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終わりと再生
253 モンスターの増殖
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エルフの暴走は、アルドメラクの溜飲を少しでも下げたのだろう。
元々歪んだ顔が、より酷く歪む。そして、高らかに笑い続けるアルドメラクは、気が付いた。英雄の策は、完全では無かったのだと。
そして、更なる混乱を齎す為に、策を巡らせた。
このまま邪気を広げ、洗脳は続けよう。ただ、それだけでは駄目だ。アルキエルは、もうあてにならない。
ならば再び偉大な先達に倣うのが、最善であろう。
アルドメラクは、邪気を膨らませる。
かつて、邪神ロメリアが再現した、数々のモンスターをイメージする。
オークにマンティコア、コカトリスにクラーケンは勿論、細長い蛇の様な形をしたワーム、悪夢をまき散らす不吉な黒い犬ヘルハウンド、双頭の犬オルトロスと、様々なモンスターを具現化していった。
そしてアルドメラクは、具現化されたモンスターを三つの大陸に放った。
モンスターは、アルドメラクの手により、次々と生み出され数を増やす。
それだけではない、ラフィスフィア大陸やアンドロケイン大陸で、埋葬されずに打ち捨てられた死者を、アルドメラクは邪気で操りゾンビとして蘇らせた。
これで地上は、阿鼻叫喚の渦になる。アルドメラクは、期待に胸を膨らませた。
しかし、ここでもアルドメラクの目論見は外れる。
ドラグスメリア大陸に残っているのは、激しい戦いを生き抜いてきた猛者達である。どれだけ多くのモンスターを放とうとも、瞬く間に掃討されていく。
ズマを始めとしたゴブリン軍団を中心に、四大魔獣や巨人達の勢いは凄まじかった。果てはエンシェントドラゴンのノーヴェ。
魔獣達は、既に単一の種族で生きる事から離れていた。異なる種族であっても、危機に際し統一の意思を持つ巨大な軍であり、ズマを中心として困難を乗り越えて来た仲間であった。
強大な国家として成り立つ魔獣達の牙城を、モンスターでは崩せない。これ以上やっても、自分の力を浪費するだけである。
アルドメラクは歯噛みながらも、ドラグスメリア大陸から撤退せざるを得なかった。
ただ、人間と亜人の大陸は様相が異なった。響いて来る叫び声、逃げ惑う者達。
これこそが、アルドメラクの望んでいた、光景であった。
「若干、予想とは異なるが、まあ良いだろう。ははは、中々に楽しい光景ではないか。ロメリアが好んでモンスターを操ったのも、理解が出来るな」
飢えに瀕し、立つ事さえも困難な者が多い。立ち向かう勇気が有っても、戦う力など無い。直ぐ傍で、知人がモンスターに捕食されていく。無残な姿を晒していく。
徐々に、恐怖に飲み込まれていく。心に宿り始めた勇気や信念が、折られるのは簡単であった。
全ての民を、兵が守れる訳がない。兵とて気力で立ち向かうだけで、戦う力など毛ほども残されていないのだから。
子供を庇って、兵士が死んでいく。死んだ兵士は、ゾンビとして蘇り、庇った子供を食い散らかす。
救われるはずだった。平和に向かうはずだった。
しかし世界から死は消えなかった。
恐怖が、恐怖を呼ぶ。ペスカが施した結界は、邪気を浄化し地上に還すだけである。
物理的な脅威に対し、何の効果を表さない。
「だから、言っただろう。人間や亜人は、脆い生物だとな! 所詮は惰弱な生物だ! だから我の様な存在が生み出される! そうだろう? 違うか英雄よ! 愚かさを知れ! どれだけ策を弄しても、我が前には障害にならん!」
アルドメラクは、己の勝利を確信した。笑いが止まらなかった。
地上に生きる者達が、恐怖に駆られる感情を受け、愉悦に浸っていた。
トールは、兵を率いてモンスターを駆逐していた。
どれだけ倒しても、増え続けるモンスター。倒せば、ゾンビとして蘇る。死んだ仲間が、ゾンビとして牙を剥く。
永遠に続く戦いは、疲弊した兵を更に弱らせた。
「諦めるな! 戦え! 命を燃やせ! 我らがここで倒れたら、多くの民が死ぬ! 多くの民が、民を襲う! 有ってはならない! 負けるな! 挫けるな!」
ゾンビとの戦いを帝国で経験していたトールは、その恐ろしさをよく知っている。部下達を鼓舞しつつも、トールは己の心に問い続けていた。
再び国を失うのか? 再び主を失うのか? 国を失った俺を、受け入れてくれた心優しい仲間達を、ここで失うのか?
