妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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変わりゆく日常

284 ロイスマリア武闘会 ~開催~

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 武闘大会開催の何日も前から、タールカールの都市パーチェには多くの観光客が訪れていた。
 何か月も前から、予約でいっぱいになった宿からも、大会への期待度は推し量れるだろう。大会を運営する世界議会は、パーチェ周辺に臨時の仮設宿を幾つも準備をしていた。それでも、押し寄せる観光客でいっぱいになり、遂には仮設テントを用意する羽目になっていた。
 
 期間限定で各地から集められた料理人、運営スタッフや出場者が寝泊まりをする施設が会場裏には隣接している。そして会場の正面には、試合の様子を映し出す大きな巨大スクリーンが用意され、周囲には屋台が立ち並ぶ。
 そして既にスクリーン前は、抽選に炙れた者達の場所取り合戦が始まっていた。屋台で提供された料理をつまみに酒を煽り、灯りは深夜になっても消えない。既に告知されているトーナメント表を片手に、勝敗を予想し議論を戦わせる者、己が大陸の代表を応援しようと盛り上がる者。そこは、一種独特な高揚感に満たされた空間になっていた。
 
 人間や亜人、それに魔獣が入り乱れ、パーチェ周辺には多くの者が足を運ぶ。冬也が企画したアスレチック施設は連日大賑わいとなる。中でもタールカール最大の名所とも言える豪奢なペスカ邸には、手を合わせに訪れる参拝客が後を絶たなかった。

 大会に向けて雇われた臨時の労働者、そしてパーチェの住民が力を合わせて観光客に対応する。世界中を巻き込んだ大規模イベントを成功させようと、世界議会の議員を始め他の神々も力を合わせる。
 大会が違づき次々と選手達が到着すると、熱狂的な歓声で迎えられ期待はピークに高まる。そして大会前日、最後の大会出場者が明らかになる。
 ペスカが特別にと残しておいた出場枠、最後の選手が世界最強を育てた実父である事が世界中に知らされ、大会に更なる喧騒を与えた。

 一日目 Aグループ
 第一試合 魔獣の王ズマvsドワーフの将軍ガロス。
 第二試合 剣の達人モーリスvsエルフの戦士ソニア。
 第三試合 槍の名手サムウェルvs最強の狼フェンリル。
 第四試合 少年剣士ゼルvs巨体を誇る魔獣ベヒモス。

 二日目 Bグループ
 第一試合 大剣使いケーリアvsドワーフの将軍グラウ。
 第二試合 俊足の猫娘エレナvs数多の首を持つ魔獣ヒュドラ。
 第三試合 巨人の剣使いスルトvsエルフの戦士レイピア。
 第四試合 守護者トールvs東郷遼太郎。

 三日目 二回戦
 第一試合 Aグループ第一試合の勝者vsAグループ第二試合の勝者。
 第二試合 Aグループ第三試合の勝者vsAグループ第四試合の勝者。
 第三試合 Bグループ第一試合の勝者vsBグループ第二試合の勝者。
 第四試合 Bグループ第三試合の勝者vsBグループ第四試合の勝者。

 四日目 準決勝
 第一試合 二回戦第一試合の勝者vs二回戦第二試合の勝者。
 第二試合 二回戦第三試合の勝者vs二回戦第四試合の勝者。

 五日目 決勝戦 
 準決勝の勝者。

 そして大会当日の朝、観覧の抽選に当たった者達が、会場入り口に列を成す。
 円形のコロシアムに似た作りの会場は、それぞれの体格に合わせて人間、亜人、魔獣に別れて席が設けられている。特に様々な体格の魔獣用の席は、人間が二人は悠々と座れる席も用意されていた。尚、人間が十人は余裕で場所を取るだろう巨人には、キャパシティーの関係上で観覧を辞退して貰った。
 また、種族に合わせて観覧席を分けたのは、熱くなった観客同士の諍いを避ける配慮でもあった。
 入場が始まり席に着くなり、試合の開始を今か今かと待ちわびる様に歓声が上がり始める。それだけ、盛り上がりを見せているのだから、諍いを避ける配慮は正解だったのかもしれない。また会場内には、一部の魔獣が監視員として雇われて、睨みを利かせていた。
 
 興奮に包まれる会場、その様子を会場外の巨大スクリーンが映し出す。その映像は、各地へと流れ映像モニターに投影されていた。
 魔法を使った花火に似た、爆発音が空に広がると共に会場へ人間の選手達が姿を現す。すると人間側の観覧席は絶叫の様な歓声が上がる。
 そして、亜人の選手達が姿を現すと亜人の観客席から、応援の声が上がる。ただ、人間の選手達と異なるのは、エレナを応援する声が魔獣側の観覧席からも上がった事だろう。
 続いてズマを先頭に、魔獣の選手達が姿を現す。ズマの登場に合わせて、魔獣達が立ち上がり敬礼をして迎える。
 そして最後に遼太郎が会場に姿を現すと、どよめきが走った。魔獣はともかく亜人や人間と比べても、見た目は貧弱そうに見える。もっと屈強な戦士を想像していた為にがっかりした様子の者、ズマの例を持ち出し油断をするなと言う者、遼太郎に対して観客達の感想は様々であろう。既に最強の神を育てた男として、遼太郎は有名になっていた。
 
