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変わりゆく日常
291 ロイスマリア武闘会 ~狂気と警告~
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それはほんの気まぐれであった。たまたま地上に目を向けた時に、巨人の子供が目に入った。巨人の子供は、一心不乱に剣を振り続けていた。火の神フレイは、温厚で知られる巨人が剣を振る事を珍しいと感じた。特に興味を持った訳ではない、しかし火の神フレイは話しかけた。
「お前は、何で剣を振るうんだ?」
「一族を守りたいからです」
神を目の前にして、巨人の子供は剣を振るう事を止めない。不敬に当たる行為を咎める事無く、火の神フレイは質問を続けた。
「何から守るんだ? お前ら巨人をどうこう出来るのは、フェンリル達しかいねぇだろ?」
「四大魔獣は、女神が創りし聖獣です。我らが道を違えない限りは、害する事はありません」
「なら、何から守るんだ?」
「わかりません。わかりませんが、ただ・・・」
巨人の子供は、少し口を噤むと言葉を続けた。
「小さな魔獣達が、己の存在をかけ食らい合うのは必要なのでしょう。淘汰の果てに、強者が生まれるのでしょうから。そして我ら巨人は元々大きく強い、それは何故なのでしょうか?」
「そりゃあ、フェンリル達が暴走したら困るからだろうが」
「本当にそれだけでしょうか? 俺にはそれだけで良いとは思いません」
「はぁ? そりゃどういう事だ?」
「エンシェントドラゴンや四大魔獣が揃って暴走する状況は、何らかの異変がなければ起こり得ません。それは、神にすら手に余るでしょう。そんな時に、神は地上の者達をお守り頂けるのでしょうか?」
「だからお前は、強くなる為に剣を振るうのか? テュホンやユミルに任せとけばいいんじゃないのか?」
「テュホンとユミルは、一族の知恵です。俺が戦わないと、俺が強くならないと」
「ははっ、面白れぇな。お前の名は?」
「スルトです」
何が火の神フレイを惹きつけたのか、巨人の子スルトとは、度々言葉を重ねる様になった。火の神フレイはスルトの修行を楽しそうに眺める。
相性が良かったのかもしれない。スルトも火の神フレイとの会話を楽しみにする様になった。
「なぁ、スルト。お前がもう少し大きくなったら、お前専用の剣を作ってやる」
「フレイ様、本当ですか?」
「あぁ。実際に作るのは、俺じゃないけどな。ミュール様に頼んでやるよ。それで、みんなを守ってやってくれよな。お前が強くなったら、俺の眷属にしてやるよ」
一つの約束は果たされる。火の神フレイは己の神格を少し削り、女神ミュールに頼んだ。これで剣を作ってくれと。そして作られたのが、炎の剣レーヴァテイン。
二つ目の約束は果たされる事は無かった。火の神フレイは反フィアーナ派の手にかかり、複数の土地神の神格と融合させられた上で、邪神ロメリアの器となり事実上消滅した。
スルトはレーヴァテインを握る度に、火の神フレイの言葉を思い出す。
「みんなを守ってやってくれ」
その言葉に従い、スルトは戦い続けて来た。しかし先の動乱では、多くの魔獣を失った。守り切れなかった。しかし、悔しさを全て呑み込んだ。この剣がある限り、心が折れる事は無い。挫折など、自分には一万年も早いと言い聞かせて。
☆ ☆ ☆
大会二日目のメインイベントとも言えるエレナの試合が終わると、観客席の興奮がやや収まる。それは期待よりも、喪失感に近いだろう。エレナが見ていたいファンは、未だにエレナコールを止めない。そんな中、レイピアとスルトが会場に足を踏み出した。
会場へ足を進める両者は、対照的であった。見た目の大きさはさておき、片や能面の様に無表情のまま、細い剣を携えるレイピア。片や泰然とした様子で堂々と足を進めるスルト。