駄目だ! 絶対にさせない!
命が尽きても、この国と民は絶対に守る!
トールの勇気は伝播していく。兵達もまた勇者であった。
恐らく、民衆よりも兵の方が食事の量は少ないだろう。トールを始めとしたエルラフィア軍は、己よりも力の弱い民を優先し、少しでも多くの命を救う為に奔走していたのだから。
この大陸にモンスターの脅威が迫ったのは、これで三度目である。だからといって、慣れはしない。
死が間近に迫り、死ねば意志を奪われる。こんな残酷に慣れてたまるか。こんな非道を許してたまるか。
剣を振るうのも困難な状況で、兵達は気力で戦い続けた。しかし、気力ではどうにもならない時が有る。トール率いるエルラフィア軍は、押されていく。
だが、その時に光を纏った聖母の様な女性が、エルラフィア軍の前に現れた。
「良く頑張りましたね。ここからは、私達も戦います。あなた達人間は、必ず私が守ります」
聖母の様な女性は、眩い光を放つとゾンビを一層する。
「我が名はフィアーナ。大地母神にして、神を統べる者なり! 邪悪な存在に、我が愛し子を殺させはしない!」
女神フィアーナはゾンビを一層すると、神々に命じてモンスターを駆逐していった。
救いは、エルラフィア軍にだけ訪れたのでは無かった。
モーリス率いるシュロスタイン軍。ケーリア率いるアーグニール軍。サムウェル率いるグラスキルス軍。
それぞれの前にも、神々が降臨した。
「よく頑張ったのぅ、人間達よ。気高い精神が有る限り、必ず我らが守ってやる。決して悪意に屈するなよ!」
ドラグスメリア大陸から、山の神が駆け付けた。そして、風の神が気を吐いた。
「あんた等! 負けんじゃないよ! この大陸は、ペスカの生まれた場所なんだろ? あの子が守りたいものが詰まってるんだろ? あの子には恩が有るんだろ? 私達が一緒に戦ってやるからね! 一緒に恩を返そうじゃないか!」
人間と神の共闘が始まった。
大陸を救う為の戦いは、そこに住む生き物だけの戦いではない。地上への干渉を禁じていた女神フィアーナを筆頭に、神もまた人を救う為に戦いに加わった。
アンドロケイン大陸では、ドワーフ達が果敢に戦っていた。
少なくとも、人間よりはましな生活を送っていたドワーフ達である。この時の為に、力を蓄えて来たのだとばかりに、その剛腕を振るう。
そして、エレナ率いるミノタウロスの軍勢も、戦いで疲弊した亜人の国々を守る為に出陣した。女神ラアルフィーネも、数少ないアンドロケインの神々を率いて、亜人を救うべく立ち上がる。
困難に次ぐ困難。残酷な現実に、心は簡単にへし折られる。
しかし、抗う者が居た。その勇気は伝わっていく。
人と神、亜人と神。互いに手を取り、邪悪に抗う。その力は、アルドメラクの想像を超える。
ペスカと冬也は、その光景を見て胸を撫でおろした。
想定した結果であっても、上手くいく保証などどこにもなかった。
皆が勇気を振り絞り支え合い、邪気に抗った。
そして、モンスターに対峙した時、逃げるのではなく立ち向かった。それは、戦い慣れた兵であっても、難しいと言えよう。
仲間を、国を守る為に。自らの命が失われる時に、そんなお題目などは消え果て、自分を優先する。
それがまごうこと無き、人間の本質であったはずである。
しかし、皆が戦っている。弱い者を守る為に、己の命を投げ出している。
そして神もまた、世界を守る為に、地上に生きる者に干渉を始めた。
「さて、ここからが俺達の番だよな」
「そうだね、お兄ちゃん」
兄妹は、視線を合わせる。
邪神と対決に向けて、最後の一手が打たれようとしていた。
元々歪んだ顔が、より酷く歪む。そして、高らかに笑い続けるアルドメラクは、気が付いた。英雄の策は、完全では無かったのだと。
そして、更なる混乱を齎す為に、策を巡らせた。
このまま邪気を広げ、洗脳は続けよう。ただ、それだけでは駄目だ。アルキエルは、もうあてにならない。
