、温かい気持ちが溢れる。
そして遼太郎は、誰にも気付かれない様に、そっと涙を拭った。
「冬也君、見直した? 母は強しでしょ?」
「あぁ。流石だよ」
「ただのロリババアじゃなかったね」
「ペスカちゃん。お仕置きされたい?」
何が有ろうと決して、家族の絆は途絶えない。
その結果を導いたのは、深い愛が有ったからなのだろう。
邪悪な神の存在。ミストルティンの存在と、実行部隊として存在する複数の下部組織の暗躍。他にも深山達の行動とその理由、テロリストと見なされていた特霊局の活躍、組織に反抗してまで正義を貫いた一部の警官達の存在。
異界からの訪問者を除く、事態に関わった者達、戦い半ばにして命を落とした者達についても、説明が行われた。
そして自国の組織をテロリストと認定した日本政府は、公式に発言を撤回する。三島を除く特霊局員は、時の人となる。
また、佐藤ら警察チームも、その功績を称えられ、昇進した上で再度警察に迎えられる。
それと反比例する様に、ミストルティンやその下部組織へ批判は集中する。但し、既にミストルティンのメンバーは、生ける屍と成り果てている。
唯一、無事であった三島が、ミストルティンとそれに関わる組織の解体を宣言。そして、組織全体が保有する、財産の全てを復興へと充てる事を、公式会見で明らかにした。
そして自らは、経験と知識を新世界の為に活かす事を約した。
深山に関しても、批判の声は上がった。
確かに人類を洗脳した事は、許し難い。しかし、ミストルティンによる人類選別計画の阻止を、行動目的としていた深山に関しては、批判よりも養護する声が多かった。
三島の発言を受けて、富を独占していた富裕層は、保有する財産の全てを集めて、復興及び慈善事業を行う為の基金を設立する。
また三島の指導により、基金から復興に関する資金が各国に流れる。また、困窮する国々への援助活動も開始された。
世界各地で戦争復興が行われると共に、大々的な慰霊祭も執り行われる。
更に国連やその関連組織が解散となる。同時に、世界各国の首脳及び、それに代わる権限を持つ者を代表者とした、人類史上初の世界平和と統治を目的とした世界政府が樹立される。
慌ただしく変化する情勢、その多くを指揮していたのは、依然として世界中に影響力を持つ、三島であった。
無論、首脳達を集め、戦争を終わらせたペスカの存在も、欠かす事は出来ない。
ただしペスカは、既に異界の神である。地球での影響を軽減する為、直接的な関与は行わず、あくまでも補助的な役割を果たした。
それでも、世界政府を設立する中で、取り決めなければならない事は、山の様に存在する。
ペスカは、忙しく各地を飛び回る事になる。
また佐藤は、自ら宣言した通り、公的な記録作成に取り掛かる。
記録の作成に当り、佐藤は冬也に証言を求めた。冬也もまた、忙しない日々を過ごす事になった。
ミストルティンの下部組織が全て解散した事を受けて、特霊局も解体となる。但し、主な構成員が陰陽師である赤坂と北千住事務所の面々は、正式に政府の依頼を受けて、高尾周辺の復興に取り掛かる。
また、日本では内閣の解散と総選挙が行われる。この際に深山が当選し、外務大臣として入閣を果たす。そして深山の要望により、外務省の特別機関として、元特霊局の面々が集められる事になる。
☆ ☆ ☆
この日、珍しく休みが重なったペスカと冬也を連れて、遼太郎は外出する事にした。移動手段は、つい最近になって米軍から回収出来た、自家用車である。
ブルが着いて来ようとしたが、それを止めたのは意外にもアルキエルである。
後部座席を陣取る冬也に対し、珍しくペスカは、冬也の隣ではなく助手席に座る。そして、手を振るブルを横目に、車は走り出した。
「それにしても、外務省って。パパリンはともかく、他の人達は大丈夫なの?」
「問題ねぇよ。エリーは、日本語がいまいちなだけで、フランス語とドイツ語が堪能だ。安西は、中国語とハングルだっけか? リンリンはよく覚えてねぇけど、十か国語位は話せたはずだ」
「うそ! リンリンの癖に、ハイスペック! じゃあ問題は、翔一君だけだね」
「翔一の奴も、問題ねぇだろ。あいつが頭良いのは、お前も知ってんだろ?」
「う~ん、翔一君は成績は良いかもしれないけど、要領が悪いからね」
「相変わらずお前は、翔一に対して厳しいな」
「だって、お兄ちゃんがいなければ、何も出来ないんだもん。本当は、モーリスに鍛えて貰うつもりだったんだけどさ。まぁいいや。パパリンがちゃんと鍛えてあげてね」
「冬也がいなければ、何も出来ねぇのは、お前だろペスカ」
「そんな事ないもん! ちゃんと頑張ってるもん! パパリンのバーカ、バーカ、うんこ!」
車内の会話が弾んでいる訳では無い。冬也が押し黙っている為、車内の空気が重いのだ。故にペスカが、気を使って明るく振舞っている。
別段、冬也が怒っている訳では無い。目的も告げずに、遼太郎は車を走らせている。その事に対して、冬也が不満を持っているのでも無い。
冬也は何かを考える様に、じっと一点を見つめている。それに対して、遼太郎は一切触れない。
気まずい雰囲気を、何とか緩和しようと奮闘するペスカは、娘の鏡だろう。
一時間が過ぎた頃に、車は目的地に到着する。そして着いた先は、墓苑であった。
遼太郎の後について、ペスカと冬也は歩みを進める。目的の場所へと辿り着くと、そこには東郷遼太郎と書かれた墓石があった。