魔獣側の観客席からは、巨人スルトを応援する声が上がる。禁忌に触れまいとしたのか、それとも恐怖からか、魔獣側の観客席に呑まれる様に、亜人側の観客席からもスルトを応援する声が上がる。エルフの伝承を知る者がほとんどいない人間達には、どちらにも思い入れが無い。しかし緊張は伝播する。そして、観客席全てがスルトの応援一色になっていった。
審判である冬也は、両者を冷静に観察していた。技量では互角であろう。マナの総量でも、然程の違いは無い。だが、勝負も互角とはならないだろう。漠然と冬也は感じていた。
理由は、レイピアに対する違和感だろう。昨日の二試合目、レイピアが殺気を放ったのは二回。妹ソニアが自分の下から離れた時と、モーリスの攻撃で倒れた時である。妹を案じる気持ちなら、痛いほどにわかる。冬也とて、ペスカを傷付ける者には、それなりの報復をして来たのだから。
現在ソニアは、タールカールに留まり、宿舎の隅で蹲っている。妹が自分から離れていても、レイピアは今日これまで殺気を放っていない。何もかもに絶望し、互いに依存し合っているなら、レイピアの行動は不可思議に感じる。何がレイピアの忌諱にふれるのか、全くわからない。
レイピアに対し、単純な感情論では推し量れない、酷く深い闇を感じる。その闇こそが、冬也を警戒させていた。
「四の五の考えんのは、俺の柄じゃねぇよ」
答えの出ない考察を止め、冬也は試合開始の宣言を行う。何も起こらない事を願って。
そして勝負は、スルトの先制で始まった。
開始直後にレーヴァテインを振りかぶるスルト、そして大地ごと一刀両断にするかの勢いで振り下ろす。片やレイピアは、レーヴァテインが眼前に迫っても微動だにしなかった。正にレイピアの頭を勝ち割ろうとした瞬間に、スルトはレーヴァテインを止める。
会場中が呆気に取られていた。手が出ないのではないだろう、戦う気が無い、そう思わせるレイピアの行動である。何とも味気ないが勝敗はついたと、誰もが思った。
スルトがレーヴァテインを鞘に納めようとした時、事態は加速した。レイピアは、居合抜きの容量で素早く剣を抜くと、利き手側の死角からスルトに斬りかかる。既の所でスルトは、体を屈ませる様に反転させ、半分鞘に納まったレーヴァテインでレイピアの剣を受け止めた。
「殺す事が出来ないなら、剣を握るな」
小さく呟かれた声は、甲高い響きにかき消され、近くにいるスルトの耳にすら届く事は無い。二撃目、三撃目とレイピアの攻撃は続き、態勢が整いきれていないスルトは、受けきるだけで精一杯になる。
スルトに油断が有った事は否めない。正々堂々と戦えなんてルールは、存在していない。だがこれは、武の頂点を決める大会であると同時に、神の眷属足り得る事を見極める戦いでもある。
出場者の中に、出し抜く様な戦い方を行う者がいるとは、スルトは予想だにしていなかった。しかし、狂気はいつの時も、弱みに付け込む様に牙を立てる。かつて邪神が、退却を余儀なくされた魔獣軍団の背後を狙って現れた様に。
レイピアの斬撃は鞭の様にしなり、上下左右いたる所からスルトに襲いかかる。スルトは自分と同体格か、それ以上の体躯の者を相手にしている感覚に陥っていた。終ぞスルトは、本気を出す事が出来なかった。
防戦の果てに、利き腕を切り飛ばされる。利き腕と共に、レーヴァテインがスルトの下から離れる。腕からは血が噴き出す。倒れ込むスルトに、躊躇なくレイピアは剣を振り下ろした。
「止めろ。お前の勝ちだ。これ以上は俺が許さねぇ」
レイピアの剣は、スルトには届かず途中で止まっていた。冬也は刀身を力強く握りしめて、レイピアを睨め付けた。
「こんな糞つまんねぇ勝負を、俺に見せんじゃねぇ! てめぇは言ったな、殺す事がどうのってよ。あいつの傷は、油断したせいだ! だがな、間違えんなよ! スルトはてめぇを敵として見ちゃいねぇ。敵だったなら、結果は真逆だ! 二度とこんな真似をしてみろ、次は容赦しねぇ!」
