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変わりゆく日常
281 ロイスマリア武闘会 ~ラフィスフィア大陸の出場者達 その2~
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「はぁ? なんで俺がそんな面倒な事しなくちゃいけないんだ?」
「ですから、何度も説明した通り、神が足りていないのです。貴方には、神へと至って貰いたいんです」
「それなら他にも居るだろ? モーリスなんか、良いんじゃないか?」
「そっちは、他の神が向かっています。はぁ全く、なんでこんな方と相性が良いのかしら」
「あのさぁ、レオーネ様だっけ。そんなにツンケンしてたら、せっかくの美人が台無しだぜ」
「サムウェル。馬鹿な事を言ってないで、そろそろ決断して貰えませんか?」
古びた酒場の隅で、酒を煽りながらひらひらと手を振り、追加の酒を要求するサムウェル。対面に座るのは、真っ赤な顔で声を荒げる運命の女神レオーネであった。
女神レオーネは、帰宅途中のサムウェルを捕まえると、事情を説明し自分の眷属候補として大会に出場する事を頼んだ。しかしサムウェルは鷹揚な態度で、女神レオーネの要求を躱しつつ酒場に入ると、小一時間に渡り酒を飲み続けていた。
最初こそ丁寧に語り掛けていた女神レオーネであったが、次第に声を荒げていた。
原初の神は世界を創った偉大な存在、その神に選ばれる事がどれだけ光栄な事かと言えば、自由の利かない歯車になるのはごめんだと返される。地上最強に興味が無いのかと問えば、全く無いとどこ吹く風。賞金を提示しても興味を示さない。何を言っても暖簾に腕押しである。
神に対して敬意を払うどころか、ナンパ紛いの行為に及ぶ始末。
「なぁ、レオーネ様。俺の嫁にならない?」
女神レオーネの顎を軽く持ち上げ、顔を近づけるサムウェル。温厚な性格の女神レオーネであったが、流石に腹に据えかねる行為である。
「馬鹿にしてるのですか?」
女神レオーネは、サムウェルの手を払い除けると、怒鳴る様に言い放った。しかし、サムウェルは女神の様子を気にも留めずに、言葉を続けた。
「馬鹿にしてねーよ。あんた、俺と相性が良いって言ってたろ? 俺にも感じるんだよな、運命みたいなもんがさぁ」
「それが馬鹿にしてると言ってるのです! 仮にも運命を司る私に対し、運命を語るのは言語道断です!」
「怒った顔も可愛いね。なあ、レオーネちゃんって呼んで良い?」
「呼び方など好きになさい! どうせ貴方には何を言っても無駄でしょうから!」
「わかんねぇかな? 真面目に求婚してるんだぜ」
その瞬間、今までの飄々とした態度と一変し、急にサムウェルの顔つきが真剣なものに変わる。その豹変ぶりに、女神レオーネは目を見開く。本人も気が付いていないだろうが、この時に心は動かされていたのかもしれない。
「あんたは何が目的だ? 神を増やす事か? それなら、俺じゃなくても良いって言ってるんだよ。俺じゃなくちゃならないのは何故だ?」
手を払われても動じずに、サムウェルは言葉を紡ぐ。
「苦痛で退屈な神なんてもんに、好き好んでなろうなんて奴は、よっぽど信仰深いか馬鹿か糞真面目かのどれかだ。俺はどれでもねぇよ。昔からそうだ、俺には何でも見えちまう、何でもわかっちまう。俺がここで首を縦に振るしかねぇって事もよ。だからせめて言えよレオーネ、俺が欲しいってよ」
その瞬間、女神レオーネは理解した。サムウェルにとって、輪廻を外れて永遠の時を過ごす事が翻意ではない事を。それを強要するなら、確固たる動機が必要だという事を。
賢い人間である、賢い故に損をして来たのだろう。様々なもの抱え、それが重荷とも言えずに先頭に立ち続けて来たのだろう。強くあらんとした事も、先が見えたからであろう。いずれ、自分が眷属になる事も予感していたのだから。
女神レオーネは、目の前で酒を煽る生意気な人間が、憎めなくなっていた。同時に何が何でもこの才能を、そしてサムウェル自身を眷属にと欲する様になっていた。
「はぁ、仕方ないですね。求婚には応えられませんが、貴方を眷属にしたい事は間違いがありません。他の誰でもなく、貴方が必要ですサムウェル」