「これはよぉ。冬也、お前が生まれて直ぐに作ったんだ。当時は何となくって感じだったけど、今ならその理由が理解出来るぜ」
遼太郎は静かに語り出した。
自分の神気は、全て無くなった。それにより、神格の維持が困難になった。
元を辿れば、アルキエルから逃れる為に、神格を分断した。割れた神格を、誰ともわからない魂魄と、強引に融合させたのだ。
魂魄側に歪が出来なかったのは、神格が守ったせいである。しかし、神格の維持が儘ならなければ、魂魄は崩壊する。
地上の生物は、その一生で多くの経験を得る。しかし、魂魄には容量が有る。一生で得る経験は、魂魄の容量を超える。それ故に、星の記憶へ経験を託し、真っ新な状態で転生を行うのだ。
何度も転生を繰り返し、経験を積み重ねる事で、魂魄の容量は成長を遂げる。より、多くの経験が蓄えられる程に成長した時、魂魄は神格へと変わる。
ミスラの神格と融合した魂魄は、神格を持つが故に、成長する事は無かった。言い換えれば、既に神格を備えている為、成長する必要が無かった。
ミスラの神格が、融合された魂魄から消え失せれば、容量を超えて経験を蓄積し続けた事により自壊する。
「ミスラとして、神格を分断しても生き延びた目的は、既に果たされた。これ以上、転生する目的はねぇ」
最後の別れとも言える遼太郎の言葉に、ペスカと冬也は深い溜息をついた。
「なぁ、糞親父。俺達を馬鹿にでもしてんのか? それとも、てめぇが馬鹿なだけか?」
「そうだよ、パパリン。私達が気付いてないと、本気で思ってたの?」
ミスラの神格を失った遼太郎の魂魄を、維持する方法は二つ存在する。
一つは、いずれかの神の眷属になり、加護を受ける事。もう一つは、ミスラが存在していた事を、魂魄から完全に消し去り、長い時間をかけて修復を行う事。
それに関して、アルキエルは既に、ペスカと冬也に告げていた。
「あいつは、誰かの眷属になるたまじゃねぇ。目的もねぇまま、生き延びる事を良しとはしねぇ。あいつは、俺の為に戦い続けたんだ。そろそろ、逝かせてやってくれ」
それは奇しくも、遼太郎の考えと同じであった。
「魂魄の持ち主には、悪い事をした。だから返さねぇとならねぇよ。何て言うか、永遠の別れじゃねぇって。ミスラとしての神格は、アルキエルに融合された。あいつの中で、ミスラは存在し続ける。まぁ、俺とは全くの別もんだがな」
「それって永遠の別れじゃない。パパリンって、やっぱり馬鹿なの?」
「うるせぇよペスカ。俺が納得してんだ、それで良いじゃねぇか」
「あのなぁ、糞親父。てめぇが納得してんなら、俺は一向に構わねぇよ。だけど、アルキエルが本心で、あんな事を言ったとでも思ってんのか? てめぇは、親友の気持ちもわからねぇ程、馬鹿なのか?」
「あぁ? 何だと冬也! 俺が何にもわかってねぇとでも言いてぇのか!」
「わかってねぇだろ。現に、てめぇの中だけで、勝手に完結させてんだろ!」
「冬也! ガキのお前にはわからねぇんだよ。俺はここに至るまで、何千、何万の人間を殺して来た。そうやって、アルキエルに対抗出来る力を蓄えて来たんだ! もう充分だろうが!」
「それが勝手だって言ってんだ! てめぇがアルキエルの親友だって言うなら、あいつの気持ちを汲んでやれ! 残される奴の想いを汲んでやれ! 独りで完結すんじゃねぇ!」
「うるせぇ! ミスラの存在は、役目を終えたんだ。もう必要ねぇんだ! 返さなきゃいけねぇ時が来たんだよ! その位わかりやがれ、糞馬鹿野郎!」
「どっちが馬鹿だ! てめぇが、どんな事をして来たかなんて、関係ねぇんだよ! てめぇは、三島のおっさんに、家族になるって言ったんじゃねぇのか! 深山には何て言った? どうせ、生きて償えとでも言ったんだろ? 協力するとでも言ったんだろ? それを放棄して、てめぇ独りで逃げんのか? あぁ? どうなんだよ!」
「勘違いしてんじゃねぇよ! 俺が消えるのは、生涯を全うした時だ! 意地でもそれまでは、生き抜いてやる! この魂魄は自壊させねぇし、あいつらも見捨てねぇ!」
冬也と遼太郎は、睨み合う。
恐らく互いに譲らない。それは、両者共に理解していた。冬也はアルキエルや残された者達の為に。そして遼太郎は、名も知らぬ魂魄を輪廻に戻す為に。
どっちの言い分が正しいのか、それは誰にも決める事は出来ないだろう。
ミスラという存在が有って、遼太郎という人間がここに居るのだ。
遼太郎の選択では、魂魄はミスラの神格と融合する前の状態に戻る。
それは一見すれば、正しい事の様にも思える。ただし、遼太郎という存在を、愛した者もいるのだ。その想いを置き去りにしてまで、行うべきなのか。
ミスラと融合した魂魄は、アルキエルを倒せる者を生み出す為だけに、戦いに身を置いてきた。だからアルキエルは、宿命に縛られるだけの状態から、ミスラを解放させる事を望んだ。
正しい答えは存在しない。どちらを選択するのか、結局は本人次第なのだ。
ペスカと冬也でさえ、遼太郎の決断を止める事は出来ない。たった一柱を除いて。
だから冬也は、事前に呼んでいた。そして、凛とした声が、墓地に響く。それは美しさの中にも、憤りを含めた、複雑な旋律の様であった。
「遼太郎さん。それは、夫婦の問題じゃないんですか? あなたの選択に、私が納得するとでも?」
「フィアーナ! なんでここに?」
「神気を感じられない今のあなたでは、わからないでしょ? わたしは今日、ずっとあなたの隣に居たんですよ」