冬也は声を荒げると同時に、その手に掴んだレイピアの剣を握りつぶす様にし砕いた。二度目の警告、三度目は無い。にも関わらず、折れた剣を投げ捨て、レイピアは無表情のまま会場を後にした。
「やれるものならやってみろ」
そう、小さく呟いて。
レイピアと入れ替わる様に、クロノスが会場内に入り、素早くスルトの血を止める。そして、腕の接合治療を行う為、スルトは会場から運びだされる。
「東郷冬也。あの姉妹だけには関わるな。今ならまだ間に合う、あの姉妹を出場停止にしろ! お前がやらないなら、俺からラアルフィーネ様に進言するぞ!」
「クロノス。余計な事はすんじゃねぇ」
「馬鹿な! 次は死人が出るぞ! 貴様の父か、エルラフィアの守護者か」
「それこそ余計なお世話だ、クロノス。親父やトールさんが、あんなのに負けやしねぇよ」
「いいか。こんな下らない事に関わって、神の力を行使するなよ。お前達は、今でもこの世界の希望なんだ」
「わかってる。始末をつけるのは、俺じゃねぇ。ラアルフィーネさんか、エレナだ。俺の役目は、そのお膳立てだ」
「ならいい」
冬也の事を慮ってかけられた、クロノスの言葉を嬉しく思いながらも、冬也の中にはモヤモヤした何かが残った。無論、積極的に関わるつもりはない。だが、下らないと捨て置けはしない。
殺した数を比べるなら、アルキエルは彼女らの倍では済まない。ロイスマリアを放棄し、アルキエル打倒を目指した原初の神々は、多くの生物に命の危機を与えた罪を問われるべきだろう。
しかし、許し合い認め合い、共に生きると決めたのだ。新たな道を模索すると決めたのだ。彼女らにやり直す機会が与えられないのは、理不尽であろう。
「はぁ。あめぇのは俺も一緒だな。だけど、それが筋ってもんだろ?」
冬也は眉をひそめ、溜息交じりに零した。冬也の思慮を知る事なく、レイピアは控室を抜け宿舎へ向かう。出番を待っていた遼太郎の脇を抜けて。
「なぁトールさん」
「遼太郎殿、何か?」
「試合だけどよ、勝たなきゃいけねぇ理由が出来ちまった」
「お前は、何で剣を振るうんだ?」
「一族を守りたいからです」
神を目の前にして、巨人の子供は剣を振るう事を止めない。不敬に当たる行為を咎める事無く、火の神フレイは質問を続けた。
「何から守るんだ? お前ら巨人をどうこう出来るのは、フェンリル達しかいねぇだろ?」
「四大魔獣は、女神が創りし聖獣です。我らが道を違えない限りは、害する事はありません」
「なら、何から守るんだ?」
「わかりません。わかりませんが、ただ・・・」
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「小さな魔獣達が、己の存在をかけ食らい合うのは必要なのでしょう。淘汰の果てに、強者が生まれるのでしょうから。そして我ら巨人は元々大きく強い、それは何故なのでしょうか?」
「そりゃあ、フェンリル達が暴走したら困るからだろうが」
「本当にそれだけでしょうか? 俺にはそれだけで良いとは思いません」
「はぁ? そりゃどういう事だ?」
「エンシェントドラゴンや四大魔獣が揃って暴走する状況は、何らかの異変がなければ起こり得ません。それは、神にすら手に余るでしょう。そんな時に、神は地上の者達をお守り頂けるのでしょうか?」
「だからお前は、強くなる為に剣を振るうのか? テュホンやユミルに任せとけばいいんじゃないのか?」
「テュホンとユミルは、一族の知恵です。俺が戦わないと、俺が強くならないと」
「ははっ、面白れぇな。お前の名は?」
「スルトです」
何が火の神フレイを惹きつけたのか、巨人の子スルトとは、度々言葉を重ねる様になった。火の神フレイはスルトの修行を楽しそうに眺める。