「最初っからそう言えば良いんだよ、レオーネ」
「馴れ馴れしいですよ、サムウェル」
「好きに呼べって言ったじゃねぇか。それともレオーネちゃんが良いか?」
「もう! レオーネで良いです!」
こうして、サムウェルの大会出場も決定する。
そして候補者の一人ケーリアの下には、光の神サイローグが向かっていた。
☆ ☆ ☆
広い軍の訓練場に立つケーリアと神サイローグは、剣を交えていた。吹き飛ぶ汗が、その激しさと時の経過を語っていた。
大剣どうしがぶつかる度に、火花が飛び散り突風が巻き起こる。地上で余計な影響を与えない為に、神は神気を抑える。当然、神サイローグも神気を抑えていた。訓練場には結界が張られ、安全も考慮されている。それでも大剣がぶつかる毎に、結界すら揺るがす程の衝撃が起こっていた。結界の周りを兵士達が囲み、見る機会など到底訪れない人外の戦いを凝視していた。
「流石はアルキエルの弟子って所か。やるじゃねぇか」
「貴殿もな、サイローグ殿。流石は光を司る神だ」
「全く嫌になるな。たかが人間だろう? 神を圧倒するんじゃねぇ」
「速さではエレナに及ばない。巧さではサムウェルに及ばない。力ではモーリスに及ばない。強靭な精神力を持つズマに、俺は遠く及ばない。そんな最弱を相手に、何を語る神よ」
「そこまで行くと、謙虚は美徳じゃねぇぞケーリア」
「何とでも仰るが良い。俺などを眷属に欲する事が、間違いだと言っている。わからぬか? 例えばエルラフィアのトール殿。彼は武においては私に劣る。それでも国と民を守らんと必死に戦った。それこそが、英雄の資質だと思わないのか? 私は足りぬ、何もかもがだ。何千、何万と転生を繰り返しても、到底そこに到達する事など出来ない」
生真面目、過小評価。否、ケーリアは己に対して極端に厳しい。だからこそでもある、突きを主とする槍や剣の速度に負ける事なく、自身よりも一回り大きい鉄の塊を振り回す事が出来るのは。
才能は磨かなければ、光り輝く事はない。技術は使わければ廃れていく。毎日、何万と大剣を振り続けてきたからこそ、ケーリアはモーリスやサムウェルの様な実力者と対等に渡り合ってきたのだろう。
ケーリアは、決して自分を評価しない。常に自分を戒めて、過酷な修行を続ける。だが決して、ケーリアは盲目的ではない。かつての大乱では、先頭に立ち軍を率いて民を守った。邪神の洗脳は、ケーリアには利かなかった。何故なら、一心に鍛え続けたのは技術だけではないのだから。
ケーリアの力は、国と民の為に活かされてきた。脆弱な精神では成す事は出来まい。それでもケーリアは足りないと語る。それは、己を卑下しているのではなく、遥かな高みを見つめているからなのだろう。
誰も見た事が無い高み。永遠に鍛錬を続けても、決して届く事が無い夢。
他者と比較する事に何の意味が有る、己の敵は己の中に有る。慢心する事無く実直に、そして確実に歩みを進めるケーリアだからこそ、神サイローグは欲した。真っ直ぐな人間であるからこそ、神サイローグは言葉による説得ではなく、ケーリアに勝負を挑んだ。
如何に神であろうと、神気を封じれば万全に力を振るう事は出来ない。一進一退の戦いにはならず、ケーリアの激しい一撃に耐えながら、神サイローグはゆるゆると後退していく。
神気を抑えていても神である。しかしケーリアは、人間を遥かに超える身体能力を持つ相手を圧倒する。ただケーリアに余裕が有るかと言えば、それも否である。神との戦いとは、体力以上に精神力を削る。既に数時間にも及び、激しい斬り合いは続いている。体力の限界が訪れようと、ケーリアは大剣を振るい続ける。
しかし、決着の時間は訪れる。最後の力を振り絞る様に、上段から振り下ろされたケーリアの大剣を、神サイローグが弾く。その瞬間に、ケーリアの手から大剣が放れ、落下し乾いた音を立てた。
「俺の勝ちだ、ケーリア。俺は戦いの神じゃねぇ。技では到底、お前には勝てねぇ。だけど、俺はお前に勝った。わかるよなこの意味が?」
「確かに、貴殿の守りを崩す事は出来なかった。私の負けを認めましょう。しかし、何故そこまでなさる?」
「お前が必要だからだケーリア」