ならば再び偉大な先達に倣うのが、最善であろう。
アルドメラクは、邪気を膨らませる。
かつて、邪神ロメリアが再現した、数々のモンスターをイメージする。
オークにマンティコア、コカトリスにクラーケンは勿論、細長い蛇の様な形をしたワーム、悪夢をまき散らす不吉な黒い犬ヘルハウンド、双頭の犬オルトロスと、様々なモンスターを具現化していった。
そしてアルドメラクは、具現化されたモンスターを三つの大陸に放った。
モンスターは、アルドメラクの手により、次々と生み出され数を増やす。
それだけではない、ラフィスフィア大陸やアンドロケイン大陸で、埋葬されずに打ち捨てられた死者を、アルドメラクは邪気で操りゾンビとして蘇らせた。
これで地上は、阿鼻叫喚の渦になる。アルドメラクは、期待に胸を膨らませた。
しかし、ここでもアルドメラクの目論見は外れる。
ドラグスメリア大陸に残っているのは、激しい戦いを生き抜いてきた猛者達である。どれだけ多くのモンスターを放とうとも、瞬く間に掃討されていく。
ズマを始めとしたゴブリン軍団を中心に、四大魔獣や巨人達の勢いは凄まじかった。果てはエンシェントドラゴンのノーヴェ。
魔獣達は、既に単一の種族で生きる事から離れていた。異なる種族であっても、危機に際し統一の意思を持つ巨大な軍であり、ズマを中心として困難を乗り越えて来た仲間であった。
強大な国家として成り立つ魔獣達の牙城を、モンスターでは崩せない。これ以上やっても、自分の力を浪費するだけである。
アルドメラクは歯噛みながらも、ドラグスメリア大陸から撤退せざるを得なかった。
ただ、人間と亜人の大陸は様相が異なった。響いて来る叫び声、逃げ惑う者達。
これこそが、アルドメラクの望んでいた、光景であった。
「若干、予想とは異なるが、まあ良いだろう。ははは、中々に楽しい光景ではないか。ロメリアが好んでモンスターを操ったのも、理解が出来るな」
飢えに瀕し、立つ事さえも困難な者が多い。立ち向かう勇気が有っても、戦う力など無い。直ぐ傍で、知人がモンスターに捕食されていく。無残な姿を晒していく。
徐々に、恐怖に飲み込まれていく。心に宿り始めた勇気や信念が、折られるのは簡単であった。
全ての民を、兵が守れる訳がない。兵とて気力で立ち向かうだけで、戦う力など毛ほども残されていないのだから。
子供を庇って、兵士が死んでいく。死んだ兵士は、ゾンビとして蘇り、庇った子供を食い散らかす。
救われるはずだった。平和に向かうはずだった。
しかし世界から死は消えなかった。
恐怖が、恐怖を呼ぶ。ペスカが施した結界は、邪気を浄化し地上に還すだけである。
物理的な脅威に対し、何の効果を表さない。
「だから、言っただろう。人間や亜人は、脆い生物だとな! 所詮は惰弱な生物だ! だから我の様な存在が生み出される! そうだろう? 違うか英雄よ! 愚かさを知れ! どれだけ策を弄しても、我が前には障害にならん!」
アルドメラクは、己の勝利を確信した。笑いが止まらなかった。
地上に生きる者達が、恐怖に駆られる感情を受け、愉悦に浸っていた。
トールは、兵を率いてモンスターを駆逐していた。
どれだけ倒しても、増え続けるモンスター。倒せば、ゾンビとして蘇る。死んだ仲間が、ゾンビとして牙を剥く。
永遠に続く戦いは、疲弊した兵を更に弱らせた。
「諦めるな! 戦え! 命を燃やせ! 我らがここで倒れたら、多くの民が死ぬ! 多くの民が、民を襲う! 有ってはならない! 負けるな! 挫けるな!」
ゾンビとの戦いを帝国で経験していたトールは、その恐ろしさをよく知っている。部下達を鼓舞しつつも、トールは己の心に問い続けていた。
再び国を失うのか? 再び主を失うのか? 国を失った俺を、受け入れてくれた心優しい仲間達を、ここで失うのか?