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「なぁ、スルト。お前がもう少し大きくなったら、お前専用の剣を作ってやる」
「フレイ様、本当ですか?」
「あぁ。実際に作るのは、俺じゃないけどな。ミュール様に頼んでやるよ。それで、みんなを守ってやってくれよな。お前が強くなったら、俺の眷属にしてやるよ」
一つの約束は果たされる。火の神フレイは己の神格を少し削り、女神ミュールに頼んだ。これで剣を作ってくれと。そして作られたのが、炎の剣レーヴァテイン。
二つ目の約束は果たされる事は無かった。火の神フレイは反フィアーナ派の手にかかり、複数の土地神の神格と融合させられた上で、邪神ロメリアの器となり事実上消滅した。
スルトはレーヴァテインを握る度に、火の神フレイの言葉を思い出す。
「みんなを守ってやってくれ」
その言葉に従い、スルトは戦い続けて来た。しかし先の動乱では、多くの魔獣を失った。守り切れなかった。しかし、悔しさを全て呑み込んだ。この剣がある限り、心が折れる事は無い。挫折など、自分には一万年も早いと言い聞かせて。
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会場へ足を進める両者は、対照的であった。見た目の大きさはさておき、片や能面の様に無表情のまま、細い剣を携えるレイピア。片や泰然とした様子で堂々と足を進めるスルト。
魔獣側の観客席からは、巨人スルトを応援する声が上がる。禁忌に触れまいとしたのか、それとも恐怖からか、魔獣側の観客席に呑まれる様に、亜人側の観客席からもスルトを応援する声が上がる。エルフの伝承を知る者がほとんどいない人間達には、どちらにも思い入れが無い。しかし緊張は伝播する。そして、観客席全てがスルトの応援一色になっていった。
審判である冬也は、両者を冷静に観察していた。技量では互角であろう。マナの総量でも、然程の違いは無い。だが、勝負も互角とはならないだろう。漠然と冬也は感じていた。
理由は、レイピアに対する違和感だろう。昨日の二試合目、レイピアが殺気を放ったのは二回。妹ソニアが自分の下から離れた時と、モーリスの攻撃で倒れた時である。妹を案じる気持ちなら、痛いほどにわかる。冬也とて、ペスカを傷付ける者には、それなりの報復をして来たのだから。
現在ソニアは、タールカールに留まり、宿舎の隅で蹲っている。妹が自分から離れていても、レイピアは今日これまで殺気を放っていない。何もかもに絶望し、互いに依存し合っているなら、レイピアの行動は不可思議に感じる。何がレイピアの忌諱にふれるのか、全くわからない。
レイピアに対し、単純な感情論では推し量れない、酷く深い闇を感じる。その闇こそが、冬也を警戒させていた。
「四の五の考えんのは、俺の柄じゃねぇよ」
答えの出ない考察を止め、冬也は試合開始の宣言を行う。何も起こらない事を願って。
そして勝負は、スルトの先制で始まった。
開始直後にレーヴァテインを振りかぶるスルト、そして大地ごと一刀両断にするかの勢いで振り下ろす。片やレイピアは、レーヴァテインが眼前に迫っても微動だにしなかった。正にレイピアの頭を勝ち割ろうとした瞬間に、スルトはレーヴァテインを止める。
会場中が呆気に取られていた。手が出ないのではないだろう、戦う気が無い、そう思わせるレイピアの行動である。何とも味気ないが勝敗はついたと、誰もが思った。
スルトがレーヴァテインを鞘に納めようとした時、事態は加速した。レイピアは、居合抜きの容量で素早く剣を抜くと、利き手側の死角からスルトに斬りかかる。既の所でスルトは、体を屈ませる様に反転させ、半分鞘に納まったレーヴァテインでレイピアの剣を受け止めた。
