妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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混乱の東京

325 オールクリエイト ~アルキエルの侵攻~

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 ビルの一室で、爆発に似た衝撃音が鳴り響いた。間借りをしていた男達が一斉に駆けつけると、入り口のドアが木っ端微塵に砕かれ、そこにはガタイの大きな外国人らしき男が立っていた。
 駆け付けた一同は、唖然とし只々外国人を眺めていた。ただ、それは仕方のない事だろう。男達が聞いたのは、爆発音の様な大きい音である。それなりの事があったと考えて然るべきだろう。にも関わらず、外国人はドアを破壊出来る様な道具はおろか、何も手にしていない。

 カチコミじゃなくて、何か事故でも起きたのか? あれだけの音がしたのに、ドアだけ壊れているのは何故だ? 誰でも知っている筈だ、ここがどこで有るのかを。素人が近づく訳がない。あの外人は何者なんだ?
 不自然な状況を理解出来ずに、男達は暫く呆然としていたが、やがて事態の深刻さに気が付く。

 これは事故ではない。自分達は、襲撃を受けているのだ。

 男達がその事に気が付いたのは、外国人の挑発的とも言える、にやついた笑みを見たからである。
 極道と呼ばれた男達の、決して許してはいけない一線を、外国人は易々と超えて来た。しかも見下した様に笑っている。男達の一人が声を荒げ、ビル内でたむろしていた仲間達を呼び集める。
 目の前の外国人が何者であったとしても構わない。必ず落とし前を付けなければ、面目が丸潰れになる。一斉に外国人を取り囲み、男達は口々に脅しの言葉を浴びせた。
 
「てめぇ、ここをどこだかわかってんだろうな?」
「手荒い挨拶をしてくれるじゃねぇか、ぶち殺されてぇのか、あぁ!」
「今の状況で、カチコミかけてくるのは、組のもんじゃねぇな」
「こいつの正体なんてどうでもいい! 手足を弾けば、笑ってる余裕なんてなくなるだろ。おい、俺のハジキを持ってこい! そこのガイジンに社会の厳しさを教えてやる!」

 男の一人が仲間から拳銃を受け取ると、一歩前へと歩みを進ませる。それでも、外国人は恐れる様子は無く、ただ挑戦的な笑みを浮かべ続けた。

「おい、ここは麻薬ってのを作ってる場所か? 何か知ってるなら、早く言え!」
「あぁ、何言ってんだてめぇ!」
「忙しいんだ、ごたごた言わねぇで早く言え!」

 外国人は完全に取り囲まれている。更に拳銃を向けられている。これがただの脅しではない事は、外国人も理解しているはずである。しかし外国人は、余裕綽々の態度で質問を投げかける。しかも取り囲んでいる男達を、脅す様な口調で。
 そんな外国人の態度は、拳銃を持つ男の怒りに火をつけた事は間違いない。

 パンという乾いた音と共に、銃弾が放たれる。そして、外国人の腕に命中する。
 しかし銃弾は腕を貫く事は無く、傷付ける事すら無かった。腕に当たった銃弾は、ぽとりと床に落ちて転がる。その光景に、一同は驚愕の様子を隠せなかった。
 
 信じられない。

 当たり前であろう。どこの世界の人間が、銃弾を跳ね返すと言うのだ。防弾チョッキの様な物を着こんでいるなら理解は出来る。目の前の外国人は、上下共にスエットだけの軽装である。
 拳銃を持つ男は、二発目、三発目と引き金を弾く。全ての銃弾が外国人に命中するが、最初と同じく体を傷つける事は無く、銃弾は虚しい音を立てて床に転がった。

 男達が唖然とし凍り付いた様に固まる中、何発も銃弾を食らった外国人は、涼しい顔で歩みを進める。そして拳銃を持つ男の前まで歩くと、拳銃を持つ手を掴み上げ、銃口を直接自分の体に当てた。
 