女神フィアーナの登場で、状況は一変した。
先の武闘会で、遼太郎がミスラの記憶を取り戻した時、女神フィアーナはこの状況を予測していたのだろう。冬也の呼びかけに、一も二も無く応じて、日本に訪れていた。
敢えて顕現していないだけで、この日はずっと一緒にいたのだ。
気が付いていないのは、遼太郎だけである。
ブルとアルキエルは、女神フィアーナが居る事をわかっていた。ブルが着いて来ようとしたのは、遼太郎を心配したからである。
女神フィアーナは、車内でも一緒だった。そしてペスカは敢えて、無視をしていた。
自分では説得が出来ない事を、冬也は理解していたのだ。だから、口論になった際の仲裁と、遼太郎の説得を、女神フィアーナに頼んだのだ。
そして女神フィアーナは、用意していた。
遼太郎が何を言おうと、女神フィアーナは論破する。冷静に、且つ徹底的に、ぐうの音も出ない程に。
それは、数時間に渡って行われた。
どれだけ意地があっても、説得する為の準備を重ねて来た女神フィアーナには勝てない。そして、女神フィアーナは一歩も引かない。
「別に、あなたが消滅する必要は無いんですよ」
最終的に、遼太郎を頷かせたのは、女神フィアーナが用意した、第三の選択肢であった。
それは、ペスカをして、考え付かない方法でもあった。
今生を全うした後、魂魄に残るミスラの記憶を分離する。その記憶に神気を与えて神格を作り上げ、遼太郎をロイスマリアの神として迎える
魂魄は、多少の修復が必要になる。ただその提案ならば、強引に存在を奪った魂魄を、元の輪廻に戻す事が出来る。そして、遼太郎の理由は消滅する。
「夫婦なんです。一緒にいて当然でしょ? それとも、まだ言い訳を続けるつもりですか?」
「はぁ。俺の負けだ、フィアーナ。ずっとお前の傍にいてやる。お前等もそれで良いんだろ?」
「初めから素直に、そう言ってりゃ良いんだよ。糞親父」
「もう、良いじゃないお兄ちゃん。そうやって、パパリンに喧嘩を売らないでよ」
「そうだ、糞息子。お前は少し黙ってろ!」
「うっさい、パパリン! パパリンは、三島のおじさんに、結果を教えてあげなよ」
「はぁ? なんで、健兄さんが出てくんだ?」
「だって、三島のおじさんは、土下座して頼んで来たんだよ。遼太郎の事を頼むってさぁ。お兄ちゃんにも土下座してたよね」
「ったく、どいつもこいつも」
遼太郎は、溜息交じりに苦笑いを浮かべる。
事情を知る者全てが、遼太郎の為に考え、行動していたのだ。遼太郎の中に、温かい気持ちが溢れる。
そして遼太郎は、誰にも気付かれない様に、そっと涙を拭った。
「冬也君、見直した? 母は強しでしょ?」
「あぁ。流石だよ」
「ただのロリババアじゃなかったね」
「ペスカちゃん。お仕置きされたい?」
何が有ろうと決して、家族の絆は途絶えない。
その結果を導いたのは、深い愛が有ったからなのだろう。
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「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
称号は神を土下座させた男。
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これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
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※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
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毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
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転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
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大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
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拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
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地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
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高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
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