「殺す事が出来ないなら、剣を握るな」
小さく呟かれた声は、甲高い響きにかき消され、近くにいるスルトの耳にすら届く事は無い。二撃目、三撃目とレイピアの攻撃は続き、態勢が整いきれていないスルトは、受けきるだけで精一杯になる。
スルトに油断が有った事は否めない。正々堂々と戦えなんてルールは、存在していない。だがこれは、武の頂点を決める大会であると同時に、神の眷属足り得る事を見極める戦いでもある。
出場者の中に、出し抜く様な戦い方を行う者がいるとは、スルトは予想だにしていなかった。しかし、狂気はいつの時も、弱みに付け込む様に牙を立てる。かつて邪神が、退却を余儀なくされた魔獣軍団の背後を狙って現れた様に。
レイピアの斬撃は鞭の様にしなり、上下左右いたる所からスルトに襲いかかる。スルトは自分と同体格か、それ以上の体躯の者を相手にしている感覚に陥っていた。終ぞスルトは、本気を出す事が出来なかった。
防戦の果てに、利き腕を切り飛ばされる。利き腕と共に、レーヴァテインがスルトの下から離れる。腕からは血が噴き出す。倒れ込むスルトに、躊躇なくレイピアは剣を振り下ろした。
「止めろ。お前の勝ちだ。これ以上は俺が許さねぇ」
レイピアの剣は、スルトには届かず途中で止まっていた。冬也は刀身を力強く握りしめて、レイピアを睨め付けた。
「こんな糞つまんねぇ勝負を、俺に見せんじゃねぇ! てめぇは言ったな、殺す事がどうのってよ。あいつの傷は、油断したせいだ! だがな、間違えんなよ! スルトはてめぇを敵として見ちゃいねぇ。敵だったなら、結果は真逆だ! 二度とこんな真似をしてみろ、次は容赦しねぇ!」
冬也は声を荒げると同時に、その手に掴んだレイピアの剣を握りつぶす様にし砕いた。二度目の警告、三度目は無い。にも関わらず、折れた剣を投げ捨て、レイピアは無表情のまま会場を後にした。
「やれるものならやってみろ」
そう、小さく呟いて。
レイピアと入れ替わる様に、クロノスが会場内に入り、素早くスルトの血を止める。そして、腕の接合治療を行う為、スルトは会場から運びだされる。
「東郷冬也。あの姉妹だけには関わるな。今ならまだ間に合う、あの姉妹を出場停止にしろ! お前がやらないなら、俺からラアルフィーネ様に進言するぞ!」
「クロノス。余計な事はすんじゃねぇ」
「馬鹿な! 次は死人が出るぞ! 貴様の父か、エルラフィアの守護者か」
「それこそ余計なお世話だ、クロノス。親父やトールさんが、あんなのに負けやしねぇよ」
「いいか。こんな下らない事に関わって、神の力を行使するなよ。お前達は、今でもこの世界の希望なんだ」
「わかってる。始末をつけるのは、俺じゃねぇ。ラアルフィーネさんか、エレナだ。俺の役目は、そのお膳立てだ」
「ならいい」
冬也の事を慮ってかけられた、クロノスの言葉を嬉しく思いながらも、冬也の中にはモヤモヤした何かが残った。無論、積極的に関わるつもりはない。だが、下らないと捨て置けはしない。
殺した数を比べるなら、アルキエルは彼女らの倍では済まない。ロイスマリアを放棄し、アルキエル打倒を目指した原初の神々は、多くの生物に命の危機を与えた罪を問われるべきだろう。
しかし、許し合い認め合い、共に生きると決めたのだ。新たな道を模索すると決めたのだ。彼女らにやり直す機会が与えられないのは、理不尽であろう。
「はぁ。あめぇのは俺も一緒だな。だけど、それが筋ってもんだろ?」
冬也は眉をひそめ、溜息交じりに零した。冬也の思慮を知る事なく、レイピアは控室を抜け宿舎へ向かう。出番を待っていた遼太郎の脇を抜けて。
「なぁトールさん」
「遼太郎殿、何か?」
「試合だけどよ、勝たなきゃいけねぇ理由が出来ちまった」
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