 会場に入場した選手達は、種族毎に列を作って並んだ。そして選手達と向かい合う様に、今大会の審判員となった冬也とアルキエルが立つ。その横には、議会を代表して運営の代表を務める大地母神の三柱が立つ。更には今大会の治療班を担当する、女神セリュシオネとクロノスが立っていた。そして、出場者達を眷属候補に選んだ神々が横に並ぶ。

 開会式の始まりを待ち、ざわめきが収まらない観客席と闘志を燃やす選手達。そんな中で、人間の選手側に立たされた遼太郎は、周囲を見渡すと零す様に呟いた。

「か~っ。なんだか、とんでもねぇな。ばけもんばっかりじゃねぇか」
「遼太郎殿、魔獣を見るのは初めてか?」
「ちげ~よ。モーリスさんだったか? あんたが一番ばけもんだよ」
「何を仰られる、貴殿からは、冬也殿と同じ気配を感じる。貴殿とも勝負がしたいものだ」
「あんたこそ何言ってやがる。俺は場違い感が半端ねぇよ」
「しかし、貴殿と勝負するには勝ち進まなくてはならないとはな」
「馬鹿言うじゃねぇよ。俺みたいな凡人は、一回戦だってきついぜ」
「あぁ、トール殿は強い。油断は禁物だ」

 遼太郎の言葉にモーリスが反応し、その会話に出場者達の視線が向く。冬也の実父という事で、遼太郎は出場者達からも一目置かれていた。

「お前ら、うるさくしてたら怒られるニャ。さっきから、怖い顔で冬也の奴が見てるニャ」
「ほっとけよ、あんな馬鹿。それよりお前、喋り方が可愛いな」
「か、か、可愛いとか言っちゃ駄目ニャ! そんな調子でフィアーナ様を口説いたニャ? 軽い奴ニャ、冬也と大違いニャ!」

 大舞台に関わらず呑気に話をする遼太郎達に、注意を促すエレナ。しかし遼太郎に躱されて、顔を赤くする結果になる。
 大会の参加者には大観衆に囲まれて、緊張をしている者も存在していた。遼太郎の軽口で、そんな者達の強張った顔が少しほぐれる。

 そして、勿体ぶるかの様に遅れてペスカが登場すると、割れんばかりの拍手が起こり、屋外スクリーンと各地のモニターがその姿を映し出す。
 ゆっくりと片手を上げるペスカ、それと共に静まり返る観客席。選手達、観客席をゆっくりと見渡し、徐にペスカは口を開く。

「待たせたね~、みんなぁ~! 盛り上がってるかぁ~!」

 その瞬間、まるで武道館を埋め尽くす観客と人気アーティストの掛け合いの様に、観客席から大歓声が上がる。屋外のスクリーンを囲んだ観客、各地の通信用のモニターに集った者達も同様に、歓声を上げていた。観客の反応を確認するかの様に、再びペスカはゆっくりと会場を見渡す。そして、片手を上げて観客を静かにさせると、話し始めた。

「試合の開始前に、決まりを確認するよ~! 一つ目。相手を殺す若しくは致命的なダメージを与えたら、即失格! 良いね、選手諸君!」

 ペスカは、チロリと選手達に視線を送る。ズマを始めとした魔獣は当然として、他の選手達も真剣な眼差しに変わっていた。

「二つ目、試合時間は三十分。その間に相手を気絶、若しくは負けを宣告させたら、勝ちが確定! 多少の怪我なら直ぐに治してあげるから、存分に戦ってね!」

 ペスカは選手達から、女神セリュシオネとクロノスに視線を移す。女神セリュシオネの動きは無かったが、クロノスはペスカの言葉に合わせて、頷いてみせた。

「三つ目。既定の時間内で勝敗がつかない場合は、審判と大地母神の三柱で協議して勝者を決定するよ! 試合の内容、特にどっちが優勢かをちゃんと判断するから、安心してね~!」

 そして、ペスカは一呼吸おくと、大声を上げた。

「決まりは以上だよ! 余計な挨拶はしないからね~! 第一試合の選手以外は、会場から出てってね! みんなぁ~、待ちに待ってた試合の始まりだよ~! みんなの応援が選手達に力を与えるんだよ! 頑張って応援してね~!」

 ペスカの声に呼応し、再び大歓声が巻き起こる。選手達が引き上げ、第一試合に出場するズマとガロス、そして審判である冬也とアルキエルが会場に残される。
 そして、長く熱い五日間の戦いの幕が上がった。
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