神サイローグは、真剣な眼差しでケーリアを見つめて言い放つ。神意すらものともしないケーリアでも、その瞳に宿った固い意志には逆らえず、ただ黙する事しか出来なかった。そして、神サイローグは続ける。
「俺たち神は数を減らした、地上のマナを維持する事で精一杯な程にな。それと俺には大切な友が居た。そいつは、アルキエルによって消滅させられた。別に恨んじゃいねぇ、消えていった奴らが弱かったから。悔しいが、それだけの事だ。だけどよ、同じ事を繰り返したいとは思わねぇんだ。情けねぇよ、神なのにな。でもわかってくれ。あの危機を救ったのは、ペスカと冬也だ。どんな時でも、困難を覆すのは武力じゃなくて、魂の力ってやつだ。お前にはそれが有る」
「それは貴殿に勝てなかった俺に。俺に言っているのですか?」
「あぁそうだ! 人間の身で、神を圧倒したお前に言ってるんだ! 来いケーリア、俺の下へ!」
怒声を上げる神サイローグ、そしてケーリア跪く。目指す道は変わらない。しかし、ケーリアが目の前に居る神と共に歩もうと、決意した瞬間であった。
こうしてケーリアの大会出場も決定する。
そして、最後の出場者二人の前に女神フィアーナが立っていた。
「資格なんて難しい事は考えないで。あなた達は可能性がある。だから、挑戦してみない?」
「しかしフィアーナ様。俺はついこの間、冬也様にお叱りを受けたばかりです」
「あれでも冬也君は、君に期待してるのよ。期待して無ければ、あんなに厳しくはしないわ」
「ゼルならともかく、私もですかフィアーナ様。まぁ数合わせならば、ご協力致しますが」
「トール君、誤解しないで頂戴。可能性が有るって言ったわよね? あなたの事でもあるのよ。あなたは、あの過酷な状況で皆に勇気を与えた。私たち神は、あなたの勇気に応えたの。それがどれ程の事なのか、説明ないといけないのかしら?」
女神フィアーナの前に居るのは、エルラフィア警邏隊のトップであるトール。そしてアルキエルへの弟子入りを、冬也に懇願した少年ゼル。二人は共に深々と頭を下げた。
「ご期待に添える様、精進致します。フィアーナ様」
「若輩の身には過ぎた機会をお与え頂き、感謝いたしますフィアーナ様」
「頼むわよ二人共。期待してるわ」
全ての大会出場者が決定する。いずれも強者ばかりのエルラフィア勢。三か月の後に、彼らの戦いが世界を興奮の渦へと巻きこむ。
「ですから、何度も説明した通り、神が足りていないのです。貴方には、神へと至って貰いたいんです」
「それなら他にも居るだろ? モーリスなんか、良いんじゃないか?」
「そっちは、他の神が向かっています。はぁ全く、なんでこんな方と相性が良いのかしら」
「あのさぁ、レオーネ様だっけ。そんなにツンケンしてたら、せっかくの美人が台無しだぜ」
「サムウェル。馬鹿な事を言ってないで、そろそろ決断して貰えませんか?」
古びた酒場の隅で、酒を煽りながらひらひらと手を振り、追加の酒を要求するサムウェル。対面に座るのは、真っ赤な顔で声を荒げる運命の女神レオーネであった。
女神レオーネは、帰宅途中のサムウェルを捕まえると、事情を説明し自分の眷属候補として大会に出場する事を頼んだ。しかしサムウェルは鷹揚な態度で、女神レオーネの要求を躱しつつ酒場に入ると、小一時間に渡り酒を飲み続けていた。
最初こそ丁寧に語り掛けていた女神レオーネであったが、次第に声を荒げていた。
原初の神は世界を創った偉大な存在、その神に選ばれる事がどれだけ光栄な事かと言えば、自由の利かない歯車になるのはごめんだと返される。地上最強に興味が無いのかと問えば、全く無いとどこ吹く風。賞金を提示しても興味を示さない。何を言っても暖簾に腕押しである。
神に対して敬意を払うどころか、ナンパ紛いの行為に及ぶ始末。
「なぁ、レオーネ様。俺の嫁にならない?」
女神レオーネの顎を軽く持ち上げ、顔を近づけるサムウェル。温厚な性格の女神レオーネであったが、流石に腹に据えかねる行為である。
「馬鹿にしてるのですか?」
女神レオーネは、サムウェルの手を払い除けると、怒鳴る様に言い放った。しかし、サムウェルは女神の様子を気にも留めずに、言葉を続けた。
「馬鹿にしてねーよ。あんた、俺と相性が良いって言ってたろ? 俺にも感じるんだよな、運命みたいなもんがさぁ」