駄目だ! 絶対にさせない!
命が尽きても、この国と民は絶対に守る!
トールの勇気は伝播していく。兵達もまた勇者であった。
恐らく、民衆よりも兵の方が食事の量は少ないだろう。トールを始めとしたエルラフィア軍は、己よりも力の弱い民を優先し、少しでも多くの命を救う為に奔走していたのだから。
この大陸にモンスターの脅威が迫ったのは、これで三度目である。だからといって、慣れはしない。
死が間近に迫り、死ねば意志を奪われる。こんな残酷に慣れてたまるか。こんな非道を許してたまるか。
剣を振るうのも困難な状況で、兵達は気力で戦い続けた。しかし、気力ではどうにもならない時が有る。トール率いるエルラフィア軍は、押されていく。
だが、その時に光を纏った聖母の様な女性が、エルラフィア軍の前に現れた。
「良く頑張りましたね。ここからは、私達も戦います。あなた達人間は、必ず私が守ります」
聖母の様な女性は、眩い光を放つとゾンビを一層する。
「我が名はフィアーナ。大地母神にして、神を統べる者なり! 邪悪な存在に、我が愛し子を殺させはしない!」
女神フィアーナはゾンビを一層すると、神々に命じてモンスターを駆逐していった。
救いは、エルラフィア軍にだけ訪れたのでは無かった。
モーリス率いるシュロスタイン軍。ケーリア率いるアーグニール軍。サムウェル率いるグラスキルス軍。
それぞれの前にも、神々が降臨した。
「よく頑張ったのぅ、人間達よ。気高い精神が有る限り、必ず我らが守ってやる。決して悪意に屈するなよ!」
ドラグスメリア大陸から、山の神が駆け付けた。そして、風の神が気を吐いた。
「あんた等! 負けんじゃないよ! この大陸は、ペスカの生まれた場所なんだろ? あの子が守りたいものが詰まってるんだろ? あの子には恩が有るんだろ? 私達が一緒に戦ってやるからね! 一緒に恩を返そうじゃないか!」
人間と神の共闘が始まった。
大陸を救う為の戦いは、そこに住む生き物だけの戦いではない。地上への干渉を禁じていた女神フィアーナを筆頭に、神もまた人を救う為に戦いに加わった。
アンドロケイン大陸では、ドワーフ達が果敢に戦っていた。
少なくとも、人間よりはましな生活を送っていたドワーフ達である。この時の為に、力を蓄えて来たのだとばかりに、その剛腕を振るう。
そして、エレナ率いるミノタウロスの軍勢も、戦いで疲弊した亜人の国々を守る為に出陣した。女神ラアルフィーネも、数少ないアンドロケインの神々を率いて、亜人を救うべく立ち上がる。
困難に次ぐ困難。残酷な現実に、心は簡単にへし折られる。
しかし、抗う者が居た。その勇気は伝わっていく。
人と神、亜人と神。互いに手を取り、邪悪に抗う。その力は、アルドメラクの想像を超える。
ペスカと冬也は、その光景を見て胸を撫でおろした。
想定した結果であっても、上手くいく保証などどこにもなかった。
皆が勇気を振り絞り支え合い、邪気に抗った。
そして、モンスターに対峙した時、逃げるのではなく立ち向かった。それは、戦い慣れた兵であっても、難しいと言えよう。
仲間を、国を守る為に。自らの命が失われる時に、そんなお題目などは消え果て、自分を優先する。
それがまごうこと無き、人間の本質であったはずである。
しかし、皆が戦っている。弱い者を守る為に、己の命を投げ出している。
そして神もまた、世界を守る為に、地上に生きる者に干渉を始めた。
「さて、ここからが俺達の番だよな」
「そうだね、お兄ちゃん」
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