「これで撃ってみろ!」

 拳銃を持つ男は、外国人が何を言っているのか理解が出来なかった。そして掴まれた腕を振りほどこうと、力を籠める。しかしどれだけ力を籠めても、外国人の手を振りほどく事は出来ない。
 常軌を逸した外国人の行動、そして拳銃が通用しない肉体、逃れる事すら出来ない腕力。理解出来ない感情が恐怖へと変わっていく。そして銃を持つ男は、次第に顔が青ざめていく。それは、周りの男達にも伝播していった。

「びびってねぇで、早く撃てって言ってんだよ!」

 威圧感のある外国人の声色は、更に男達を縮み上がらせる。
 銃口は外国人の体に密着している。恐れのあまり、男は震える指で引き金を引く。だが銃弾は、密着した体で止まる。次の瞬間、砲身は火薬の燃焼圧力に耐えられなくなり爆発を起こした。
 
 爆発の影響で、拳銃を持っていた男の手からは、何本か指が無くなっていた。しかし、男は直ぐには気が付かない。周囲の怯える様な目線で自分の手を見ると、ようやく男は滂沱の血が噴き出ている事に気が付く。そして痛みが男を襲い、手を押さえながら床を転がり回った。
 爆発の影響は、それでは収まらない。欠片が四方へ飛び散り、外国人を囲む男達の頬や体を掠め、血を流していた。

 血を流し転がる男に、手当をする余裕も無く周囲の男達は、凍り付いている。その様子を見て、外国人は溜息をついてぼやく様に口を開いた。

「つまらねぇ。つまらねぇよ。なぁ、そうは思わねぇか? これでも少しは期待してたんだぜ。こんなもんがこの世界の武器か? 結局の所、魂の籠ってねぇ攻撃は、俺には届かねぇって事だ。せっかく神気を封じて、対等だっていうのによ。今の俺は馬鹿猫やズマにさえ、勝てるかどうかわからねぇんだぜ。ったく、雑魚は雑魚って事か」

 そして、外国人は周囲を見渡すと、再び口を開く。

「びびって言葉も出ねぇか? 聞きてぇ事は、てめぇらの頭に直接聞く事にするぜ」

 外国人が言うや否や、取り囲んでいた男達は一斉に倒れていた。倒された男達は、何をされたのかも理解はしていまい。
 外国人は、目にも止まらぬ速さで動き、男達に拳を振るった。外国人が本気で拳を振るえば、拳圧で机などは吹き飛んでいる。拳に伝わる力を弱め、触れるか触れないか程の強さで、次々と男達を殴りつけた。
 かなりの手加減をしたにも関わらず、十数名はいただろう男達は、完全に意識を失った。無論、最初に指を失った男も同様である。
 外国人は膝を突き、倒れている一人の頭を掴むと、手に少しだけ神気を籠める。何人かの男で、それを繰り返した所で、外国人は立ち上がる。そして、最初に拳銃を持っていた男に近づくと、手に神気を当てて止血をし、ビルの一室を後にした。

 ビルを出た所で外国人は、ポケットをまさぐりスマートフォンを取り出す。出がけに渡された連絡用のスマートフォンを操作し、耳に近づけた。

「佐藤か。俺だ、アルキエルだ。ここは外れだ。あぁ? 無事かだと? てめぇ誰に言ってやがんだ! あんなしょぼい武器で、俺がやられるとでも思ってのか馬鹿野郎! ともかく俺は次へ行くからな、後始末はちゃんとやっとけよ」

 その数分後、警察が大挙して事務所に押し寄せる。そして、事務所内で倒れていた男達は、救急車で搬送されていった。その後、強度の打撲による意識障害と診断された。意識障害が続けば、後遺症が残る可能性が高いとも付け加えられた。そして、拳銃を操作していた男の指は、戻る事がなかった。
 
 最初に、拳銃の威力と暴発の可能性を知ったアルキエルは、端から交渉などせず、意識を奪った上で脳から直接情報を引き出す方法に切り替えた。それはアルキエルの中に、戦いにすらならない虚しさが有ったからなのであろう。
 
 その日、十数件の組事務所が襲われ、数十名が病院へと送られた。中には、壁に多数の銃痕が残る事務所も有ったが、組の構成員らしき者達は全て、昏倒させられていた。
 これは事件として夕方のニュースに取り上げられ、関係者はおろか一般市民も驚愕させた。
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