「それが馬鹿にしてると言ってるのです! 仮にも運命を司る私に対し、運命を語るのは言語道断です!」
「怒った顔も可愛いね。なあ、レオーネちゃんって呼んで良い?」
「呼び方など好きになさい! どうせ貴方には何を言っても無駄でしょうから!」
「わかんねぇかな? 真面目に求婚してるんだぜ」
その瞬間、今までの飄々とした態度と一変し、急にサムウェルの顔つきが真剣なものに変わる。その豹変ぶりに、女神レオーネは目を見開く。本人も気が付いていないだろうが、この時に心は動かされていたのかもしれない。
「あんたは何が目的だ? 神を増やす事か? それなら、俺じゃなくても良いって言ってるんだよ。俺じゃなくちゃならないのは何故だ?」
手を払われても動じずに、サムウェルは言葉を紡ぐ。
「苦痛で退屈な神なんてもんに、好き好んでなろうなんて奴は、よっぽど信仰深いか馬鹿か糞真面目かのどれかだ。俺はどれでもねぇよ。昔からそうだ、俺には何でも見えちまう、何でもわかっちまう。俺がここで首を縦に振るしかねぇって事もよ。だからせめて言えよレオーネ、俺が欲しいってよ」
その瞬間、女神レオーネは理解した。サムウェルにとって、輪廻を外れて永遠の時を過ごす事が翻意ではない事を。それを強要するなら、確固たる動機が必要だという事を。
賢い人間である、賢い故に損をして来たのだろう。様々なもの抱え、それが重荷とも言えずに先頭に立ち続けて来たのだろう。強くあらんとした事も、先が見えたからであろう。いずれ、自分が眷属になる事も予感していたのだから。
女神レオーネは、目の前で酒を煽る生意気な人間が、憎めなくなっていた。同時に何が何でもこの才能を、そしてサムウェル自身を眷属にと欲する様になっていた。
「はぁ、仕方ないですね。求婚には応えられませんが、貴方を眷属にしたい事は間違いがありません。他の誰でもなく、貴方が必要ですサムウェル」
「最初っからそう言えば良いんだよ、レオーネ」
「馴れ馴れしいですよ、サムウェル」
「好きに呼べって言ったじゃねぇか。それともレオーネちゃんが良いか?」
「もう! レオーネで良いです!」
こうして、サムウェルの大会出場も決定する。
そして候補者の一人ケーリアの下には、光の神サイローグが向かっていた。
☆ ☆ ☆
広い軍の訓練場に立つケーリアと神サイローグは、剣を交えていた。吹き飛ぶ汗が、その激しさと時の経過を語っていた。
大剣どうしがぶつかる度に、火花が飛び散り突風が巻き起こる。地上で余計な影響を与えない為に、神は神気を抑える。当然、神サイローグも神気を抑えていた。訓練場には結界が張られ、安全も考慮されている。それでも大剣がぶつかる毎に、結界すら揺るがす程の衝撃が起こっていた。結界の周りを兵士達が囲み、見る機会など到底訪れない人外の戦いを凝視していた。
「流石はアルキエルの弟子って所か。やるじゃねぇか」
「貴殿もな、サイローグ殿。流石は光を司る神だ」
「全く嫌になるな。たかが人間だろう? 神を圧倒するんじゃねぇ」
「速さではエレナに及ばない。巧さではサムウェルに及ばない。力ではモーリスに及ばない。強靭な精神力を持つズマに、俺は遠く及ばない。そんな最弱を相手に、何を語る神よ」
「そこまで行くと、謙虚は美徳じゃねぇぞケーリア」
「何とでも仰るが良い。俺などを眷属に欲する事が、間違いだと言っている。わからぬか? 例えばエルラフィアのトール殿。彼は武においては私に劣る。それでも国と民を守らんと必死に戦った。それこそが、英雄の資質だと思わないのか? 私は足りぬ、何もかもがだ。何千、何万と転生を繰り返しても、到底そこに到達する事など出来ない」
生真面目、過小評価。否、ケーリアは己に対して極端に厳しい。だからこそでもある、突きを主とする槍や剣の速度に負ける事なく、自身よりも一回り大きい鉄の塊を振り回す事が出来るのは。
才能は磨かなければ、光り輝く事はない。技術は使わければ廃れていく。毎日、何万と大剣を振り続けてきたからこそ、ケーリアはモーリスやサムウェルの様な実力者と対等に渡り合ってきたのだろう。
ケーリアは、決して自分を評価しない。常に自分を戒めて、過酷な修行を続ける。だが決して、ケーリアは盲目的ではない。かつての大乱では、先頭に立ち軍を率いて民を守った。邪神の洗脳は、ケーリアには利かなかった。何故なら、一心に鍛え続けたのは技術だけではないのだから。
ケーリアの力は、国と民の為に活かされてきた。脆弱な精神では成す事は出来まい。それでもケーリアは足りないと語る。それは、己を卑下しているのではなく、遥かな高みを見つめているからなのだろう。
誰も見た事が無い高み。永遠に鍛錬を続けても、決して届く事が無い夢。
他者と比較する事に何の意味が有る、己の敵は己の中に有る。慢心する事無く実直に、そして確実に歩みを進めるケーリアだからこそ、神サイローグは欲した。真っ直ぐな人間であるからこそ、神サイローグは言葉による説得ではなく、ケーリアに勝負を挑んだ。
如何に神であろうと、神気を封じれば万全に力を振るう事は出来ない。一進一退の戦いにはならず、ケーリアの激しい一撃に耐えながら、神サイローグはゆるゆると後退していく。
神気を抑えていても神である。しかしケーリアは、人間を遥かに超える身体能力を持つ相手を圧倒する。ただケーリアに余裕が有るかと言えば、それも否である。神との戦いとは、体力以上に精神力を削る。既に数時間にも及び、激しい斬り合いは続いている。体力の限界が訪れようと、ケーリアは大剣を振るい続ける。
しかし、決着の時間は訪れる。最後の力を振り絞る様に、上段から振り下ろされたケーリアの大剣を、神サイローグが弾く。その瞬間に、ケーリアの手から大剣が放れ、落下し乾いた音を立てた。
「俺の勝ちだ、ケーリア。俺は戦いの神じゃねぇ。技では到底、お前には勝てねぇ。だけど、俺はお前に勝った。わかるよなこの意味が?」
「確かに、貴殿の守りを崩す事は出来なかった。私の負けを認めましょう。しかし、何故そこまでなさる?」
「お前が必要だからだケーリア」
神サイローグは、真剣な眼差しでケーリアを見つめて言い放つ。神意すらものともしないケーリアでも、その瞳に宿った固い意志には逆らえず、ただ黙する事しか出来なかった。そして、神サイローグは続ける。
「俺たち神は数を減らした、地上のマナを維持する事で精一杯な程にな。それと俺には大切な友が居た。そいつは、アルキエルによって消滅させられた。別に恨んじゃいねぇ、消えていった奴らが弱かったから。悔しいが、それだけの事だ。だけどよ、同じ事を繰り返したいとは思わねぇんだ。情けねぇよ、神なのにな。でもわかってくれ。あの危機を救ったのは、ペスカと冬也だ。どんな時でも、困難を覆すのは武力じゃなくて、魂の力ってやつだ。お前にはそれが有る」
「それは貴殿に勝てなかった俺に。俺に言っているのですか?」
「あぁそうだ! 人間の身で、神を圧倒したお前に言ってるんだ! 来いケーリア、俺の下へ!」
怒声を上げる神サイローグ、そしてケーリア跪く。目指す道は変わらない。しかし、ケーリアが目の前に居る神と共に歩もうと、決意した瞬間であった。
こうしてケーリアの大会出場も決定する。
そして、最後の出場者二人の前に女神フィアーナが立っていた。
「資格なんて難しい事は考えないで。あなた達は可能性がある。だから、挑戦してみない?」
「しかしフィアーナ様。俺はついこの間、冬也様にお叱りを受けたばかりです」
「あれでも冬也君は、君に期待してるのよ。期待して無ければ、あんなに厳しくはしないわ」
「ゼルならともかく、私もですかフィアーナ様。まぁ数合わせならば、ご協力致しますが」
「トール君、誤解しないで頂戴。可能性が有るって言ったわよね? あなたの事でもあるのよ。あなたは、あの過酷な状況で皆に勇気を与えた。私たち神は、あなたの勇気に応えたの。それがどれ程の事なのか、説明ないといけないのかしら?」
女神フィアーナの前に居るのは、エルラフィア警邏隊のトップであるトール。そしてアルキエルへの弟子入りを、冬也に懇願した少年ゼル。二人は共に深々と頭を下げた。
「ご期待に添える様、精進致します。フィアーナ様」
「若輩の身には過ぎた機会をお与え頂き、感謝いたしますフィアーナ様」
「頼むわよ二人共。期待してるわ」
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